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第56話 カイト、ダンジョンに行く〜4日目①

 俺達は、28階層の夜の墓地を走り抜けている。

 

 今は、目の前に現れる敵だけを倒しながら、ひたすらに走った。

 後ろからは、墓の下から出て来たゾンビが大勢で追い掛けて来ている。


 マラソンの世界大会か!?



「まったく、キリがないな!」

「うん、嫌な臭いもするし、早くこの階層から出たいよ」

「コンセ、このまま真っ直ぐの方向で良いか?」


(はい、マスター。ボス部屋の前の安全地帯まで後少しですよ)


「ゾンビのくせに足が速いのは驚きだな」

「ゾンビなのに疲れて膝を付いている者もいるけどね」

「見えて来たぞ!あの柵じゃないか?」



 俺達が柵の中に入ると、今まで追い掛けて来ていたゾンビ達は、その場で膝を付き、ハアハアと荒い息遣いを整えているようにみえる。


「なあレクス、ゾンビなのに息をしているんだが……」

「ゾンビも生きているんだから呼吸は必要なの!!」

「えっ!?死んだからゾンビになったんじゃないの?」

「ゾンビになって生き返ったのだから息はするぜ」

「サトミ、俺達とはゾンビの定義っていうか認識の相違があるみたいだ」

「そうだね世界が違うのだから、私達が受け入れないとね」

「まあ、ゾンビが息をしていようが、していまいが、どうでも良いんだがな」

「あはははは、確かに私達には関係無いよね」



 呼吸を整え終えたゾンビ達は立ち上がり、柵を回ってボス部屋の裏側に歩いていった。


「何処に行ったんだ?」

「まさか皆んなボス部屋に集まっているとか?」

「なんだ?そのブラックな扱いは……まさかだよな」



 ボス部屋の扉を開くと、そのまさかだった。

 見覚えのあるゾンビが何体か居る。


 ゾンビ達の疲れ切った表情は、些か同情するが、これでは数が多すぎる。


「しかし、このダンジョンのボス部屋は質より量って感じだな」

「うん、これはこれで、なかなか面倒だよね」

「確かにな。面倒だから一気に数を減らすぞ。ちゃんと火葬にしないからゾンビなんかになるんだ……」



 俺は新月のナイフに魔力を送った。


 イメージするのは灼熱の燃え盛る炎の領域。



 魔力を込めた新月のナイフは眩い位に真っ赤に発光している。


 俺はゾンビの中心に新月のナイフを弓なりに投げた。

 新月のナイフは1体のゾンビの頭に突き刺さる。



「メルトダウン」



 ゴォォォォォォォォォ――――



 魔力が放出され、領域に居るゾンビ達は一気に灼熱の炎に包まれて跡形もなく燃え尽きた。

 炎が消えて後に残ったのは、領域の外に居た数体のゾンビだけだ。


「サトミ!」

「任せて!棘蔓っ!はっぱ!」



 残りのゾンビは、サトミの棘蔓と葉っぱで倒れて、粒子になって消えていった。


 ゾンビ達は全て消えたのだが、ボス部屋の奥の扉が開かない。


「まだ何かあるのか?」

「カイト、見て!天井だよ」


 サトミが指を指した天井の一画に、蝙蝠の群れが飛んでいる。


 蝙蝠の群れは次第に地面に降りて行き、1体の人型のモンスターに姿を変えた。


「オッホッホッホッホ、あなた達も直ぐにゾンビに変えてあげますわ。私の下僕として働ける事を光栄に思いなさい?」


「ヴァンパイアがここのボスか?」

「如何にも!っていうか、いつの間に私がここのボスになったのでしょうか?」


 なんだ、コイツ……頭がおかしいのか?


「カイトくん、この世界のヴァンパイアは個体数がとっても少なくて、皆んな知っているの!でも、このヴァンパイアは、見たことが無いの!!」

「と言う事はデビルモンスターの可能性があると言う訳だな。だが、昏い気配を感じないぞ」

「いや、僅かだが昏い気配を発しているぜ」


 エルが言うのだから、そうなんだろう。

 しゃがみ込んで何やらブツブツ呟きながら、頭を抱えて考え込んでいるヴァンパイアを見ると、気の毒に思えてきた。


「ねえ、カイト、あの人、悪い人には見えないよ。何とかならないのかな?」


「レクス、デビルモンスターの種っていったいなんだ?」

「デビルモンスターの種にはモンスターを封印する事が出来るの!そして、その種は外部から、恨みや妬みなどの昏い感情だけを取り込んで、中に封印したモンスターをデビル化…悪魔に変えるの!」

「だがな、元から力が強く、昏い感情に支配されにくい、強い意志と精神力の持ち主や頭の中がお花畑な奴は自分の力で封印を破り種から出る事が可能なんだぜ」

「この場合、強い意志と精神力で封印を破ったのがサトミで、おそらく奴はお花畑の類いだなワッハッハッハ」

「ふんふん、今の話によりますと、私はそのデビルモンスターの種とやらに封印されていたと言うことでしょう?草原で昼寝をしていた私は、そこからの記憶が全く無いのでしょうか?」

