第47話 カイト、ダンジョンに行く〜1日目①
屋台の手続きと視察の為に、アマンダさんは商業ギルドに行った。
俺と、ミウラさん、サトミ、レクス達は冒険者ギルドにやって来た。
バローの冒険者ギルドは3階建てで、敷地も広いが建物も大きい。
ドアを開けて中に入ると、区役所のような規模で窓口が等間隔で端から端までズラリと並んでいる。
そして、どの窓口にも冒険者が列を作っている。
窓口の対面には、クエストボード、掲示板、告知板、商店の広告などがあり、2階には飲食スペースが見える。
ギルドに入ってきた俺達を見て、掲示板の前に居た、いかついモヒカンマッチョな世紀末スタイルの大男が俺の前に来た。
「お前は見ない顔だな。ダンジョンは初めてか?」
「ああ、今日、この街に着いたばかりだ」
「そうか、俺はAランク冒険者のバーグマンだ。“暁”と言うクランのリーダーをしている」
「俺はBランク冒険者のカイトだ。旅の途中で立ち寄ったんだが、ダンジョンにも入って見ようと思っているんだ」
「そうか、旅の途中と言う事は、クランには入らないのか?」
「ああ、俺はソロで行こうと思っている」
「わかった。Bランクなら大丈夫だと思うが、無理はするな。お前はクランメンバーでは無いが、困った事や、わからない事があったら俺の所に来い」
見かけによらず良い奴だな。
“暁”のバーグマンか、覚えておこう。もっとも、あの顔と世紀末スタイルは忘れられないだろうがな。
「カイトさん、私はギルドマスターに挨拶に行って来ます」
「ああ、わかった」
受付カウンターの列に並んで“ダンジョンでの心得”を手に入れた。
因みに銀貨2枚だった。高いのか安いのか良くわからない値段だ。
2階の飲食スペースに行き、紅茶を飲みながら読んでみることにした。
ショッピングモールのフードコートのような所で、いかつい冒険者達が、お茶を飲んだり、食事をしている。
――――――違和感しか無い。
俺は1階が見下ろせるテーブルに行き“ダンジョンでの心得”を開いた。
レクス、グラン、エル、マックニャンは手すりに座って1階の喧騒を眺めている。
「カイト、何だか此処って……」
「言うな、サトミ。言いたい事は分かっている」
「そうだね、言っちゃうと笑いが止まらなそう。その冊子、私にも見せて」
二人で並んで“ダンジョンでの心得”を読んでみた。
地図は役に立つが5層までしか添付されていない。それ以上は別売りで買うみたいだ。
それ以外は、注意事項ばかり書いてある。
まあ、だいたいこんな物だろう。
レクスが1階に手を振っているので、何かあるのかと思えば、アマンダさんが、冒険者ギルドに入って来ていた。
レクスを見つけたアマンダさんは、足早に2階のフードコートにやって来た。
アマンダさんの表情を見ても、何も変わった所はない。
この場所に違和感を感じるのは転生者だけのようだ。
「カイトさん、屋台ですけど、常設での契約ができましたよ」
「と言う事は、置きっぱなしにしていても良いんだな?」
「はい常設スペースは地代は高めですけど、夜間警備がしっかりしているので安心です」
「それなら良かった。と言っても、あの屋台は俺と俺の関係者しか動かせないし、壊すことも出来ないんだがな」
「屋台まで国宝級ですか!?」
サトミとアマンダさんはこのフードコートに居ても全く違和感がない。
うん、周りの連中は見ないようにしよう。
と思ったら、違和感の方が俺の視界に入って来た。
「おい、お前等は冒険者か?」
むさ苦しい男3人が、卑下た笑いを浮べながらサトミとアマンダさんを見ている。
否、一人だけ俺の頭から爪先まで舐めるように見ている。うわぁ……
「違います……」
「なら、こんな所に居ないで俺達と遊びに行こうぜ。イッヒッヒッヒ」
「いや、此処で人を待っているので無理です!!」
俺はそう言って辺りを見回すと、2人の世紀末スタイルが目に入り、顔を確かめると、2人ともモヒカンマッチョで自信がなくなったが、思い切って呼んでみた。
「バーグマンさん!!」
「おう、カイトか」
良かった……バーグマンさんで良かった。
「チッ、バーグマンの連れかよ。行くぞ」
むさ苦しい男3人は俺達の前から去っていき、バーグマンさんはその3人を見て、納得顔をしている。
「どうやら俺は良いところに来たようだな」
「此処で揉め事を起こす訳にも行かないので助かった」
「俺達は、飯を食ったらダンジョンに入るんだが、カイトはどうするんだ?」
