第8話 カイト、屋台を見る
「彼には250年前の世界のリソースを供給してもらっていたの……バカ創造神のせいで崩壊しかけた世界を、私達が何とか修復したけど、深刻なリソース不足だったから、彼と、他にも4人に協力してもらったの……」
「そうか、彼らのおかげで今があるんだな」
俺は手を合わせて冥福を祈った。
「埋葬してやろう」
埋葬して墓を作ったあと、俺は新月の首飾りを使って、ダイフクに語りかけた。
「ダイフク、俺と来るか?」
(シュウジが生きていた頃、僕にずっと言っていたからね……転生者がいたら一緒に行って、その人の力になって欲しいって)
「だが、デカイな。街の中には入れないぞ」
(シュウジが街に入る時は、僕は送還されていたよ。僕にとっては、とても残念だったけど、仕方のない事だったからね)
「新月の首飾りで、召喚と送還が出来るのか。レクス、他に何が出来るんだ?」
「新月の首飾りは、不壊、清潔、使用者限定、念話、召喚、送還だよ!」
「そうか、だったら街に入る時は送還するしか無いのか」
「カイトくんはドールマスターだよ!ちょっと待っててね!」
レクスが両手を上に挙げると、光の粒子が集まり、徐々に40cmの白蛇の編みぐるみのような人形が、出来上がった。
ダイフクによく似ている。
これなら俺も、可愛いと思う。
次にレクスがしたことは、右手をダイフクに、左手を人形に向けた。
ダイフクと人形が同時に光り、ダイフクの身体が、 尻尾から粒子に変わって、人形に入って行った。
(凄いよカイト、身体が軽くて動きやすいよ!これなら何処にでも行けるよ)
ダイフクは喜んでいる。気に入ったようだ。
「この人形はね、不壊、清潔が付与されてるから、壊れないし、汚れないし、首飾りの召喚、送還で出し入れ自由だよ!」
結果、人形が増えた……
今、俺はダイフクの頭の上に乗っている。蛇の頭の上だと、移動していても揺れや振動が無く、思ったよりも早く快適に帰る事が出来た。
そして、眼下では詰所の衛兵達が槍を手にしてダイフクの前に、そして別の兵士が通行人の避難誘導をしている。
とても優秀な兵士達だけど、ダイフクの頭の上に乗っている俺には気が付いていないみたいだ。
俺は、ダイフクの頭から飛び降りて、衛兵とダイフクの間に立った。
「お騒がせしてすみません」
俺は深々と頭を下げた。
「カイト、カイトか!?そ、そのホワイトパイソンは、お前のか?だ、大丈夫なのか?襲って来ないよな?」
衛兵が青い顔をして、慌てているのを見ると、本当に申し訳無い事をしたと思った。
「はい、このホワイトパイソンのダイフクは、俺の友達ですから大丈夫ですよ」
「はぁ…そうか、全く、こんなに慌てたのは久しぶりだぜ。オイ!お前ら、もう大丈夫だ」
後ろの衛兵達も槍を下ろした。
通行人は、此方を遠巻きに見ている。
「大体だなカイト、ホワイトパイソンなんて簡単に友達にしたり、テイムしたり出来やしないんだぞ。しかもこの大きさだ、最低でもBランク上位のモンスターだ」
「そうなんですか?」
「はぁ……全く非常識な……まあ、カイトだし」
「何ですかそれ?俺が常識を知らないみたいな言い方は」
「どの口が言ってんだか。まあ良い、カイト、今から直ぐに冒険者ギルドに行って、テイムモンスターの証明を貰い、そのホワイトパイソンの目立つ所に付けておけ」
そんな物が有るのか。目印が有れば街の人が怖がらないで済むからか?
「行くぞ、ダイフク」
「ちょっと待て!そのまま入ったら街の中がパニックになる。ギルド職員を呼んで来るしか無いな」
「それなら大丈夫ですよ。ダイフク、送還だ」
アイテムボックスから出した人形に光の粒子になって、ダイフクが送還された。
衛兵が口をポカーンと開けて目を丸くする。
門の前で見ていた人も同様だ。
俺はレクス、グラン、ダイフクを連れて、冒険者ギルドに行った。
「次の方どうぞ。あら、カイトさん。確かゴブリンの討伐でしたね」
「はい、遅くなりましたが達成報告です。ゴブリン8匹分の角です」
「遅く無いですよ。普通はこんなものです。はい、確かにゴブリン8匹分の角ですね。隣の窓口でこの用紙を見せて、報酬を貰って下さい」
「報酬は別の窓口ですか。わかりました。あと、テイムモンスターの証明を貰いたいのですが」
「えっ!カイトさんはドールマスターですよね?テイムも出来るんですか?」
「テイムっていうか、友達になって付いて来たんです」
「それもテイムのひとつのやり方ですよ。先に報酬を貰って、少し待ってて下さい」
俺は会計の窓口に行った。
「カイトさんですね?はじめまして、会計担当のアイーダです」
「はじめまして。これをお願いします」
「少々お待ち下さい」
会計担当のアイーダさんは、ボーイッシュな紺色の髪で、目の色も紺色、肌は白く、スタイルの良い22歳くらいの女性だ。
「はい、こちらが報酬です。お確かめ下さい」
報酬を貰い椅子に座って待っているとミウラさんが此方にやって来た。
「モンスターは外ですか?」
「いえ、コイツです」
「蛇の人形ですか?」
「召喚するとデカ過ぎるから人形に送還しているんです」
「召喚、送還も出来るんですか?はぁ……それでは訓練場に行きましょうか。見てみたい人は一緒に来て下さい」
なんか、呆れられてる?
