第37話 カイト、辺境の街ギルメットに行く②
自信の無い漢字が偶に有ります。
間違っていたら、指摘して頂けると助かります。
「待っていたぞ、人形使い!!」
やっぱりポンコツカルテットだ。
だが何故か顔中が、青あざだらけになっている。
「何でお前が此処に居るんだ?」
「そんな事はどうでもいい!何時も貴様には、やられてばかりだが、今日こそは、そうはいかんぞ!」
凄い自信だが、こいつ等が何をしたいのか分からん…………
「先生!お願いします!!」
「何だ?何処かの時代劇かよ!!」
街道脇の森の中からポンコツカルテットの、残りの3人が出てきた。
何故か皆、顔中が青あざだらけだ。
そして、3人の後ろから、2匹のモンスターが現れた。
人型で身長が2m位で青い皮膚の下は筋肉ムキムキだ。更に牙と角が生えている、鬼のボディービルダーみたいなモンスターだ。
「何だ、あのモンスターは?」
「貴様!オーガを知らぬのか?」
「知らん!」
ネット小説で読んだことは有るが実際のところは分からないな。
「先生、その男です!」
「ウガ―――」
だから、何処の時代劇だって言うの!
「ちょっと待て。ミウラさん?」
「説明しましょう。オーガは知能が高く、ギルドでは討伐対象外のモンスターです。自らの力と技を高める事を生き甲斐とし、強い相手に戦いを挑む事も有ります。勿論、人間側から挑む場合も有りますが、今まで死者は報告されていません。勝ち負けに関わらず戦った相手には敬意を払うと言われています」
モンスターにも色々と居るんだな。
俺の知ってるオーガとは違うみたいだ。
少し興味が出てきたぞ。
「それで、俺にオーガと戦えって言うのか、ポンコツリーダー?」
「誰がポンコツリーダーか!私の名はチェロだ。こっちに来い、バイス、オリンズ、ビオラ!我らチーム不死鳥が、お前を更生させてやる!」
「何で俺が更生?それに戦うのはお前らチームポンコツカルテットじゃ無くて、そこのオーガだろうが」
オーガは腕を組んで仁王立ちをしている。
話しが終わるまで、律儀に待っているのだろうか?
「ふん、頭の悪い奴に幾ら言っても埒が明かん、先生、こいつの目を覚まさせてやって下さい」
「ウガウッ」
2匹のオーガの内の1匹が前に出て来て、礼をした。
俺は、つられて礼をするとオーガが拳を構えた。
「ウガーッ!」
俺が空手の型を構えると、もう1匹のオーガが号令をかけた。
先ずは相手の出方を見てみよう。
2mの高さから大振りの拳が俺の脳天を狙って来たが、初っ端からそんな大振りが当たる訳がない。
次に顔面を狙って来たが、やはり大振りで、俺が上体を反らして躱すと、身体をおよがせている。
なるほど、パワーとスピードは大した物だが、それを活かし切れていないな。
今度は蹴りだ。試しに腕で受けてみたら、流石はオーガ、腕が痺れる位の衝撃は有る。
――――――だが、それだけだ。
俺はミウラさんを見た。口をポカンと開けて、戦いを見ている。
「ミウラさん、技が無いんだけど……」
そう、スピードとパワーで押し切っているだけだ。
この後、連続して蹴りを3回放って来たが全て躱して、俺は大きく後ろに飛んだ。
「今度は此方から行くぞ」
俺は5m程の距離を一瞬で詰めて懐に入り、右拳でボディーに5発入れた後、軽く飛んで延髄に右の回し蹴りを決める。
オーガは前のめりに倒れて気を失った。
2匹目のオーガが、前に出てきて礼をした。
両腕を斜め上に上げて、掴みかかる構えを取っている。
このオーガはタイプが違う様だ。
「はじめなのっ!!」
俺も礼をして、柔術の構えを取ると、レクスが合図を出した。
――――――今度は力比べだ。
両手でガッチリと組むと、力任せに振り回して来た。
「うお!?危なっ」
体重が軽い分、此方が不利だ。
「――――――うわっ!」
軽く持ち上げられて、投げ飛ばされたが、なんとか木の枝を利用して、上手く着地出来た。
「あー、おしい……」
「もうちょっとだったのに……」
ポンコツカルテットが何か言ってるが気にしない。
「これは、まともに組むと危険だぞ。厄介だな……仕切り直しだ、行くぞ!」
さっきと同じ様に、掴みかかって来るオーガの手を払いのけながら、ゆっくりとうしろに下がって行き、徐々に下がるスピードを上げていく。
オーガの手の動きと足の動きを見ながらタイミングを計って、オーガの右手首を掴んで引きながら、右足に小内刈りを掛ける。
体勢を崩したオーガは、一旦は踏みとどまるが、掴んだままの右腕を引いて、左手で腰紐を持ち上げて、足を掛けた体落としには耐えられず、巨体を地面に叩きつけた。
「グアッ!?」
俺は一旦、距離を取ると、ゆっくりと巨体を起こしたオーガと、いつの間にか目を覚ましたオーガが、並んで礼をした。
終わりと言う事だろうか?取り敢えず、俺も礼を返しておく。
「2匹のオーガに勝ちやがった……」
「「ば、化け物か!?」」
ポンコツバイスと、ポンコツオリンズが失礼な事を言っている。
「おい!そこの2人、何を頷いているんだよ!?」
見れば、アマンダさんと、ミウラさんが何度も頷いている。
きなこも……きなこは鳩だから普通なのか?
