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第71話 カイト、マツリの希望でポケットの中に行く

「この御札はお前たちの助けになる筈だ。此処に居ない家族や友人達の分も買ってもらいたい」

「俺は買うぞ!」

「私も買うわ!」

「俺もだぁぁぁ!!」


 奥の扉から、黒いマントのフードを目深に被った、小太りの男2人とグラマーな女1人が手に籠を持って現れた。


「御札1枚が銅貨2枚だ是非この機会に買ってもらいたい」


 安いじゃないか。約200円ってとこか?


「私達も買いましょうね」

「そうだなアマンダさん。デビル化したモンスターが他でも出ていたんだな。俺達も協力しよう」




「あっ、お前……」

「うん?あっ……」


 俺達に御札を持ってきたのは、ポンコツカルテットのビオラだった。


「あんたも買うの?」

「ああ、インチキじゃあないんだろ?」

「当然よ。私達の主様が作られた御札だからね」

「それなら10枚もらおう」


 俺は銀貨を2枚出した。


「今は、お前達が何者か詮索するつもりは無いし、関わり合う気もないからな」



 俺達は会場を後にして、買い物を続ける事にした。


「レクス、この御札を見てくれないか?」

「――――――ッ、これは……カイトくん、これは紛れもなく本物なの!!それに、この魔力は転生者が関わっているの!!」

「なるほどな……その転生者がデビルモンスターを倒したんだろうな」

「きっとそうだぜ。この世界の人にはデビルモンスターは荷が重すぎるぜ」

「まあ、それならそれで心強いんじゃない、カイト?」

「ああ、そうだなサトミ。さあ、この話は終わりだ。次はどの店に行くんだ?」



 それから俺達は食料品店、金物屋、日用雑貨の店を見て回り、最後に洋品店で、アマンダさん、ミウラさん、マーク、メロディーちゃんの服を買った。

 そして今、フェルナンさんとララさんにお土産を選んでいる。


「クロスタイがあるじゃないか。懐かしいな……昔、ウエイターをしていた時に付けていたな……」


 フェルナンさんのお土産にクロスタイとカフスボタンを選び、ララさんにはブローチと髪留めを選んだ。





 翌朝俺は、日課の剣術の練習をしながら、今日の予定を考えていた。

 それは、“俺だってたまには一日部屋で、ダラダラと過ごしたい”って事だ。



 今日の朝食は和食だ。

 炊きたてのご飯に、玉ねぎとキャベツの味噌汁、玉子焼き、炙った魚の干物、胡瓜と白菜の浅漬けだ。


 ララさんには感謝だな……


 キョウヤとサトミも嬉しそうだ。



「今日の予定だが、俺は……」

「カイト様!ポケット草原に行きたいですわ!!」

「そうだね、マツリちゃんはまだ、この館があるポケット森林しか知らないんだよね。他にも農村と漁村もあるよ。マツリちゃん」

「行ってみたいですわ!!」

「僕も、興味があるな、カイト君」


 本当は田園と浜辺だけど、いつの間にか皆んな農村と漁村って呼んでいる。


 エルの見立てでは、まだ少しだけマツリの中の昏い感情が残っているらしい。


 一刻も早く昏い感情を消し去る為にはマツリに楽しんでもらわないとな。




 俺達は草原の何時もの場所に来ている。


 明日はバローを立つので、アマンダさんは商業ギルド、ミウラさんは冒険者ギルドヘ挨拶に行くそうだ。


 ララさんとメロディーちゃんには、アイテムボックスにストックしておく料理を作ってもらっている。


 マークは、フェルナンさんに色々と教わっている最中だろう。


 此処には俺とサトミ、マツリ、キョウヤ。そして、レクス、グラン、エル、マックニャンが来ている。


「見渡す限り草原ですわね」

「カイト君、この草原はどこまで続いているんだい?」

「そう言えば、俺もここから先は行った事が無いな……この際だ、湖があるらしいから行ってみるか」

「ねえカイト、歩いて行くの?時間がかからない?」

「それもそうだな。少し待ってくれ」


 俺は念話でダイフクに、キナコとワラビも一緒に来てくれるように言った。


 近くに居たのだろう、すぐにダイフクとキナコとワラビが来てくれた。


「大きな蛇ですわ!!」

「凄いな、この子達はカイト君のテイムモンスターなのかい?」

「ああ、一番目がホワイトパイソンのダイフクで、二番目がラージピジョンのキナコだ。馬のワラビは、このマックニャンが連れて来た」



 ダイフクの頭には、俺とサトミとマツリが乗り、マックニャンとキョウヤがワラビに、そして、レクス、グラン、エルがキナコに乗って出発した。

 

