第79話 カイトの王都滞在編〜終わり無き戦い!?②
「攻撃中止だ!」
俺達が攻撃を止めて、その場を離れると、金色ガチャ髑髏は満足そうに頷いた。
「キョウヤ、どういう事だ?」
「きっと金色ガチャ髑髏は、一対一で戦いたくなったんだと思うよ」
「そうか、それなら好きなようにやらせてやろう」
「だったら、僕たちは観戦だね」
餓者髑髏が立ち上がり、戦いが再会した。
さっきのお返しとばかりに、餓者髑髏が金色ガチャ髑髏の腕を取り、振り回して投げ飛ばした。
「大きいから凄い迫力だね、カイト」
「ああ、ここまで風圧が届いたな」
金色ガチャ髑髏はすぐに立ち上がり、ファイティングポーズをとる。
そしてボクシングのような殴り合いが始まった。
「餓者髑髏のガードが甘いな、あれではすぐに崩されるぞ」
「カイト、金色ガチャ髑髏のガードは見た事があるよ」
「ああ、そうだなサトミ。あれはボクサーがよく使うガードだ」
金色ガチャ髑髏は右拳を顎に、左肩と左腕で顎とボティをガードしている。
金色ガチャ髑髏は、餓者髑髏のパンチをガードで受け止め、カウンターのジャブを一発当てる。
それを数度繰り返した所で、餓者髑髏が大振りのパンチを繰り出した。
華麗なステップで餓者髑髏の喧嘩パンチを躱した金色ガチャ髑髏は、軽くジャブを打ち出した。
そして更に、ジャブ、ジャブ、ジャブ、ジャブ、餓者髑髏の顔面に、連続で金色ガチャ髑髏のジャブがヒットする。
「キョウヤ、何で金色ガチャ髑髏はボクシングを知っているんだ?」
「それはねカイト君、僕の知識が僅かながら入っているからだと思うよ。僕も詳しくはわからないけれど、ダンジョンが生み出すモンスターの中には、偶に計算をしたり、凄く人間っぽい奴が居るんだよ」
「あー、なんか居たな、そういう奴……」
金色ガチャ髑髏の連続ジャブで、足がふらついている餓者髑髏。
此処で、金色ガチャ髑髏の右ストレートがヒット!!
ダウンするかと思ったが、なんとか倒れずに踏みとどまった餓者髑髏だが、足が震えて立っているだけでやっとの状態だ。
金色ガチャ髑髏はボクシングの構えを解いた。
餓者髑髏は膝に手を付き、肩を上下に揺らしている。
そして、トドメとばかりに金色ガチャ髑髏が拳に息を吹きかける仕草をして、高く拳を振り上げる。
すると餓者髑髏は、頭を両手で抑えて屈み込み、イヤイヤとでも言いたげに首を横に振っている。
「あれではいくらなんでも殴れないよな」
「ええ、そうね。あれで殴ったらそれこそ鬼畜だわ」
金色ガチャ髑髏が顎の骨を歪めてニヤリと笑ったような気がした。
そして、振り上げていた拳を引っ込めて―――――――蹴った。
頭を抑えて屈み込む餓者髑髏を、足の裏で蹴った。所謂、ヤクザキックだ。
「金色ガチャ髑髏が蹴リましたわ!」
「マジか……」
蹴られた拍子に仰け反り倒れた餓者髑髏を、今度は何度も何度も踏みつける金色ガチャ髑髏。
「おい!キョウヤ!」
「そうだね……これは見ていられないね」
「サトミ、マツリ、金色ガチャ髑髏を止めるぞ」
「うん、わかった。行くよマツリちゃん!――――――棘蔓!」
「はいですわ、サトミお姉さま――――――チャームですわ」
サトミが棘蔓を金色ガチャ髑髏に絡めて餓者髑髏から引き離し、マツリがチャームで金色ガチャ髑髏をおとなしくさせた。
そして、キョウヤが指をパチンと鳴らすと、金色ガチャ髑髏は光の粒子になって消えていった。
「カイト、またガチャが出たよ」
サトミがカプセルを持って来た。
カプセルの中には何かの種が入っていた。
俺はカプセルをサトミに渡し、立ち上がって穴に戻って行く餓者髑髏を警戒しながら見送る。
「カイト、餓者髑髏は倒さなくても良かったのか?」
「ビショップは、あれを見て倒せるのか?」
背中を丸めてゆっくりと穴に戻って行く餓者髑髏。
時折、此方を振り向いて頭を下げるような動作をしている。
「いや、何故か戦う気が失せてしまったようだ。餓者髑髏が俺達に襲いかかって来るのなら別だけどな」
「以前の私達なら、迷わずトドメを刺していた筈だけど、転生してから変わったのかしら?」
「さあ、どうだかな……」
戦場では、両手を上げて投降してきた者や子供でも、気を緩めると此方が殺される。
実際に、助けた子供に背中を刺された仲間もいた。
そうした経験を俺達はしてきている。
この世界に転生して、チート能力を与えられた俺達は、あるいはシェリーの言うように変わったのかもしれない。
餓者髑髏は穴に入る前に此方を振り向いた。
