第66話 カイト、ダンジョンに行く〜6日目④
レクス、グラン、エルは、蝙蝠形態のマツリの下まで行き、両手で持った宝箱を掲げて見せた。
「マツリちゃんに、どうぞなの!!」
「私のもマツリにやるぜ!」
「ワッハッハッハ、ワシらには必要無いからな」
はぁ……そんな事で戻るのなら苦労しないぞ……
「…………お、お、お宝ですわ!おっ宝♪おっ宝♪ですわ!!」
「え―――――っ!?戻るの!?それで戻るの!?」
蝙蝠が集って、人型になったマツリは、すっかり元通りに戻っていた。
サトミの気持ちはわかる。俺も同じ気持ちだ……
「何だよ……俺とサトミの心配した気持ちを返せよ……」
「カイト様、私は黒いワイバーンと戦っていた筈ですわ。どうして此処に居るのですか??」
「お前、覚えていないのか?」
「マツリちゃんは黒いワイバーンに勝ったんだよ」
「……?覚えていませんわ……ハッ!?もしかして、無意識の戦いに目覚めたのでは!?」
「はぁ……お花畑はほっといて、サトミ、次はお前の番だぞ。銀色のワイバーンが待っているぞ」
台座の上で、銀色のワイバーンは、此方を見ている。
どうやらサトミが出てくるのを、ご丁寧に待っていてくれていたようだ。
サトミが中央に歩いて行くと、銀色のワイバーンは台座を蹴って飛び上がった。
太陽の光でキラキラと輝いている銀色のワイバーンは、今までのワイバーンよりも大きな体躯をしている。
「何時でも良いよ!」
先に攻撃を仕掛けたのは銀色のワイバーンだ。
サトミに向けて、上空から風の刃を連続で放ってきた。
サトミは落ち着いた動作で両腕を頭上に掲げ、自身の周りに竜巻の如く渦を巻く葉っぱを生み出して、風の刃を迎撃する。
風の刃を相殺した残りの葉っぱは、そのまま銀色のワイバーンに向かって行くが、ヒラリと躱されてしまった。
「棘蔓!」
銀色のワイバーンが葉っぱを躱している間に、サトミは腕を棘蔓に変え、槍のように真っ直ぐと突き出した。
棘蔓の槍は、銀色のワイバーンの脇腹にかすり、鱗を弾き飛ばした。
脇腹に血を滲ませながら、銀色のワイバーンは、天井の金網まで舞い上がり、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
「眩しくて良く見えないですわ」
「レクス、輝きが段々と強くなっていないか?」
「鱗で太陽の光を集めているの!」
「何か来そうだな……サトミ、気を付けろ!」
「うん、わかってるっ!?」
「グア!」
太陽光を集めていた銀色のワイバーンの口が大きく開き、極太のレーザ光線のようなブレスを放ってきた。
「サトミ!?」
「サトミお姉さま!!」
レーザ光線はサトミを飲み込み、轟音と共に土埃を巻き上げた。
「ああぁぁぁ……」
「サトミ、大丈夫か!?」
「うん……大丈夫……何だか、力が漲ってくる感じがする……」
土埃が晴れてきて、徐々にサトミの姿が見えて来る。
「サトミお姉さま、綺麗……」
「どうなっているんだ?あれは攻撃じゃ無かったのか?」
「サトミちゃんはドリアードなの!植物系の妖精だから、太陽光とは相性が良いの!」
「銀色のワイバーンは相手が悪かったなワッハッハッハ」
「何色だとしても、サトミなら楽勝だぜ」
サトミの緑色の髪の毛はエメラルドグリーンに輝き、身体全体からキラキラと輝くオーラが出ている。
そして、サトミの周りには色とりどりの草花が生え、更にいつもの大輪の花が2輪、サトミの両脇に生えている。
その大輪の花の花びらは、太陽光を集めているのだろう、さっきの銀色のワイバーンと同じように、次第にその輝きを増している。
「カイト、喜んで。何だか出来そうな気がするよ!」
サトミが銀色のワイバーンを指差すと、2輪の大輪の花は、その花びらを銀色のワイバーンに向けた。
「ソーラー…………!?」
「駄目だ!サトミ!言ってはいけない!!」
「そっか!わかった。じゃあ、お日様ビーム!!」
「お日様って……」
銀色のワイバーンも太陽光を吸収してビームを放つ事が出来る。
元々お日様ビームは銀色のワイバーンが放った物だ。
銀色のワイバーンは、2輪の大輪の花から放たれたお日様ビームを吸収していたが、次第に鱗の隙間から煙が出て鱗も焦げてきた。
吸収出来る量を遥かに超えてしまったようだ。
「ギャアオォォォォォォォォォ」
銀色のワイバーンはサトミのお日様ビームに耐えきれず、背中から地面に落下した。
「サトミお姉さまが元に戻っていますわ」
嬉しそうにチケットと宝箱を持って駆け寄ってくるサトミは、元の緑色の髪の毛に戻っていた。
「次はカイトだね。頑張って」
「カイト様頑張ってくださいですわ」
俺の準備が整ったのを見ると、金色のワイバーンは大きく羽ばたいて飛び上がった。
「行くぞ金バーン」
俺はライトニングショットを金色のワイバーンの額に撃った。
キ――――ン
「弾かれた?」
この後、聖、火、水、雷のライトニングショットを試してみたが、どれも弾かれてしまった。
