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第55話 カイト、ダンジョンに行く〜3日目③

 ガチャドクロは、大きさの割には動きが早く、サトミは距離を詰めるのに苦労しているみたいだ。


「だったら、これだよ!」


 サトミは自身の周りに大輪の花を咲かせた。

 無数の棘蔓がガチャドクロをめがけて伸びて行く。

 それと同時に、ガチャドクロの足元から、太い木の根が床を突き破り、ガチャドクロの腰から下を拘束した。

 棘蔓は、両腕と首に巻き付き、残った棘蔓は、槍のように先を尖らせガチャドクロを囲んでいる。


「これで終わりだよ!」


 槍ような棘蔓の一本がガチャドクロの魔核を貫いた。

 ガチャドクロの頭が床に落ち、続いてバラバラと上から下に、骨の一本一本が崩れ落ちていく。


 サトミはまだ、棘蔓の槍を崩れ落ちていくガチャドクロに向けている。


 さっきは本当に吃驚したからな。


 全ての骨がバラバラになると、今度は光の粒子に変わっていった。


 ガチャドクロが消え、棘蔓を戻したサトミは、その場にしゃがみ込んでドロップ品を見ている。


「どうしたんだ、サトミ?」

「カイト、ガチャが出てきたよ」

「は?」

「ガチャガチャだよ、ほら」


 サトミはガチャドクロのドロップ品を拾って俺に見せに来た。


「うん、ガチャだな……」


 見ると、サトミの手には丸いカプセルが乗っている。


「中身は鍵みたいだな」

「うん、何処の鍵なのかな?」

「普通に考えると、ダンジョンの中で使うんだろうな」


 いつか使うかもしれないと思い、俺は鍵が入ったカプセルをアイテムボックスに入れた。


「まだ時間はあるから、次の階層まで行って今日は帰ろう」

「うん、良いよ。次は何が出るのかな?」




 27階層に入ると、背筋に悪寒が走った。何か、嫌な感じがする。

 先程とは空気も変わり、ひんやりとしていて、明かりも無くて真っ暗だ。


 洞窟の奥からは、うぅぅぅぅ、あぁぁぁぁ、ひぃぃぃぃ、キャァァァァ、ギャァァァァといったような、高い声や低い声の、うめき声や悲鳴が聞こえてくる。


「カイト、大丈夫?震えているよ?レクスちゃん、明かりを出せる?」

「うん、出せるの!……ライト!!」

「うおぉぉぉい、レクス!またワシの頭か!?」

「ぎゃはははは!グランの頭が光っているぜ!!」

「あはははは、グランさんの頭は便利だね!……カイト、顔色が悪いよ?」

「だ、大丈夫だ……今ので少し、気が楽になったよ……グラン、サンキューな」

「ふん、しょうがない。今回だけだぞ」


 レクスとグランのファインプレーで、少し落ち着いた俺は、洞窟の奥に目を向けた。

 気味の悪い声は、だんだんと近づいて来ている。



 洞窟の奥は、下り坂になっているようで、声の主の頭が、まるで地面の中から出て来たように俺の視界に入って来た。


 それは、滑るように地面の上を移動していて、半透明の身体が僅かに発光している。


「あれはゴーストなの!」

「精神攻撃に気を付けるんだぜ」


 無理だ……何だ、あれは……


 頭だけの者、頭から胸までの者、腰までの者、全身が揃っている者、頭が無い者、片足が無い者などが集団で、此方に近づいて来る。


「カイトは下がってて良いよ」

「済まない、サトミ」


 サトミが大輪の花を咲かせ、棘蔓を繰り出し、葉っぱも同時に飛ばした。



「―――――――駄目だよ!当たらないよ!?」

「ゴーストは物理攻撃はすり抜けるの!!」

「サトミ!ソ○ラ○ビ○厶だ!!」

「バカじゃない!?マンガじゃないんだから、出来るわけないよ!!」

「お前がそれを言うか?」


 どうする俺?落ち着いて考えるんだ……幽霊に効果的な攻撃は何だ?

 鬼の○は?駄目だ俺の手は普通の手だ。落ち着け、落ち着け……



「なあ、カイト、いろいろと考えているようだけど、アンデットモンスターは、基本ヒールで倒せるんだぜ」

「…………エル、そういう事は早く言ってくれ」

「お化けを怖がるカイトってカワイイね」

「うん!私が人形でカイトくんの前に初めて現れた時も凄く怖がっていたの!」

「はいっ!そこっ!無駄話はしない!!」


 そうとわかれば……


「セルジュ、イメージを送るぞ。いけるか?」


(わお……うん、問題無い。何時でもおけ)


