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第43話 カイトギルメットの教会に行く


 父親は痩身で背が高く、グレーの髪をオールバックにしている。

 綺麗に整えられた口髭と、汚れ一つないぴしっとした執事服は、こんな小屋に住んでいるとは思えない程だ。

 歳は40前半だろうか、隙のない鋭い碧眼で此方を一瞥すると、綺麗な御辞儀をした。


 母親の方は、長く伸ばした青い髪を後ろで一本の三つ編みにしている。歳は30前後でスタイルも良く、真っ白なエプロンのメイド服がよく似合っている。

 顔つきは穏やかで、優しそうな碧眼に口角の上がった笑みは、此方に安心感を与えてくれる。

 俺達に向けてニッコリと微笑むと、少女の父親と一緒に綺麗な御辞儀をした。




「この度は、娘を助けて頂いたそうで有り難う御座います。恥ずかしながらこの様な小屋にお招きしてしまい、誠に申し訳有りません。私は、さるお屋敷で執事をさせて頂いておりました、フェルナンと申します」

「私は、同じくメイド長をさせて頂いておりました、ララと申します」

「私は娘で、同じくメイド見習いとして働かせて頂いていた、メロディーと申します。助けて頂きありがとうございました」


 3人は再び綺麗な御辞儀をした後で、お茶を入れてくれた。


「俺はBランク冒険者のカイトで、こっちの人形がレクスといいます」

「レクスだよ、よろしくなの!」


 フェルナンさん達はレクスを見て驚いている。


「私は商業ギルドの職員でカイトさんと一緒に旅をしているアマンダと申します」

「私は冒険者ギルドの職員で同じく、カイトさんと旅をしているミウラと申します」


 フェルナンさん親子がサトミを見た。サトミが俺を見たので、俺が頷くと自己紹介を始めた。


「私はドリアード、木の妖精でカイトのテイムモンスターです。名前はサトミです」


 またもやフェルナンさん達は驚いている。


「美しい方だと思っていましたが、まさか妖精だとは思っていませんでしたわ」

「カイト様は凄腕の冒険者のようですな」

「いえ、そんな事は………」

「そんな事はあるの!!」




 何故、御屋敷勤めの執事とメイドがこの様な山小屋に居るのか気になり、聞いてみたところ……


「私達は王都にある子爵家に勤めていたのですが、派閥争いで私達の主が、あらぬ罪を押し付けられまして、衛兵が押し掛ける前に主は、私達を解雇して逃してくれたのです。その時に私達は主に、当分の間身を隠して暮らすのだと言われて、こうして山の中で暮らしていたのです」

「なるほど、それで子爵様は?」

「私達は逃げた後なので分かりませんが、主と同じ派閥には、侯爵様やこの地の領主である辺境伯様がいらっしゃいますから悪いようにはならないかと……」


 大丈夫なのか、あの辺境伯は?


