第67話 カイト、ダンジョンに行く〜6日目⑤
次は俺の番だ。カブト虫型のモンスターが数歩歩くと、いきなり“ガクッ”と前傾になりスピードを上げて穴の中を滑って行く。
滑り始めた時から穴の形が滑らかなパイプのようになっている。
少し行くと、右カーブに差し掛かり、左側の壁の部分を真横になって滑る。
右カーブと左カーブの連続で、俺は今までやった事は無いが、まるでテレビで見たボブスレーのようだ。
そして更に、ジャンプのおまけ付きだ。
後ろからは、野太い悲鳴とキャットの甲高い悲鳴が絶えず聞こえてくる。
行く手に光りが見えた。ここからは、直線で急勾配になっている。
カブト虫型のモンスターはスピードを上げて出口から飛び出し、羽を広げて上空へ舞い上がった。
俺達が飛び出したのは、浮島の真下からだ。
エルを乗せたカブト虫型のモンスターを先頭にして、一列になって次の浮島に向っている。
相変わらず、後ろの連中は野太い悲鳴を上げて、飛んでいるカブト虫型のモンスターの角にしがみついている。
この世界の人々は空を飛ぶ機会なんて殆ど無いのだろう。
俺とサトミは、飛行機や絶叫マシンで、ある程度慣れているし、マツリに至っては自ら飛ぶことが出来る。
そして、レクス、グラン、エルは、言うまでもない。
眼下の雲海を見ながら、そんな事を考えていると、次の浮島に近づいて来た。
エルを乗せたカブト虫型のモンスターは、浮島の中腹より上の辺りの、土や岩がむき出しになっている所にある、大きなひび割れの中に入って行った。
俺達が乗っているカブト虫型のモンスターもひび割れの中に順番に入って行く。
ひび割れの中は広い空間になっていて、明かりが灯っている。
カブト虫型のモンスターは、ホバリングの後、垂直に地面に降りて、羽を閉じた。
「俺達生きているよな?」
「心臓が口から飛び出るかと思ったぜ……」
「俺はもう二度と乗りたくねえ……」
「私は、また乗ってもいいかな」
「信じられねえ……」
バーグマン、ピット、パット、ガットは覇気が無く、やつれて見える。
自慢のモヒカンもぐったりだ。
一方キャットはというと、目を輝かせ元気ハツラツだ。
どうやら絶叫カブト虫が気に入った様子だな。
「ありがとう!」
「ありがとうですわ」
サトミとマツリが礼を言うと、カブト虫型のモンスターは光の粒子になって、消えていった。
俺達が今いる空間には、奥の方に地上に上がる階段がある。
俺は、アイテムボックスからテーブルと椅子を出し、適当に作り置きしていた料理を並べた。
「太陽が真上に来ていたからな。取り敢えず昼食にしよう」
「わあー、色々ありますわ」
「バーグマン達も食べるだろ?」
「良いのか?世話になりっぱなしで悪いな」
「気にするな。俺が好きでやっている事だ」
テーブルの上には、おかか、ワイバーンのしぐれ煮、昆布の佃煮が入った3種類のおむすび、トマトソースが衣に染み込んだオークのカツとレタス、マヨネーズをパンに挟んだカツサンド、じゃが芋の味噌汁、クラムチャウダー、卵焼き、鶏の唐揚げ、一角牛とオークの肉を合わせたハンバーグが乗っている。
和洋折衷で盛り沢山だ。
“絆”のメンバーはパンの方が良いだろうと思い、カツサンドを出したが、意外にもおむすびに夢中のようだ。
逆に、サトミとマツリがカツサンドを頬張っている。
「ねえカイト、このクラムチャウダーのアサリは漁村産かな?」
「ああ、漁村の人達は見向きもしなかったからな。潮干狩りをしている俺を見て不思議そうな顔をしていたぞ」
「あはははは、美味しいのに勿体ないね。今度はアサリの味噌汁が飲みたいな」
「わかった。今度、作っておくよ」
「この身の事を言っているのか、カイト?」
「ああ、バーグマン。この中にこの身が入っているんだ」
俺はアイテムボックスからアサリを出して、バーグマンに見せた。
「石みたいだな……初めて見るぞ」
「この辺は内陸だからな。海に行けば幾らでも居るぞ。多分……」
この世界のアサリが同じかどうかはわからないが……
昼食を終えた俺達は、階段を上がり地上に出た。
そこは、草原が広がっていて、心地よい風が吹いている。
そして、階段を上りきった俺達の目の前には、アロサウルスっぽい恐竜のようなモンスターが3匹居た。
近くで見ると、とにかくでかい。
このダンジョンのモンスターは、全て倒せば良いと言う訳では無いことが、今までの階層でわかっている。
だけど今、目の前に居るモンスターは、倒すべきモンスターなのは一目瞭然だ。