「もう出てくるなよ」
聞こえたのかどうかはわからないが、餓者髑髏は此方に背を向けて穴の中に戻って行った。
「穴が消えて元の草原に戻っていますわ」
「ああ、どうやら終わったようだな。あの餓者髑髏が穴から出て来なければ、バフォちゃんが言ったように終わりが無かったかも知れなかったが、これもビショップと大根爆弾のお陰だな。マツリ」
「あの、かわいい大根を作れるビショップさんは凄いですわ」
「微妙にズレている気はするが、責められるよりは良いか……」
キョウヤがダンジョン化を解き、ポケット草原に入れていた冒険者達を出して、ヒールで手当てをする。
「いったい、何がどうなっているんだ?」
「あのモンスターは?」
「私達は助かったのね……」
説明が面倒くさいから、俺達は転移で兵舎のような建物の食堂に戻った。
「ねえカイト、この種は私が貰っても良いのかな?」
「ああ、植物はサトミに任せるのが良いだろう?」
「それなら、屋敷の外の森林で育ててみるね」
そう言ってサトミは、マジックポーチに種が入ったカプセルをしまい込んだ。
「やっと帰ってきたか!待っていたぞ」
食堂のドアを開けてヴォルフ教官が入って来た。
「今夜はカイト達の歓迎会だ。いつもの酒場を貸し切りにしているからな、日没に集合だ。遅れるなよ」
「ああ、了解だヴォルフ。その前にカイト、屋敷の皆に説明だな。それから皆で酒場に行こう」
「そうだなビショップ」
俺達は商業ギルドにアマンダさんを、そして冒険者ギルドにミウラさんを迎えに行き新月の館に帰って来た。
「お帰りなさいませ、カイト様」
「ただいま、ララさん。これから大切な話をしますから、全員食堂に集まってください」
新月の館の住人が全員と、ビショップ、シェリー、ヨシュアが食堂に集まった。
「皆には今まで黙っていましたが、ビショップから身近な人達には話すべきだと言われて、こうして集まってもらいました。その話とは……」
こうして、俺は地球で死んでからこの世界に転生してきた事、俺とサトミの関係、サトミの転生、キョウヤとの出会いと、キョウヤの転生、そして、俺とビショップ、シェリー、ヨシュアの関係と彼等の転生を話し、更にマツリの事情とマークの異世界転移を当事者達の補足を交えて、アマンダさん、ミウラさん、フェルナンさん、ララさん、メロディーちゃんに話した。
レクス達神に関する事はまだ話す訳にはいかないが、少しだけ肩の荷が下りたような気がする。
「カイトさんは普通では無いと思っていた私は間違っていなかったんですね。ある意味ホッとしました」
「私もそうですよ。冒険者ギルドで受付嬢をやっていて、カイトさんのような理不尽な人は初めてでしたよ。でも、今のお話を聞いて納得出来ました」
アマンダとミウラさんの前では自重しなかったからな。
「カイト様が転生者なら、あのお料理や、このお屋敷の事も、そして、一晩で解体場が出来ていた事も全て納得出来ました」
「話して頂き、ありがとう御座いました。これからも御使いするにあたって、知らずに御使いするのと知っていて御使いするのとでは、かなりの違いが出て来る事でしょう」
「私はまだ見習いですけど、カイト様や皆さんの事がわかって良かったと思います」
「と言う事は、今まで通りこの屋敷に居てくれるのですね?」
「勿論で御座います。私達の出来得る限り、誠心誠意御使いさせて頂きます」
俺は晴々とした気持ちで、ビショップ、シェリー、ヨシュアの案内で新月の館の住人全員と一緒に、夕暮れの王都の街を歩いている。
レクス、グラン、エル、マックニャンは例の如く、立ち並ぶ商店を興味津々で覗きながら俺達の前に、後ろにと走り回っている。
すれ違う人々から、温かい目で見られる事にはもう慣れた。
「着いたぞ、この店だ」
ビショップ達の案内で、俺達は酒場に到着した。
どうやら日没には間に合ったようだ。
酒場の扉には“本日貸し切り”と書いた紙が貼ってあり、その扉を開ける前から、美味しそうな料理の匂いが漂っている。
ビショップが扉を開けると、店内には十数人の老若男女が居て、一斉に此方を見ている。
その中には、ヴォルフ教官と、門で見た衛兵のビリーも居た。
「来た来た、お前達は此方だ。余計な挨拶や紹介なんかいらねぇから…呑むぞぉぉぉ!!」
「「「「おおぉぉぉぉぉ!!」」」」
何だ?こいつ等ただ酒が呑みたいだけなんじゃないか?
俺達は苦笑いをしながら席に着き、出された料理と酒を楽しんだ。
読んで頂きありがとうございました。