表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/155

第33話 カイト、オータンの教会に行く①


 俺は念話で、地竜を呼んでいた。この広いポケット草原の何処かに居る筈だ。


「アマンダさん、もう諦めろ。箸を使う国以外の人は啜る事が出来ない人が多いと聞いたことが有るからな、ゆっくり練習すれば良い。だから今は食べやすい様に食べれば良いぞ」


 アマンダさんは蕎麦の端を口に咥えて、涙を流しながら啜ろうとしている。


「ヒック、す、すすれませんっヒックうぅぅ…………」


 そんなに、泣くほどの事か?


「ヒック……美味しいです、美味しいですぅぅヒック、ヒック」


 仕方が無いので、プリンとアイスクリームと飾り切りをしたフルーツで、プリンアラモードを作ってアマンダさんの前に置いた。

 勿論、泡立てた生クリームも特別サービスでトッピングしている。


「うわ―――――っ、カイトさん!何ですか、この夢の様な一皿は!?」

「何時までも泣いているからな、全く。特別サービスのプリンアラモードだ」

「えへへ……プリンアラモード……凄く綺麗、食べるのが勿体ないわ。ウフフ」


 アマンダさんはプリンアラモードを食べずにニコニコしながら眺めている。


「早く食べないと、アイスクリームが溶けてしまうぞ」

「ハッ!余りにも綺麗で、美味しそうで夢が沢山詰まってて……いただきます!!」


 アマンダさんってこんなキャラだったのか?


「カイトさんのお料理は、女の子のハートを鷲掴みですね」

「料理がな!俺はそんな気は更々無いぞ」


 向こうの方から小山の様な物が近付いてきた。


「やっと来たか。地竜は飛べないから、時間がかかるのか?」

「あの時は顔の一部と目だけしか見ていなかったのだけど、こうして全体を見ると物凄く大きいですね」


「カイトよ此処は良いところだ。我は気に入ったぞ。グアッハッハッハ」

「喋れるのか!?」

「あの時はお前が念話を使ってきたから、我も念話で応えたまでだ」


 ジョニーと言い、この地竜と言い、喋るモンスターって結構居るのか?


「まあ、喋れるのなら此方も助かる」

「我はドラゴンの中でも博識なドラゴンだからなグアッハッハッハ」

「なるほどな。で、お前はこれからどうしたいんだ?」


 気に入ったとか言って此処に住むとか言うなよ。


「ああ、何処か人里離れた山にでも出してくれれば良い」

「分かった。それまで此処で我慢してくれ」

「我慢も何も、此処は質の良い、濃い魔力で満たされているからか、最高に居心地が良いぞ」


 そうなのか、俺には分からないが、どんな魔力なんだ?


「グアッハッハッハ何やら分からない顔をしているな。この空間の魔力は、カイトよ、お前の魔力と同じものだ」

「だから俺には分からないのか?」

「グアッハッハッハ我はこの先の湖の畔が気に入ったのでな、そこに居るとしよう。何か用が有る時は呼ぶなり来るなりするが良い」


 何やら気になる事を言って、地竜はポケット草原の奥に消えて行った。


「カイトさん、この草原の向こうに湖が有るのですね」

「何やらそうらしいな。そう言えば、何時も此処から離れないからな」



 俺達はポケット草原を出て、オータンの街を見て回る事にした。

 今回もレクス、グラン、エル、マック、ダイフクが、通りの商店や屋台を覗いては走り回り、行ったり来たりしている。


「此処は商店街みたいだけど、何処にでも有る店ばかりだな。他の街と違う所は、酒場が矢鱈と多いって所か?」

「そうですねカイトさん、鉱山で働く人達が多いですから、酒場が多くて雑貨店等はどうしても少なめになるんですよ」

「そうか、それもまたオータンの街の特色と言う事だな」


 あちらを見て、此方を見て、人の通りと商店を楽しんでいると、酷く傷んだ建物が目に付いた。


「これは教会か?」


 それは、教会として建てられたものでは無く、普通の民家を改造して教会にしている。

 隣の空き地には塀を巡らして、孤児院として使っている様だ。


 俺は高くない塀の上から中の子供達の様子を伺った。


「ほら、ほら、そんなに走ると危ないですよ。あなた達は、まだ怪我が治っていないのだから、激しい運動は駄目ですよ」

「はい、院長先生。ごめんなさい」


 何が有ったのか、子供達の手足や頭には包帯が巻かれている。

 子供達を見ているシスターや院長先生も例外では無い。



 玄関の扉は開け放たれていて、入ってすぐの部屋に急ごしらえの祭壇が有る。その祭壇の前では、一人のシスターが跪いて祈りを捧げていた。



 俺達に気が付いたシスターが此方にやって来た。


「今日はどうされましたか?」

「この教会の方がどうされたのですか?」


 質問を質問で返してしまった。


「残念な事に先日火事になりまして、今はこの建物をお借りしているのです」

「そうでしたか、それはお気の毒です。それで火事になった教会は建て直しているのですか?」

「はい、領主様にお願いしているところです」

「そうでしたか、それなら良かったです」


 後でアマンダさんに、この街の領主が、どんな人か聞いてみよう。


「少しお祈りをさせて頂きたいのですが、良いですか?」

「それでしたら、どうぞ此方へ」


 祭壇の前に案内され、跪いてお祈りをした。


『ワッハッ…………』

(パコーン!)

