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第34話 カイト、オータンの教会に行く②

 サトリなのか!?


「サトリが何かは分からぬが、そう警戒せずとも良い。儂は全てでは無いが、お前の思っている様に他人の考えている事が分かる。これをすると些か疲れるがな」


 テレパシーの様なものか?


「そのテレパシーも何かは分からぬが、どうやら理解出来たみたいだな。これ以上やって倒れるといかんので、もう考えは読まぬから安心するが良い」


「先程、私の事を御存知だと仰っておられましたが…………」

「もう良い、普通に喋れ。下手くそな敬語を聞いているとイライラするわ!」

「はぁ、どうせ考えが読めるんだ。上辺だけ取り繕っても仕方が無いか。それにしても自信を無くすなぁ…」

「ハッハッハッハッハッハそう言うことだカイトよ。儂もお前に対しては普通に喋ろう」


 敬語に関してはアマンダさんやミウラさんにも適わないから、俺としては助かるが、勉強するか?それとも下手な敬語は使わないか?


「下手な敬語は辞めたほうが良い。さっきのお前の質問だが、アングラード家の嫡男の病気が全快したと知らせが入って来たのだ」

「レオン様の嫡男……エミール様の病気が治ったのですか?」

「お前が治したのでは無いのか?レオンは、お前のたった1度の回復魔法で、エミールの病気が治ったと言っていたのだが?」


 確かにあの時のヒールは普通じゃ無かったな。


「エミール様の病気が治ったのなら良かったです。ずっと気になっていましたから」


 本当に良かった…………


「ふむ、それならお前が帰った後に、回復したのだろう。ところで、話は変わるが、本当は此処へ何をしに来た?」

「考えている事を読んでいたのなら知っている筈ですが?」

「ハッハッハッハッハッああ、知っている。だがなカイト、儂は教会を新しく建ててくれと言われても、建てるつもりは無い」


 アマンダさんが言っていた様に極度の倹約家だからか?

 だからといって、使うべき時にお金を使わないでどうするんだ?


 俺はこの街に関しては部外者だから、下手に口を出す訳にもいかない。


「お前が建てると言っても駄目だ」

「何故ですか?」


 俺もそこまでは面倒を見きれないが、そう言われると何故なのか聞きたくなる。


「教会とは誰の物だ?」

「それは、街の人達です」

「それならば、この街の住民が金を出し合うなり、自らが建てるなりすれば良かろう。それ位の余裕はある筈だ。それになカイト、自分達で建てた教会には、愛着が湧くというものだ。今まで見て見ぬ振りをしていた者達も教会や、孤児院の手伝いを率先してするのではないか?勿論、儂もこの街の住民だ。皆と同じように出す物は出すつもりだ」


 俺は打ちひしがれた思いをした。


 確かに他人が用意した物より、自らが苦労して手に入れた物は何者にも変え難い尊さが有る。


 これが目から鱗が落ちるって言う事だろうな。


「グリエット伯爵、俺の考えが間違っていました。自分の浅はかさに嫌気が差します」

「お前にはお前の出来る事があるだろう?否、お前にしか出来ない事やも知れぬ」

「と、言いますと?」

「冒険者のカイトに指名依頼を出す。教会のシスターと孤児院の子供達の怪我を診てやってもらいたい。中には重篤な者も居る。治せるのであれば、治してやって欲しい」


 やっぱりそうか。昨日のシスターの様子がおかしかったのは、重篤患者が居たからか。


「依頼の手続きでしたら、私が承ります」


 ミウラさんがタブレットのような物をバッグから出して、何やら打ち込んでいる。


「君は?」

「私は冒険者ギルドの職員でミウラと申します。グリエット伯爵様。それで、報酬は如何様に?」

「金貨30枚出そう。結果次第で別途追加報酬を出す」

「畏まりました。ではカイトさん、ギルドカードを此方に」


 俺はギルドカードをミウラさんに渡した。

 ミウラさんはギルドカードをタブレットのような物に差し込んで、何やら打ち込み、ギルドカードを返してくれた。


 これで手続き完了の様だ。





 俺、レクス達、アマンダさん、ミウラさん、そしてグリエット伯爵と騎士服を着たリュックさんとポシェットさんは、古い民家を借りた仮の教会に来ている。


「レクス、グラン、エル、マックニャン、ダイフク、怪我をしている子供達を集めて来てくれ」

「了解だよ、カイトくん!」

「ワッハッハッハ」

「行って来るぜ」

「おまかせニャン」

(待っててね)



 グリエット伯爵は院長先生と新しく建てる教会について話をしている。


「…………と、そう言うことだが、テレーズよ」


 院長先生のテレーズさんは、話しが進むにつれ、しきりに頭を縦に振り目に涙を滲ませている。


「ええ、ええ、それは大変良いお考えで御座います伯爵様」

「その伯爵様と言うのは辞めろといつも言っているだろうが。昔の様にアルマンと呼ばぬか!」

「いいえ伯爵様、周りの目も有りますし、幾ら幼馴染みでもそれは聞き入れる訳にはいきません」


 幼馴染みなのか?おっと、レクス達が戻って来たぞ。


 院長先生とシスターが1人と子供が7人。

 シスターは昨日教会で会ったシスターだ。


「シスター、軽傷の子供達はこれで全部ですか?」

「はい、後は動けない子が1人とシスターが1人、部屋で寝ています」


 子供達がレクス達人形に夢中になっている内に終わらせよう。


「セルジュ、ヒーリングボールだ」

(うん、マスター…ターゲットロック…何時でもOK)


