第4話 カイト、オークの討伐に行く
色々と難しい···
ギルドから出て西に歩いて行く。
西門から出て街道を暫く歩き、森の手前で立ち止まる。
「コンセ、西の森にオークの反応は有るか?」
(マップで探索します………反応が有りました。光点で示します)
「かなりの群れだぞ、あっちだ!」
光点の示す方向に向けて走り出した。
「カイトくん、私も手伝うよ!」
「ああ、そうだな、レクスは最初に魔法で先制してくれ。俺は、発動と同時に切り込む」
群れの手前で止まり様子を伺う。
「カイトくん、これは集落だね!100体以上は居るよ!」
「レクスは、楽しそうだな」
(マスター、人の反応が有ります。小屋の中に2人と、奥の洞窟に2人です)
「ならば、小屋と洞窟は後回しにして、先に広場のオークを殲滅するぞ。レクス魔法だ」
「それじゃあ行くよ!サンダーバード」
レクスが無詠唱で発動した雷鳥が、オークを目指して飛んで行くのを尻目に、俺はアイテムボックスから新月の刀を取り出し、腰のベルトに差し込みながら刀を抜き放ち一閃する。
目の前に居る2体のオークの首が落ちる。
「凄い切れ味だなッ!」
瞬時に別のオークの前に移動し、足を止めずに首を落として行く。
俺の後ろには広範囲に渡って、首の無いオークの死体が転がっている。
「キュロロロ」
かん高い鳥の鳴き声が聞こえた。
レクスの雷鳥を見ると、逃げ回るオークを次から次に貫きながら飛んでいる。
「えっ、鳴くの?魔法だよねあれ……」
一瞬、足が止まってしまった。
「負けてられないなッ!」
気を取り戻してオークに斬りかかる。
「あっと言う間に、終わったね!」
10分程で、広場に居た100体以上のオークを殲滅し、洞窟の前に立つ。
洞窟の内部はS字に曲っていて、奥には、かなり広い空間が広がっている。
最奥にオークが5体、離れた所に人が2人居る。
小屋の中には人が2人だけで、オークは居ない。
全てマップで確認済みだ。
俺は洞窟の中に足を踏み入れた。
分岐の無い洞窟の中を歩いて進むと、下り坂になっていた。
「レクス、転けるなよ」
俺の前を、とてとて歩くレクスに声を掛ける。
「大丈夫だよ、カイトくん!転けても痛くないから!」
「あ、そう」
「えっ!なんか、私の扱いが酷くない!?」
「そうか?これが普通だが」
「そうなの?だったら良いよ!」
こんなに、ちょろくて大丈夫なんだろうか?
益体の無い話しをしていると、野球場の半分くらいの広さの場所に入った。
最奥に居るオークが見えるが、立ち止まらずに歩いて行く。
「手前に立って居るのがオークジェネラルで、その後ろで寝転んで居るのがオークキングだよ!」
「なるほど、普通のオークよりもかなり大きいな」
喋りながら歩いて行くが、オークジェネラルとオークキングは俺に鋭い視線を向けて来るけど動かない。
左手の奥には、ロープで手足を縛られた10歳位の男の子と、7歳位の女の子が此方を見ていた。
着ている服が、汚れも少なく乱れていないところを見ると、攫われて来てまだ間も無いのだろう。重畳だ。
「レクスは子供の側に居てやってくれ」
「うん、わかったよカイトくん!」
レクスは、とてとてと、子供たちの所へ歩いて行った。
広場の半分を過ぎた所でオークキングが起き上がり、胡座をかいて座る。
更に進むと1体のオークジェネラルが剣を構え、此方に向かって来た。
「1体ずつ来るのかな、四天王的なあれか?」
セルジュ、イメージは伝わったか?