「は、早いですわ、早いですわ!」


 空を飛ぶキナコ、草原を駆けるワラビと滑るように這うダイフクは、以前よりもスピードが上がっているようだ。


 俺が召喚していない時は、殆ど草原で遊んでいるのだろう。

 遊びの中で知らず知らず、鍛えられているようだ。


 最初は見えなかった湖に、あっという間に到着した。


「うわ〜、大きい湖だねカイト」

「ああ、ここ迄大きいとは思わなかったぞ」


 太陽の光を反射してキラキラと光る水面が、そよ風で僅かに波打っている。


「此処は絶好のキャンプ地になりそうだね。カイト君」

「こんなに綺麗な湖なら、お魚が居るかも知れないですわね」


 マツリは身を乗り出して、湖を覗き込もうとしている。


 ザッパ――――――――――――ン


「―――――ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「―――――グオォォォォォォォォ!?」


 マツリが覗き込んだ所に、地竜が湖から顔を出したものだから、驚いたマツリは悲鳴を上げた。

 その悲鳴で今度は、地竜が驚いた。


「カ、カ、カ、カ、カ、カイト様ぁぁぁぁ、りゅ、りゅ、りゅ、竜が、竜がぁぁぁぁ」

「落ち着け、マツリ」

「な、なんだ……カイトの連れか?まったく、驚かせおって。魔石が口から出るかと思ったぞ……」


 モンスターだから、心臓ではなく、魔石なのか……


「カ、カイト様のお知り合いですか……?」

「ああ、ポケット草原の居候だ。……で、何で地竜が水の中に入っていたんだ?」

「……我は水浴びをしていたのだ」

「そうか?」


 俺は湖の縁が崩れている所を見て、次に地竜を見た。


「我は水浴びをしていたのだが、何か用か?」


 あくまでも、水浴びで通すようだ。


「いや、そこに居るヴァンパイアのマツリを案内している途中だ」

「ヴァンパイアか……他の奴とは、かなり毛色が違うようだな」

「そうなのか?」


 異世界のヴァンパイアだ、地竜が言うのならそうなのだろう。




 次に、俺達は森林の滝の前に来た。


 ダイフク、キナコ、ワラビは地竜と遊ぶそうだ。


 ファイアーイーグルに重症を負わされていたキナコが、急激にあれだけ強くなったのは、地竜やダイフク、それと、馬なのに訳がわからない強さのワラビと遊んでいたからかもしれない。

 


「カイト君、此処も絶好のキャンプ地になりそうだね」

「キョウヤはキャンプが好きなのか?」

「引き篭もる前は、家族や会社の同僚と、良く行ったな。何度か一人でも山や川でキャンプをしたよ。でも、僕は料理が苦手だからね、もっぱら、焼けば良いだけのバーベキューか、コンビニのお世話になっていたけどね。あはははは」


 俺達は、森の中を進み、滝の上に立った。


「うわ〜、いい眺めだね」

「お屋敷が見えますわ」


 空には鳥が飛び、川には魚が泳いでいる。

 森の中にも、モンスターでは無い動物達が生きている。


 川を遡り、森の小径を進んで行くと、森が途切れ、眼下には湿地帯が広がっていた。

 湿地帯の遥か先は、山岳地帯のようだが、遠くに見える岩山の上を巨人が歩いている。


「レクス、あれは何だ?此処から見てもわかるって事は、かなりの大きさだよな?」

「あれはね!みんなにもわかるように言うとね、えーっと……だいだらぼっち……かな?最初は此処も森までしか無かったの!!」

「だいだらぼっち……湿地帯と山岳を作ったのか?どうなるんだよ、俺のポケットの中……」


 レクスは目を逸らして、鳴らない口笛を吹いている。


「あれは放置して館に帰るぞ。昼食の後に農村と漁村に行こう」




「お帰りなさいませ、昼食の準備は整っておりますけど、如何なさいますか?」

「ただいま、ララさん。折角だから食事にしましょう」

「畏まりました」



 昼食はパンと豆が入ったサラダとスープとチキンカツだ。


「この鶏肉はダンジョンのドロップ品だよねララさん」

「はい、サトミ様。普通では無いくらい、とても良いお肉でした」


 ダンジョンでドロップした肉や果物は日本で食べていた物に近い。

 それはすなわち、品種改良されて、味も見た目も良い、良質な物だと言う事だ。

 きっと、ダンジョンコアがキョウヤだからだろう。

 品種改良前の肉や果物を知らないからに違いない。





「何だか、懐かしい風景だね。子供の頃に行った親父の田舎が、こんな感じだったよ……」


 キョウヤは昔を思い出して、目を潤ませている。


「これが田園風景ですわね……美しいですわ」


 今は、館から馬車で2時間かけて、農村へ行く街道が出来ているそうだ。

 そして、農村から漁村までは30分で行き来が出来るらしい。


 もしかしたら、だいだらぼっちが街道を作ったのかもしれない。


「マックニャン、漁村には馬車で行くぞ」

「了解、カイト君。すぐに用意するニャン」



 時間はまだたっぷりとあるから、農村を馬車に乗って見て回る。

 農夫達が、此方に気付き、手を振ったり、頭を下げたりしている。


「カイト様、今取れたばかりの野菜ですじゃ」


 中には、取れたての野菜を持ってきてくれる人もいた。


「何だか、心が温まるね、カイト君。随分と昔に忘れていた、人の温かさを思い出したよ」

「優しくて良い人たちですわ」



 漁村へと続く道は山と山の間を縫うように通っていた。

 当然ながら、モンスターや盗賊などが出る筈が無く、俺達はゆったりと景色を楽しみながら、漁村に入って行った。


 漁村では女性達が魚を捌いたり、干したりしている。


「あら、カイト様、それに皆さんも。良かったら、取れたての魚を食べていって下さいな」


 漁村の女性達は、手際良く活きの良い魚をおろして、刺し身、煮付け、炭火焼きにと、あっという間に調理をしてくれた。


「あぁ、また刺し身が食べられるなんて思ってもみなかったよ。これは本当に嬉しいな」

「沢山ありますからね、遠慮なく食べて下さいな」

「生のお魚は初めて食べますわ」

「マツリちゃん、美味しいよ」


 アイテムボックスから出した醤油とおろし生姜で刺し身を食べて、煮付け、焼き魚も堪能した。


「カイト様、カイト様、このお刺身はとっても美味しかったですわ!家族にも食べさせてあげたいですわ!!」

「此処で取れる魚以外では生で食べない方が良いと思うぞ」

「そうなのですか?」

「ヴァンパイアがどうなのかはわからないが、人間だったら間違いなく腹が痛くなるからな」





 漁村の女性達の手厚い歓迎の後に、海に沈んで行く夕陽を砂浜に座って、言葉も忘れ眺めていた。


読んで頂きありがとうございました。

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