第64話 カイト、ダンジョンに行く〜6日目②
階段を降りて行き、次の踊り場にある扉の前に立つ。
その扉にはゴーレムと、人間が1人描かれている。
「カイト、これは1人で戦えと言う事か?」
「多分な。2人同時に部屋には入れないんじゃないかな……」
「ゴーレムには物理攻撃よりも魔法が効果的だ。此処はピットに行かせてくれないか?」
「俺は構わないぞバーグマンさん」
「もう、さん付けは止めてくれカイト。どう見てもお前の方が実力が遥かに上だからな」
「そうか?わかったバーグマン」
「ああ、それでいい」
ゴーレムの扉からピットが入って行った。
扉の横には観戦出来るように鉄格子の窓があり、俺達はそこから中を見る事が出来た。
ピットが部屋に入ると、光の粒子が集まりゴーレムが現れた。
「ピット、先手必勝だ!」
「******ウォー……」
ドガァァァァン!!
ピットの詠唱が終わる前に、ゴーレムが殴り掛かってきたが、詠唱を途中で止めたピットは、辛うじて避けることが出来た。
礫が飛んできたが、かすり傷程度で、ゴーレムから距離を取って再び詠唱を始めた。
「******ウォ……」
また、ピットの詠唱が終わる前に、今度は落ちている岩をピットに投げつけた。そして、ゴーレムはピットに向かって走り出す。
「ゴーレムが行ったぞ!」
「足を止めるなピット!動きながら詠唱をするんだ!」
「わ、わかった!」
「頑張れー!」
ゴーレムが投げた岩を躱して、更にゴーレムの体当たりも、転がりながらギリギリで躱したピットは、素早く立ち上がり、走りながら詠唱を始めた。
「******ウォーターボール!」
魔法の威力は申し分無いが、距離があった為に左腕でガードされた。
だが、ガードした左腕は粉々に砕けている。
足が止まったピットに向けて、ゴーレムは、碎けた腕を蹴り飛ばした。
被弾したピットは頭や肩から血を流し、膝を付いてしまった。
ピットが顔を上げたときには、ゴーレムは目の前に居て、右足で蹴りの態勢に入っていた。
咄嗟にガードを固めたピットだが、ゴーレムの蹴りの勢いで飛ばされて、地面を転がって行った。
「ピットォォォ!!」
どうやら、左腕が折れているようだが、闘志までは折れていないようだ。
目はゴーレムを見据えて、タイミングを計り詠唱を始めた。
「******」
ゴーレムが一気に走り寄り、起き上がりはしたものの、ふらついているピットに向けて右腕を振り上げた。
「ウォーターボール!!」
拳が振り下ろされる前に放った魔法が、ゴーレムの頭に直撃した。
頭が碎けたゴーレムは後ろに倒れて、そして、光の粒子になって消えていった。
「やったぞ、ピット!!」
「凄いぞ!1人でゴーレムを倒したんだ!」
ゴーレムが消えた後には、木製のチケットが一枚と宝石が入った宝箱があった。
「ヒール……」
「――――えっ!?もう痛くないぞ」
「カイト、それは普通のヒールなのか?他の奴とは色も光の強さも違うんだが……」
「これが普通だが?」
「そうか……規格外と言う奴か……」
「ええ、それなら今までの事も納得できるわね」
階段を降りた次の踊り場の扉には、トロルと人間が2人描かれている。
「此処はパットとキャットで行こうと思うんだが、それでいいか?」
「ああ、俺は構わないぞ。バーグマン」
トロルの部屋にパットとキャットが入って行った。
此処にも鉄格子が嵌まった窓があり、俺達は固唾を飲んでトロルが現れるのを待った。
光の粒子が集まり、トロルが現れたのを見た俺とサトミは、喉元まで笑いがこみ上げて来るのを必死に耐えている。
アンドレ様に似ているからではない。逆に、全くアンドレ様には似ていないのにも関わらず、ブクブク太ったトロルと間違えた、自分達が可笑しかったのだ。
戦いは既に始まっている。
キャットが弓で牽制すれば、パットがロングソードで斬りかかるといったコンビネーションで、トロルを翻弄している。
トロルは巨大な棍棒を振り回し応戦しているが、キャットの弓がトロルの動きを鈍くさせている。
パットはヒットアンドアウェイで腕、脚、背中、といった具合に、手数を多く繰り出し、完全にトロルの動きを止めた。
キャットの放った矢がトロルの喉に突き刺さたのを見たパットは、一気に背後に回り、背中からロングソードを突き刺し、貫通させると、トロルはゆっくりと後ろに倒れていった。
パットは押し潰されないように、剣から手を離し、横っ飛びに避けて悪態を付いている。
「あっぶねーな、此方に倒れるならそう言えよ!!」
無理な注文だと思う……
「危なげなく勝てたな」
「そりゃあ、あの2人もBランク冒険者だからな」
