第62話 カイト、ダンジョンに行く〜5日目③
飛び石の半分程来た時に、羽が生えた巨大な蛇のモンスターが、ゆっくりと此方に近づいて来た。
「おい!あれは何だ!?」
「こんな場所では戦えないぞ!」
「バーグマン、逃げようよ!」
「おいっ!カイト、逃げるか?」
羽が生えた巨大な蛇は、優雅に空を泳ぐように飛んでいる。
と、思ったら大きな口を開けて此方に向かって来た。
「バーグマンさん、そこで伏せていろ」
俺は新月のナイフを抜いて魔力を送る。
イメージするのは絶対零度の氷の領域。
魔力を込めた新月のナイフは眩い位に青白く発光している。
俺は、大きな口を開けて向かって来る羽が生えた巨大な蛇の下顎に、新月のナイフを投げて突き刺した。
「アブソリュートゼロ……」
ピシッピシピシピシピシピシピシ
魔力が放出され、羽が生えた巨大な蛇を絶対零度の領域が包み込み、一瞬で凍りついて落ちていった。
俺は鞘に魔力を送り、新月のナイフを戻す。
「うそ……」
「ななな、何だ今のは!?」
「そのナイフなのか、カイト?」
「ああ、そうだ」
「いったい何処で、そんな国宝級のナイフを……」
「これか?これは、山賊市場の輪投げの景品だったよな、サトミ?」
「うん、景品だったよ」
「すげーな……山賊市場……」
その後は何事も無く俺とサトミとマツリは空に浮かぶ島に足を踏み入れた。
レクス、グラン、エルは、既に島に入っており、羽が生えた巨大蛇の話しをしていた。
「あれはセラフィムだと思うの」
「ワシは実物を見たことが無いからな、なんとも言えん。ワッハッハッハ」
「私も初めて見たけど、話しに聞いていたのと良く似ていたぜ」
「不思議な事が起こるのがダンジョンだから、なんの不思議も無いな。ワッハッハッハ」
暫く待っていると、“暁”のメンバーが息を切らして島に上がってきた。
「カイト、お前は凄い奴だったんだな。はぁ、はぁ」
「少し休むか?」
「いや、大丈夫だ。歩きながら回復出来る」
俺達が今居る場所は、草地になっていて、ここから森を隔てて岩山が見える。
「そうか、それなら先ずは、あの岩山の麓まで行ってみよう。戦闘は俺達に任せろ」
「悪いなカイト」
レクス、グラン、エルが先頭を行き、俺とサトミとマツリが、その後に続く。
少し離れてバーグマンさん、パット、ガット、キャット、ピットが周囲を警戒しながら慎重に歩いている。
サトミとマツリが複合サロンや好きな料理の話しをしているのを聞きながら、打ち上げられてドロップ品になっていく、人の大きさくらいはある大きな鶏のようなモンスターを眺めていた。
ドロップ品は鶏の胸肉やもも肉、そして卵だ。
「カイト、これを登るのか?」
「一応、道らしき物があるからな。他に道は無いし、登るしか無いだろう」
森を抜けて、岩山の麓で休憩中の俺達は、岩山を見上げてルートの確認をした。
灌木や草が生えている間を縫って、道が通っている。
急斜面は階段状になっていて、登るのに苦労しなくても良さそうだ。
だが、山頂付近には何かが群れて飛んでいる。
「あれはハーピーだな」
上半身が女性で下半身が鷲のような鳥のモンスターだ。
「バーグマンさん、知っているのか?」
「ああ、この街に来る前に一度戦った事がある。知性の欠片もなく、食欲だけで生きている奴らだ」
「群れているって事は、それなりに知性はあるんじゃないか?」
「一匹、一匹は、すばしっこいが、あまり強くは無いからな。群れでいる方が都合が良いくらいは、わかるんだろう」
岩山を中腹まで登って行くと、ハーピーの群れから3匹がこちらに向かって来た。
3匹とも同じような顔で、長い髪はボサボサ、目は獣のようで、ギャーギャー叫んでいる。
「カイト、この3匹は俺達に任せてくれ!」
「ああ、わかった」
バーグマンさんは、背中に背負っていた大剣を両手で構え、ピットは魔法の詠唱を始めた。
「******ファイアーボール!」
「うおりゃ!!」
ピットのファイアーボールが羽に当たり、バランスを崩して落ちてきたハーピーに、バーグマンさんの大剣の一撃が決まった。
その間にガットとキャットが弓でそれぞれ1匹ずつ地面に落とし、パットがロングソードで、ガットが短剣で残りのハーピーを倒した。
「皆んな強かったんだね……」
「今までがあれでしたから……」
「俺達だってやる時はやるんだぜ!」
「戦闘なら任せてくれ」
パットとガットが得意げに胸を張っている。
「まぁ多少、見直しましたわ」
「多少かよ!?」
ゴツン!
