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第72話 カイト、学徒の街ルクレールに行く①

「エル、どうだ?」

「ああ、綺麗さっぱりと、無くなっているぜ」


 漁村から帰った翌日、マツリの昏い感情を、エルに調べてもらい、完全に消えている事を確認した。

 農村と漁村での絶景と人々の温かさに触れて、マツリの中の昏い感情は消えたのだろう。


「だそうだ、マツリ。もう何時でも元の世界へ帰れるぞ」


 マツリは嬉しそうな、そして、寂しそうな表情で、俺を見て、サトミを見て、レクス、グラン、エル、マックを見た。


「俺達は今日、このダンジョンの街バローを出て、学徒の街に向かう予定だ」

「……私も一緒に行きたいですわ」

「家族の元に帰らなくても良いのか?」

「帰りたいですし、帰らないと行けませんわ。だけど、折角この世界に来たのですから、もう少し見てみたい気持ちもありますの……」

「まぁ、何時帰るかは、マツリの自由だ。レクスが言うには、元の世界の、元の時間と場所に帰る事が出来るそうだからな」

「元の時間に戻れるのなら、迷う事はありませんわ。次の街を見てからでも、遅くないですわ」




 ダンジョンの街バローから北に馬車を進めて、途中で東に進路を変えると、学徒の街ルクレールがある。

 ルクレールの先は王都だ。



「ねえカイト、東に進路を変えてから、モンスターが出なくなったね」


 サトミが言うように、最初の内はワラビとキナコがモンスターを倒していたけど、出会うのは行商人の馬車と冒険者だけだ。


「確かに出なくなったな。それに盗賊も最近は見かけなくなったよな」

「盗賊に関しては、各冒険者ギルドの依頼として討伐隊が組まれて、街道の見回りを頻繁に行っていますから、最近では、盗賊の数も激減したと思いますよ」


 ミウラさんが言うのなら、そうなんだろう。


「それなら、見回りのついでに、モンスターの討伐をしているのかもしれないな」




 ルクレールの街に入る時にフェルナンさんは身分証を、キョウヤは冒険者ギルドのギルドカードを出していた。


「僕は、戦闘はからっきしだけど、ダンジョンのドロップ品をギルドに持っていくのは訳ないからね。あはははは」


 キョウヤはダンジョンコアなのだから、当然と言えば当然の事だ。



「アマンダさん、学徒の街は、やっぱり学生が多いんだろう?」

「はい、その名の通り学生が大半を締めています。学校にも色々とあって、貴族学校に、騎士、執事、メイド、冒険者の養成校、魔法学校、商業学校等で、小規模なものは教室と呼ばれ、料理、絵画、木工、陶工、裁縫等もあります」

「その冒険者の養成校で、うちのギルドマスターも時々ですが、講師をやっていますよ」

「ギルドマスターも大変だな……」


 アマンダさんを商業ギルドに、ミウラさんを冒険者ギルドに馬車で送ってから、俺達は馬車を降りて、街をぶらぶら歩く事にした。


「制服を着た子供達が多いね」

「ああ、それに色々な種類の制服があるな」


 紺色のブレザーを着たグループに緑色のローブを着たグループ。

 他には、騎士服、執事服、メイド服、冒険者装備、商人風のベスト等さまざまだ。

 皆が一様に、胸に紋章が描かれたワッペンを付けた10歳から15歳くらいの子供達だから、学生だとわかる。


「ん?あんたは冒険者学校の生徒じゃないのかい?高学年の生徒は皆、実習に出ている筈だがね」


 匂いにつられて立ち寄った、ふかし芋の屋台のおばちゃんが俺を学生だと勘違いをしている。


「俺は旅の途中で立ち寄った冒険者ですよ」

「そうかい、学生じゃなかったんだね。そう言えば紋章の付いた革鎧を付けていないね」

「カイト君は、まだ若いからね。間違えられるのも仕方が無いと思うよ」

「頭の中はおじさんだけどね。あはははは」

「おい、サトミ!?俺はまだ15歳だぞ。勿論、頭の中もだ」

「その割には、カイト様は落ち着いていらっしゃいますわ」

「確かにそうですな」

「マツリにフェルナンさんまで!?もうこの話はお終いだ!おばちゃん、ふかし芋を6個お願いします。それにしても、良く冒険者だとわかりましたね」

「はいよ6個だね、ありがとさん。簡単な話さ。貴族学校は勿論の事、騎士も執事もメイドも、皆んな貴族のご子息やご令嬢だからね。私らの屋台なんか見向きもしないからだよ」