(はい、マスター)
右足を一歩踏み出し肩幅に、右腕を真っ直ぐに、手は指鉄砲の形で人差し指に光を収束、弾丸をイメージしてオークジェネラルの眉間に狙いを定める。
定まらない。レーザーサイトをイメージする。
眉間が赤くマーキングされる。
発射。音も無く超高速で打ち出された弾丸は、白い光跡を引きオークジェネラルの眉間を撃ち抜く。
眉間を撃ち抜かれたオークジェネラルは、仰け反り、倒れた。
「うん、この魔法は使えるな」
この魔法の名前をどうするか考えていると、次のオークジェネラルがブヒブヒ鳴きながら両手斧を持って歩いて来た。
「なんだ、また1体か?ブヒブヒ言ってるけど、奴は四天王で最弱だとでも言ってるのかな?」
右手の人差し指を構える。
レーザーサイトで眉間をマーキングして、撃ち抜く。
結果は1体目のオークジェネラルと同じ。
3体目と4体目のオークジェネラルも眉間を撃ち抜かれて終わる。
「うん、慣れてきたな」
オークキングが俺を睨みつけた。
俺はオークキングを睨み返した。
「ぶごおぉぉぉ!」
オークキングは、空気が震えるような、威圧的な大声量で吠えながら立ち上がる。
「うわー、でっかいな。顔も恐いぞ」
立ち上がると3メートル近く有り、横幅も大きい。
丸太の様な腕をしていて、両手に大剣を持っている。
怒りの形相で俺を睨みながら、ズシン、ズシンと近づいて来る。
3メートルの距離まで近づいたオークキングは、目が赤く血走り、奥歯を噛み締め、怒りで震えている。
「ぶごおぉぉぉ!」
吠えながら大剣を振り上げる。
俺は指鉄砲を構え、光の弾丸をオークキングの眉間に打ち込んだ。
「ねぇカイトくん、何だかオークキングが憐れに思えてきたの」
「そうか?いちいち付き合ってやる義理は無いからな。さっさと終わらせて、この子等を保護するのが優先だ」
「そうだね、カイトくんの言う通りだね!」
「レクス、ロープを解いてやってくれ」
「わかった!」
俺は、オークジェネラルとオークキングをアイテムボックスに収納し、レクスと子供たちを連れて洞窟から出た。そして、小屋に向かった。
小屋の戸を開けると、そこにはローランドさんが女の人と一緒に縛られていた。
「ローランドさん、こんな所で何をしてるんですか?」
「!!!」
「カイト君!?カイト君ですか?」
「はい、カイトですよ。今ロープを解きますね」
「私は、私達はオークに攫われて……助かったのですか?……私達は助かったのですか?」
「あなた……助かったのね……」
「お父さん、お母さん!」
「あぁ……お前たちも無事で……」
ローランドさん一家は、抱き合って泣きながら喜んでいる。
小屋から出て、辺り一面のオークの死体に驚いているローランドさんは取り敢えず放置して、大量の死体をアイテムボックスに入れるのは面倒だなと考えていた。
(マスター、私におまかせ下さい)
コンセ、どうするんだ?
(マップでオークの死体と範囲を指定し、一度にアイテムボックスに収納します)
凄いな、わかった頼む。
辺り一面のオークの死体が一瞬で消えた。
「カイト君!オークの死体が消えましたよ!」
「大丈夫ですよローランドさん。俺の収納魔法です」
「カイトくん、そろそろ帰らない?」
「そうだね、レクス。ローランドさん、帰りましょう」
「カイト君、その人形はまさか?」
「私はレクスだよ!カイトくんはドールマスターだよ!」
またローランドさんは驚いている。
「本当に助けて頂き、ありがとうございました。私はロイズ、ローランドの妻です。そして、上の子がリック、下の子がルーシーです。」
「何事も無くて良かったです」
子供たちはレクスに夢中のようだ。
街に帰って衛兵に挨拶をしてから、ローランドさんとは此処で別れる。
別れ際に後でローランド商会に行く事を約束して、川のせせらぎ亭に戻ると、メグさんとメアリーがお茶を飲んで休憩していた。
「おかえりなさい、カイトさん」
メアリーが部屋の鍵を持って来たが、部屋には戻らないと断る。
「冒険者ギルドに行き、依頼達成の報告に行って、その後ローランド商会のローランドさんに夕飯に招待されているからな」
何故か二人とも驚いている。
「ローランド商会ってこの街で一番大きな商会ですよ」
「カイトさん、何をやったの?」
「オークに攫われていたローランドさんとご家族を、依頼のついでにチョチョイと助けただけだ」
「チョチョイって……」
「うん、本当にチョチョイって感じだったねカイトくん!」
メグさんがレクスを見て驚いて、メアリーは目を輝かせている。
「そのお人形の事ずっと気になっていたの!」
うん、知ってた。
「私はレクスだよ!カイトくんは私のマスターだよ!」
「私はメアリー」
メアリーが俺とレクスを交互に見ている。
「良いなぁ、ドールマスター」
「君がカイトくんだね」
厨房で片付けを終わらせた店主が此方にやって来た。
「はじめまして、カイトです」
「普通に話してくれて構わない。店主のジェロだ」
ジェロさんは、オールバックの茶髪に、口ひげ細マッチョの渋メンだ。
バーテンダーに居たな、こんな人。
「あ、そうだ、厨房を貸して貰えないか?材料は持っているから」
「構わないが、何を作るんだ?」
「ローランドさんから夕飯に招待されいているから、手土産にプリンを作ろうかと」
「プリンって何だ?」
セルジュ、この世界にプリンは無いのか?