「き、貴様……まさかこれ程とは……」
ポンコツリーダーのチェロが驚愕の表情で跪くと、残りの3人も同様に跪いた。
「ふん、ホワイトパイソンでも巨大Gでも好きにするが良い」
「何だ?お前らはまた何か悪さをしたのか?」
「いや、今回は貴様を襲っただけだ」
「それだけか?それなら今回は大目に見て……いや、待て。罰として今日からお前等は“チーム、ポンコツカルテット”だ。不死鳥とか言う御大層な名は捨てろ」
「ななな何だと――――っ!?」
「リ、リーダー、落ち着いて下さい」
「クッ……ミスターP様から頂いた名が…………い、いつか貴様を倒して不死鳥の名を取り戻してやる…………」
ポンコツリーダーのチェロは立ち上がり、夕日に向って走り出した。
「お、覚えてろぉぉぉぉぉぉっ!!」
「まっ、待って下さい、リーダー!」
「リーダー!!」
「くっ、覚えてなさい、必ず取り返してやるから。待ってー!置いてかないでよー!」
「結局、彼奴等は何なんだ?」
俺達と2匹のオーガは呆然として、チーム、ポンコツカルテットを見送った。
2匹のオーガに手を振って、俺達は馬車を走らせた。
「ふーっ、何か疲れた」
「カイトさんが魔法と刀以外で戦うのを初めて見ました」
「私はカイトさんの戦いを初めて見ました。どう見ても普通の冒険者の枠から大きく外れていますね」
「やっぱり、そうなんだミウラちゃん」
「ほら、そこの2人!人の陰口を叩いてないで、お茶を入れてくれないか?」
「「はーい」」
アマンダさんと、ミウラさんは顔を見合わせて、クスリと笑って立ち上がってキッチンに向かった。
「まったく、これでも普通に見えるように手を抜いていたんだぞ」
俺は小声で呟いた。
ギルメットへ移動を初めて3日目の朝は、薄暗い森の中を通る街道の手前からのスタートだ。
「なんだか森の中に強い気配が殺気立っているな」
「カイトさん、冒険者ギルドの資料によると、この森にはFランクからDランクの低ランクモンスターが殆どだそうです」
「そうなのか?それなら俺の気のせいかも知れないな」
「それでも、カイトさんがそう思ったのなら用心するに越したことはないと思います」
「そうだなアマンダさん。この森を抜けるまで、2人は馬車から出ないようにな」
しかし、何だろう、この気配は?まあ今、分からない事を考えても仕方が無いし。
「行こうか、マックニャン」
馬車で薄暗い森に入ると気配が強まった。何だか、気味の悪い気配だ。
「アマンダさんとミウラさんは此処にいてくれ。馬車からは絶対に出ないようにな。俺は御者席に行く」
森が静か過ぎて、嫌な感じがする。
「レクス、グラン、エル、来てくれ」
「カイトくん、この気配はこの世界の物では無いの!」
「そうだ。わしにはモンスターの様にも、妖精の様にも感じるぞ」
「しかも、これは何らかの影響でデビル化している様だぜ」
異世界のモンスターか妖精がデビル化?
「デビル化って何だ?」
「デビル化って言うのは、魂が闇に囚われて昏き感情に支配される事にゃん」
「そうなると、姿形が変貌して、恐ろしい悪魔の様になると聞いているぜ」
「そして災いをもたらす者になるの!」
「ワッハッハ、だが、まだ完全に変貌している訳ではなさそうだ」
俺には良く分からないが、気配だけでそこまでわかるなんて、流石は神だな。
「だが何で異世界から、そのモンスターだか妖精だかがこの世界に来たんだ?」
「誰かが召喚したか、何者かが送り付けたか分からないが、外界の神が関わっている気がするぜ」
「時空神に調べてもらうの!」
森の中の街道を進むに連れて昏い気配が濃くなっていく。
「この昏い気配は森の奥から感じるな。マックニャン、ここから先は馬車では行けないから館に帰っていてくれ」
俺と、レクス、グラン、エル、ダイフクは森の中を歩いて、昏い気配に近づいて行った。
森が開けた場所に、って言うか木々が腐って朽ちて出来た、開けた場所に来た。
周囲にはモンスターらしき骨が散乱している。
開けた場所のほぼ中央に瘴気を出している黒っぽい大木が、空高くそそり立ち、その周囲には毒々しい色の大きな花が咲いていて、棘の付いた蔓を蠢かしながら、間欠泉の様に瘴気を出している。
大木の根本付近には、紫色をした肌で、頭に羊の様な角を生やした緑色の髪の女が、上半身だけ木の幹から出して項垂れている。
「あれは、ドリアード?」
読んで頂きありがとうございました。
チェロ(ポンコツカルテットのリーダー)
バイス(ポンコツカルテットのメンバー)
オリンズ(ポンコツカルテットのメンバー)
ビオラ(ポンコツカルテットの紅一点)