第65話 カイト、ダンジョンに行く〜6日目③
エルと、赤いワイバーンは、お互いに睨み合い、闘志を高めているようだ。
先に動いた赤いワイバーンが息を大きく吸ったが、エルはまだ動かない。
「でかっ!何だ、あの火球は!?」
「うわー、あんなのが当たったら私なら燃えるよ」
「怖い事をサラッと言うなよ、サトミ」
「あはは、冗談、冗談」
ゴオォォォォォォォォォ――――
家1軒分はありそうな火球は、猛烈な勢いで、唸りを上げながらエルに迫っている。
「フフン、軽い、軽すぎるぜ」
赤い闘気を纏ったエルは、右手を伸ばし、掌で巨大な火球を受け止めた。
「エルちゃんの魔力が右手に集まっているよ」
エルが、右手の掌から魔力を放出すると、巨大な火球は最初の勢いよりも更に勢いを増し、形も球体から楕円形になり、赤いワイバーンに向かって行った。
「ほら、返すぜ」
「――――――ギョエ!?」
赤いワイバーンは目玉が飛び出る程に、驚いて、あたふたしているのがわかる。
――――――ドガァァァァァァン!!
「ギャオッ!!」
慌てふためく赤いワイバーンは、自身が放った火球が被弾してぶっ飛び、金網に激突して落下した。
戦いを見ている俺達の足元の地面まで、振動が伝わって来る程の衝撃を受けながらも、ゆっくりと立ち上がった赤いワイバーン。
鱗は焦げ、そして所々燻って煙が出ている箇所もあり、更に翼はボロボロだ。
あれではもう飛ぶことも出来ないだろう。
「甚振る趣味は無いからな、これで最後だ……行くぜ!」
エルは地面を蹴り、一瞬消えたのかと思わせる程の超高速で、赤いワイバーンの頭上まで移動した。
「神武脚だぜ!」
エルの神武脚(多分、エルの適当なネーミング)は空中で高速回転で落下しながらの踵落としだった。
辛うじて立ち上がれた赤いワイバーンに避ける事が出来る筈もなく、まともに脳天を打ち抜かれ、粒子となって消えていった。
「ワッハッハッハ次はワシの番だな」
グランが椅子から飛び降りて、口を開けて大きなハンマーを取り出した。
青いワイバーンも飛び上がり、グランの上を円を描くように、飛んでいる。
「グルルルルルゥゥゥゥゥ」
「ワッハッハッハァァァァ」
「グルルルルルゥゥゥゥゥ」
「ワッハッハッハァァァァ」
「グルルルルルゥゥゥゥゥ」
「ワッハッハッハァァァァ」
青いワイバーンの下では、ハンマーを持ったグランが駒のように回っている。
「何をやっているんだ彼奴等は?」
「もう戦いは始まっているぜ。多分、青いワイバーンは渦巻きを作ろうとしているんだぜ」
「それを、グランが逆回転で気流を乱して作れないようにしているの!!」
「なるほどな……俺には遊んでいるようにしか見えなかったぞ」
「私もそうだよ。あはは」
「グラン様、凄いですわ」
「グランが仕掛けるぜ」
グランの魔力がハンマーに集って、銀色に輝く。
依然としてグランは、駒のように回りながら、ハンマーの打撃面を上に向けた。
――――ダダダダダダダダダダダダ
グランの真上を飛んでいる青いワイバーンに向かって銀色の礫が発射された。
「まるでガトリング砲だな……」
「あれでは、ひとたまりもありませんわ……」
「容赦無いね……グランさん」
青いワイバーンはグラン式ガトリング砲によって、翼はズタボロ、鱗は飛び散り、文字通り血の雨を降らせていた。
そして、飛べなくなった青いワイバーンは地面に激突したが、小さな水球を連続で5発、グランに向かって放った。
小さな水球と言ってもグランの倍の大きさはある。
そして、青いワイバーンはぐったりと地に頭を付けた。
「ワッハッハッハ」
グランは、高速で飛んでくる水球を全てハンマーで叩き、青いワイバーンの顔の前に立った。
青いワイバーンは、苦しそうに片目でグランを見た。
「ワッハッハッハ、今、楽にしてやるからな。良い闘いだったぞ」
青いワイバーンは、グランの言葉に笑ったように見えた。
そして、今一度グランを見て、ゆっくりと両目を閉じた……
「次は私なの!!」
メイド服の裾を翻して、椅子からレクスが飛び降りた。
レクスの相手は緑のワイバーンだ。
レクスが椅子から飛び降りたのを見た緑のワイバーンは、静かに台座から飛び立ち、宙に漂うように浮いている。
レクスがトコトコと歩いて中央付近まで行くと、緑のワイバーンは物凄い勢いで、砂埃を巻き上げながら低空を飛び、レクスを掴んで上空に舞い上がった。
「うわ〜飛んでるの!!」
「ワッハッハッハ、楽しそうだな」
「私もやってみたいぜ」
「カイト様、レクス様は大丈夫なのですか?」
「心配するだけ損だぞマツリ。レクスは遊んでいるだけだ」
緑のワイバーンは天井の金網まで行くと、レクスを離した。
人間なら地面に叩きつけられて、生きてはいないだろう。
「ギャアオォォォォォォォォォ」
地面に向かって落ちて行くレクスに、風の刃を放った緑のワイバーンは勝ち誇ったように一声吠えて、上空に停滞したまま落ちて行くレクスを見ている。
風の刃が直撃したレクスは落下の勢いを増し、そのまま地面に落ちた。
ぽすん!