(はい、有りません。お菓子と言えばドライフルーツ、ビスケット、クッキーが主流です)
「菓子だ。食後のデザートに丁度良いからな」
手を良く洗い厨房に入ると、材料を用意する。
「レクス、牛乳と卵と砂糖とバターとバニラビーンズを出してくれ」
「わかった!」
「あとはラム酒と、これ位のココット皿を30個だ」
「それも了解だよ!」
オーブンに火を入れ、鍋に牛乳と砂糖とバニラビーンズを入れて温めている内に、ココット皿を洗い、丁寧に拭いて内側にバターを塗っていく。
小鍋に砂糖を入れ、濃い飴色になったら火から降ろしラム酒を加え、熱い内にココット皿に少量入れていく。
牛乳が温まって、砂糖が溶けたのを確認して火から降ろし、冷ましておく。
ボールに卵を割り入れビーターで混ぜようとしたが、ビーターが無い。
「レクス、ビーターと目の細かい濾し器も頼む」
「わかった!見てると楽しいね!」
ビーターと濾し器を洗い、風魔法で乾かす。
ビーターで卵白を切るように卵を混ぜてサラサラにすると、冷ました牛乳を加えて、濾し器で濾して、天板に並べたココット皿に注ぎ、周りにお湯を張ってオーブンに入れる。
厨房を綺麗に片付けて、レクスが出した器具と余った食材はアイテムボックスに入れる。
「驚いたな、見たことの無い器具や材料も有ったが、何より手際が良い」
「他国でちょいちょいやっていたからな」
「なるほど、それならば頷ける」
暫くお茶を飲んで雑談しているとプリンが焼き上がった。
オーブンから出して、風魔法と氷魔法で冷やすと、アイテムボックスに入れる。
「オーブンは後で使うから掃除しなくても良いぞ」
「わかった、ありがとう。厨房を貸して貰ったお礼にプリンを食べてくれ」
人数分プリンを出した。
皆んな目を輝かせて見ている。
「何これ、美味しい!」
「甘くて舌触りが滑らかで、こんなに美味しい物は初めて食べたわ」
「ああ、これは美味い!焦がした砂糖が良いアクセントになってるな」
「喜んでもらえて何よりだ。レクス、冒険者ギルドに行くぞ」
「ねぇカイトくん!私もプリンが食べたい!」
ギルドに向かう途中にレクスがお強請りしてきた。
「人形が食べられるのか?」
「口に入れてくれたら神界に届くから!」
「……」
レクスの口にプリンを入れて、疑問に思った事を聞いてみる。
「なあ、レクス、地球の物が手に入る仕組みは良くわからないが、取り敢えず良いとして、代金はどうしているんだ?」
「うん、代金ならカイトくんのアイテムボックスの中のお金を神界ルートで両替して商品を輸入しているの!」
なんか、凄い事を聞いてしまった。
神界ルートって何?
神様って貿易してるの?
神界銀行とか有ったりするの?
なんだか、逆に謎が深まった気がするんだが……あっ、ギルドに着いた。
考えるのは後だ。並ばなきゃ……
読んで下さった方、有り難うございます。
プリンは作者が実際に作っていた作り方でした。
ロイズ(ローランドの妻)
リック(ローランド家・長男)
ルーシー(ローランド家・長女)
ジェロ(宿屋・川のせせらぎ亭の店主)