第54話 カイト、ダンジョンに行く〜3日目②
今、目の前には2匹のフンコロガシが、せっせと糞を転がしている。
「きっと、この扉から一歩でも中に入ると、あれを投げて来るんだろうな……」
「私達には近づく事さえ出来ませんでした」
「あれは、関わってはいけない奴らなんだ」
「あの虫……嫌い……」
ミヒャエラ、アンナリーナ、ナターシャは、一度ボス部屋に入ったみたいだ。
「ポポー!!ポポォォォォォ!!」
「なんだ、キナコ?」
キナコが羽根をバタバタ、バタつかせながら、勇ましく鳴いている。
「キナコ、お前があのフンコロガシと戦うと言うのか?」
「あれと戦えるなんて凄いね、キナコ!」
「ポポォォォォォ!」
「なるほど、特訓の成果を試したいんだな?」
「クルッポー」
「そうか、行ってこいキナコ!」
「ポポォォォォォ!!」
キナコは勢い良く飛んで行ったが、部屋の高さは2階建ての家くらいしか無い。
大丈夫なのだろうか…………
「あれってラージピジョンですよね?戦えるのですか?」
「無理だと思うよ。ラージピジョンは配達用のモンスターだからね」
「ん、戦わせるの、可哀想………」
ゴンッ!!
「あっ!カイト、天井にぶつかったよ」
「やっぱりな、キナコには天井が低すぎるんだ。苦戦するかもな。危なくなったら助けるぞ」
―――――――ズドドドドド
先制攻撃はキナコの5連の風の刃だ。フンコロガシも警戒していたのだろう、素早い動きで風の刃を躱して、キナコに糞を投げつけて来た。
最初の糞をキナコが躱しているうちに、フンコロガシは二手に別れて、キナコを挟み撃ちにした。
前と後ろからの糞攻撃を、キナコは、後方宙返り、錐揉み、急降下、急上昇などのアクロバティックな飛行で躱しながら、風の刃を放つ。
どうやらキナコは、目視しなくても攻撃を躱せるようになったようだ。
だが、フンコロガシも素早い動きでキナコの風の刃を躱している。
「ラージピジョンが戦えている……」
「もしかして、私達より強いんじゃないかい?」
「ん、頑張れ……キナコ」
ミヒャエラ、アンナリーナ、ナターシャはキナコの戦いに驚いているようだ。
アンドレ様は何故か上半身裸で、マッスルポーズを決めている……
「アンドレ様、何をしているのですか?」
「私は、こうやってキナコにエールを送っているのだよ。フン!フン!」
「アンドレ様……だから、やめたほうが良いって……」
「はぁ……良いですよパトリックさん。実害は無さそうだし……」
俺はアンドレ様を無視して、キナコの戦いに集中した。
「フン!フン!フン!」
「えぇぇぇい!フンフンうるさいわ!!」
まったく、後ろでフンフン、フンフン、集中出来んわ!!
「済まん、つい興奮してしまってなワッハッハッハ」
「ワッハッハッハ、ワッハッハッハ」
何故か、グランもマッスルポーズをしている。
「グラン、真似はしなくても良いからな。お前には筋肉は無いだろう?」
「そうだったな!ワッハッハッハ」
ゴォォォォォ―――ズドドドドド
俺達が馬鹿をやっていると、キナコは竜巻を作り出して、その竜巻に風の刃を打ち込んだ。
「凄い……ラージピジョンが竜巻を……」
キナコの竜巻は周りの空気を巻き込みながら、どんどん大きくなり、キナコの前方に居たフンコロガシを吸い込んだ。
竜巻の中は、風の刃が回っている。
竜巻の吸引力に負けて吸い込まれたフンコロガシは、風の刃に切り刻まれて、粒子になって消えた。
「良いぞキナコ!あと1匹だ」
フンコロガシが投げつけて来る糞を躱しながら、キナコはもう1匹のフンコロガシの真上に移動した。
「カイト、キナコの魔力が足に集中しているよ」
サトミの言葉に、注意深く観察していると、確かにキナコの魔力が足に、と言うより、足に嵌っている金色の輪っかに、集まっているようだ。
「ポポー!」
ドゴォォォォォォン
バリバリバリバリ
一瞬、部屋の中が青白く光り、空気を震わせる程の轟音と衝撃に包まれる。
えぐられた地面からは、放電が僅かに残っていて、その側でフンコロガシがひっくり返って、足をピクピクさせている。
「雷を落としたのか!?」
「そのようですねアンドレ様…………」
「ミヒャエラ、私はあんなラージピジョンは今まで見た事が無いよ」
「安心して、アンナリーナ、私もだから………」
「凄い魔法……あんなの魔族でも使えない…………」