「なるほどな、防御力に自信ありってか?」
「ガアオォォォォォ」
金色のワイバーンが動いた。
金色のワイバーンは急降下の後に尻尾を叩き付けてきた。
俺は尻尾を避けながら、新月の刀で
尻尾を切断しようと試みるが、新月の刀はあっさりと弾かれてしまった。
「まだまだ修行が足りないようだ。そういえば、朝の日課もさぼり気味だしな……」
ニ度三度と金色のワイバーンは急降下尻尾爆撃を繰り返してきたが、俺も避けるだけでは無い。
尻尾を避けながら、俺は新月のナイフに魔力を送った。
イメージするのは灼熱の燃え盛る炎の領域。
魔力を込めた新月のナイフは眩い位に真っ赤に発光している。
俺は上昇する金色のワイバーンに新月のナイフを投げた。
新月のナイフは金色の鱗に弾かれるが、そんなことは関係ない。
「メルトダウン」
ゴォォォォォォォォォ――――
魔力が放出され、領域の中の金色のワイバーンは一気に灼熱の炎に包まれた。
俺は新月のナイフを鞘に戻し魔力を込めていく。
金色のワイバーンは炎に包まれたまま、急降下尻尾爆撃を繰り返してきた。
そして、次にイメージするのは絶対零度の氷の領域。
魔力を込めた新月のナイフは眩い位に青白く発光している。
俺は先程と同様に、上昇している金色のワイバーンに新月のナイフを投げた。
「アブソリュートゼロ……」
ピシッピシピシピシピシピシピシ
また同じように新月のナイフは弾かれたが、魔力が放出され、領域に居る金色のワイバーンは、一気に凍りついた。
翼まで凍りついた金色のワイバーンは飛ぶことができずに、上空から地面に落下して、その衝撃で金色の鱗に罅が入った。
俺は新月の刀を金色のワイバーンの眉間に刺し、チケットと宝箱を手に入れてレクス達の元に戻った。
「カイト様、どうして……」
「聞くなマツリ、俺にも原理は良くわからん。昔、何かで読んだ事を試してみたら、上手くいっただけだ。知りたければグランに聞くといいぞ」
「わかりましたわ。グラン様ー」
マツリはグランの所に走って行った。
それぞれ手にはチケットを持って、薄暗い階段を降りて行く。
静かだ……後ろが静かすぎる。
「どうしたんだ、バーグマン?元気が無いようだが大丈夫か?」
「あ、ああ……お前等の戦いを見て、俺達は打ちひしがれていたんだ。この街でトップクラスの冒険者だということに胡座をかいていた。どうやら俺達は天狗になっていたようだ」
この世界にも天狗が居るのか?
異世界だし、鬼が居るんだから天狗が居てもおかしくは無いか。
「俺も今の戦いで修行不足を痛感したぞ。だから、それ程気に病む事は無いと思うぞ」
「はぁ……もういい、お前にはわからんさ。お前等、帰ったら今まで以上に特訓だ」
「「「「おう!」」」」
何だかわからないが元気になったようだ。
「カイトって、そういう所があるよね」
「そうなのですか、サトミお姉さま?」
「うん、自分の事が全くわかって無いんだよ。だから周りの人は大変なんだ」
何だかわからないが、俺の事?何かディスられる事したか?
…………して無いな。気のせいだな。
階段を降りきると、木製で両開きの扉があった。
扉を開けると、自動で明かりが灯り、全員が部屋の中に入って扉を閉める。
すると光の粒子が集まり11匹のカブト虫のようなモンスターが、横一列に整列して現れた。
カブト虫型のモンスターの背には、鞍が取り付けてあり、チケットを差し込む為の穴もある。
「これに乗って次の浮島に行くようだな」
「マジでか?これに乗るのかよ?」
「大丈夫なのか?モンスターだろ?」
「ピットもガットもだらしないね。良いから早く乗りなよ」
キャットに促されてピットとガットは渋々カブト虫型のモンスターに跨った。
俺達も全員カブト虫型のモンスターに跨りチケットを差し込むと、カブト虫型のモンスターは、奥にある穴に向って歩き出した。
「こんな時はだいたいエルが先頭なんだな」
「活発な女の子って感じだもんね」
「エル様達には逆らえないですわ」
エルが先頭で、グラン、レクス、マツリ、サトミ、俺、ピット、ガット、パット、キャット、バーグマンの順で穴の中に入って行った。
穴は蒲鉾型になっていて、等間隔で明かりが灯っている。
「ハハッ、これは楽しそうだぜ!行くぜ、それっ!!」
「次はワシだな、ワッハッハッハー、おあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「次は私なの!―――――キャァァァァァ、あはははは…………」
「何だか楽しそうですわね。行きますわよ。――――いやぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
「これは、あれだね。カイト」
「ああ、間違いないな。サトミはこういうのが好きだったな」
「うん、じゃあ、私の番だね――――サトミ、いきます!!」
「言うと思った……」