レクスは編みぐるみっぽい人形だ。
落下の衝撃なんて、そんなもんだろう。
「今度は私の攻撃なの!!」
全くの無傷で立ち上がったレクスは、メイド服の埃をはたき、緑のワイバーンの背中に転移していた。
レクスを見失った緑のワイバーンはキョロキョロとレクスを探している。
「グラビティなの!!」
「ギャッ!?」
レクスの重力魔法で緑のワイバーンは落下を始めた。
幾ら羽ばたいても落下の勢いは止まらず、必死の形相でジタバタと足掻いている。
「マックスなの!!」
更に落下の勢いは増し、涙目で首を振っていた緑のワイバーンは地面にめり込んで光の粒子になり、チケットと宝箱をドロップした。
次はマツリだが、戦いで昏い感情が大きくならなければ良いがな、と思いながら、マツリの表情を横目で見てみる。
サトミと笑いながら話しているマツリは、リラックスしているようだ。
「大丈夫そうだな……」
「ん?なにか言ったカイト?」
「いや、何でも無い。マツリ、レクス達のように楽しんで来い」
「はい、カイト様。行って来ますわ」
マツリが、軽い足取りで歩いて行くと、黒いワイバーンは台座の上で翼を3回羽ばたかせ、ふわりと舞い上がった。
マツリは炎の槍で、黒いワイバーンは滑空しながら牙、爪、尻尾で攻防を繰り返しているが、どちらも傷を負わせる事が出来ない。
黒いワイバーンの鱗は、かなり硬いようだ。
「マツリちゃん、ブレスが来るよ!」
ブレスと言うより、黒い球体だ。
「ファイアーボールですわ!」
マツリは炎の槍のファイアーボールを、黒い球体に目掛けて放った。
ファイアーボールで霧散した黒い球体は、文字通り霧状になってマツリの姿を隠した。
「何だ、あの黒い霧は?」
「何だか嫌な感じがするね……」
「あれは、闇属性の霧なの!ナイトメアかもしれないの!!」
「ナイトメアって、悪夢の事か?昏い感情に影響が出なければ良いが……」
「マツリちゃん……」
30秒にも満たない時間で、黒い霧は次第に晴れてきた。
「フフフ……私に闇属性の攻撃は効きませんわ」
「良かった、流石ヴァンパイアだな。って、思いっ切り効いてるぞ!!」
マツリの背中からコウモリの翼が生えて、頭には羊のような角が生えている。
そして、全身から黒いオーラが漏れていた。
「フフフ……この世の……人間もモンスターも……全て、アンデットに変えて……やります……わ」
マツリの姿が一瞬ぶれて、消えたと思ったら、右手に黒いワイバーンの首を持って元の位置に戻っていた。
ズドォォォォォォン!!
黒いワイバーンの胴体が落ちてきて、光の粒子になり宝箱に変わった。
そして、マツリが持っている頭が、チケットに変わる。
「マツリ!目を覚ませ!しっかりしろ!!」
「マツリちゃん!元に戻って!!」
「フフフ……私はちゃんと起きていますわ……次は、あなた達の番……」
一瞬でマツリは俺の目の前に立ち、鋭い爪を振り下ろした。
「クッ……マツリ……気をしっかり持て」
振り下ろされた爪を左腕で受け止め、マツリに呼びかけるが、聞こえているのか、いないのか、そのまま力を入れて、俺を抑え付けようとしている。
「おい!カイト、いったいどうなってんだ!?」
バーグマンが慌てたように聞いてきたが……
「面倒くさいから説明は無しだ!サトミ、マツリを縛ってくれ」
「無駄なような気もするけどやってみる。えいっ!」
サトミが蔓で、マツリをぐるぐる巻きに縛った。
「良いぞサトミ!」
「ああ~、やっぱり駄目だよ……」
蔓で縛られたマツリは、数匹の蝙蝠になり、難なくサトミの束縛から抜け出した。
「チッ、厄介だな。傷つける訳には行かないし、呼びかけ続けるしか無いか?」
「マツリちゃんお願い、正気に戻って!」
サトミが必死に呼びかけている。
これで、戻らなければ……
「マツリちゃん!これを見てなの!」
「マツリ、こっちにもあるぜ!!」
「ワッハッハッハ、見ろ、マツリ!」
蝙蝠になったマツリにレクス、エル、グランが駆け寄って来た。
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