「レクス、あの足輪なのか?」
「正解なの!カイトくん。でも、少し威力が強すぎたみたいなの!」
「少しじゃ無いだろう……だが、凄いな」
雷の直撃をぎりぎりで避けたフンコロガシだったが、その後の放電までは避けきれなかったみたいだ。
ひっくり返っているフンコロガシにキナコは風の刃でトドメを刺した。
昔、良く見た、そして俺もサトミもお世話になっていた、楽器がトレードマークの丸薬によく似た物が入った瓶をグランとエルが持って来てくれた。
「ワッハッハッハ、カイトよ、フンコロガシのドロップだ」
「良かったな、万能薬だぜ!」
これが、フンコロガシのドロップじゃ無かったら良かったのだが……
俺は何があっても飲みたく無い。
「カイト、ミヒャエラ達にあげたら?」
サトミも俺と同じ気持ちのようだ。
「良いのですか?これは物凄く高価な薬で、怪我には使えないのですが、大抵の病気なら、これを飲めば治る奇跡の薬で、滅多にドロップすることの無い貴重な薬ですよ」
「ああ、俺達には回復魔法があるからな。遠慮なく貰ってくれ」
25階層の転移部屋でアンドレ様、パトリック様、ミヒャエラ、アンナリーナは名残り惜しみながら転移陣でダンジョンの外に出た。
アンドレ様は立場上やむを得ず、光の絆のミヒャエラ、アンナリーナ、ナターシャは、ぼろぼろの装備では、これ以上進むのは危険で、こちらも、やむを得ずと言った感じだ。
そして俺とサトミとレクス、グラン、エルは26階層に続く扉の前に来ている。
扉を開くと薄暗い洞窟で、頬を撫でる、じめっとして生暖かい微風が腐臭を運んで来た。
「ここは、アンデットの階層っぽいな」
「カイトはお化け屋敷が苦手だったよね。大丈夫なの?」
「アンデットって言っても、モンスターだろ?お化けや幽霊とは違うと思うぞ」
「それなら行こうか、カイト」
サトミは俺の手を取り歩き出した。
カシャン、カシャンと薄暗い洞窟の奥から音が聞こえる……
目を凝らして良く見ると、3体の骸骨が剣と盾を持って此方に近づいていた。
「スケルトンだね。えいっ!」
サトミが蔓を鞭のようにしならせて叩くと、呆気なく3体のスケルトンはバラバラになった。
「手応えが無いんだけど……まぁ、良いっか」
「これならサクサク進めそうだな」
カタカタカタカタ……
俺とサトミが、バラバラになったスケルトンの横を通っていると、ビデオの逆再生みたいに、スケルトンが元に戻って剣を振り上げた。
「カイトくん、サトミちゃん、離れてなの!ファイアボール!!」
「うおっ!!」
「えっ!?」
「ワッハッハッハ、スケルトンはまだ消えていないぞ」
「油断し過ぎだぜ!」
そうだったな、ダンジョンのモンスターは倒したら粒子になって消えるんだった。
「サトミ、次は胸にある核を壊すんだ」
「そうか!うん、やってみる」
スケルトンとエンカウントする度に、蔓で魔核を貫くサトミと共に、26階層のボス部屋の前に到着した。
「うわ〜、大きいね」
「ああ、子供の頃にこんな感じの奴を妖怪図鑑で見たことがあるぞ……確か……何とか髑髏って名前だが思い出せないな」
「ガチャじゃない?ガチャドクロだよ!」
「おお、確か、そんな感じだったな。凄いなサトミ」
「えへへ、私は何でも知っているんだよ」
巨大なガチャドクロの前には、剣と盾で武装した、普通のスケルトン5体が、骨をカタカタ鳴らして戦闘態勢をとった。
「なぁ、カイトが言っていたのは、がしゃどくろの事だぜ」
「しっ!ここでは、ガチャドクロで良いの!」
エルとレクスが何か言っていたが良く聞こえなかった。
まぁ、たいした事では無いのだろう。
それよりもガチャドクロだ……
「行くぞサトミ。先に普通のスケルトンを倒すぞ」
「うん、わかった!蔓の槍!」
イメージするのは炎の弾丸。
レーザーサイトで魔核をマーキングする。
「ファイアショット!」
5体のスケルトンは、あっという間に光の粒子に変わった。
「何でスケルトンのドロップは骨なんだ?需要があるのか?」
「カイトは骨の使い道を考えていると良いよ。ガチャドクロは私が倒すね」
「は?あ、ああ、わかった。頑張れ」
サトミとガチャドクロの1対1の戦いだ。
俺は骨の使い道を考えながら、その戦いを見ていた。
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