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第46話 カイト、ダンジョンの街バローに行く②

「お帰りなさいませ、カイト様」


 館に帰るとフェルナンさん、ララさん、メロディーちゃんが出迎えてくれた。


「ただいま帰りました。何か変わった事は有りませんでしたか?」


 ある訳無いと思うけど、一応聞いてみた。


「はい、変わった事は特には無かったのですが、ララが食材の買い出しに行きたいと言っておりまして……」

「分かりました。ララさん、リビングにお茶をお願いします」

「畏まりました。カイト様」


 隠れている身としては、街に出る訳にもいかないし、どうしたもんか……


「それで、ララさんはどういった物を買いに行きたいのですか?」

「カイト様が用意してくれた食材は、どれも上等の物や高級品ばかりで、私達使用人が口にして良いものではありません。なので、品質の劣る安い食材を買いに行きたいのです」

「却下します」

「ガ―――――ン!!何故ですか?」


 口で“ガ――――ン”って言う人始めて見たよ!


「普通の食材も高級な食材も有り余るほど此処には有るからですよ。しかも、どんどん増えていって消費が間に合わないのです。だから、珍しい物や食べてみたい物以外は、此処にある物で我慢して下さい。それと……」


 俺は、ポケット農村と漁村の事を、フェルナンさん、ララさん、メロディーちゃんに分かりやすく説明して、魔力をポケットに流してもらった。



「綺麗……なんて、素晴らしい所なんでしょう」


 俺達はポケット農村に来ている。


 農具を背に背負い、家路につく農民達が、俺達に気が付いたようで、足早に此処に向かって来た。


「これは、これは、カイト様、ようこそお出で下さいました」

「皆さん、お疲れ様でした。見たところ、米の収穫も間近な様ですね」

「カイト様のおかげで、出来の良い米が大豊作ですじゃ」

「それは、楽しみですね。大変な作業ですが、頑張って下さい」

「ええ、ええ、それはもう、カイト様に食べて頂きたくて、儂らも頑張っておりますじゃ」


 農民達は、何度も御辞儀をしながら、家に帰って行った。


「皆さん、いきいきとしていますね。此処がカイト様の農村なのですね。とても素晴らしい所です」

「カイト様がとても慕われているのがわかります」




 村長が平伏している…………


「カイト様、良くぞいらして下さいました。ははぁぁぁ」

「村長さん、楽しいですか?」

「はい、それはもう、この上ない至福に御座います。ははぁぁぁ」


 アマンダさんは後ろでクスクス笑っている。


 村長宅で、フェルナンさん、ララさん、メロディーちゃんを紹介して、お土産の野菜をどっさりと頂き、漁村に行った。


 丁度、赤く染まった夕日が水平線の向こうへ沈み始めた所だ。


「これが海ですか……圧倒されます……」

「夕日があんなに綺麗だなんて、今まで感じたことがありませんでした」

「本当に綺麗……」


 フェルナンさん、ララさんメロディーちゃんは、感動で夕日から目が離せない様だ。


「さあ、行きますよ」

「はっ!?申し訳ありません。夕日の美しさについ……」


 俺達は漁村の村長宅に着いた。


「これは、これは、カイト様。また、これが増えましたのぉ、お盛んな……」

「違うわ!!エロじじい!!」

「ワッハッハッハ、冗談ですじゃ」


 まったく、小指を立てて、これとか言うなよ……


 此処でもフェルナンさん、ララさんメロディーちゃんを紹介して、お土産の魚や干物をどっさりと頂き、館に帰ってきた。


「このように、野菜と魚は、ほぼ頂き物なんですよ。モンスターの肉も自分達で狩った物だし、遠慮無く食べて下さい」

「分かりました。有り難う御座います。カイト様」


 夕飯は焼き肉にした。農村で貰った野菜と、オークやワイバーンや牛肉を、焼肉のたれに漬けて、おろしにんにく、レモン、塩等を用意した。


 炊きたてのご飯で塩むすびも作った。


 七輪4つを皆で囲んで、肉や野菜を焼きながら、エールを片手に賑やかな夕飯になった。





 翌朝、日課の剣術を練習して、ララさんに焼いてもらった干物で朝食を食べたら、馬車に乗り旅の続きを始めた。


 今回から、フェルナンさんが馬車に乗って、俺達の世話をしてくれるそうだ。フェルナンさんは、カウンターキッチンに立って紅茶を入れてくれている。


 馬車はゆっくりと山越えの道を進んでいく。馬車の後ろからは、いつものようにラージピジョンのキナコが首を振りながら歩いて付いてきている。

 