トロルが消えて、チケットが2枚と
宝箱が2つドロップされた。
「今度は俺とガットが行くぞ」
次の扉には、10匹のフライアント
と、2人の人間が書かれていた。
「フライアント……羽蟻だな、あれだけ居ると鬱陶しいな」
バーグマンとガットが部屋に入ると、10匹のフライアントが現れ、縦横無尽に部屋の中を飛び回っている。
ガットが弓で攻撃するが、飛んでいるフライアントは難なく躱している。
多分ガットはシーフなんだろう。弓が本職のキャットよりも練度が低いようだ。
それでも、ガットは当たらずとも、フライアントの注意を引くには十分な仕事をしている。
「良いぞガット、フライアントを此方に誘導してくれ!」
「了解!」
ガットはフライアントが群れにならないように、2〜3匹ずつバーグマンのいる方に誘導している。
バーグマンは少数のフライアントを相手にすれば良いので、落ち着いて急所を付くことが出来る。
「良い連携だ。上手いな、あの2人」
「うん、かっこいいね。私達ってあまり連携とかしないよね」
「そうだな、サトミ。そのうち連携の練習でもしてみるか?」
「うん、やってみたい!!」
「ていうか、あなた達は連携とか必要無いよね?」
「キャット、何か言ったか?」
「ううん、別に……」
既にフライアントの数は半数以下になり、ガットは弓を短剣に持ち替えて、素早い動きでフライアントを切り裂いている。
バーグマンも豪快に大剣を振り回し、フライアントに叩きつけていた。
そして、最後の1匹は、ガットが羽を切り裂いて、バーグマンの大剣の一撃で粒子になって消えていった。
バーグマンとガットはチケットと宝箱を持って部屋から出てきた。
「ふぅー、どうだ、カイト。俺達も中々だろう?」
「ああ、カッコ良かったぞ。俺達もお前達のような連携を練習してみようかと、サトミと話していたところだ」
「お前等がか?連携する前に相手は死んでるだろうが」
“暁”のメンバーは全員、うん、うんと、頷いている。
マツリも頷いている。
レクス、グラン、エルも頷いている。
俺も、それもそうかと納得して頷いた。
「だ、そうだ。サトミ」
「確かにそうだよね。連携なんかしていたら、カイトの極大魔法に巻き込まれちゃうね」
「えっ、俺だけのせい!?」
次の扉には赤のワイバーン、緑のワイバーン、青のワイバーン、黒のワイバーン、銀のワイバーン、金のワイバーン、合わせて6匹と、人間とドリアードとヴァンパイア、そして人形が3体描かれていた。
「何でだ?何で俺達が描かれている?しかも、何気に上手く特徴をつかんでないか?」
「うわー、上手だね!」
「この扉を譲ってもらいたいですわ」
「ダンジョンだからな、こういう事もあるさ。ワッハッハッハ」
「全く、グランはお気楽な奴だぜ」
「そうなの!そうなの!」
「それじゃあ行くぞ。チケットが、あと6枚だな」
扉を開けると、薄暗い踊り場に光が差し込んで来た。
眩い光に目が慣れて、部屋の中を見ると、野球場くらいの丸い部屋で、天井が無く、かなり高い位置を金網で覆ってある。
その金網から青空が見えていて、太陽光が燦々と降り注いでいた。
俺達が入って来た扉の対面には、6個の円柱の台座があり、赤、青、緑、黒、銀、金の順に並んでいる。
そして、俺達のすぐ目の前には、6脚の椅子が用意されていて、対面の円柱と同じように色分けがされている。
「どうやら、赤から順に戦うと言う事らしいな」
「それなら、私が1番だぜ!」
「ワッハッハッハ、2番目はワシが戦うぞ」
「カイトくん、3番目は私なの!!」
「私が1番に戦いたかったのだけど、お人形様には逆らえませんわ」
「じゃあ、私が5番目で、カイトが大将だね!」
戦う順番も決まり、椅子に座ろうとしたら………
「おい!お前等、そんなに簡単に決めて良いのか?もっと、こう、作戦とか話し合ってだな……」
「まあ、そこまで真剣に考える事でも無いだろう、バーグマン?」
「お前なぁ……はぁ、もう良いわ……」
バーグマン達は鉄格子が嵌まった窓から見ている。
若干、呆れ顔だ。
俺達が椅子に座ると、対面の6個の台座に光の粒子が集まり、赤の台座に赤いワイバーン、青の台座に青いワイバーン、緑の台座に緑のワイバーン、黒の台座に黒いワイバーン、銀の台座に銀色のワイバーン、金の台座に金色のワイバーンが現れた。
「面白い演出だぜ!もういいんだろ?行くぜ!!」
エルは楽しそうだ。待ちきれない子供のように椅子から飛び降りて、前に出ていった。
「ギャアオォォォォォォォォォ!!」
赤いワイバーンも咆哮を上げて、台座を蹴り、勢いよく飛び上がった。
読んで頂きありがとうございました。