「「痛ってぇぇぇ」」
「二人とも調子に乗らない!」
キャットがパットとガットの頭をがっちんこさせた。
――――マジで痛そうだ……
「今度は私達の番だね。マツリちゃん2匹ずつだよ。棘蔓!!」
「わかりましたわ。サトミお姉さま。チャームですわ!」
4匹のハーピーが群れを離れて襲ってきた。
サトミが、両腕を棘蔓に変えて、すばしっこく逃げる2匹のハーピーを追い掛け、難なく捕まえた。
マツリに襲いかかって来た2匹のハーピーは、マツリと目が合うと、おとなしくなり、マツリの足元に座り込んだ。
「エナジードレイン……」
「頂きます……」
サトミの棘蔓に捕まったハーピーは成すすべも無く萎れていき、粒子になっていく。
首に牙を突き刺されたハーピーは恍惚の表情を浮かべながら、血を吸われて粒子になった。
もう一匹のハーピーは横で、そわそわしながら待っている。
「次はあなたですわ」
そわそわしていたハーピーは喜々として首を差し出した。
「なあガット、俺達は謙虚にならなければいけないな」
「ああパット、その通りだな。あの二人には逆らっちゃいけない」
他の“暁”のメンバーも青ざめて、コクン、コクンと、首を縦に振っている。
ハーピーが群れている岩山の頂上は鳥の糞で酷い事になっていた。
「カイト様、私はこんな所で戦いたくありませんわ」
「私も嫌だな……」
「俺もだ。レクス、グラン、エル、お前達はどうだ?」
「私達は汚れないけど、やっぱり嫌なの」
「此処は見なかった事にして迂回しようぜ」
「道ならワシに任せろ。ワッハッハッハ」
“暁”のメンバーも異存は無いようで、俺達の後ろを歩いている。
ドガァァァン!!バゴォォォン!!
グランがハンマーを一振りするだけで、立派な道や階段が出来上がっていくが、その音にハーピーが気づかない訳がなく、俺達を群れで襲ってきた。
「皆んな戦うぞ!」
「「「オオー!!」」」
俺はライトニングショットで、サトミは葉っぱ、マツリは炎の槍のファイアーボール、レクスは得意のサンダーバード。そしてエルは赤い闘気を飛ばしてハーピーを倒していく。
グランは道作りだ。
“暁”はキャットとガットの弓とピットのファイアーボールで、戦っている。
「おーい、バーグマンさん、遅れているぞ。大丈夫か?」
「無茶を言うな。カイト!お前等みたいに歩きながら倒すなんて芸当は無理だ!」
「それなら手伝うぞ」
「ああ、頼む」
俺は新月の首飾りに魔力を流す。
「キナコ、来てくれ」
「ポポー!ポポー!」
キナコはすぐに来てくれた。
「何だか凄く嬉しそうだね」
「サトミお姉さま、あれは?」
「キナコはね、ラージピジョンでカイトのテイムモンスターだよ。マツリちゃん」
キナコは嬉しそうに俺の上を飛んでいる。
「キナコ、後ろにいる連中を手伝って、ハーピーを倒してくれ」
「ポポー?クルッポー!!」
キナコが手伝ってくれたおかげで、“暁”のメンバーは俺達に追いついてきた。
「あれは本当にラージピジョンなのか!?」
「ラージピジョンが、あんなに強いなんて信じられない!!」
「バーグマンさん、正真正銘ラージピジョンだ。キナコは頑張ったからな……」
「うん、そうだね。カイトの無茶振りにも耐えて、頑張って強くなったんだよね」
サトミのジト目が心に痛い……
キナコの風の刃は1枚増えて6枚になっている。
竜巻も威力を増したようだ。
「ポポー!」
ドゴォォォォン
バリバリバリバリ
「か、かみなり!?今のは雷か!?」
雷の制御にも慣れて来たようで、威力を抑えて使うことも出来るようになっている。
“暁”のメンバーは口をポカーンと開けてキナコの戦いを見ているだけだ。
キナコの参戦で一気にハーピーを殲滅した俺達は、グランの造る道で、岩山の反対側まで来ることが出来た。
「キナコ、また強くなったな。凄いぞ!」
「ポッポー!クルッポー!」
「良かったね、キナコ」
「キナコさん、新入りのマツリですわ。よろしくお願いしますわ」
「ポポー」
岩山の中腹から見る景色は絶景で、眼下の森の向こうには、夕日に染まる此処とは違う、別の浮島が見える。
そこには神殿のような石造りの建造物があり、その周りにも民家らしき建物が見えるが、そのどれもが崩れていて原形を留めていない。それがまた、幻想的な雰囲気を出している。
更にその向こうにも浮島があり、緑豊かな草原と、湖の水面を夕日が赤く染めている。
草原を走るモンスターと、湖の水面を泳ぐモンスターが、ここからでも見る事が出来た。
ここからでも見えると言う事は、大型のモンスターなのかも知れない。
「カイト、今日はこの島で野営をするぞ」
この場所は岩山の中腹だが、テントを張るくらいのスペースはグランが造っている。
今夜は新月の館には帰らずに、バーグマンさんに付き合おう。
「エル、今夜は此処で野営をするからと、ララさんに伝えて来てくれ」
「了解だぜ!」
バーグマンさんはマジックバックからテントを取り出し、組み立て始めて、他の連中は灌木の傍から薪を集めて来た。
俺も、アイテムボックスから新月のテントを取り出し、ついでに薪も出してテントの前に積んでおいた。
今夜は普通にキャンプを楽しもう。
ふと、スケルトンのドロップ品の骨の使い道を思い立ち、俺はテントの外周に、適当に骨をばら撒いてから、焚き火の前に戻った。
焚き火の火で炙られた魚、オーク肉、牛肉がいい匂いを放っている。
「カイト、どうしたの?」
「スケルトンの骨をばら撒いて来たんだ。モンスターが入って来たら音でわかるだろ?」
「レクスちゃん達が居るのに必要なの?」
「試験的にだ。これで使えるなら、ギルドでも売れる事になるだろう」
「お肉が焼けましたわ。食べましょう!」
読んで頂きありがとうございましたm(_ _)m