見てみたい人?
「他の冒険者に認知される事で、出会い頭での攻撃を避ける事が出来ますから」
訓練場に来てダイフクを召喚する。
「ダイフク出てこい」
蛇の人形から光の粒子が出て白い大蛇になった。
ここに居る全員が口をポカーンと開けて見ている。
否、1人だけ手を合わせて拝んでいる冒険者がいるが、なんとなくその気持ちもわかる。
「カ、カイトさん、このモンスターはもしかして……」
「ホワイトパイソンのダイフクだ」
「ホワイトパイソン…ダイフク…どこかで聞いた事が……」
「あれじゃないか、物語の……」
「ああ、俺も小さい頃によく読んでもらっていたな」
「確か240年前の大量発生したモンスターを、テイマーと一緒に傷だらけになりながら倒して、街を守ったっていう……」
物語になっているのか?凄いな。
「そうなのか、ダイフク?」
(うんそんな事もあったかな。あの時は、僕もシュウジもボロボロになるまで戦ったよ)
「その物語のダイフクで間違い無いそうです」
その場に居る冒険者が皆、拝み始めた。
トランプのダイヤの形をした金色のプレートがテイムモンスターを証明する物だそうだ。
水晶板に俺のギルドカードとダイフクのプレートを乗せてミウラさんが、何やら操作していた。
「終わりました、カイトさん。カードとプレートをお返しします。プレートはダイフクさんの目立つ所に貼り付けて下さい」
「ダイフク、何処に貼るんだ?」
(オデコに貼ったらカッコいいかな)
ダイフクの額にプレートを貼ると金色に光りプレートでは無く模様のようになった。
魔力を流すと外れるらしい。
ダイフクを人形に送還して、川のせせらぎ亭に帰ると、真っ先にシャワーを浴びてから食堂に行った。
「あっ!また、お人形が増えてる。蛇のお人形?かわいいなぁー、かわいいなー」
「ああ、ダイフクだ。」
「シャー、シャー」
ダイフクは、身体を揺らしながら、挨拶をしている。
「よろしくって言っているぞ」
「ダイフクちゃん、私はメアリー。よろしくね!カイトさん、すぐに夕飯とエールを持って来るね」
翌朝、裏庭で剣術の型を練習していると、グランに呼ばれた。
「カイト、精が出るな。屋台が出来たんだが、どうする?」
「グランか、此処に出せるか?」
「ああ、問題ない。アイテムボックスに入っているぞ」
アイテムボックスから屋台を出してみると、注文通りの長方形の箱で両側の板が跳ね上がるように出来ていた。
跳ね上げた板が屋根になり、雨や日差しを遮る木目が美しい出来栄えだ。
客側を見てみると、腰の高さにカウンターテーブルが作られていて、その下には丸椅子が4脚収納されている。
作業側を見てみると、腰の高さで、左側にコンロが大小各1個、中央には作業台があり、右側では鉄板焼きが出来る作りになっている。
足元に有る左側の扉を開くと冷蔵庫になっていて、庫内の広さが屋台に合ってない。
疑問に思いながらも、右側の扉を開くと、そこにはオーブンが有った。
作業台とカウンターテーブルの間は1段高くなっていて、調味料や食器などの小物入れが作られているが、明らかに中の広さがおかしい。
既に、いくつかの調理器具が入っていた。
俺は目線でグランに説明を求めた。
「おう、説明だな。最初に、何を作って出すか分からないから、客席を作っておいたぞ。」
うん、うん、なるほど。
「次は、作業側だな。コンロや鉄板、オーブンと冷蔵庫は魔石を使っている」
「魔石で火が出たり冷やしたり出来るのか?」
「ああ、そうだ。この宿の厨房も魔石を使っているぞ」
「そうか、分かった」
「作業台はミスリル製だ。上の小物入れと冷蔵庫には空間魔法の拡張が付与されている。」
「ちょっと待て、ミスリルなんて有るのか?それに空間魔法とか凄いな」
「ミスリルは普通に有るぞ。それに、空間魔法ならカイトにも使えるはずだぞ」
「そうなのか?それにしても凄い屋台だな、グラン」
「まだ終わりじゃないぞ。この屋台には、不壊、清潔、使用者限定が付与されていて、壊れないし汚れない。丸椅子には疲労回復も付与されている」
「ありがとう、グラン良い屋台だ」
使うのが楽しみだな。
「カイトくん、付与は私がしたんだよ!」
「そうか、レクスもありがとう。朝食を食べたら商業ギルドに食材を見に行くぞ」
川のせせらぎ亭を出て商業ギルドに向かう。
「カイトくん、あの屋台の名前は新月の屋台だよ!」
読んで頂き有り難うございます。
ダイフクが仲間になりました。
ダイフク(ホワイトパイソン・人形に召喚、送還出来る)
アイーダ(冒険者ギルドザルク支部の会計係)