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第52話 カイト、ダンジョンに行く〜2日目③

 フンコロガシに追いかけられたお陰で、随分と早く22階層に降りるボス部屋の前に到着した。


 ダイフクは砂に潜ったり、転がったりして遊んでいる。


「ダイフク、暫く遊んでいても良いぞ」

(わかったー、面白いね此処は!)

「カイト、ボス部屋に入るのか?」

「はい、アンドレ様。一緒に行きますか?」

「うむ、私達も行こう。だが、私達は見物するだけだ」

「分かりました。では、行きますよ」


 ボス部屋の扉を開けると中は砂嵐だった。

 これでは目を開ける事が出来そうにない。


 レクス達は人形だから、問題は無いとして、サトミが心配だ。


「大丈夫か、サト………ミ?」


 大丈夫みたいだな……うん、その手があったか……全く、思いつかなかったわ。


 サトミ、レクス、グラン、エルは仮面を付けている。

 俺もアイテムボックスから新月の仮面を出して、初めから分かっていたかのように、何食わぬ顔をして仮面を付けた。

 良く見えるよ……アハハハ……はぁ……


「サンドワームとツインテールスコーピオンがそこら中に居るな。砂嵐で見えにくいが」

「そうだ、カイト。此処はモンスターよりも砂嵐の方が厄介なのだ。見えない中で、どうやって四方から襲い来るモンスターを倒すのか、お手並みを拝見しようではないか」

「アンドレ様。いちいち1匹ずつ相手にするつもりはありませんよ」


 俺はアイテムボックスから新月のナイフを出して魔力を流していく。


 イメージするのは絶対零度の氷の領域。




 魔力を込めた新月のナイフは眩い位に青白く発光している。




 俺はボス部屋の中央付近に居る大きなサンドワームに、新月のナイフを投げて突き刺した。




「アブソリュートゼロ……」


ピシッピシピシピシピシピシピシ




 魔力が放出され、領域に居た全てのサンドワームとツインテールスコーピオンが一気に凍りついた。


 新月のナイフが刺さっているサンドワームは、砂の中に身体の半分が埋まっている。

 恐らく、砂の中はサンドワームの長さだけ凍りついているはずだ。


「地表が凍ったから砂嵐の砂も無くなったな」


 俺は新月の仮面を外しながら言った。


「ねえカイト、どうして私達は凍らないの?」


 俺達に、あと一歩と言う所まで来ていたツインテールスコーピオンを見ながらサトミが聞いて来た。


「えっ、何故って……魔法だから?」



 全てのモンスターが光の粒子になって、ドロップ品に変わった。


「カイトくん、階段がある部屋の扉が開いたの!!」

「行くぞ、レクス、グラン、エル」

「カイト、私は?」

「お前もだサトミ。行くぞ」

「うん!」

「ちょっと待て!今のは何だ!?」

「そうですよ、このボス部屋では例外なく、どのパーティーもボロボロになるんです。それを、たった一人の、見たことも聞いたことも無い、一回の魔法で殲滅するなんて有り得ません!」


 珍しく笑っていないパトリックさんの言葉に、アンドレ様は、うんうんと頷いている。


「一言で言うと、魔法はどれだけイメージ出来るかですよパトリックさん。見たことも聞いたことも無い魔法が、今回見られて良かったですね」

「何をどうイメージすれば良いのか、私には皆目見当も付きませんが、確かに見ることが出来たのは僥倖ですね」


 アンドレ様は、うんうんと頷いているが、分かっているのか怪しいな。

 侯爵様が脳筋では無いことを祈ろう。



 俺達は転移陣の先にある階段を下りて23階層に来た。

 此処も砂ばかりの、砂漠の階層だ。



「私は公務もあって、砂漠で時間をかける訳にもいかないのでな、まだここまでしか来た事が無いのだが、話に依ると25階層まで砂漠が続くらしいぞ。しかも次の転移陣は25階層のボス部屋まで無いそうだ」

「と言う事は、今日は行ける所まで行ってキャンプになりますね。アンドレ様は此処で帰りますか?」

「いや、最短時間で砂漠の階層を抜けられるチャンスは二度と無いだろう。お前が私の所に来れば話は別だがな。そんなつもりは無いのだろう?」

「はい、全くありません」

「ワッハッハッハ、即答だな!!」



 新月の首飾りで呼び出したダイフクに乗って、俺達は砂漠の階層を進んで行く。


「エル、此方に来てくれ」

「何だ、カイト?」


 今夜は新月の館にアンドレ・ドラクロワ侯爵とパトリックさんを連れて帰る事を、フェルナンさんとララさんに伝えてくれるようにエルに頼んだ。

 都合が悪いなら、部屋から出ないようにとも。


「砂漠に入る前にその指輪がドロップして良かったなサトミ」


 サトミは砂漠の階層に来て何度かブルーグリズリーがドロップした指輪で、ウォーターボールを作って吸収していた。


「うん、耐えられない事もないんだけど、せっかく水の指輪があるんだから使わないとね」

「カイト、伝えて来たぜ。ついでにアマンダとミウラにもな」

「ああ、エルありがとう」



 23階層でもサンドワームとツインテールスコーピオンが襲って来たが、

レクスの魔法とサトミの棘蔓で倒して進んで行く。


「この砂漠の階層を徒歩で攻略する冒険者は大変だね」

「そうだなサトミ。俺達にはダイフクが居てくれて良かったな」

「この砂漠では、今まで多くの冒険者が命を落としているからな。お前のように楽をしている奴なんて初めてだ」

「アンドレ様、これから砂漠で乗って移動出来るモンスターをテイム出来るテイマーを育ててみてはどうですか?」

「パトリック!それは良い考えだな。そうすれば、砂漠で命を落とす冒険者も随分と減るはずだ!」


 俺の行動が役にたったみたいで良かった。


(カイト、前から変なのが来るよ)


