第73話 カイト、学徒の街ルクレールに行く②
「カイト、あれを見て!口が開いているよ」
サトミが言うように、モンスターの腹部にある、三日月型に口角が上がっていた口が大きく開いている。
その口の中から、夥しい数のモンスターが吐き出されて飛んでいる。
それは先ず騎士に群がり、次いで、後ろの冒険者にも群がっていった。
騎士も冒険者も群がって来るモンスターに剣や槍で何とか応戦している。
外壁の上からは魔法使いの魔法と弓師の弓矢で援護しているようだ。
その吐き出されている、大量のモンスターが街の上空にもやって来た。
それは醜悪な顔付きをした、翼があるモンスターで、人の半分くらいの大きさだ。
口の中には鋭い牙がびっしりと生えていて、手と足には鋭い鉤爪が生えている。
外壁の外で戦っている騎士や冒険者の内何人かは、肉を食いちぎられたり、鋭い鉤爪で肉を抉られたりしたのだろう、悲鳴を上げながら建物の中に避難しているのが見える。
「カイト君、あれはグレムリンみたいだね。それにしてもハンパない数だね」
「グレムリンか……俺が思っていたのとはだいぶ違うな。全くかわいくないぞ」
大量のグレムリンは、空を覆い隠さんばかりに増えて、上空から俺達に襲い掛かって来た。
「レクス、グラン、エル!」
「了解なの!サンダーバード」
「ワッハッハッハッハー」
「行くぜ!」
レクスが3匹のサンダーバードで、グランは、ハンマーから礫を撃ち出すグラン式ガトリング砲で、エルは両手から放つ赤い闘気でグレムリンを倒しながら散らばって行く。
「カイト君、ダンジョンでドロップした木刀をサトミさんに」
「これか?わかった。サトミ、これはお前が使った方が良いみたいだ」
俺はサトミに、ダンジョンのトレントがドロップした木刀をサトミに渡した。
「私は刀とか使った事が無いんだけど……」
「大丈夫、形は木刀だけど、持っているだけでサトミさんの力になってくれるよ」
「うん、わかった」
サトミは木刀を腰の紐に差し、腕を棘蔓に変えてグレムリンを倒しながら走って行った。
「カイト様、私には?」
俺はキョウヤを見る。
キョウヤは首を横に振った。
「マツリ、お前にはダンジョンでドロップした炎の槍があるだろ?」
「はっ!そうでしたわ」
マツリは胸元から炎の槍を出して、穂先に炎を纏わせた。
「私も行って来ますわ」
「待て、マツリ!その槍は何だ?」
炎の槍を見ると、石突の部分に木工品店で買ったモアイ像が付いていた。
中には魔石も入っているようだ。
「グラン様にお願いして取り付けてもらいましたわっ!」
マツリが襲ってきたグレムリンを、炎の槍で軽く倒した。
『スゴイゾ、マツリ……』
モアイ像から声が聞こえた。
「……俺の声?」
「フフン♪」
マツリは胸を張って、たゆんたゆんさせながら、背中から蝙蝠の翼を出して、グレムリンを倒しながら飛んで行った。
『イイゾ、ソノチョウシダ……』
『ガンバレ、マツリ……』
モアイ像の声と共に、マツリが遠ざかって行く。
「なんだよ、あれは……」
「あはははは、モチベーションアップには良いかもね。それじゃ僕も行くよ」
「キョウヤは戦えないんじゃなかったのか?」
「戦うのはモンスター達だよ。僕はこの地を一時的にダンジョンに変えるだけだね」
「凄いな、そんな事が出来るのか?」
「僕はダンジョンコアだからね。本体では無いから規模は小さいけどこの街くらいなら訳ないよ」
辺りの空気が微妙に変わった。キョウヤが此処ら一帯をダンジョンに変えたのだろう。
「さあ、出番だよ。グレムリンを倒しておいで」
キョウヤの声で光の粒子が集まり、赤、青、緑、黒、銀、金色のワイバーン達が現れて、グレムリン目掛けて飛び立って行った。
「キョウヤ、お前チート過ぎないか?」
「そうかい、でもカイト君には言われたく無いな。あはははは」
キョウヤがワイバーン達を出してくれたが、まだまだ手は足りていない。
巨大なキメラモンスターを倒さないと、グレムリンの数は一向に減らないのだ。
『ダイフク、キナコ来てくれ』
俺は念話でダイフクとキナコを呼んだ。
『やっと呼んでくれたね、カイト。もう少しで勝手に出て来るところだったよ』
「遅くなって済まなかったな。敵はグレムリンだ、キナコ。ダイフクは街の中では動けないからな、俺と一緒にキメラモンスターを倒しに行くぞ」
「ポポー!」
『わかったよ、カイト』
キナコは風の刃でグレムリンを切り裂きながら飛んで行った。
俺はアイテムボックスからダイフク人形を出して、ダイフクを送還した。
「キョウヤ、俺はキメラモンスターを倒しに行くけど、お前一人で大丈夫か?」
「僕の事なら心配は要らないよ。この身体は思念体だからね」
「そうだったな。本体は安全なダンジョンの奥深くか……やっぱりチート過ぎるぞ」
「あはははは。気を付けてね、カイト君。君は生身の身体だからね」
俺は少し考えて、使い物になるかわからないが、スケルトンバードを30匹出した。
「スケルトンバード、グレムリンを倒せ」
「ギギイィィィィィィ」
スケルトンバードは編隊を組んで、尖った嘴をグレムリンに突き刺し倒している。
グレムリンに体当たりをされて、バラバラになっても、すぐに元に戻り戦線に復帰していった。
「おおー、使えるじゃないか」