「フェルナンさんも此方に来て座りませんか?」

「いいえ、カイト様。私は使用人ですから此処で待機しております」

「それならせめて、そこに有るスツールに座って下さい」


 フェルナンさんはカウンターを回ってスツールを確認した。


「畏まりました。有り難う御座います。カイト様」


 フェルナンさんは、スツールを抱えて、カウンターの奥に引っ込んだ。

 それを見ていた俺達は、お互いの顔を見て苦笑いを浮べる。





 馬車は何事もなく山頂に辿り着いた。

 休憩する為に切り拓いたであろう広場に止まって、少し休む事にした。


「うわーっ!凄い眺めだよミウラちゃん」

「バローの街が一望ですね」

「ああ、ここまで大きな街だとは思わなかったな」

「沢山居る人が米粒のように見えますね」


 ここから見ても、街の人口が他の街に比べて桁違いに多いのが良く分かる。

 更に門の前には、街に入る為に並んでいる人や馬車が長い行列を作っている。


「アマンダさん、此処でも魚を焼いてみたらどうだ?」

「それは良いかも知れませんね。では、その様に人員も手配しましょう」

「俺は、ダンジョンに入るから、丁度良いかもな。ミウラさんはどうするんだ?」

「ギルドの視察が終わったら、私も屋台のお手伝いをします」





 街に入る行列に並んだ所でフェルナンさんに聞いてみた。


「フェルナンさん、街に入ったらどうしますか?」

「私は、街の中には入らずにお屋敷に帰ろうと思います」

「それが良いと思いますね。どちらにしても、夜には皆んな帰ると思いますから」



 門に着く前にフェルナンさんが新月の館に帰り、アマンダさんが農村と漁村から男女4人ずつ連れて馬車の後ろに並んだ。農村チームはフライドポテトを屋台で出すそうだ。



 門に着き、衛兵にギルドカードを提示した。


「Bランク冒険者か。ダンジョンの街バローにようこそ。ダンジョンは初めてか?」

「はい、全くの初心者です」

「それなら冒険者ギルドで地図付きの“ダンジョンでの心得”と言う冊子が売っているから買って読むと良いぞ」

「そうですか、是非買って読んでみます。教えてくれてありがとうございます」

「ああ、無茶はするなよ」



 さてと、まずは領主邸に、書簡を届けないとな……


「マックニャン、あの丘の上の大きな館に向かってくれ」

「了解ニャン」


 ここからでもよく見える大きな館が領主邸だろう。違ったらそこで聞けばいいよな。


 大きな通りには冒険者御用達とでも言いたくなるような商店が並んでいて、どの商店も冒険者で賑わっている。屋台の数も多く、ジュースから食べ物まで種類も豊富に有る。


「書簡を届けたらギルドまで歩いて行ってみよう」

「賛成です。屋台で何か買って食べましょう」

「珍しい物が有るかも知れませんね」

「私は果実水を飲んでみたいわ」

「アマンダさん、食べすぎないようにな」

「あぅ……努力します」




 領主邸(仮)の前で馬車から降りると、電話ボックスの様な建物から衛兵が此方にやって来た。


「領主様に何か御用ですか?」


 此処で間違い無かったようだ。


「ギルメットの領主様からの依頼で、バローの領主様に書簡を届けに参りました」


 アイテムボックスから書簡を取り出して、衛兵に渡した。


「確かに。少しお待ち下さい」


 衛兵がハンドベルを鳴らすと、執事らしき人が玄関から出てきて、衛兵が書簡を手渡すと、執事らしき人は書簡を確認して、依頼達成のサインを書いてくれた。


「配達ご苦労さまでした。何か冷たい物でもお飲みになられますか?」

「色々な種類の屋台を回ってみたいと思いますので、お気持ちだけ有り難く受け取らせて頂きます」

「バローは初めてなのですね。どうぞ、楽しんで行って下さい」



 マックニャンに馬車を頼み、俺達は歩いて大通りに向った。



「レクス達が一番楽しそうだな」

「きっと、色々なお店が珍しいのでしょうね」

「私も楽しいよカイト」

「アマンダさんは楽しいですか?何だかギルド職員の目でお店を見ていますよ」

「そうですね、ミウラちゃん、折角だから楽しまないとですね。フフフ」



 俺達は果実水とサンドイッチを食べながら、ゆっくりと歩いている。




 冒険者ギルドはもうすぐそこだ。

読んで頂きありがとうございました。

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