第45話 カイト、ダンジョンの街バローに行く①
冒険者ギルドに帰って来たのは、昼を過ぎて夕方に近い頃だった。
「カイトさん、お帰りなさい」
「ああ、解体は進んでいますか?」
「そろそろ終わる頃だと思いますよ」
「それなら、追加を出しても大丈夫ですね。今、森で狩ってきたモンスターを出しますよ」
「朝から森に行っていたのですね。では、一緒に解体場に行きましょう」
受付嬢さんはクリップボードを持って解体場に向かった。
「皆さん、今朝討伐されたばかりの追加のモンスターです。カイトさん、此方にお願いします」
俺はアイテムボックスから、コカトリス3匹、マンティコア1匹、グリフォン4匹、ジャイアントセンチピード1匹、サイクロプス1匹、ロックタートル1匹を出した。
受付嬢さんは口をあんぐり開けて、呆けている。
「分かるわぁ、その気持ち。私も何度あんな顔をしたことか……」
「あっ!失礼しました。えっと、今日だけでこれだけのモンスターを?」
「はい、帰りには薬草も採取してきましたよ」
ギルドの解体作業員や依頼を受けた冒険者達が凍りついたように、動かない。
俺は受付カウンターに戻り、薬草の山をアイテムボックスから出した。
「あれだけのモンスターを討伐して、更にこの山のように有る薬草を採取?……いったい………いったい、どうやったら、そんな事が出来るんですかぁぁぁ!?」
ミウラさんだけが、うんうんと、頷いている。
「皆でやれば出来ますよ。買い取り代金は口座に振り込んでくださいね」
俺はギルドカードを出して受付嬢に見せた後、冒険者ギルドをあとにした。
「お帰りなさいませ、カイト様」
「ただいま、フェルナンさん」
「カイト様、お帰りなさいませ」
「ララさんも、ただいま」
新月の館に帰ってきたのだが、予想していた問題が起こっていた。
「一つお伺いしたいのですが、屋敷のお掃除はどなたかがやっていらっしゃるのでしょうか?」
「ララさん、此処に住み始めて以来、屋敷の掃除も洗濯も誰もやっていませんよ」
「それなら、埃一つ、落ち葉一つ無いのはどうしてなのですか?」
「それは、この屋敷全体に不壊と清潔の付与魔法が掛かっているからですよ。衣服は、脱衣所の籠に入れておけば、お風呂から上がる時には綺麗になっているのです」
ララさんの顔がショックを受けた顔になっているよ……
「それでしたら、私とメロディーは何をすれば良いのでしょうか?」
「何もしないってのは駄目なのですよね?」
「勿論で御座います。料理以外に何か仕事を与えて頂かないと……」
そう言われてもな…………
アマンダさんとミウラさんの顔を見る。アマンダさんとミウラさんは首を横に振った。
困っている事、手が足りていない事なんて…………モンスターの解体くらいしかないよな……
「モンスターの解体ならできますけど」
「えっ!?声に出てましたか?」
「はい、呟き程度でしたが、メイドには聞こえる声でした」
メイドさんって耳がいいんだな。
「良かったら、モンスターの解体をやらせて頂きたいのですが。メロディーに解体を教える良い機会にもなります」
「メイドさんって解体もするのですか?」
「はい、モンスターの解体も出来て、やっと一人前のメイドと言えます」
「分かりました。でも、少し時間を下さい」
レクスとグランに頼んで、館の地下に解体場を作って貰った。
「ララさん、メロディーちゃん、此方です」
2階に上がる階段の裏に地下に降りる階段が新しく出来ている。
階段を降りて扉を開けると10畳くらいの部屋で、中央にテーブルと椅子が有って、簡易キッチンと、一人用のロッカーがいくつか並んでいる。
ロッカーの中には解体作業用の白衣が掛かっている。
「この部屋が準備室兼休憩室です。作業着は、このロッカーの中にはいっていますので、これを着て、解体作業をしてください。終わったら、ロッカーに戻すと、次に着るときには綺麗になっていますから、洗濯は不要です」
奥の扉を開けると、広い解体場になっていて、解体台が3台に、ロープにフックが付いた滑車が3台天井から下がっている。
壁際の棚には解体に必要な道具類が揃っていて、何時でも使えるようになっている。
奥には広い冷蔵庫が有り、その横には解体が終わった物を入れる箱が有る。その箱は一方通行で俺のアイテムボックスに繋がっている。
勿論、地下の解体場も空調、清潔、浄化、循環の付与魔法が掛かっている。
「凄い設備ですね。これなら幾らでも解体出来そうです」
「取り敢えず、冷蔵庫にモンスターを10匹入れておくから、何時でも始めてくれて良いですよ」
「はい、畏まりました。解体済みの部位は、そこの箱に入れるだけで良いのですね」
「ええ、そうです。では、後はよろしくお願いします」
はい、問題解決だ。
俺達は今、ギルメットを出て南に馬車を走らせている。
山賊市場とは逆の方向で少し残念だが、続けて行ってもきっと飽きるだろうから、次の機会には必ず行こう。
「ダンジョンの街に着いたら、領主邸にジュール様から預かった書簡を届けるのが先だな。ミウラさん」
「それが良いと思います。それとダンジョンの街バローの領主、アンドレ・ドラクロワ侯爵は大のダンジョン好きで有名な方です。もしかしたらダンジョンで会うかもしれませんね」
侯爵様がダンジョンに行っても大丈夫なのか?
