第75話 カイト、王都アニエスに行く①
ダイフクとキナコはポケット草原に帰り、俺達はルクレールの街に入る正門に向って歩いている。
門の前には人々が集まって此方を見ていた。
グレムリンがいなくなって、避難所の学校から出てきたのだろう。
「く、来るな……化け物……」
「この街から出て行け!!」
何だか様子がおかしいぞ……
「何を言っているんだ、お前たち?この者達は街を救ってくれたではないか!」
門の詰所から、グレムリンとの戦いで負傷した騎士や衛兵が出てきて、街の人々から俺達を庇うように間に入り、人々を説得している。
「だが……だが、こいつ等は普通じゃない……」
「俺達は見たんだ。あの不気味な門と恐ろしい骸骨を……」
「大きな蛇も居たわ!!」
「何を言っているんだい!この子らは普通の子達じゃないかい。蛇にもテイムモンスターの証が貼ってあっただろう?」
ふかし芋のおばちゃんが俺達を庇ってくれている。
「そうだぞ。このドリアードとヴァンパイアにもテイムモンスターの証が、ちゃんと貼ってあるだろう?コイツは俺達と同じ冒険者だ」
負傷した冒険者達も俺達を庇ってくれて、街の人々を説得してくれている。
「しかし、しかし……こいつ等は……」
人々の後ろからマックニャンが馬車を走らせて此方に向って来ている。
「貴様ら!街の恩人に向かって……」
「どうやら歓迎されていないようだから俺達は出て行きますよ。庇ってくれてありがとうございました」
俺達を庇ってくれている騎士の前に立ち、俺はこの街から出て行く事を告げた。
「しかし、それでは……」
「いえ、良いんです。俺達は旅の途中で立ち寄っただけですから、気にしないで下さい」
「済まなかった。お前は力のある冒険者なんだろう。この街の人々は強大な力に脅えているだけなんだ。許してやって欲しい」
「わかっています。では、これで失礼します。マックニャン、此方だ!!」
俺達は馬車で街道を王都に向けて進み始めた。
馬車の中には魔族の男性とエルフの女性、それにオーガも一緒に乗っている。
アマンダさんとミウラさんは先に館に帰ってもらい、フェルナンさんとマークに、事の成り行きを話してもらう事になった。
「悪かったな、俺のせいでお前等も街に入れなかったな。何処か行きたい所があるのなら送って行くぞ」
「気にするな。俺達だってお前と同じで恐れられていたに違いない」
「そうよ、私達も人々の目の前でグレムリンを簡単に倒していたのだから、あなた一人のせいじゃないわ」
「そう言ってもらえると助かる」
「カイト君、ポンコツカルテットだニャン」
マックニャンが馬車を止めて、小窓から伝えて来たので、俺は馬車を降りた。
後から魔族の男性とエルフの女性とオーガも降りてきて、一緒にポンコツカルテットが片膝を付いている所まで行った。
「ミスターP様、遅くなってしまい申し訳ありません」
「いや、この場合は仕方が無いだろう。お前たちはこのままルクレールに行って、街の人達のケアを頼む。御札はまだあるか?」
「はっ、残り少なくなっております」
ミスターPだと!?この男が?
ミスターPは御札を大量に出してポンコツカルテットのチェロに渡した。
御札を受け取ったポンコツカルテットは、そのまま徒歩でルクレールを目指して行った。
「お前……」
「ああ、そうだ、カイト。俺がミスターPだ」
「それにしてもポンコツカルテットって良いネーミングだわ。あはははは」
「お前達は、何がしたいんだ?お前達の目的は何だ?」
「俺達の目的の一つは達成した。それはカイト、お前と合流する事だ」
「そう、そして、後はあなたの助けになる事」
「何故だ?何故俺の……お前等は誰なんだ?」
「あはははは、やっと名前を聞いてくれたな。ミスターPのPはパーカーのPだ」
「カイト、もしかしたらと思っていたんだけど、この3人の雰囲気が良く似ているの……」
「サトミさんは女性だけあって流石に鋭いな。どうだいカイト、わかったか?」
「パーカー……それに、この懐かしい雰囲気……お前、ビショップ?ビショップなのか?そしてシェリー?」
俺は涙ぐんでいるオーガを見た。
「お前はヨシュアだよな?何でオーガなんだ?いや……ヨシュアには一番似合っているのかもしれないが……」
俺達は暫く抱き合って再会の喜びを分かち合った。
「それにしても、お前達まで死んでいたんだな」
「ああ、しかし、カイトが死んだ5年後だ。それまでに俺とシェリーは結婚して、ヨシュアは修行だと言って各地の滝を巡っていたらしい」
「ヨシュア……やっぱりお前はオーガで正解だったな」
俺達は馬車に揺られながら話していた。
「カイトが死んだ5年後の作戦で、アホのリーダーが偽の情報を掴まされて、俺達は揃ってあの世行きになったわけだ」
「そこで、豊穣神様からあなたの事を聞いて、どうしても放っておけなくて、同じ時代に転生させてもらったのよ」
