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第68話 カイト、ダンジョンに行く〜6日目⑥

 亀裂の中は、ヒカリゴケの明かりで歩くのに支障は無く、流れる川の横にある足場もしっかりとしている。


 俺達はネズミや蜥蜴のモンスターを倒しながら、川に沿って奥へ進んでいくと、目の前には小さな穴があり、川は大きく曲がって別の穴の中に消えていった。


「おいカイト、もしかしてこの小さな穴に入るのか?」

「多分そうだ。レクス、この穴の向こう側を見てきてくれないか?」

「了解なの!!」


 人が一人やっとくぐり抜けられそうな穴の中に、レクス、グラン、エルが入って行った。



「向こう側は広場になっているの!」


 レクスが戻ってきて、俺達は小さな穴に一人ずつ入って行った。


 レクスでも立って歩けない小さな穴に、俺は仰向けになりゆっくりと進んだ。最後はグランとエルに手を引っ張ってもらい、穴から抜け出た。


「キツイな、全身が擦り傷だらけだ」


 身体の大きなバーグマンとパットはたっぷりと時間をかけて穴の中を傷だらけになって、這って来た。

 ピット、ガット、キャットは怪我をする事無く小さな穴を抜る事が出来た。


 そして、サトミは、全身を葉っぱに変えて、マツリは蝙蝠になって簡単に抜けてきた。


「本当に便利だよな、お前等……」


 小さな穴を抜けた先の空間には、お馴染みの転移魔法陣がある。

 転移魔法陣だけで、次に進む扉も穴も無い。


「ここが、今のところ最下層のようだぜ」

「エル、今のところって何だ?」

「あそこを見てみろ。カイトワッハッハッハ」


 グランが指を指す方を見てみると、そこには“32階層準備中”とだけ彫られた岩があった。


「転移魔法陣で帰るか、この恐竜の浮島を冒険するか。どうする、バーグマン?」

「俺達はギルドに帰る事にする。例のスケルトンの報告もあるし、暫くは遊んで暮らせるだけの儲けもあるしな」

「わかった。サトミ、マツリ。俺達も帰るぞ」


 先にバーグマン達が転移魔法陣に入り帰って行く。


「カイト、ここ迄来られたのはお前のお陰だ。ありがとう……全く大した奴だよ、お前は」


 バーグマン達が消えて、次は俺達の番だ。


 俺とサトミとマツリ、そして、レクス、グラン、エルが、転移魔法陣に入った。


 転移魔法陣の光が収まると、そこはダンジョンの入口ではなく、見たことの無い広い空間だった。

 そして、中央に見上げる程の大きな球体が鎮座している。


「此処は……まだダンジョンの中なのか?」

「ああ、そうだよ、カイト君。正確に言えば、ダンジョンの最も深い場所にあるコアルームだな」

「――――――――――ッ!?」


 俺とサトミとマツリは聞いた事のない声に身構えた。

 その声は大きな球体の中から聞こえて来たみたいだ。


「コアルーム?」

「そうだよ、カイト君。そして僕がこのダンジョンのコアと言う訳だ。今から姿を現すから、驚いて攻撃しないように頼むよ」


 俺は取り敢えず警戒を解いて、後ろに下がった。

 サトミとマツリも俺に倣い、後ろに下がる。


 球体の中から、人型のいや、一人の男が現れた。


 その容姿は、中肉中背で、髪の色は黒く、肩までの長髪をしており、黒縁の眼鏡を掛けた黒目の青年だ。

 ヘアスタイルを整え、スーツを着ていればイケメン商社マンに見えるだろう。


 歳は20代後半に見えるが、実年齢は不明だ。

 グレーのパーカー付きのスエットスーツを着て、足にはサンダルを履いている。


「その格好は……転生者か?」

「当たりだよ、カイト君」

「どうして俺の名を……」

「僕はダンジョンコアだからね。ダンジョンの中の事は全て知っているよ」

「カイトくん、ダンジョンコアに転生を希望した変わり者がいたって、時空神から聞いた事があるの!!」

「変わり者か、あはははは、確かに僕は人付き合いを止めて、引き篭もりの生活をしていたからね」

「その引き篭もりが、どうして俺を此処に呼んだんだ?」

「まだ僕の名前を言って無かったね。僕の名は、設楽恭也(したらきょうや)。キョウヤと呼んで欲しい。カイト君を此処に呼んだのには訳があってね、君達が最下層に来るのを待っていたんだよ。あはははは」


 笑って誤魔化しているみたいだが、その表情から、何か重要な事を俺に伝えようとしているに違いない。


「実はね……」

「実は?」

「……カイト君、君が作る和食が食べたくてね。あはははは」

「何があははははだよ!全く。そんな事ならもったいぶらずに言えよな!」


 俺の後ろでは、固唾を飲んで話を聞いていた、サトミとマツリが吹き出して大笑いをしている。


「僕はコアだから、食べる必要は無いんだけど、生前の楽しみと言ったら、ネット小説や漫画、それと食べる事くらいだったからね。今もたまに街に出て串焼きとかを買って食べているんだよ」