目は血走り、唸り声を上げて、口からは涎がポタポタと落ちているのを見ると、明らかに俺達を食おうとしているのがわかる。
彼我の距離は約5メートル。俺はグランを掴み、真ん中のアロサウルスっぽいモンスターの頭上に投げた。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「グラン、ハンマートルネード!!」
「投げる前に一言言えやぁぁぁぁ」
「サトミは右、俺は左だ!」
「うん!」
サトミは、腕を棘蔓に変えて、右にのアロサウルスっぽいモンスターに巻きつけた。
「エナジードレイン!」
俺は一瞬で間合いを詰めて、新月の刀で首を切断した。
「ワッハッハッハー、そおーれ!」
真ん中のアロサウルスっぽいモンスターは、口を大きく開けて、落ちてくるグランを待っている。
口からハンマーを取り出したグランは、斜めに回転しながら、アロサウルスっぽいモンスターの横っ面に巨大化したハンマーを叩き付けた。
「バーグマン、今“ゴキッ”って音がしたよな?」
「ああ、ガット、あれは首の骨が折れた音だ」
3匹のアロサウルスっぽいモンスターは、宝箱をドロップして消えた。
「お宝ですわ!!カイト様、どんどん倒しましょう!!」
「お前なぁ……まあ、湖に向って歩きながらエンカウントしたらな」
宝箱でマツリの昏い感情が消えるのならと思い、襲って来るモンスターはどんどん倒す事にした。
「おっ宝♪ラン!おっ宝♪ラン!」
「マツリ何か来るぞ」
「私が行きますわ♪」
今度は、ティラノサウルスっぽいモンスターが、走って来た。
どうやら、大型犬くらいの大きさのオコジョっぽいモンスターを追いかけているようだ。
マツリは、オコジョっぽい奴を飛び越えて、ティラノサウルスっぽいモンスターの頭を、上から振り下ろした組んだ両手で叩き付けた。
「また“ゴキッ”って音がしたよな」
「ああ、しかも素手でな……」
バーグマン達は驚くと言うより何だか引き気味だ。
「かわいいですわ!このモンスターは何と言うモンスターですか?」
俺にはオコジョっぽいとしか言えない……
「バーグマン、知っているか?」
「ああ、コイツはオコジョだな」
「そのまんまかいっ!!」
「…………???」
「いや、すまん。何でも無い」
まさかのオコジョだった……
「だが、さっきから襲って来る、あの凶暴なモンスターはどれも初めて見るぞ。ギルドの図鑑にも載っていないモンスターだ」
もしかしたら、この世界にも恐竜が栄えた時代があって、遥か昔に絶滅したのかもしれない。
恐竜の研究をしている学者が居れば、このダンジョンの31階層は学術的に貴重な階層になる可能性もある。
オコジョは、マツリと俺達を見つめた後、走り去って行った。
ティラノサウルスっぽい奴や空を飛ぶプテラノドンっぽいモンスターが襲って来る一方で、此方をチラッと見て、草や木の葉っぱを食べ続けるステゴサウルスっぽい奴やトリケラトプスっぽいのも居る。
俺達は襲って来るモンスターだけを倒した。
バーグマン達も5人で連携して、ティラノサウルスっぽいモンスターを倒している。
「うわー、綺麗だね!」
「壮大な眺めですわ!」
木々を抜けて小高い丘の上に出ると、眼下には夕陽に染まった湖があった。
湖の中には、巨大な魚が居るようで、水柱が上がっている。
その湖の周りに、首の長いブロントサウルスっぽいモンスターが群れで、のしのしと歩いていて、それを見ているスピノサウルスっぽいのも居る。
「カイトは、さっきから“ぽい”ばっかりだね。あはははは」
「そりゃあ、実際に見た訳でもないし、図鑑で見たと言っても虚覚えだしな。それに俺が知っている恐竜なんて、ほんの一握りくらいのものだからな」
俺達は、ブロントサウルスの足の間を抜けて、時にはスピノサウルスを倒しながら湖の外周を周った。
サトミが笑うから、もう“ぽい”は使わない。
「私達って探検隊みたいだね」
「ああ、俺はこういった所は結構好きだぞ」
「男の子って、そういう所があるよね」
湖の対岸は木々が疎らに生えた、高く切り立った崖になっていて、中腹の亀裂から滝のように水が流れ落ちている。
そこに続く道がある事から、この階層の目的地なのだろう。
昔、テレビで見た探検隊の番組を思い出して、俺は何だか楽しくなって来た。
俺達は小道を進み、時にはよじ登り、そして、襲って来るプテラノドンを倒しながら、水が流れ落ちている亀裂の中に入って行った。
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