この世界の先行きが不安だ。
「―――――――ッポポォォォォォ!?」
「何だ!?マックニャン止めてくれ」
澄んだ空気が心地よい中、いきなりキナコの悲鳴?が響き渡った。
「どうした、キナコ!?」
何事かと思い、俺は馬車を降りて後ろを歩いて付いてきていたキナコの所へと行ってみると、大きな穴にすっぽりとキナコが落ちていて、身動きが出来ないでいた。
「マックニャン、こんな所に穴なんて有ったか?」
「こんな大きな穴は無かったニャン」
「カイトくん、木の枝と葉っぱが、いっぱい落ちているの!」
「落とし穴か?」
一体どういう事か考えていると……
「ぬわっはっはっはっは、掛かったぞ!!」
街道脇の森から4つの人影が飛び出してきた。
「な、何だ!?また貴様か、人形使い!何故こんな所を彷徨いているのだ、馬鹿者がっ!!」
また、怒られた……
「お前達……何だ、その格好は……?お前は……なんだ、その……ゲロだったか?」
「誰がゲロかっ!私は酒場の周りに落ちている物体などではないわ!チェロだ、私の名はチェロだ!」
ポンコツカルテットのリーダー、チェロは頭から足まで身体にピッタリとフィットした黒いタイツの様な物を着ていて、頭には蟻の触角が有り、お尻には蟻のシマシマの腹部をぶら下げて、手にはスコップを持っている。
映画俳優の様なシブメンが台無しだ。
「それで、どっちがバイスでどっちがオリンズだ?」
同じ顔が頭から足まで黒タイツの小太りだから見分けがつかない。
今まで、気にも止めていなかったが、双子だったようだ。
チェロよりは若い様だが、それでも30歳前後の双子のおっさんが蟻のコスプレをして、手にはツルハシ……誰得だよ?
「知るか!そんなもん私にも分からんわ!」
「リーダー、それは無いですよ。俺がバイスで」
「俺がオリンズですよ。リーダー」
「私にも見分けが付かないもの。次からは名札くらい付けておくのね」
20代前半のビオラも蟻のコスプレだが、無駄に美人でスタイルが良いから、目のやり場に困る……
「それで、お前たちは何をやっているんだ?」
「俺達はな、穴を掘っていただけだ」
「今回はキナコが落ちたが、その穴に人が落ちたらどうするんだ?」
「我々が助けて礼金をふんだくるのさ。ぬわっはっはっはっは」
「折角、苦労して掘ったのにあんたのラージピジョンが落ちるなんて……」
アホかコイツ等?その労力を他の所で使えよ。
「ポーッ!ポーッ!」
なんとか穴から出てきたキナコが、ポンコツカルテットに抗議している。
かなりご立腹の様だ。
「キナコ、好きにしていいぞ」
「ポポォォォォォ!」
「な、何をする!うおぉぉぉ」
「ミスターP様ぁぁぁぁ」
キナコの竜巻に巻かれてポンコツカルテットは空の彼方に飛んで行った。
「ミスターPって何者だ、レクス?」
「知らないの!」
「アマンダさんとミウラさんは知っているか?」
「私は知りません」
「私にも分からないです」
何が目的なのか分からないが、考えても仕方ないので、土魔法で落とし穴を埋めて、馬車の旅を続けた。
「カイトさん、あの山を超えると、ダンジョンの街バローが見えて来る筈です」
まだ遠いがそれ程高くはない山が見えてきた。
「そうか、アマンダさん。それなら今日はあの山の麓まで行こうか」
昼を過ぎた頃、街道脇に見晴らしの良い草原が有ったので、馬車を止めて休憩する事にした。
屋台を出して鶏の照り焼きとスクランブルエッグのサンドイッチを作り昼食にした。
「「「美味しいぃぃぃ!!」」」
「天気の良い日に外で食べると格別に美味く感じるな」
外界の神にミスターP……何を企んでいるのか分からないが、この平和な世界が、ずっと続くと良いな。
「玉子がふわふわで美味しい」
「甘辛のタレも美味しいです」
山の麓までは何事もなく、到着した。と言ってもワラビがブレスで、キナコが風の刃でゴブリンやコボルト等の低ランクモンスターを倒しながらだったのだが……
「今日はここまでにして館に戻ろう」
読んで頂きありがとうございました。