第5話 カイト、ローランド商会に行く
続けての投稿です。
列に並び、順番を待っている間に神界ルートの事を考えていると名前を呼ばれた。
「カイトさん、考え事ですか?」
「ああ、すみません、何でもないです」
「依頼の達成報告ですよね?」
「ああ、オークが113体とオークジェネラルが4体にオークキングが1体です」
「はっ?」
「オークが113体とオークジェネラルが4体にオークキングが1体です」
「はっ?」
「だから、オークが113体とオークジェネラルが……」
「ちょっ、ちょっと待ってください。何ですかそれは?何があったんですか?」
「ああ、オークの集落が有ったから、チョチョイと潰して来たんですが、何か?」
「何か?じゃ無いですよ!集落を見つけたのにギルドに報告しないで一人で討伐に行ったのですか?怪我とかして無いんですか?何で、何で一人で行ってこんなに早く帰って来れるんですか?はぁ…はぁ…」
「もしかして怒ってます?」
「はぁ、怒ってはいませんけど、普通は集落を見つけたらギルドに報告するものなんです。それからギルドが討伐隊を組織してから討伐に向かうんです。それをチョチョイ?何ですか、チョチョイって?」
「でも、ローランドさんを助けた時間も含めて、30分くらいで終わりましたよ」
「はぁ、30分って……有り得ないわ……って、ローランドさんを助けたって、どういう事ですか?」
「集落に攫われていたんですよ。それより収納にオークが入っているのですが、解体してもらえたりします?」
「はぁ、解体場に案内しますから、一緒に来てください」
「わかりました。ミウラさん、溜息が多いと幸せが逃げていきますよ」
「誰のせいだと思っているんですか?誰の。あなたですよカイトさん、わかっていますか?」
「はあ、なんか、すみません」
「ラウルさん」
「おう、ミウラちゃん、どうした?」
「此方はカイトさんですが、オークが大量に有ると言うことで、案内して来ました。あと、ちゃんは、やめてくださいね、ちゃんは」
「おう、そうか丁度、暇にしてた所だ。カイトだったな、俺はラウル、オークは、あそこの冷蔵所に出してくれ」
「それじゃあカイトさん、数が多いので討伐報酬と買い取り代金は、明日支払いますね」
「はい、ありがとうございました」
冷蔵所にオークを113体とオークジェネラル4体とオークキング1体を出してギルドを出た。
「丁度良い時間になったな」
「今日は面白かったね、カイトくん!」
ローランド商会は、大通りを真っ直ぐ東に進み、詰所を過ぎて少し歩くと見えて来るらしい。
「レクス、見えて来たぞ」
「大きな看板だね、カイトくん!」
「何を売ってるんだろう?入るぞレクス」
店内に入って見回してみる。
広々とした店内には左手に日用雑貨、食料品、食器、衣類が、陳列されており、数人の客が買い物を楽しんでいる。
右手は少し狭い売り場になっており、武器、防具、野営道具などが陳列されており、此方は冒険者のパーティーだろうか、賑やかに品定めをしている。
会計カウンターに座っている20歳前後の、眼鏡を掛けた真面目そうな青年に声を掛けた。
「カイトと言いますが、ローランドさんは、いらっしゃいますか?」
「カイトさんですね。伺っております。只今、ローランドは来客中ですので、宜しければ店内を見ていて貰いたいとの言付けを承っております」
「わかりました。気に入った物が有れば購入させて頂きます」
俺は買い物かごを持ち、先ず日用雑貨コーナーに向かった。
「品揃えが良いな、レクスは欲しい物は有るか?」
「私は人形だよ、カイトくん!欲しい物なんて無いよ!」
「それもそうか」
それに、女神さまだから欲しい物は神界ルートで輸入してるのかな?
あっ、石鹸が有るぞ。1個が銀貨1枚は高いけど買いだな。
買い物かごに石鹸を5個入れて歩きながら陳列を見る。
カゴの中には石鹸が5個、タワシが2個、鍋が大中小、各1個、フライパンが大小、各1個、木皿数枚、木製のスプーンとフォークを適当な量入れたところで、レクスにズボンの裾を引かれた。
「どうした、レクス」
「カイトくん、来て!」
レクスの後を付いて行くと衣類コーナーだった。
「服が欲しいのか?レクス」
「違うの、このコートなの!」
レクスの指差すコートを見ると、フード付きで薄手の黒いコートだ。
裏地は白で、袖口は少し広くなっていて金糸で刺繍が施されている。
ウエストが若干絞られていて、金糸で縁取りされた黒いベルトが通っている。
後ろはスリットが深く入っていて、刀を差していても動きやすそうだ。
「このコートがどうかしたか?」
「このコートはね、私が作ったっていうか、鍛冶神に私が作らせたの」
カミングアウト!?
ってか、鍛冶神!?
「カイトくんの刀と同じなの!名は"新月のコート"で、不壊、清潔、完全防水、温度調節、使用者限定、物理耐性、魔法耐性の付与がされているの!」
「付与がてんこ盛りだなっ!」
「このコートをカイトくんに買って貰いたいの!」
これだけ付与されたコートだから、かなりの金額になりそうだな。
金額は……安っ、金貨1枚?何で?