 俺は両腕を前に突き出し、魔力を集める。


 急速に大きく膨らんだ魔力球は、癒やしの光となり、通路の幅ぎりぎりで回転している。


「ヒールサンクチュアリ」


 癒やしの光は回転しながら、ゆっくりと俺の手から離れて、時速20kmくらいの速度で洞窟の奥に向かって進んで行く。



 “ヒールサンクチュアリ”が通った後は、暖かく、気持ちの安らぐ空間になった。


「ひゅぅぅぅぅぅぅぅ……」

「ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

「ああぁぁぁぁ……」


 集団で此方に向かって来ていたゴースト達は、癒やしの光に触れると、たちまちの内に浄化されて、光の粒子になっていく。



「ゴーストは何もドロップしないんだね。カイト」

「冒険者達には割に合わない階層だな」

「ねえ、ところで、あの光は何処まで行くの?」

「癒やしの光か?ゴーストとこの場所を浄化しながら、この階層の最後まで行くはずだ」


 サトミと話している間も、ゴーストが浄化されていく声が聞こえてくる。


 此処はダンジョンなのだから、今は聖域に変わったとしても、すぐにまた、ゴーストの住処に戻るんだろうな。


 雑談をしながら歩いていると、ボス部屋の前に到着したようだ。

 洞窟の突き当りには古びた扉がある。



「どうせ、ボス部屋の中もアンデットモンスターだよな。だったら、このまま癒やしの光を中に入れようと思うんだが?」

「私は良いと思うよ」

「カイトくんの思うようにやって欲しいの!」

「わかった。扉を開けるぞ」


 ギイィィィィという音を立てて古びた扉が開いた。

 中には、思った通り、ゴーストがひしめき合っている。


 俺は念の為に、癒やしの光に魔力を追加してボス部屋の中に入った。


 ボス部屋の中は広くて、癒やしの光が小さく見える。


「こんなに部屋が広いと時間が掛かりそうだな……」


 そんな事を考えていると、信じられない事に、ゴースト達が我先にと癒やしの光に飛び込んで浄化されている。

 蛍光灯の明かりに群がる蛾のようだ。



「まさか、自ら浄化を望んでいるのか?」

「もしかしたら、このゴースト達はダンジョンで命を落とした冒険者?」

「それは、あるかもしれないなの!」

「飛び込んで来ないあの一回り大きなゴーストは、きっとダンジョン産だぜ」

「ワッハッハッハ、どちらにせよカイトのヒールで倒せるがな」


 最後に残った3体の一回り大きなゴーストは、ゆらゆらと揺れる蜃気楼のような存在で、男女の区別どころか、人なのか獣なのかすら判別出来ない。


 その3体のゴーストは、癒やしの光に近づく事はしなかったので、俺はヒールサンクチュアリをキャンセルしてから、指先に魔力を集め始めた。


「来るぜ!」


 エルの警告の一瞬後に、それは起こった。


「キャァァァァァァァァァ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「アアァァァァァァァァァ」


 ゴーストの甲高い叫び声に俺の身体が硬直して、次第に震え始めた。


「あぁぁぁぁ…………ぐすっ、ごめんね快斗ぐすっ、先に死んで……ごめんね。お父さん……お母さん……ぐすっ」


 サトミが泣きながら震えて謝っている。


「サトミ、良いんだ……俺の方こそ何も出来ずにすまなかった……」

「お父さん、ぐすっ、お母さん……ごめんなさい。あぁぁぁぁ……ぐすっ、先生……注射器を壊してごめんなさい。あぁぁぁぁ」

「サトミ!?聞こえているのか?」

「加奈子ちゃん……お誕生日会に行けなくてごめんなさい。あぁぁぁぁ」


 何だ?精神攻撃なのか?


「カイトくん、早くゴーストを倒すの!!」

「そうか!わかった、行くぞセルジュ」


(うん、マスタ……)


 いつの間にか、俺の身体の震えは収まっている。

 俺は、人差し指をゴーストに向けて、レーザーサイトでマーキングした。


「ホーリーショット!!」


 指先から、白く輝く弾丸が生み出され、マーキングをしたポイントに光跡を残し命中した。


「ヒヤァァァァァァ………」


 ゴーストは気の抜けたような悲鳴を残し、粒子になって消えていった。

 

 残りのゴーストも同様に倒して、サトミの様子を見た。

 サトミは、座り込んだ状態から気を失ったのだろう。

 俺はサトミを抱き起こした。


「サトミ!サトミ!」

「あ……カイト……私」

「大丈夫か?サトミ」

「うん、大丈夫。何だか昔の夢を見ていたみたい」

「それはゴーストの精神攻撃だったみたいだぞ」

「そうなんだ、私……謝ってばかりだったアハハハ」

「大丈夫そうだな、立てるか?」

「うん!」



 レクス、エル、グランが、ゴーストの消えた場所から、大きな宝箱を持って来た。


「カイトくん、ゴーストのドロップなの!」

「何が入っているんだ?」

「カイトくん、この箱を開けると元の世界に、こちらに来る直前の元の世界に、帰る事が出来るの!」

「なんだ?それだと死ぬ直前にならないか?」

「転生者だと死ぬ直前なの!!」

「なるほど、転生者は死んで、転移者だと以前の生活に戻れるという訳だな」


 今は、使い道の無い箱だが、いつか俺がこの世界に……いや、考えるのはよそう。


 俺はアイテムボックスに大きな宝箱を仕舞って、心配そうに俺を見ているレクス達に笑って言った。


「俺はこの世界に来て良かったと思っている。今の俺はとても幸せだ。もし転移者が居て帰りたがっている時は使えるかもしれないな」

「カイトくん……うん!」





 俺達は、転移陣でダンジョンから出ると、屋台に向かってあるき出した。




「お帰りなさい、カイトさん」

「カイトさん、サトミちゃん、お帰りなさい」

「ただいま、アマンダさん、ミウラさん。屋台は……」

「もう、売れ過ぎです!アイスクリームなんて固まる暇が無いくらい売れてますよ!」

「アマンダさんは凄く喜んでいるけど、私はもうへとへとだわ……」

「アハハハ、お疲れ様。明日は休みにするか?」

「休みなんてとんでもないです!売れるときに売らないでどうするのですか!?」


 うわ〜、商人魂に火が付いちゃってるよ……


読んで頂きありがとうございました!

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