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第77話 カイト王都アニエスに行く③

 ヨシュアがアイテムボックスから出した物は、銀色に輝くガントレットだ。

 肘の近くに嵌っている赤い宝石から、5本の指に赤いラインが流れていていて、力強さを感じる。


 ヨシュアは得意げに両手に付けたガントレットの拳同士ををガシン、ガシンと打ち付けている。


「ウガ、ウガ、ウガー」

「そうか、技よりも力か。お前らしいな」


 ヨシュアは満足そうに頷いている。


「カイト様、今のでヨシュア様が言っていた事がわかったのですか?」

「ああ、長い付き合いだったからな」

「ヨシュアは力こそ全てと言って、パワーが最も出る、その赤い宝石がお気に入りなんだ」



 廊下から足音が響いてきて、俺達が居る食堂のドアの前で止まった。

 響くようなノックの後に、勢い良く開いたドアから壮年の男が入って来た。


「よう、ビショップ。客か?それとも訓練生か?」

「どちらかと言えば客人だな」

「チッ、なんだ、客か……」

「カイト、彼が此処の人達に戦い方を教えているヴォルフ教官よ」

「カイトだと!?」


 俺の名を聞いて驚いているヴォルフ教官は、クルーカットにした金髪で、目の色は青く、目つきが鋭い。

 大柄では無いが、引き締まった身体は日々の鍛錬を物語り、自身を厳しく律している事がわかる。


「そう、彼がカイトだ。チェロの報告で今度こそ俺達の知るカイトかもしれないと思い、足取りを追わせていたが、やっとルクレールで合流する事が出来た」

「長かったなビショップ、約二年か……だが、こんな情報も通信もままならない世界に居て、二年で見つかったと言う事は奇跡に近い事だと思うぞ」

「二年だと?俺がこの世界に来て、まだ一年も経っていないぞ」

「「「は?」」」

「あはははは、転生や転移に時系列は関係無いからね。僕なんか、300年前からこの世界に来ているしね」


 キョウヤの言葉に、そう言えばそうだったと皆が頷く。


「カイト、此処に居る連中は皆が転移者だったり、転生者の子孫だったりする訳だ。転移者の場合は、前の世界で培った技術や能力がこの世界ではスキルのような形で使えるようになる事がわかっている。そして、転生者の子孫は神からのギフトを受け継いでいるんだ。ギフトと言っても勿論、かなりの劣化版だがな」