 それから、俺達は街を見て回ると、おばちゃんの言っていた事が良くわかった。


「ねえ、カイト。凄く高級そうなレストランがあるよ」

「あちらの商店も高価な服や宝石が並べてありますわ」


 そちらを見るとレストランや商店からブレザーやローブを着た若者達が出て来るところだった。


「なるほどな、貴族は高級店しか行かないって事か」


 フェルナンさんは苦笑いをしている。


「貴族の子は自我が強いですからね。私も子供の頃はそうでしたから。自分は貴族の出だと見栄を張っていたのですよ」

「まあ、それで経済が回っているのだから悪いことでも無いと思いますよ」

「そう言う事が言えるカイトは、やっぱり頭の中はおじさんなんだよね。あはははは」

「………」



 レクス、エル、グラン、マックニャンは、高級店だろうがお構いなしに中を覗いて、はしゃいでいる。

 レストランの客も従業員もレクス達に手を振って、ほのぼのな空気が漂っている。


 そんな中、突然それは起こった。


「逃げろーっ!逃げるんだ!!避難しろーっ!!」


 正門に居た衛兵が、叫びながら街の中に入って来た。

 人々を避難させる為だろう。


 その声に振り返った俺は、一瞬自分の目を疑ってしまった。


「何だ、あれは……キメラか?」

「カイト、目茶苦茶大きいんだけど……」

「でも何だか、かわいいですわ」

「「「あれが、かわいい!?」」」


 俺達がそんな話をしているうちに、正門前の広場から悲鳴を上げながら、此方に街の人々が押し寄せて来た。


 俺達は建物の陰に身を寄せて、押し寄せて来る人々をやり過ごし、改めて巨大なモンスターを観察した。


 そのモンスターは、醜悪なゴブリンの頭に、太ったオークの身体、腕と脚はゴリラのように筋肉質で、黒い毛に覆われていて、鉤爪が伸びている。


 頭には二本の、長く捻れた黒い角があり、背中にはワイバーンの羽根が付いていて黒いオーラを纏っている。

 腹部には、赤い二対の目と三日月のような口が浮かび上がっていて、逃げ惑う人々を見て、笑っているようだ。

 

「カイト様、あのモンスターは狂っています……」


 マークが震えながらも、モンスターを観察して、俺に教えてくれた。


「フェルナンさん、マークと一緒に館に戻っていて下さい」

「はい、カイト様。どうかご無事で」

「キョウヤはどうする?」

「僕にも出来る事があるかもしれないから、此処に残るよ」


 外壁越しに見える巨大なモンスターは、外壁から200〜300メートル離れた草原の中で、今だに動かず、此方を見ている。



 馬に乗った騎士と、冒険者達が正門に集まり始める。

 それを見ているモンスターの腹部の顔は、更に口角を上げたように見えた。


 衛兵達が避難させている人々の中には、アマンダさんとミウラさんも居た。


「カイトさん、此処に居たのですね。あのモンスターは、いったい何なのでしょう……」

「ミウラさんにもわからないのなら、やはりデビルモンスターの種で複数のモンスターが融合したのかもしれない」

「カイトさんも戦うのですか?」


 アマンダさんが正門に集まる騎士や冒険者達を見て、俺に聞いてきた。


「あのモンスターは、何故かあの場所から動かない……なんとなくだが、俺達も此処から動かない方が良いように思えるんだ」

「カイト君、僕も同意見だよ。何だかあのモンスターは、戦える人間が一箇所に集まるのを待っているように思うんだ」

「アマンダさん、避難先は?」

「貴族学校と魔法学校です。なんでも、その2校は結界でモンスターの侵入を防げるそうですよ」

「それなら安心だな……ん?あれはワラビか?」


 ワラビが馬車を引いて、此方に歩いて来た。

 馬車の中には老人や病気で動けない人、赤ん坊を抱いた母親、家族とはぐれたであろう幼い子供達が乗っている。


「ワラビ偉いぞ、良くやった。この分だと、まだ街の中には避難が出来ていない人が居そうだな」

「それなら、私達がこの人達を避難場所に送ってから馬車で街を回ってみます」


 グランとレクスが作った馬車なら大丈夫だろう。ワラビも居るしな。


「アマンダさん、ミウラさん、そうしてくれ。危なくなったら……」

「館に帰るんですよね。うふふ」

「あ、ああ、その通りだ。マックニャン、頼めるか?」

「わかったニャン、カイト君」

「マックさんとワラビちゃんがが居れば安心だね、カイト」


 ワラビが引く馬車は、マックニャンとアマンダさん、ミウラさん、そして逃げ遅れた人達を乗せて、避難場所に向った。



「カイト様、モンスターの魔力が大きくなっていますわ」

「何をして来るかわからないからな、警戒を怠るなよ」



 馬に乗った騎士を先頭にして、徒歩の騎士と冒険者達が隊列を組み、正門から外壁の外へと出て行くのを、俺達は大通りに面した商店の前で見送った。

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