そうだったのか、多分レクスが絡んでいるな。
「それで、ビショップ?子供は出来たのか?」
「いや、残念ながら出来なかったが、結果的には良かったのかもしれない」
「そうだな……まっ、この世界で頑張れ」
「ぷっ…あっはははは」
「どうしたサトミ?」
「だって、皆んな見た目が15歳なのに、今の会話は15歳の会話じゃ無いよ」
「あはははは、確かにな。それはそうとサトミさんが一緒に居るとは思わなかったぞ」
「サトミは人間のいない世界にドリアードとして転生して、デビルモンスターの種をばら撒いた他の世界の運命神のイタズラで、この世界に連れて来られてデビル化していたんだ」
「そしてカイトに出会ったんだよ」
「その運命神のせいなのね、私達が戦った黒いオーラのモンスターは。何だか複雑な心境だわ」
「そこのマツリも自分の住んでいた世界から連れて来られて、デビル化しかけていたんだ」
「そう言えばカイト君、あの大きな“G”はおかしな関西弁をしゃべっていたけど、彼も転生者なのかな?」
「ああキョウヤ、あれはジョニーと言ってな、大阪が大好きなアメリカ人で“G”の研究者だったそうだ」
「何でよりにもよって“G”なんかに……同じアメリカ人として恥ずかしいわ」
「研究者だったと言う事だから、余程“G”に惚れ込んでいたんだろう。学者の頭の中は、俺達にはわからないさ。それで、君はキョウヤだったね?ワイバーンを操っていたようだけど、君も転生者なのだろう?」
「ビショップ君、その通りだよ。僕はダンジョンコアに転生を望んだんだ。この身体は思念体なんだよ」
話は尽きないが、そろそろ暗くなって来たな。
「エル、今日は客が3人来ることをララさんに伝えてくれないか?」
「了解だぜ!」
「しかし、驚いたぜっ!フンッ!こんなに立派な……おっと!屋敷に住んでいるなんてなっ、ハッ!」
「俺は何もっ!してないぞっと!レクスとグラッ……クッ!グランのおかげ……ダッ!!」
「二人とも喋りながらやっていると舌を噛むわよ」
昨夜は2階のリビングで転生、転移組とレクス、グラン、エル、マックニャンのみで遅くまで語り合った。
内容は殆どが俺が転生してから今日までやってきた事だ。
俺が隠したい事でもレクスが饒舌に語るものだから、俺は穴があったら入りたい気分だった。
今度はビショップ達の事を根掘り葉掘り聞かなくてはな。
そして今は朝の日課で、久しぶりにビショップと組手稽古をしている。
相手が居ると稽古にも熱が入る。
「カイトさんとビショップさんの動きが全く見えません……」
「あ、アマンダさん、おはよう」
「おはようございますシェリーさん。もうすぐ朝食が出来るそうですよ」
「ビショップ!カイト!もうすぐ朝食だって!!」
朝食のメニューは、蒸したダンジョン産の鶏肉を、細かくさいて生野菜と混ぜたチキンサラダ、甘さ控えめのフレンチトースト、ダンジョンで取れた果物の盛り合わせ、そしてコーヒーだ。
「ララさんの料理はとても美味しいわ」
「うん、本当に美味い。こんなに美味い料理は久しぶりだな」
「シェリー様、ビショップ様、全てカイト様のレシピがあるからでございます」
「俺のレシピだけでは、こんなに美味しく出来ませんよ。ララさんに料理の才能があるからですよ」
ビショップとシェリー、それとサトミや他のメンバーも俺の言葉に頷いている。
そして、ヨシュアは涙を流しながら恍惚の表情で味わいながら食べている。
「皆様、ありがとうございます。とても光栄でございます」
ララさんは照れくさそうにお辞儀をして、おかわりのコーヒーポットを取りにキッチンに向った。
「ちょっと聞いていいか、カイト?」
「何だ、ビショップ?」
「あの信じられない強さのラージピジョンはまあ良いとして、あの馬だ、カイト。何故馬がブレスを吐く?」
俺達は今、街道を東へ進んでいる。
時折、襲ってくるゴブリンや、コボルトはキナコが風の刃で、ワラビがブレスや踏みつけで倒している。
「知らないのか、ビショップ?この世界の馬はブレスを吐くんだ。それどころか、驚いた事に空だって走るぞ」
いつだったか、俺が日の出前に館のテラスで外を眺めていると、滝のある方角からワラビが空を駆けて厩舎に戻って行くのを見たことがある。
「馬じゃないわよね?それって絶対、違う生き物だわ」
「カイト、この世界の馬はブレスを吐かないのは勿論の事、空だって走らないぞ」
「ビショップ、シェリー、ワラビは何処から見ても馬だから、馬で良いだろう」
「なるほど、あれだな……お前、考えるのをやめたな」
「マーク、お茶のおかわりを頼む」
マークもお茶を入れるのが上手くなったな……はあ、いい天気だ。
読んで頂きありがとうございました。
ビショップ
シェリー
ヨシュア
地球でのカイトの傭兵仲間。
豊穣神に頼み、カイトと同じ時代に転生した。
実は裏でレクサーヌが・・・