 なるほどな、マークの場合は本質を見る目がスキルだと言う事か。


「ヴォルフ教官は数年前にこの世界に流されて来た転移者なのよ」

「見た所、軍人のようだが、此方の世界の言葉を流暢に喋っているが、言語理解のアイテムを持っているのか?」

「その言語理解のアイテムは気になる所だが、ヴォルフ教官は語学に精通していて、大学で教鞭を取っていた元軍人だ」

「そう言う訳で俺は、この世界に流されて来て、二日でこの世界の言葉を理解したんだ」

「だからヴォルフ教官には、戦闘訓練の他に、転移者の為の語学の授業も受け持ってもらっているのよ。今では皆んな、それなりに喋る事が出来るようになっているわよ」

「それもスキルの力なのか……凄いなヴォルフ教官……」


 俺の賛辞の言葉を聞いたヴォルフ教官が照れているが、強面の照れ顔なんて見るに耐えないから、俺は目を反らして窓の外を見た。




『助けてー!!』

『何だよ?モンスターなのか!?――――ぐあっ』


 いきなり、頭の中に助けを呼ぶ声が聞こえた。

 俺は新月の仮面を着けて確認をする。

 泣き顔マーカーが草原で点滅していた。


「レクス、SOSだ。行くぞ!」


 俺もなんだかんだで慣れてきたな。


「ちょっと待て!もしかして、それが噂の新月仮面か?」

「おいビショップ、噂って何だよ?」

「ギルメットでスタンピードを止めたって、王都で噂になっているぞ」

「は?何で王都で……」

「最初は貴族の間で噂になり、次第に冒険者や商人に広まったようだ。中には実際に助けてもらったと言う者も出て来ているぞ」


 助けたという人はわからないが、貴族と言えば、ジュール様しか思いつかない。


「今は、そんな事よりも救助が先だ」

「カイト、私達も一緒に行くわよ」

「ああ、わかった。コンセ、転移……」

「ちょっと待つの!!」


 レクスの待ったが掛かった。


 レクスはテーブルの上に立ち、鳴らない指パッチンをした。


「レクス、鳴ってないぞ。何をしたんだ?」

「この指では音が鳴らないの……でも、バージョンアップはちゃんと出来ているの!!」

「何のバージョンアップかは知らないが行くぞ。コンセ、今度こそ転移だ」



 俺達は転移で草原に来た。メンバーは、俺の他にレクス、グラン、エル、マックニャン、サトミ、マツリ、キョウヤ、ビショップ、シェリー、そしてヨシュアだ。


 俺以外は、転移で現れると同時に仮面とマントを着けていた。

 仮面は目元だけの、所謂アイマスクと言うやつで、男性が金色で、女性が銀色だ。

 どちらも飾り彫りがされていて、以前の仮面と比べるとゴージャスになっている。

 マントは男性が黒、女性が白で、フードも付いている。


「か、カッコイイじゃないか、レクス……」

「フフン、転移と同時に自動で装着されるの!!更に物理と魔法の耐性アップなの!!」

「凄いな、身体が軽くなった感じがするぞ」


 ビショップの言葉に皆が頷き、身体を動かし確認をしている。


「レクス、俺は変わっていないんだが……」

「カイトくんは、そのままでも最強装備だから変えようが無いの!」

「そ、そうか……」


 それなら仕方が無いと思い、俺はモンスターを観察した。


 そのモンスターは、ヤギの頭に女性の上半身で、腰から下は黒い毛で覆われた動物の脚をしている。

 背中には黒い羽根があり、此方を威圧でもするかのように大きく拡げられている。


 モンスターの周りには、放射状に冒険者達が倒れていて、うめき声を出しながら、這ってモンスターから少しでも離れようとしているようだ。

 その冒険者達をぐるりと見渡したモンスターが腕を一振りすると、圧縮した空気の塊でもぶつけられたように吹き飛ばされて、気を失ってしまった者も居る。


「新月仮面、あれはこの世界に居る筈の無いモンスターなの!!」

「あれはモンスターと言うより悪魔の類いだね。昔、本で見た事があるよ」

「ああ、キョウヤ、俺も見た事があるぞ。あれは確か、アホメットとか言ったなっ!?――――シールド!」


 威圧と共に空気の塊が此方に飛んで来て、俺は咄嗟にシールドで防いだ。

 

「あれは俺をピンポイントで狙って来たぞ」

「カイト、今のはお前が悪いと思うぞ」


 何で俺が?俺はまだ何もしていないぞ。


「そこの怪しい仮面の人間よ、貴様は私の事をなんと言った?」


「おっ!?喋ったぞ。って言うか、俺は何か言ったか……?」

「私の名だ、戯けが」

「……アホメットだが、それがどうした?」


 アホメットは腕を振って空気の塊を放って来たが、俺は裏拳でそれを弾き飛ばした。


「もう一度聞こう、私の名は?」

「アホ……メッ……ト?」


 また空気の塊を放って来たが、俺もまた裏拳で弾き飛ばした。


「フフフ、私をそこまで愚弄するとは、どうやら死にたいらしいな。人間は奴隷として役に立つから、なるべく殺さずに魂を縛り付けるようにと、私をこの地に遣わしたお方は言っておられたが、なるべくと言う事は少しは殺しても良いと私は解釈した。だから貴様は此処で死ね」

「良く喋るな、アホメット」

「まだ言うか!!私の名はアホメットではなく、バ、フォ、メットだ!!バフォメットのバフォちゃんだ!!」

「そうか、どうやら俺は間違えて覚えていたらしい。済まなかったなバフォちゃん」

「フンッ、私は優しいからな。間違いに気付き素直に謝罪する者を殺したりはしない。フフフ……奴隷として死ぬまで働くが良い。寧ろ此処で死んだ方が幸せだったかもしれぬがな」


 そう言ってバフォちゃんは腕を振り、空気の塊を飛ばして来るが、俺達は余裕で弾き返したり、躱したりしている。


「その攻撃は俺達には通用しないぞ、バフォちゃん」

「ねえカイト、そのバフォちゃんって呼び方なんだけど、何だか気が抜けてしまうよ」

「バフォメットよりもバフォちゃんの方が言いやすいからな」

「そっか、それもそうだね」

「フンッ、雑談をしながら私と戦うとはな。だが、無限に湧いてくるこいつ等と戦って何時までその余裕が保たれるかな?せいぜい死なぬように終わりの無い戦いに魂をすり減らすと良い。今日は視察に来ただけで、ここ迄長居をするつもりは無かったのでな、この後お茶の予定を入れてあるのだ。怪しい仮面の人間よ、次に会ったときは疲弊した貴様のすり減った魂を縛り付けてやろう。フフフ、アハハハハ」


 バフォちゃんが腕を振ると、草原に大きな穴が開き、その中から大量のスケルトンとグレムリン、そして、ガーゴイルが這い出してきた。


 バフォちゃんは長いセリフの後、這い出して来たモンスター達を満足げに見て、歪んだ空間の中へと消えていった。

読んで頂きありがとうございました。



ヴォルフ(転移者、もと軍人で大学教授、他の転移者の指導をしている)


バフォメット(バフォちゃん)

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