第61話 カイト、ダンジョンに行く〜5日目②
山小屋の中から橇とスキー板とスノーボードを出してバーグマンさんに見せた。
“暁”のメンバーは毛皮のコートを着ている。
マツリもモードチェンジ済みだ。
「雪山はこれらを使って滑り降りなくてはいけない」
「何だこの道具は?」
バーグマンさんはスキーや橇を知らないのか?
“暁”の他のメンバーも知らないみたいだ。
俺はスノボ、サトミはスキー、マツリ、レクス、グラン、エルは橇に乗って実際に滑って見せた。
「何だか楽しそうだな……」
「ああ、俺達もやってみるか?」
「カイト、俺達に扱い方を教えてくれ」
”暁“のメンバーは、1時間程で、ある程度滑れるようになった。
流石、身体能力の高い冒険者だと言う事だろう。
それから、少しの間休憩をして、雪山を滑り降りて行った。
「クァ、クァ、クァ」
「カイト、スノータートルが出たぞ!」
「この状態でどうやって戦うんだ!?」
“暁”のメンバーはスキーが二人、スノーボードにバーグマンさん、橇に二人が乗っている。
「スノータートルとは戦わなくても良いぞ、バーグマンさん。マツリ!」
マツリは、予め渡しておいた薬草をスノータートルに食べさせている。
「また会えましたわね。さあ、沢山お食べなさい」
「クァー、クア」
マツリもスノータートルも嬉しそうだ。
「バーグマン、スノータートルは倒してはいけないのか?」
「それはわからないが、スノータートルは俺達の敵では無いみたいだ」
暫くすると、今度はスノーウルフが現れた。
襲ってくるスノーウルフを俺とサトミとマツリ、レクス、そしてスノータートルが倒していく。
ドロップした毛皮はコンセが一つ残らず回収していった。
「何で彼奴等は、滑りながら戦えるんだ!?」
「駄目だ!魔法に集中出来ない!!」
「オイ!バカ!舵から手を放すな!木にぶつかるぞ!」
「あわわわ……ごめんなさい」
何だか後ろが賑やかだな……
「バーグマンさん、この先に崖があるからスピードを落とすぞ!」
「了解だ!」
崖の手前で右に曲がり、バーグマンさん達の様子を見る。
「駄目だ!曲がりきれない!!」
「ピットォォォ!!」
スピードを落としきれていない、スキーの男が崖に向かって滑っている。
「サトミ!」
「うん!」
もう既に崖から飛び出したピットと呼ばれた男にサトミの蔓が間一髪で巻き付いた。
「サトミ、止まれるか?」
「うん、大丈夫だよカイト」
「グラン、止まってくれ!」
「ワッハッハッハ」
俺達は態勢を立て直す為に止まり、サトミは蔓を縮めてピットを下ろした。
「ハァ、ハァ、ハァ、済まない……助かった」
「怪我は無いか?」
ピットは手足を動かして確認した。
「大丈夫だ何処も痛めてはいない」
「ピット!!はぁ……大丈夫そうだな。ありがとう、カイト、サトミ」
「少し休憩するか?」
「そうだな、少し疲れてきたのは確かだ」
俺はアイテムボックスからテーブルと人数分の椅子を出し、温かい紅茶とロールケーキを出した。
「全く、お前は……驚きを通り越して呆れるわ……」
バーグマンさんの言葉に“暁”のメンバーはうん、うんと頷いている。
お茶の時間を終えて、俺はこの先にあるヘアピンカーブを雪の上に書いてバーグマンさんに説明した。
「全くこの階層は危険極まりないな」
「極力スピードを落として進めば問題無いだろう?」
「それはお前等だから言える事だ。此処に来るまでだってそうだ。滑りながらスノーウルフを倒すなんて芸当、誰が出来るんだよ!俺達は滑るだけで手一杯だ」
「それは、あれだな……スキーやスノーボードを楽しめるくらい慣れれば出来るだろう。スノータートルも居るしな」
「それって、どれだけ通わないといけないんだ?はぁ……」
出来るだけゆっくりと、ひとつひとつ俺達は、ヘアピンカーブをクリアして行く。
「何だ?あの橇の曲り方は!?」
「橇が横向きに滑っているぞ!!」
「どうやっているのかしら、私達もやってみる?パット」
「止めておけ、キャット。俺はまだ死にたくないからな!!」
俺達はゆっくりだが、エルとグランは猛スピードでヘアピンカーブへと入って、ドリフト滑走で抜けていく。
「ねえ、カイト……エルちゃんとグランさんは何を目指しているんだろうね……」
「さあな……彼奴等はただ、面白ければ良いんじゃ無いか?」
「スノータートルも良く付いて行けるよね……」
スノータートルは、テール・トゥ・ノーズで、しっかりと薬草をマツリから貰っている。
俺達は最後のヘアピンカーブをクリアして雪の少ない草地にたどり着いた。
”暁“のメンバーは、精神的な疲労からか、皆んなぐったりとしていて、何時もの覇気が皆無だ。