「俺はまだやる事があるから明日の朝に入ろうと思う」
「カイトさん、お待たせしました。すみません、お話中でしたか?」
ミウラさんはギルドマスターの挨拶が終わったようだ。
「いや、此方も今終わったばかりだ。バーグマンさん、それじゃあこれで」
「ああ、明日は無理をするんじゃ無いぞ」
「ねえ、ねえ、カイト。バーグマンさんのクランって皆んな世紀末してるのかな?」
「かもしれないな。あんな見た目なのに良い人だよな」
「カイトさん、私も気になってバーグマンさんの事をギルドマスターに聞いてみたら、面倒見が良くて、おせっかい焼きの、真っ直ぐな性格の人らしいですよ」
「人は見かけによりませんね。あの服はオーダーメイドなのかしら、冒険者の装備として……………」
アマンダさんが何かブツブツ言っているけど、あんな服を作っても売れないと思うぞ。
人通りの多い大通りの一画に、常設エリアがあり、大勢の客で賑わっている。
「カイトさん、此処に屋台をお願いします」
俺はアイテムボックスから新月の屋台を出して、焼き魚とフライドポテト用にセッティングをした。
周りを見ると、女性の冒険者や商店の従業員も多く歩いているようなので、暇なときに作っておいたプリンとロールケーキを大量に冷蔵庫に入れておいた。
「二人共、プリンもロールケーキも食べても良いが、食べ過ぎたらどうなるか分かっているよな?」
「ポケット草原を走らないといけないのですよね?」
「そう言う事だ。オークみたいになりたく無いだろ?」
アマンダさんとミウラさんは何度も頷いている。
「ワッハッハッハ、アマンダよこのマジックボックスに魚を入れると良い。箱の中は時間が止まっているから、何年経っても新鮮なままだぞ」
「あ、ありがとうございます。グランさん」
グランは自重しないな。いつの間に作ったんだ?
今日は、念入りに朝の訓練をしてから、ララさんが作ってくれた朝食の、オーク肉とトマトのサンドイッチを食べて、商業ギルドに野菜と魚を卸に行った。
そこで、アマンダさんとミウラさんとマックニャンと別れて、俺はダンジョンに向った。
マックニャンは本人の希望で護衛に残った。
理由は多分、魚だろう。
ダンジョンの入口には詰所があって、衛兵とギルド職員が詰めている。
ギルド職員にギルドカードを提示したら、いよいよダンジョンだ。
ギルド職員の説明では、各階層のボスを倒すと次の部屋の扉が開き、そこにある魔法陣に入ると、ダンジョンの入口に戻れるそうだ。
そして、次に入る時は前回の続きから始められるそうだ。
「行こうかサトミ、レクス、グラン、エル」
ダイフク、キナコ、ワラビはポケット草原で遊んでいる。
中に入ると、高速道路のトンネル程もある洞窟で全体が淡く光っている。
暫く歩くと、スライムが5匹現れた。
「カイト、私が倒すよ。良い?」
「ああ、良いぞ」
サトミが両手を高く上げると、緑色の髪の毛がフワッと浮き上がり、サトミの周りに、ふわふわと漂う十数枚の葉っぱが現れた。
サトミは両手をスライムに向けて振り下ろした。
「えいっ!はっぱ○ッ○ー」
「ポ○モ○かっ!?」
勢いよく飛んでいった葉っぱは、5匹のスライムを切り刻んだ。
そして、スライムは消えて、5個の魔石がドロップした。
「サトミ、技の名前は変えた方が良いぞ……」
「えーっ!?じゃあ“はっぱ”で良いや。分かりやすいしね。えへへ」
良いのかそれで……リーフサイクロンとかマジで考えてた俺って………
「つ○のむ○!!」
「だから、ポ○モ○じゃ無いんだから!!」
「じゃあ、ムチ!えいっ!とげムチ!ヤリーッ!はっぱっ!」
奥に進むにつれて、スライムの湧いて出る数も増えたが、サトミが蔓で突き刺したり、叩きつけたりして魔石に変えていった。
「ここまで、あっという間だったね」
「低ランクモンスターばかりだったからな。俺はまだ何もしていないぞ」
「私達も何もしていないの!」
今は10階層のボス部屋の前の安全地帯だ。
「各階層がサクサク進めるくらい難易度が低いから、10階層毎のボスは強力かもしれないな。此処からはレクス達も出番があるかもしれないぞ」
「私達はカイトくんとサトミちゃんのフォローだけで良いの!まずは二人に楽しんでもらいたいの!」
「そうか、わかった。サトミ、ボス部屋だ。気合を入れて行くぞ!」
「うん!行こうー!」
読んで頂きありがとうございました!
バーグマン(Aランク冒険者、クラン暁のリーダー)