「いや、俺に聞かれても――――うわっ!いつの間に!?」


 離れた場所で頭を抱えて考え込んでいたヴァンパイアが、いつの間にか俺達の輪の中に入って、此方の話に加わっていた。


 そのヴァンパイアの見た目は、15〜16歳で、背中まである黒くて長い髪が、あちこちハネている、肌は白くて目の色は赤く、くちびるの色も真っ赤だ。黒い布で豊満な胸を覆い、くびれた腰から下は黒いショートパンツとくるぶしまでの黒いショートブーツを履いているだけだ。


「言っておきますけど、私の頭の中はお花畑ではないですわ。私の頭の中には……頭の中には、何が入っているのでしょう?目覚めた時からモヤモヤとしたものがありますわ」

「その、モヤモヤが昏い感情なのか?」

「だったら、楽しいことを考えて昏い感情を追い出しちゃえば良いんじゃないかな」

「サトミちゃん!それはやってみる価値はありそうなの!」

「そうか、それなら、とりあえずこのボス部屋から出て、先に進むぞ」


 いつの間にかボス部屋の奥の扉が開いている。





 29階層に続く階段を降りると、そこは戦場だった。


 リビングアーマーとデュラハンが戦国時代さながらの戦いをしている。



 見たところデュラハンが僅かに優勢のようだ。

 ずっと見ていても仕方ないので戦場になっている場所の横を抜けて、先に進む事にした。


 俺達が横を通り抜けても、リビングアーマーとデュラハンは戦いに没頭していて気が付いていない。


「もしかしたら、階層の支配権争いか?」

「凄い迫力だったね」

「この世界の戦争はあんな感じなんだろうな……」

「カイト、戦争のプロとしてのご意見は?」

「元の世界のように銃があったり、スイッチ一つで終わる戦争もあれば、剣や槍で戦い、極大魔法で殲滅する戦争。もしかしたら違う世界では宇宙戦争とかもあるかもしれないな。それぞれ共通して言えるのは、命の奪い合いだと言う事だ。前世で散々人の命を奪ってきた俺が言うのも何だが、出来れば戦争以外の方法で決着を付けて欲しいもんだな」

「カイトは優しいからね。気持ちは良くわかるよ」



 話しながら、小走りで進んで行くとボス部屋の前に到着した。


「この階層ではモンスターと戦わなかったな」

「きっと皆んな戦争しているんだよ」

「此処のボスもか?」



 ボス部屋の扉を開けると、もぬけの殻で、更に奥の扉も開いている。


「おいおい、良いのかこれで……」

「全く呆れますわね……」

「うお!?……そう言えば居たな……ヴァンパイア娘……」

「ヴァンパイア娘って何ですか?確かにヴァンパイアですけど、私にもちゃんとした名前がありますわ!!」


 モンスターなのに名前があるのか?

別の世界ではモンスターでは無いのかもな……喋っているし。


「それで、ヴァンパイア娘は何て名前なんだ?」

「ふふん、私の名は、@#$%ですわ」

「はっ??」


 胸を張って名乗りを上げているのだが、何を言っているのか全くわからなかった。


「カイト、@#$%って言ってたよ」

「いや、わかんねーよ、何語だよ?」


(マスター、ヴァンパイアの言葉で、血祭りと言う意味です)


「物騒な名前だな、おいっ!」

「血に飢えないようにと長老が付けてくれたのですわ」

「そうか、長老には悪いが此方の世界では誤解を生みそうだから、今からお前の名前はマツリにしよう。それで良いか?」

「世界が違うのだから仕方の無い事ですわ。元の世界に帰るまで我慢しますわ」

「元の世界に帰りたいのか?」

「元の世界には家族が居るのです。どうにかして帰らないと行けませんわ」

「そうか、その前にその昏い感情を追い出さないとな。元の世界に返す宛はあるから、その事は心配するな」



 俺達は今、ボス部屋の奥の転移陣の前にいる。


「マツリ、俺の見識ではヴァンパイアは太陽光とニンニクと十字架に弱いんだが、お前はどうなんだ?」

「何ですか?そのような軟弱なヴァンパイアなんて見た事も聞いた事もありませんわ。太陽光に弱いと昼間は出歩けませんわ。それに私はニンニクを使ったお料理は大好物ですわ。十字架が何かわかりませんど、きっと大丈夫だと思いますわよ」

「この世界のヴァンパイアにもそんな奴はいないぜ」

「それなら良かった。此処で昼食にして、その後30階層に行くぞ」



 俺はアイテムボックスからテーブルを出して、その上に料理を並べながら言った。



読んで頂きありがとうございました!


マツリ(本名 血祭り、デビルモンスターの種でこの世界に連れて来られたヴァンパイア)

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