「レクス、このコートは、金貨1枚だ。何かの間違いじゃなければな」
「安っ、金貨1枚?なんでなの?」
そうなるよな、やっぱり。
「もしかしたら使用者限定の付与で、誰も着られないからかな?」
「カイトくん、もしかしたら中二病デザインだからじゃない!?」
かっこいいコートだな、と思ったのは黙っていよう。
兎に角このコートも買い物かごに入れる。
「カイト君、お待たせしました。
お買い物は楽しまれましたか?さあ、どうぞ、こちらに」
ローランドさんがやって来て、俺から買い物かごを受け取り、店員さんに包むように命じる。
「おや、このコートは試着されましたか?」
「いいえ、試着はしていませんが」
「このコートは何らかの魔法が付与されていて、手で持つと軽いのですが袖を通すと歩けない程に重くなるのです」
「だから安かったんですね」
「はい、そうです。カイト君、袖を通してみてください」
袖を通してみる。普通に着られた。
「ローランドさん、普通に着られましたよ」
「そうですか。それならば良かったです。そのまま着ていては如何ですか?」
「そうですね、着たままでいます。代金は全部でいくらですか?」
「今回は助けて頂いたお礼として私に奢らせてください。本当だと、この店の全商品でも足りないくらい感謝しているのです」
「そう言われると断る訳にはいきませんね」
「はい、断らないで頂きたいです。ハハハ、では、準備も出来た頃でしょう。どうぞ、こちらに」
ローランドさんに案内されて奥の食堂に入ると、そこには30歳くらいで、赤い髪を後ろで束ねた、青い目の美人の奥さん、ロイズさんと、どちらも赤い髪で青い目のリック君と、髪の長いルーシーちゃんが座っていた。
「冒険者のカイトです。本日はお招き頂き、ありがとうございます」
「さあ、カイト君、堅苦しい挨拶はこの辺にして、座って下さい」
テーブルの上には、ワインと綺麗に盛り付けられた前菜。コース料理だろうか。
ローランドさん一家と当たり障りの無い話をしながら、ナイフとフォークを使い食事を楽しんでいると、テーブルマナーの話になった。
「カイト君は何処かの貴族のご子息でしたか?」
「違いますが、どうしてですか?」
「言葉遣いが丁寧で、食事の作法も、とても綺麗ですから」
「俺の育った国は、とても遠い所に有って、そこでは平民でも学校に通い、確りと教育がなされているからだと思いますよ」
「それは素晴らしいお国ですね」
「ええ、だけど、事情が有り国から出てきた訳です」
「そうですか。では、余計な詮索はしないでおきましょう」
「ありがとうございます。助かります」
異世界なんて説明し難いからな。ローランドさんは本当に良い人だ。
「ところで、今日はお土産にデザートを持って来たのですが、もし宜しければ如何ですか?」
「これは、気を使わせたみたいで申し訳無いですね。折角ですから頂きましょう」
アイテムボックスからプリンを人数分出して、給仕の人にスプーンを添えて出してもらえるようにお願いする。
「まあ、これは、何ですか?」
「奥さん、俺の母国のお菓子で、プリンと言うものです。どうぞ召し上がって下さい」
一口食べて全員が目を丸くする。
「「美味しい、美味しい!」」
子供たちにも大好評みたいだ。
「本当に美味しいわ。あぁ、蕩けちゃいそう」
奥さんが何だか色っぽい。
気に入ってもらえたようで良かった。
「カイト君、このプリンと言う物は、実に美味しい。これは……」
「ローランドさん、商売の話は無しでお願いします」
「そうですよ、あなたったら、すぐに商売の事ばかりなんですから」
「いやー、そうですねカイト君。失礼しました」
川のせせらぎ亭への帰り道に新月のコートについてレクスに聞いてみる。
「これはね、150年前の転生者に送った物だよ!戦う事が苦手な人だったから身を守る為にね!」
「なるほどな、しかし何故、使用者限定のコートを俺が着ることが出来たんだ?」
「そんなの簡単だよ!カイトくんが転生者だからだよ!」
翌朝、何時もより遅く起きて朝食を食べる。スクランブルエッグの横に焼いた厚切りベーコンが有った。
「昨日のプリンのお礼だよ」
「ごちそうさま。美味しかった」
メアリーに鍵を預けて冒険者ギルドに向かう。
「おはようございます、カイトさん。少し待っていて貰えますか?」
「はい、わかりました」
俺はクエストボードを見ながら待つ事にした。
「ゴブリン討伐に薬草採取なんか暇潰しに良さそうだ」
「カイトくんの場合、それだけで終わりそうに無いけどね!」
「おい、フラグを立てるな!」
まったく、女神が言うと本当になりそうで怖いわ。
読んで下さった方、有り難うございます。
ラウル(冒険者ギルドザルク支部の解体師)