「何だあれは……サボテンか?」

「カイト、あれはサボテンマンだ。針を飛ばして来るぞ。ドロップは水だ」

「水なら俺達には必要ないですね」

「それなら私に任せて」


 サトミは先頭のサボテンマンを蔓で捕まえ、何かを念じている。

 すると、サボテンマン達は両脇に逸れて俺達に道を空けた。


「何が、どうなっているのだ!?」

「サトミはドリアードですから格下の植物に命令が出来るんだと思いますよ」





 モンスターを倒しながら進んで行く内に日が暮れてきた。


「今日はここまでにして、野営の準備をするとしよう」

「アンドレ様、野営の準備はしなくても大丈夫ですよ。今から、転移で俺の家に帰りますから、ご招待しますよ」


 アンドレ様とパトリックさんは、訝しげな顔をして俺を見ている。


「何を言っているのか、理解が出来ないのだが?」

「言っても分からないのなら、体験して下さい。行きますよ」


(コンセ、アンドレ様とパトリックさんを連れて、新月の館に転移だ)

(了解、マスター。3,2,1,転移

!)


 今度のコンセはノリが良いな……




「うお!?何だ、どうなった?本当に転移したのか?」

「アンドレ様!屋敷です!お屋敷がありますよ!」

「うむぅ……カイトよ、お前はいったい何者だ?」

「ただのBランク冒険者ですよ。さあ、アンドレ様、此方です」


 レクス、グラン、エルが先に屋敷に入り、フェルナンさんに知らせてくれたのだろう。

 フェルナンさん、ララさん、メロディーちゃんが扉を開けて出迎えてくれた。


「おかえりなさいませ、カイト様」

「ただいま。ララさん、お客様のご案内をお願いします」

「畏まりました。アンドレ様、パトリック様、どうぞ此方へ」


 何処へ案内するのか分からないが、ララさんに任せておけば大丈夫だろう。


「フェルナンさん、部屋から出ていても大丈夫なようですね」

「はい、ドラクロワ様は前の主と同じ派閥で、いつも気に掛けていて下さいました」

「そうですか。その後の事を聞くことが出来たら良いですね」

「はい、お気遣いありがとうございます」




 夕食の準備がまだだと言う事で、俺も手伝う事にした。


 先ず、前菜に塩茹でしたツインテールスコーピオンの爪の肉をほぐし、卵白を泡立てたメレンゲと合わせて、スプーンですくって天板に並べてオーブンで焼く。


 ソースはダンジョン牛乳で薄めたホワイトソースにサフランを少し入れた、良い香りの黄色いソースだ。



 スープはララさんにお願いして、野菜がたっぷり入った豆のスープを作ってもらった。


 俺は漁村でもらった白身魚にパン粉を付けてフライにして、タルタルソースを添えておく。


 サラダはララさんにお任せして、俺は人参で作ったドレッシングを用意した。



 肉料理はダンジョンでドロップした、一角牛の極上霜降り肉を、余計な事はせずに、普通にステーキにした。

 そして、ガーリックチップを上から散らして、付け合わせは、マッシュポテトとオニオンリングのフライだ。


 デザートは、プリンとアイスクリームとダンジョンフルーツの、プリンアラモードにした。


「カイト様は何処でこの様なお料理を習われたのですか?」

「俺が昔居た、遠い島国で少しだけ。あとは我流ですよ」

「出来れば教えて頂きたいのですが」

「レシピをいくつか書いていますから、後で渡しますよ」

「ありがとうございます。美味しいお料理を沢山覚えて、皆様に満足して頂きたく思います」






「うーむ、実に美味かった。あのデザートは、うちの料理人に教えて貰いたいもんだ。この屋敷と腕の良い料理人。本当に何者なんだ、お前は?」

「この料理は俺と、ララさんで作った物ですよ。それと、さっきも言ったように俺は普通の冒険者ですから」

「誰が普通なのかしら?」

「アマンダさん!?」

「本当の普通の冒険者に失礼ですよね」

「ちょっ!ミウラさんまで何を言っているのかな!?」

「カイトが普通なら、他の冒険者は皆、普通以下の冒険者になるよね」

「おい、サトミ!後で体育館の裏に来いや!」

「ワッハッハッハ、ワーッハッハッハッハ、愉快、愉快。カイトよ、この娘らの言う通りだと思うぞ。ワッハッハッハ。精々、普通よりは上の冒険者にしておくんだな。ワッハッハッハ」





 侯爵様と俺達は場所を移して、2階のリビングでお茶を飲みながら、話している。


「しかし、此処にフェルナン達が居たのには驚いたぞ。カイトには礼をせねばならんな」

「俺の好きでやったことです。礼はいりませんよ」

「そうも行くまい。子爵はフェルナン達の事を、酷く気に掛けていたからな。子爵はお前達に、良い勤め先を紹介してやって欲しいと、私に言っておったが、お前達はどうしたい?」

「子爵様がそう仰っていらしたのでしたら、私共はカイト様の元で働きたく思います」

「だそうだ、カイトよ」

「俺はそれでも構いませんが、フェルナンさんは主が冒険者でも良いのですか?」

「高ランク冒険者には、使用人が仕えていても珍しくはありませんから、カイト様さえ宜しければ、お仕えさせて頂きたく思います」


 そんな訳で、フェルナンさん家族が新月の館で働く事になった。

 


読んで頂きありがとうございました。

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