自慢のモヒカンもぐったりとしている。
「バーグマンさん、あの洞窟の中に休憩室があるから、そこで、休むと良いぞ」
「そうか……おい、お前ら行くぞ」
俺とサトミを先頭に洞窟に入っていく。
マツリとレクス達は、スノータートルに別れを告げて”暁“のメンバーの後から付いてきた。
「此処に転移陣があるって事は、此処で30階層が終わりって事だな」
「はぁ……助かった、俺はもう帰りたいぜ」
「情けない事を言うな、と言いたい所だが俺も体力と精神力がボロボロだ」
「私ももう………」
「カイト様、この洞窟は金が採れますわ!!」
「銀も鉄もあるぞワッハッハッハ」
「復活したわ!!行くわよバーグマン!!」
「オ、オイ、キャット引っ張るな!ガット助けてくれ!」
ここに来て、”暁“メンバー全員の名前が判明したな。
それにしても賑やかな連中だ。
連中が金を掘っている間に、昼食の準備をする事にした。
新月のテントをアイテムボックスから出して、簡易キッチンでパスタを茹でる。
後は、ララさんが昼食用にと作ってくれた、プリプリのエビが入ったトマトソースとサラダとパンだ。
出来上がったパスタを皿に盛り、他の料理も一緒にテーブルに並べた。
新月のテントを片付けて、新月の首飾りで念話を送る。
『サトミ、マツリ、昼食が出来たぞ』
『わかった!』
『はいですわ!』
“暁”のメンバーの足元には、それぞれ金や銀が入った袋が置いてある。
口が開いている袋から覗いているのは金鉱石や銀鉱石なんかでは無く、最早、金塊や銀塊と言っても良いくらいの物だ。
「あっ!コラッお前、それは俺のだろう!!」
「早く食べないのが悪いのよ」
「美味いなこれは……カイト、このプリプリの身は何だ?」
「これは海老と言って、そうだな……サーベルシュリンプに似た物だ」
「サーベルシュリンプが食えるのか?いや、似た物だと言ったな……」
「バーグマン!何とか言ってくれよ!キャットの奴、俺のプリプリを食べるんだ!ああぁぁぁ俺のプリプリ、俺のプリプリィィィ」
「このプリプリは私が頂くわ!」
「おい!キャット!俺のプリプリまで食べることないだろが!返せっ俺のプリプリ!」
「うるさいぞ!!キャット、ガット、ピット!済まないなカイト……」
「いや、良いんだ。気にするな」
パットは皿を抱え込んでエビのトマトソースパスタを、かき込むように食べている。
サトミを見ると、笑いを抑えるのに必死のようだ。
「で、これからお前等はどうするんだ?」
昼食を終えて、ピシッと蘇ったモヒカン達に転移陣で帰るのか、それとも先に進むのかを聞いてみた。
「カイトは31階層に行くんだろう?なら、俺達も一緒に行かせてくれないか?雪山から先はギルドにも記録が残っていないんだ」
「俺は構わないが、お前等は帰りたいって言っていたんじゃないのか?」
「お前のプリプリで俺達は復活したのさ」
単純で安上がりな奴らだ。
それ程長くはない金銀洞窟の突き当りにある登り階段を上がり、扉を開けた。
「眩しっ!!」
「ななな、何だ此処は!?」
強烈な日差しに目が慣れて、31階層を見渡した。
「空だね、カイト……」
「島が浮かんでいますわ!」
「これを渡って行けば良いんだな」
島までは500m程あり、俺達が出て来た扉がある岩場から、直径50cm〜1m程の、形が不揃いな飛び石が島まで続いている。
「行くぞ、サトミ、マツリ。レクス、グラン、エルは先行してくれ」
「カイトくん、了解なの!!」
「ワッハッハッハ」
「面白そうだぜ!」
レクス、グラン、エルは軽快なジャンプで飛び石を軽々と渡っていく。
レクス達の後に俺も続いて最初の飛び石に飛び乗った。
「ちょっと待ってくれ!!」
「何だ、バーグマン?」
「この石に乗っても大丈夫なのか?落ちたりしないよな?」
「ちゃんと浮いているから大丈夫だ。ほら、びくともしないぞ」
俺は飛び石の上で飛んだり跳ねたりして、大丈夫なところを“暁”のメンバーに見せて、次の飛び石に飛び乗った。
「次は、私だよ!」
「行きますわ!」
俺の後から間隔を開けずにサトミが、その次にマツリが渡り、その後に暫くして意を決したのだろう、バーグマン、キャット、ピット、パット、ガットの順で飛び石を渡り始めた。
「うおっと!!」
「バカ!止まるな!」
「うわーっ!!どいて、どいて」
「なっ!?キャット、まだ来るな!!」
「無理、無理、無理ぃぃぃ」
「ヒャッハー」
本当に賑やかな連中だ。
読んで頂きありがとうございました。
ピット
キャット
パット
ガット
(バーグマンのパーティメンバー。クラン“暁”の主力メンバー)