「なるほど、それで俺がダンジョンで和食を出したから食べたくなったと言う事か?」

「正にその通りだよカイト君。この前は珍しく焼き魚が売っていたし、フライドポテトも懐かしかったなぁ」

「ああ、キョウヤ、それは俺の屋台だ」

「何!?そうだったのか、道理で懐かしさの余り涙が出た訳だ」


 アイテムボックスの中にはもう、和食のストックが少なくなっているが、俺はテーブルと椅子を出して、その上にカツ丼と野菜たっぷりの味噌汁と白菜の浅漬けを出した。


「今はこれくらいしか無いが食べてくれ」

「こ、これは……」


 キョウヤは涙を流しながら、アツアツのカツ丼を頬張り、味噌汁で流し込んでいる。

 美味しそうに食べている姿を見ると、此方も嬉しくなる。


 キョウヤが食べ終わると、ロールケーキとコーヒーを全員分出して、話をした。

 勿論レクス、グラン、エルにもロールケーキとコーヒーを出してある。


「キョウヤはコアなのにダンジョンから出ることが出来るのか?」

「僕のこの身体は、生前と全く同じように思念で作った分離体で、僕の本体は、後ろの球体なんだ。だから行きたい所があれば、この分離体で何処にでも行けるし、転移で球体に帰る事も出来るんだよ」

「そうか、それなら俺達はそろそろ帰るが、キョウヤも一緒に来るか?」

「どう言う事だい?」


 俺は新月のコートのポケットに付いて説明をした。


「そのコートは神器だね。カイト君の言う通り、僕は自分の魔力を辿って転移が出来るから、カイト君が遠くに行っても行き来が出来る訳だ。嬉しいな、これからは何時でも美味しい料理が食べられるんだね」



(キョウヤさんの新規登録が完了しました。削除したい時はマップ内のコマンドから削除が出来ます)


 新月のコートのポケットにキョウヤの魔力を登録して、俺達は新月の館に帰ってきた。


「ほう……中々の豪邸じゃないかい。カイト君はこの世界で成功しているんだね」


 成功かどうかはわからないが、殆どがレクス達のお陰だ。


「お帰りなさいませカイト様」

「「お帰りなさいませ」」


 フェルナンさんとララさん、そして、メロディーちゃんが玄関で出迎えてくれた。


「ただいまフェルナンさん、ララさん、メロディーちゃん」

「カイト様、お客様ですか?」

「ええ、ダンジョンで知り合ったんですよ」

「キョウヤです。お見知り置きを」

「アマンダ様とミウラ様は既にお帰りでお部屋に居られますが、如何いたしましょう?」

「キョウヤを客室に案内してもらえますか?」

「畏まりました。では、キョウヤ様、此方にどうぞ」

「キョウヤ、夕食までゆっくりしてくれ」

「ありがとうカイト君」



「フェルナンさん、マークはどうしていますか?」

「マークは部屋で魔力操作の練習をしています。一生懸命で飲み込みも早いので私なんかすぐに追い越されそうです」


 フェルナンさんは嬉しそうにマークの話をしてくれた。


 屋敷での仕事や執事としての仕事等もフェルナンさんに付いて学んでいるそうだ。


「そうですか、それなら良かったです」




 部屋で休んでいると、夕飯の準備が出来たとメロディーちゃんが呼びに来てくれた。


 食堂に入ると、既にサトミ、マツリ、アマンダさん、ミウラさんが座っていた。


「カイトさん、お帰りなさい」

「ただいま、アマンダさん」

「お帰りなさい、カイトさん」

「ミウラさんも、ただいま。それで屋台の方はどうだ?」

「連日の大盛況でカイトさんの資産がどんどん増えていますよ」

「いや、俺よりも農村と漁村の人達に……」

「カイトさん、彼らにはそれぞれ売上の3分の1を渡してあります。カイトさんにも3分の1です。それでも金貨にして1日10〜15枚はあるんですよ。それに普通、農村や漁村の人は、金貨を手にする事は無いんです。彼らも戸惑っていましたが、私が、カイトさんなら全てあなた達に渡すはずですと言った所、それならカイトさんと農村と漁村で均等に分けようと言う事になったんです」

「そうか。手間を取らせて済まなかった。所で、アマンダさんとミウラさんの報酬はどうなっているんだ?」

「私達はギルドから毎月の給金の他に特別報酬を頂いていますから、カイトさんから頂く訳にはいきません」

「そうですよ、カイトさんから頂いたら私達がギルドマスターから怒られます」

「そうなのか?」

「「はい、そうです」」


 そう言われては俺が折れるしかないな……


「失礼します。お客様をお連れ致しました」


 タイミング良くララさんがキョウヤを連れて食堂に入って来た。


「アマンダさん、ミウラさん、紹介しよう。彼は俺と同じ国から来たキョウヤだ。ダンジョンで知り合って連れて来た」

「キョウヤです。宜しくお願いします」

「商業ギルドの職員で、カイトさんと一緒に旅をさせてもらっているアマンダです。宜しくお願いします」

「私は、冒険者ギルドの職員で、アマンダさんと同じく、ご一緒させてもらっているミウラです。宜しくお願いします」

「カイト君の周りには美しい人ばかりですね」

「キョウヤ、そういうのじゃ無いからな」

「そうですよ。私達はギルドの仕事でご一緒しているだけです」

「あはははは、そうだったんだね、いや、ごめんごめん」

「キョウヤはこれからも、ちょくちょくこの館に来るからな。皆んな宜しく頼む」


 キョウヤが座った所で料理が運ばれて来た。

 運んで来たのは、フェルナンさん、ララさん、メロディーちゃん、そしてマークだ。


 運ばれて来た料理は折よく、和食が中心だった。


読んで頂きありがとうございます。

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