『カイトくん、この教会の力になってあげ…………』

『おい、スリッパで叩く事ないだろ!?』

金盥(かなだらい)よりマシなの!!』

『はい、はい、二人とも、カイト君が困っているニャ……』

『レクサーヌ、金盥を持ってきたぜ!』

「………………」


 何をやっているんだ、あいつ等?


「また、カイトさんが光ってました」

「アマンダさん、何でもないから、ただの体質だから…………」


 お祈りの度に出て来るのはやめて欲しい…………

 シスターも俺に向かって祈らないで!! 


「ところで、お怪我をされている様ですけね。先程見た孤児院の子供達もそうですけど、皆さん軽傷で済んだのですか?」

「それが………いえ、何でも無いです。それでは私はこれで……」


 何か訳ありなのか?


 取り敢えず寄付金箱に金貨を10枚入れて、今日は帰る事にした。



「アマンダさん、此処の領主様はどんな人なんだ?」

「私はお会いした事は無く、噂で聞いたのですけど、アルマン・グリエット伯爵様は、御若い頃から武闘家として、その道では名の知れた御方だとか。それともう一つ、極度の倹約家とも聞いています」

「貴族としてはどうなんだ?」


 貴族だと言う事を鼻にかけて、平民を見下す様な貴族だと、教会の立て直しには苦労しそうだな。


「それが、私には良く分からないのですが、何でも他の貴族には、たいそう疎まれているそうです。唯一親交が有るのがアングラード家だと言う事です」

「アングラード家?」

「はい、ルトベルクの領主様です」


 レオン様か。それなら信用出来る御方かも知れないな。




 今日も早朝からポケット村の村人達と商業ギルドに商品を卸して、俺とアマンダさんとレクス達は、冒険者ギルドに来ている。


 村人達は、野菜と魚以外の食料品の買い出しに行くそうだ。肉と調味料、そして酒と酒と酒。

 要するに、肉と調味料はついでで、主に酒を買いに行ったのだろう。

 自分達で稼いだお金で買うのだから、ストレートに酒を買いに行くと言えば良いのに、何処か俺に遠慮しているのだろう。


 冒険者ギルドに入ると、ミウラさんが待ち構えていた。


「カイトさん、今日から行動を共にする事になりました。ギルドの視察に期限は設けられていませんので、日程等はカイトさんに合わせる様に、ギルドマスターから指示をされています。ただ、カイトさんには出来るだけ多くのギルドに立ち寄って頂きたいとの事です」

「分かりました、ミウラさん宜しくお願いします」

「ミウラちゃん、宜しくね」

「此方こそ宜しくお願いします。それと、此れはギルドの特別依頼として扱いますので、カイトさんには1日に金貨2枚が振り込まれます」



 俺達は、ミウラさんを伴い冒険者ギルドから出て、火事になったと言う教会にやって来た。


 そこには、簡素な服を来た白髪、白髭の初老の男と、騎士服を着た男と女が家事跡の検分らしきことをしていた。


「お前達は誰だ、此処へ何をしに来た?」


 騎士服の男に剣を向けられ誰何されたので、ここは正直に答えておいたほうが良いだろう。


「冒険者のカイトと申します。昨日教会で火事の事を聞き、見に来たのです」

「今は、グリエット伯爵様が視察に来られている。それに、此処は危険だ。早々に立ち去るが良い」


 あの白髪の男がグリエット伯爵の様だな。

 伯爵が直々に来ていると言うことは、建て替えの算段でもしているのだろう。

 それなら此処には、もう用はない。


「分かりました。それでは失礼し…………」

「待て、カイトと言ったな?」


 何だ?、伯爵に呼び止められる理由が分からない。


「リュック、そこの3人を此方に」

「はっ、お前達、伯爵様がお呼びだ。付いて来い。ポシェットはそのまま周辺の警戒を続けろ」

「はい、隊長」


 面倒事になりそうなら、とっとと退散すれば良いか。


「何故呼び止められたか分からん様だなハッハッハッハッハ」

「はい、正直に言って、分かりかねます」

「まあ良い、お前はこの火事をどう見る?」


 俺は、言われて初めて教会の火事跡を見渡して気付いた。


「一番良く燃えていたのが、あそこの外壁の部分ですね。恐らく屋根か他の燃えやすい物に燃え移ったのでしょう。その壁に向かって森から何かが燃えながら、転がって来た様に見えます。放火……否、何かのモンスターですかね?」

「うむ、その通りだ。これはファイアーフォックスが転がって来てぶつかったんだろうが、状況を素早く見る事も出来るかハッハッハッハ」


 何だ?俺の事を知っている様な言い回しだな。


「ああ、知っているとも。カイトよ」


 何だ!?この爺さんは、考えている事が分かるのか?


 俺は何が有っても対処できるように警戒を高めた。


「爺さんとは失礼な奴だ。儂はまだまだ若いつもりだが?ハッハッハッハッハッハッハ」


「――――――っ」


 やっぱり此方の考えている事が分かるみたいだ………サトリなのか!?

読んで頂きありがとうございました。


アルマン・グリエット伯爵(オータンの街の領主)

リュック(伯爵領の騎士団長)

ポシェット(伯爵領の騎士団員)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