第50話 カイト、ダンジョンに行く〜2日目①
昨夜の霜降り肉のステーキは絶品だった。
思わず、お代わりをしたほどだ。
ララさんと、メロディーちゃんに手伝ってもらって、プリンとロールケーキも大量に作った。屋台の準備も万全だ。
プリンとロールケーキの作り方を覚えたララさんと、メロディーちゃんが、手隙の時に作ってくれて、アイテムボックスに送ってくれる事になった。
グランには、アイテムボックスに直通の箱を作ってもらって、館のキッチンに備え付けた。
そして、もう一つグランに作ってもらった物がある。
「ワッハッハッハー、カイトよ、どうだこいつの出来は?」
それは腰の高さ程もある長方形の箱で、箱の中は直径20cmの筒が2つ並んで入っている。
「ああ、形も大きさも文句無しだ。流石グランだな」
「そうだろうとも。外側の箱はドラゴンの鱗を加工して、耐熱と清潔の付与魔法が施してあるぞ。そして、中の筒はな、ミスリル製で氷結と清潔の魔法を付与しているスグレモノだ。勿論、全体に不壊も付与してあるぞ」
俺は早速、ダンジョンでドロップしたミルクと卵と砂糖を温めてから冷ましたアイスクリームの液を筒に流し入れた。
「グラン、混ぜる為の棒は何処だ?」
「外の箱と筒の間に差し込んでいるぞ。木製だが、清潔の付与が施してあるぞ」
先端から中程まで、所々に突起の付いた棒で筒の中を混ぜる。
「早いな、もう固まってきたぞ。それに軽く混ぜられるのが良いぞ」
ある程度固まったら、2つ目の筒にも同じように液を流し入れ混ぜる。
商業ギルドに野菜と魚を卸して、屋台の場所に行き、昨夜作ったプリンとロールケーキを大量に冷蔵庫に入れて、アイスクリームの箱のセッティングを終わらせた。
アイスクリームの作り方は、アマンダさんとミウラさんに教えてあるから、無くなったら補充してくれるだろう。
「サトミ、レクス、グラン、エル、ダンジョンに行くぞ」
ダンジョンまで歩いて行き、詰所でギルドカードを提示して、転移魔法陣の中に入った。
「此処からは森の中だ。警戒しながら行くぞ。って、おい!」
レクス、グラン、エルがまた走って行った。
「はぁ……走るのが好きだな。行くぞサトミ……サトミ?」
サトミを呼んでも返事が無いので振り向いてみると、木の中に頭を突っ込んで、何やらブツブツと呟いている。
「何をしているんだ?」
聞こえていないのか、返事が無い。
仕方が無いので、暫く待っていると、スポンッと木から頭を引き抜いた。
引き抜いた木を見てみると、何処にも穴なんて開いていなかった。
「サトミ、何を不思議な事をしているんだ?」
「うーん、情報収集……かな?あと、トレントがこの先に居るんだけど、死にたく無かったら手を出すなって言っておいたよ」
「そんな事も出来るのかよ……」
「森の木は根が絡まっているから、情報が共有できるんだよ。根ットワークだね」
「はいはい、ほら、行くぞ」
先に進んで行くと明らかにトレントが道を空けている。
サトミが前を通るとトレントがお辞儀をしている。
「ドリアードって凄いんだな」
「でしょ、でしょ、もっと褒めて良いんだよ?」
「調子に乗りすぎだ」
おでこに軽くデコピンをする。
「テヘッ」
サトミのテヘペロはカワイイな。
「この先に美味しい果物が成っているんだって。特別に好きなだけ取って良いって言っていたよ」
「おお、それは嬉しいな」
少し歩いただけで芳醇な果物の香りが漂ってきた。
「良い香りだね」
「見えて来たぞ、凄いな……」
そこは果樹園って言うよりも楽園の方が似合いそうな所だ。
色とりどりの果実が実った木が辺り一面に広がっている。
「桃に林檎に梨……葡萄と柿と栗も有るぞ。それに、洋梨、苺、西瓜、メロン……季節感まるっきし無視だな!」
「カイト、好きなだけくれるって言っていたから、いっぱい貰って帰ろうね!」
「レクス、グラン、エル、食べながらで良いから、いっぱい取ってきてくれ。俺達も収穫だ、サトミ」
俺達は時間も忘れて果物を取りまくっていると、地上からは見えない、一際大きな木の先端の方から、大きなトレントが金色の果実を5個もぎ取り、サトミに手渡した。
「これは?」
「カイトくん、サトミちゃん、生命の実なの!この実を絞って死んだ人の口に流し込むと魂が戻って来るの!」
「生き返るって事か?とんでもない果物だな」
「カイトのアイテムボックスに入れておいて」
「分かった。使う時が来ない事を祈るよ。さてと、果物も沢山取ったし、先に進もうか」
俺達は、果樹とトレントに手を振って楽園を後にした。
(マスター、進行方向にホーンウルフの群れが居るよー)
「わかったコンセ。皆んなホーンウルフの群れが来るぞ」