 セルジュが子供の声だ。交代したんだな。


 俺の前に9個の白銀に輝くピンポン玉サイズのヒーリングボールが、円を描き回転している。


「ヒーリングボール」


 9個の白銀の玉がターゲットに向かって一斉に飛んで行く。






「これは酷い」


 殆ど全身を包帯で巻かれたシスターと女の子が痛みに苦しんでいる。

 その痛みに苦しんでいる姿は、余りにも酷く、見ているのが辛くて、俺は直ぐに健康な身体をイメージして回復魔法を使った。


「………ヒール」


 痛みで苦しんでいる2人を白銀の光が包み込んだ。


「あ……温かい、えっ!痛くない!?」

「せ、先生?私も、私も、もう痛くない。天国に行ったのかな…………?」


 女の子は目も包帯で巻かれているので、何も見えなくて勘違いしている様だ。


 シスターが腕に巻かれた包帯を外していくと、そこからは白い健康な肌が現れた。


 良かった、治ったみたいだな。


 と、思っていると、あれよあれよという間に、全身の包帯を外したシスターは涙を流しながら身体を触って確認している。


 俺と伯爵は黙って部屋から出て、止めていた息を吐き出した。


「はあー吃驚したなもう………」

「ハッハッハッハッハ、どうしたカイトよ、揺れておったの、どうだ?もう一回見に行くか?」

「辞めんかい!エロジジイ!」


 俺は思わず伯爵様の頭を叩いていた。


「ハッハッハッハッハッハ、冗談、冗談。しかし、お前の回復魔法は凄まじい物だな。王都の神官でも、あの火傷を治す事は出来んと思っておったのだが。まさか炭化した手足も元通りに治すとは……」


 使う度にヒールの光が強くなっている事は俺も気が付いていたが、まさか神官以上とはな。と言っても神官なんて見た事無いし、そもそも、他の人の回復魔法もマリーさんの魔法しか見たことが無かったな。


「やはり、レオンの言っていた通り、エミールの病気を治したのは、お前で間違いないようだ。依頼の追加報酬は期待していてくれ。儂は極度の倹約家と言われているし、まさにその通りなのだが、仕事に見合った報酬はきちんと出すし、必要なら全財産を投げ打つ事も厭わないとも思っているのだ。お前には誤解されたく無いからな」


 グリエット伯爵は俺を見てウィンクをした。爺さんなのに何故か様になっている。


「グリエット伯爵…………」

「アルマンと呼んでくれないか?カイトよ」

「アルマン様、俺にはそっちの趣味は有りませんからね!」

「戯け!!儂もだっ!ハッハッハッハッハ」





 もう昼もだいぶ過ぎて、お腹が空いてきたな。

 皆も食べていないようだし……


 俺はアイテムボックスから屋台を出して、更に大量に作り置きしていた生パスタと野菜がたっぷり入った熱々のトマトソースを出して、お湯を沸かし、パスタを茹で始めた。

 ワイバーンの肉も出して一口大にカットしたら、鉄板で焼く。


「アマンダさん、お皿を用意してくれ」

「はい、カイトさん」


 アマンダさんが出してくれたお皿に、茹でたパスタと焼いたワイバーンの肉を乗せて、その上からトマトソースを掛けた。

 お皿の横にパンとフォークを置いたら出来上がりだ。


「皆さん、昼食にしましょう。ミウラさん、これをアルマン様に持って行って貰えますか?」


 終始、口をポカンと開けて見ていたミウラさんに出来上がった料理を手渡したが、まだポカンと呆けている。


「ほら、ミウラちゃん!しっかりして!」


 アマンダさんがミウラさんの背中を押した。


「あっ、はい、カイトさん、分かりました!」


 ミウラさんと同じようにポカンと呆けているアルマン様にミウラさんが料理を手渡した。


「皆さん、どんどん出来ますから取りに来て下さい。レクス、グラン、エル、マックニャン、列の整理を頼む」


「「「「イエス、マスター!」」」」



「これは、この味はワイバーンの肉か!?こんな高級食材を惜しげもなく使うとは……それにしても、この料理は美味いの一言に尽きるな」

「はぁ……美味しいわぁ」

「なんて贅沢な一皿なのでしょう」

「あっ!お前、僕のお肉を取るな!」

「へへへ、冗談だよ」

「おねえちゃん、美味しいね」

「うん、こんなに美味しいご飯、初めてだね」



 孤児院の庭でワイワイ、ガヤガヤと大勢で食べる昼食は、とても美味しかった。





「カイトさんが、いきなり料理を作り出すから吃驚しましたよ」

「それは、カイトさんだから仕方ないよミウラちゃん」

「そうですね、忘れていました。それにしても、美味しかったです。アマンダさんは何時もあんなに美味しいご飯を食べているんですか?」

「もうカイトさん無しでは生きて行けません。ああ……オムライスとプリンアラモード……」


 聞こえない、聞こえない。


テレーズ(オータンの教会のシスター、孤児院の院長先生)

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