俺は追加で10匹のスケルトンバードを出した。
そして、ダイフク人形をポケットに入れ、グレムリンを新月の刀で倒しながら正門に向かう。
だが、思うように前へ進めない。
群がって来るグレムリンで足の踏み場も無いくらいだ。
遠くでは、レクス、グラン、エルが、ここぞとばかりにグレムリンを喜々として倒しているのが、此処からでも良くわかる。
マックニャンは馬車に群がるグレムリンを得意のレイピアで切り裂き、ワラビが行く手を邪魔するグレムリンをブレスで薙ぎ払い、駆けて行くのが見えた。
俺がグレムリンを倒しながら進んでいると、サトミの棘蔓が無数に伸びているのが見えた。
建物でサトミは見えないが、何故かトレントが居てグレムリンを枝で払い落としている。
「何故トレントが?あの木刀なのか?」
上空には、まだまだ大量のグレムリンが飛んでいる。
そのグレムリンを縫うように、マツリが高速で飛び回り、炎の槍で貫き、火球を飛ばして戦っている。
ワイバーン達も、それぞれ得意な属性攻撃でグレムリンを倒していた。
赤いワイバーンは火球を放ち、青いワイバーンは水球や氷の礫、緑のワイバーンは風の刃で切り裂き、黒いワイバーンは毒の霧やナイトメア、銀のワイバーンはお日様ビームで薙ぎ払い、金のワイバーンは硬さを活かした物理攻撃だ。
「キナコは何処だ?」
キナコは人々が避難している学校の上空で、上手くグレムリンの攻撃を躱しながら、風の刃と雷で戦っていた。
「フンコロガシの特訓の成果だな。あの様子なら大丈夫そうだ」
そして、ジョニーが居た……
いつの間にかやって来て、グレムリンを真っ二つにしている……
「ええかぁ、お前ら。こうや、こうするんやでぇ」
ジョニーの後ろにはジョニーの半分くらいの大きさの“G”が4匹飛んでいる。
ジョニーのように、真っ二つとまではいかないが、グレムリンを切り裂き、倒している。
「うん。見なかった事にしよう……」
って訳にはいかないよな……後で差し入れでも持って行くとしよう。
実際助かっているんだしな……
とは言っても、早くキメラモンスターを倒さなければ、グレムリンは減らないぞ……
俺は建物に被害が出ない程度のファイアーボールを放ち、目の前に道を作るが、すぐに別のグレムリンが、その道を塞いで来る。
このままでは埒が明かないと思い、新月のコートのフードを被り、正門だけを見据えて、前に居るグレムリンだけを倒す事にした。
俺の背中と後頭部には3〜4匹のグレムリンが取り付いて、新月のコートを齧っているが、行く手を遮るグレムリンだけを倒し、先程よりも少しだけスピードを上げて進む事が出来た。
「クッ……重たいぞ、お前ら……一体何匹くっついているんだ?」
「ギッギギギギ」
「キキキキキキキ」
もう10匹以上くっついているんじゃないか?
それでも俺は、ひたすら目の前のグレムリンを倒し、前に進んで行く。
今では、騎士や冒険者の殆どが、建物の中に避難しているようだ。
(マスタ、何故転移しない?)
「…………」
(こらっ!セルジュ、折角マスターが頑張っているんだから、余計な事を言うな)
「…………」
(でも、転移だと一瞬。サクッと行ける)
(済みませんマスター、コイツが余計な事を……)
「いや、良いんだコンセ。寧ろ、忘れていた俺が悪い」
はぁ、何だか一気に疲れが……
(マスタ、自己嫌悪よりも転移が先)
「そうだな……コンセ、キメラモンスターの前に転移だ」
(了解、マスター。キメラモンスターの前に転移します。3…2…1…転移!)
キメラモンスターから100メートル離れた場所に転移した俺は、ダイフクを人形から召喚した。
「ダイフク、先ずは腹部の顔を何とかして、グレムリンを止めるぞ」
『どうやって?僕でもあそこまでは届かないよ』
キメラモンスターは、今だに街に向ってグレムリンを吐き出している。
転移してきた俺達に、まだ気が付いていないようだ。
ダイフクが小さく見える程の巨大さに圧倒されるが、良く見ると膝下まで地面にめり込んでいる。
「ダイフク、キメラモンスターは動かないのではなくて、体重が重すぎて動けないようだな」
『馬鹿だねコイツ』
「ダイフク、俺をあの顔まで押し上げてくれ」
『わかったよ。気を付けてね』
俺はダイフクの頭の上に乗って、キメラモンスターの真下に移動した。
「良いぞ、やってくれ」
『行くよ!!』
ダイフクが頭を勢い良く跳ね上げ、同時に俺はおもいっきりジャンプをした。
腹部の顔まで飛び上がった俺は、魔力を込めた新月の刀で、やたらめったら斬りつける。
腹部の顔は一瞬目を見開き、うめき声と共に霧散した。
「良し、やったぞ!ダイフ――――っ!?ぐはっ」
『カイト!?』
落下途中の俺は、いきなりゴリラの手に掴まれて、物凄い握力で握られた。
新月のコートを着ていなかったら、潰されていただろう。
手の中から抜け出そうと藻掻いていると、キメラモンスターは、俺を街の外壁に向って投げつけた。
俺は背中を魔力で覆い、衝撃に備えるが、どうやら壁に激突する前に受け止められたようだ。
「ダイフクか?」
ダイフクは、キメラモンスターに毒霧を煙幕のように放っている。
「違うのか、それなら誰が……?」
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