森の中で新月の刀は振れないから、新月のナイフを右手に、鞘を左手に持った。
遭遇したホーンウルフは、群れで行動していて、此方に気がついたホーンウルフは、当然襲い掛かって来た。
「行くぞ、サトミ」
「うん」
森の木を巧みに使い、姿を隠しながら四方から襲い掛かって来るホーンウルフの角と牙を、ぎりぎりで躱しながら、新月のナイフで首を切り裂いていく。
「サトミ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。カイトは流石に傭兵をやっていただけあるね。映画のアクションシーンを見ているみたい」
「随分余裕だな」
サトミは大きな花を咲かせ、無数の棘蔓で木々を縫ってホーンウルフを捕まえてはエナジーを吸い取っていた。
そして、サトミの後ろにはトレントが居て、ホーンウルフを太い枝で殴り飛ばしている。
「この子達が手伝ってくれているんだよ」
「驚きだな!!」
本来なら、トレントはダンジョンに来た冒険者達を襲うんだろうが、今回はドリアードのサトミに協力している。
「サトミはチート過ぎないか!?」
「私もそう思うの!!」
レクスは空中に浮かんで、氷の狼フェンリルを操り、ホーンウルフを1匹ずつ確実に凍らせている。
「サトミは三つの世界を渡っただけあるなワッハッハッハッ、それっ!!」
グランはいつもの大きいハンマーではなく、小槌を両手に持ってホーンウルフを空に打ち上げている。
「神の領域に片足を突っ込んでいるんじゃないかと思うぜアハハハハ、エイッ!!」
エルは赤い闘気を纏った脚でホーンウルフを蹴って、空に打ち上げている。
「どうでも良いけど、お前等はモンスターを空に打ち上げるのが好きだな……ハッ!」
「なかなか爽快な気分になるんだぜッ」
「ワッハッハッハ、ワシの仕事道具だが、この小槌もなかなかのモンだろう!」
「神に片足を突っ込んでいるのはカイトだよ。だって、ポケットの世界を管理しているもの」
「ハッ、それは言えてるぜ。アハハハハ」
「いずれはカイトもワシらの仲間になるさ。っと!」
「それはカイトくん次第なの!!」
話している内に、ホーンウルフは全て、ドロップ品になった。
ドロップ品は主に魔石と角だった。
歯牙にも掛けられなかったホーンウルフが少し哀れに思えて来た。
「グアオオオオオ」
次に現れたのは、1匹の巨大なブルーグリズリーだ、エンカウントと同時に口からウォーターボールを放ってきた。
咄嗟のことで、裏拳で弾いたけど、辺りは水浸しだ。新月のコートは濡れないから良いのだが、頭からは水滴が落ちている。
「チッ、髪の毛がビシャビシャになったじゃないか!」
レクス達は清潔の付与魔法で濡れていない。
「サトミは濡れなかったか?」
「濡れたけど大丈夫だよ」
びしょ濡れのサトミは水分を吸収して、いつもの状態に戻った。
「ドリアードってどれだけ万能なんだよ……」
俺は、お返しにウォーターカッターで、ブルーグリズリーの首を落とし、ドロップ品の指輪を回収した。
サトミは俺の頭に手を載せて水分を吸収して、乾かしてくれた。
「ありがとうサトミ、ドロップ品は指輪だったぞ」
俺は指輪をサトミに渡した。
「その指輪にはウォーターボールの付与魔法が掛かっているの!」
「と言う事は、この指輪を付けるとウォーターボールが使えるのか?」
「そうなのカイトくん!ウォーターボールが使えるの!」
「サトミ、やってみろ」
「うん、ウォーターボール!」
サトミは、掌を前に突き出しウォーターボールと、魔法名を唱えた。
「あっ!」
掌に出来た水球は、またたく間にサトミの掌に吸収されてしまった。
「えっ!?吸収されたのか?」
「うん、私には使えないみたい……」
「まあ、なんだ……身体が乾いたら使えば良いんじゃないか?」
「あっ、そうだね!これは嬉しいかも!」
15階層の森を抜けて、ボス部屋に入ると、そこには巨大なトレントが居た。
トレントはサトミに一礼すると、光の粒子になり、木刀をドロップした。
「こんな事も有るんだな……」
「トレントは友達みたいなものだから、あの子達も私と戦いたくないのだと思うよ」
16階層から20階層は吸血コウモリの洞窟、夜の草原、夜の森だった。
夜の草原と森でエンカウントするのは、ほぼウルフ系のモンスターで、何も特筆すべき事は無かった。
夜の草原には牛も羊も居なかったのもあって、足早に駆け抜けた。
20階層のボス部屋の前の安全地帯で、昼食にした。
「今日はララさんがサンドイッチを作ってくれたから、それと、何かフルーツを食べよう」
「私は桃が食べたいな」
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