「それに、発言力の有るグリエット伯爵様もいらっしゃいます」


 あの爺さんも同じ派閥なのか。

 それなら……


「俺には、政治や派閥なんて分からないし、首を突っ込もうとは思わないが、あなた達を人知れず匿う事は出来るが、どうする?」

「どうしてカイト様がそこまで?それに、ご迷惑をお掛けする事になるかもしれません」

「アルマン様とは知らない仲ではないですから」





 今は、ポケット森林の新月の館にフェルナンさん、ララさん、メロディーさんを連れて来ている。


「この館は!?」

「此処は何処ですか!?」

「ななな、何ですかぁぁぁこれは!?」


「此処は、空間魔法で作った森林で、この館は新月の館、俺の家ですよ。部屋はまだ沢山有るから、好きな部屋を使って下さい」


 館のドアを開けてフェルナンさん達を招き入れて、中を案内する。


「此処がエントランスで左側がホールです」

「広いですね」

「ホールはまだ一度も使った事は無いですけどねハハハ。そして、階段の奥には浴室やトイレが有ります。右側には食堂と厨房が有ります」

「素晴らしい館です。どうやら此処が、使用人用の部屋の様ですね。私達は此方の部屋を使わせて頂きます」


 食堂の横に有る部屋はリビングと寝室に分かれている広い部屋だ。3人家族には丁度良いだろう。


 この後、2階のリビング、館の裏の厩舎まで案内して、フェルナンさん達には休んで貰う事にした。






 俺は2階のリビングでお茶を飲みながら、レクス達の話を聞いている。


「カイトくん、時空神に調べてもらったの!」

「やっぱり、あの異世界のデビルトレントは、外界の神が関わっていたみたいだぜ」

「何処の神かは、まだ分かっていないが、あちら此方の世界を覗いては、イタズラじみた事をして回っているみたいだぞ。ワッハッハ」

「邪神なのか?」

「いやカイト君、どうやら、はぐれの神で邪神と言うよりは、悪戯っ子のようなものニャン」


 神にとってはイタズラでも、俺達人間にとっては、生死に関わるのだろうな。


「時空神が言うには、デビルモンスターの種を、いくつかばら撒いて、他の世界に行ったそうだぜ」

「その内の1つがデビルトレントだったって訳だな」

「そうなの、カイトくん。でもサトミちゃんと会えたことはラッキーだったの!!」

「ああ、そうだな。それで、デビルモンスターの種は何処に有るか分かっているのか、グラン?」

「それは、まだ調べてもらっている所だ。それにいつ種がモンスターになるかもな」

「神にとって時間は有って無いようなものニャン。もしかしたら明日、何処かでデビルモンスターが生まれるかもしれないし、100年後かもしれないニャン」


 厄介な事だな。先手を打つのは難しそうだ。


「また何か分かったら教えてくれ」





 昼食を作る為に厨房に降りていったら、そこにはララさんが、困った顔をして立っていた。


「ララさん、どうしたのですか?」

「カイト様、食事の用意をしようとしたのですが、食材のストックが少ししか無くて困っていました」


 ああ、食材は殆どアイテムボックスに入っているからな。


「昼食なら今から俺が作りますよ」

「いえ、そうゆう訳にはいきません。カイト様はこの館の主です。主人と話して決めたのですが、此処でお世話になっている間は使用人として働かせて頂きたいと思います」

「だけど、それ程やる事も無いと思いますけど……」

「いえ、お掃除やお洗濯。そして、皆様にお茶をお出ししたり、お食事の準備と給仕をさせて頂き、御来客が有ればお客様をご案内させて頂くのも私達の仕事で御座います」


 どうしよう……凄いやる気に満ちていらっしゃる…………


「水を差すようですけど、掃除と洗濯は必要有りません。そして、来客も今の所は無いと思って下さい」

「見たところ、お庭も御屋敷の中も綺麗にお掃除がされているようですが、これからは私達がやりますので、全てお任せ下さい」


 この人は、言っても聞かない人だ。

 好きにやらせておこう。


「分かりました。それでは、食材を適当に出しておきますから、よろしくお願いします」


 俺はアイテムボックスから肉、魚、野菜を適当に出して、パン、米、各種調味料も台の上に並べて置いた。


「有り難う御座います。すぐ調理に掛かりますので、暫くお待ち下さい」




 2階のリビングに行くと、アマンダさん、ミウラさん、サトミ、そして、フェルナンさんとメロディーちゃんが居た。


「お疲れ様ですカイト様」


 俺がソファーに座ると、メロディーちゃんが、お茶を入れて持ってきてくれた。


「ああ、ありがとう。今、ララさんが昼食を作ってくれているから、食事が済んでから出かけようと思うんだが、皆はどうする?」

「私も一緒に良いですか?」

「私も行きたいです」

「私はカイトのテイムモンスターだから、当然一緒に行くよ」


 アマンダさん、ミウラさん、サトミは一緒に行きたいらしい。


「レクス達はどうする?」

「もちろん、一緒に行くの!」

「ワッハッハッハわしも行くぞ」

「私も行くぜ!面白い事が有りそうだぜ」

「馬車を出すニャン」

「分かった、全員だな。それとエル、そうそう面白い事なんて起きないからな」

「あら、カイトさんが動くと何かしら起きるのは何故かしら?」

「アマンダさん!?俺をトラブルメーカーみたいに言わないでくれ」


 まったく、俺を何だと思っているんだか…………




 昼食はパンとおコメのサラダとオーク肉のステーキとトマトのスープだ。


「うん、美味しい」

「何だか久しぶりに普通のご飯を食べている気がするわ」

「美味しいですね」

「これが、この国のお料理なんだね。お米のサラダも美味しいわ」


 



 俺達は馬車を預けて、屋台や商店が立ち並ぶ大通りを歩いている。

 レクス、グラン、エル、マックはいつも通り、あちら此方の商店や屋台を覗き、楽しそうに走り回っている。


「有ったぞ」


 俺は教会の屋根を見つけ、見失わないように歩いて行った。


「今日は、どうされましたか?」

「旅の者ですが、お祈りをさせて頂きたくて、参りました」

「それは、それは、わざわざご苦労さまです。それでは、どうぞ此方へ」


 いつもの様に、暫く孤児院の様子を見て、子供達が笑顔で走り回っているのを確認してから、教会の中に入った。


『カイトくん、いつもありがとう』


 いつもこれくらいなら良いんだけどな。


「ありがとうございました」

「神の御加護がありますように」


 帰りに寄付金箱に金貨を10枚入れて教会を出た。

 ミウラさんが驚いていたけど、アマンダさんが説明してくれているから、ほっとこう。


「ちょっと君、待ってくれないか?」


 俺の事か?

 振り向くと院長室のドアの方から一人の男性が出てきた。

 男性は寄付金箱を見ながら言った。


「随分と沢山の寄付をしてくれたのだな。此処の者に代わって礼を言おう」

「礼なんていりませんよ。俺が今、こうして居られるのも孤児院と神々のおかげですから、少しばかりの恩返しでやっている事です」

「それでもだ、見たところ、金貨10枚か、その若さでなかなか出来る事では無いからな。この街の領主としても礼を言おう。子供は宝だからな。私も暇を見つけては此処に立ち寄っているのだ」


 これが今朝と同じ人物か!?人と言うものは一面だけでは判断できない物だな。


「ところで、その人形達……君はドールマスターなのか?それに、緑の髪の美しい女性……更に、黒い髪の少年と黒いコート……ああ…ああ…会いたかったですぞ。新月仮面様!!まだ、この街にいたのですね!!」


 うわぁ、いきなり滂沱の涙を流し始めたよ……どうすれば良いんだコレ……


「新月仮面様!どうか、どうか私の屋敷に来て下さい。皆様と人形様もどうか御一緒に」


読んで頂きありがとうございます。


フェルナン(元子爵家の執事)

ララ(元子爵家のメイド長、フェルナンの妻)

メロディー(元子爵家のメイド見習い、フェルナンとララの娘)

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