第32話 カイト、鉱山に行く
新月の館に戻って、アマンダさんはお風呂に行き、俺は夕飯の支度をしている。
今夜はアマンダさんのリクエストで、オムライスだ。
まさか、毎日食べる気ではないだろうな?
サラダはポテトサラダにして、スープは、ほうれん草のポタージュスープだ。
「カイトくん、出来ればドラゴンは殺さないでほしいの!」
「何か事情があるんだな、わかったよレクス」
「ドラゴン達は龍神の教えで人を殺めてはいけないの!でもドラゴンが驚異だと感じている人達は、ドラゴンを討伐対象として、見かけたら討伐しようとするの!」
酷い話だな。っていうか龍神?居るんだ。
「カイトさん、お待たせしました」
「アマンダさん、もう少しで出来るから、座っていてくれ」
「あっ、お手伝いします」
俺は、丁度フライパンに玉子を流し入れたところだ。
先に作っておいたチキンライスを玉子の上に乗せて、くるんっと玉子で包み込み皿に乗せた。
「そうやって作っていたのですね。面白いです」
「このオムライスにケチャップを掛けてくれ」
「はい、カイトさん」
俺はほうれん草のポタージュスープをカップに入れて、ポテトサラダと一緒にテーブルまで運んだ。
アマンダさんは綺麗にケチャップを掛けたオムライスを大事そうにテーブルに置くと、ニッコリと微笑んで椅子に座った。
「「いただきます」」
「はぅー美味しいです、オムライス……それとこの、ジャガイモのサラダもすっごく美味しい!!緑色のスープは……ほうれん草!!はぁー毎日こんなに美味しいご飯が食べられるなんて幸せ過ぎますぅ」
これはカロリーを考えないとヤバイかも知れない。
明日の朝食は和食にしよう。
早朝に商業ギルドに行き、商品を卸してから、冒険者ギルドに行った。
鉱山に行くのは初めての経験だ。
ギルドマスター2人と俺とアマンダさんとレクス達が先頭で、少し間が開いてぞろぞろと冒険者達が、山道を歩いている。
レクス達が楽しそうに走っているのを見ると、まるで遠足に来たみたいだ。
「おい、アマンダ、お前は待っていなくても大丈夫なのか?」
「カイトさんの傍が一番安全ですから」
「あーそうかい、俺も言われてみたいね」
「ほら、ひがんでないで行くよ、マックス」
「分かってるって、おい!ジェラルド、何ニヤけてるんだよ!?」
「お二人は仲がよろしいのですね」
「昔のパーティーメンバーだからな」
そんな事を話しながら歩いていると、坑道が見えてきた。
坑夫達は、まだ来ていないか、地竜が出たから、避難しているのだろう。
いくつか有る坑道の内、地竜が出たと言う、坑道の前に着いた。
「おい、お前等は此処で待機して、ドラゴンが出てきたら街の反対に誘導しながら戦ってくれ」
「良いか、一人で突っ込むんじゃ無いぞ。陣形を崩さず、危なくなったらすぐに逃げろよ。じゃあ行こうか、マックス、カイト君」
坑道の中はランプの光で淡く照らされていて足場も確り見えている。
やっぱりこの世界にはトロッコなんて無いんだな。鉱山と言えばトロッコなんだけど、少し残念だ。
坑道と言えば洞窟だ。そして洞窟と言えばダンジョンだが、坑道はダンジョンじゃ無いし、モンスターは湧いて出ないよな。
「なあ、ギルマス、この国にダンジョンは有るのか?」
「ああ、ここから南に行った所に有るぞ。連日、冒険者で賑わっているから、お前の様に屋台をやっている奴は屋台でもそこそこ儲けているらしいぞ」
「それは、楽しみだな」
「はぁ、お前等なあ、これからドラゴンの討伐に行こうって奴の会話じゃ無いぞ。全く余裕が有るのか馬鹿なのか……」
「それはもう、カイトさんですから、気にしたら負けですよ。ジェラルドさん」
「アマンダさん!!俺だけ!?このチンピラギルマスは!?」
「ぶっ!チンピラギルマス?誰がだ、おいコラ!!」
「アッハッハッハ確かにアマンダさんの言う通りだアッハッハッハっと、そろそろだね…………」
話で聞いていた通りドラゴンの顔半分と目の部分が坑道の最奥に見えて来た。
「さて、どうするマックス?」
「そうだな、今は大人しくしているが、奴がどう動くか分からんし、下手に突付いたら坑道が崩壊するだろうしな」
「俺がちょっと行ってきますよ」
「おい!大丈夫なのか?」
「うーん、多分?だから此処で待っていて下さい。アマンダさんも」
俺はレクス達を後ろに従えて、地竜の目を見ながら、手を伸ばせば届きそうな距離にまで近づいた。
ギルマス達が後ろで何か言っているがそれを手で制して、地竜の大きな目の前に立った。
『俺の言葉が分かるか?』
俺は試しに新月の首飾りに魔力を流して念話を試みた。
「…………」
駄目か、話しが通じないと討伐するしか無いぞ。
『俺の言っている言葉が分かったら返事をしてくれ』
『この様な若僧が念話か……我に何か用でも有るのか?』
『良かった、通じたか。此処は坑道になっていて、このままではお前を討伐しなくてはならないんだ』
地竜は俺をじっと睨み付けた。
『お前なら我を倒す事は出来るだろうな。だが我は此処を動く訳にはいかないのだ』
『何故だ?それに何故こんな所に居るんだ?』
『我が此処で眠りにつく前には、この様な坑道等無かったが、昨日起こされてな、此処が人間共の坑道になっておるのを知ったのだ。どうやらこの辺りは幾つもこの様な坑道が掘られている様で、我は動きたくても動けずにいたのだ』
なるほど、だいたい分かったぞ。
なら、動かなければ良いわけだ。
『我が地中を掘って動けばこの辺りの坑道は全て崩落するぞ。それに、このままでは我を討伐すると言ったが、黙って討伐されてやる訳にもいかん。どうする、若僧』
『俺の名はカイトだ。もし、お前が1ミリも動かずこの場所から移動したら、此処はどうなる?』
『転移か?カイトよ、その場合どうなるかは確かではないが、恐らく我の居た場所には、ぽっかりと穴が残るだけであろう』
なら行けるか?例え崩れたとしてもまだ掘っていない場所だから、被害も最小で済む筈だ。
俺はギルマス達の所へ戻って、地竜と話しが付いたこと、地竜を収納で移動させる事を話した。
「念話だと、何処まで規格外な奴だよお前は?」
「地竜と話しが付いたのならやってみる価値は有るが、あれだけ大きな地竜を収納出来るのか?」
「そこはカイトさんですから」
「そうだな、カイトだからな」
「ちょっと!何ですかそれは」
「アハハハ此処はカイト君に任せるよ」
「分かりました。念の為少し離れていてください」
俺は地竜の前に戻って、収納する事を伝えた。
『そっちの話も付いたようだな。このままでは我も敵わんさっさとやってくれ』
俺は地竜をポケット草原に収納した。
地竜が居た場所には大きな穴が空いたまま残っている。
「成功したな」
「全く規格外な奴だよお前は」
「あの穴は早急に補強した方が良さそうだ。外に出て坑夫に伝えよう」
俺達は坑道を出て冒険者ギルドに帰って来た。
「なるほどな、龍神の教えか……」
「俺達人間が手を出さなければドラゴンも人間を襲わないと言うことだね?」
「はい、稀に言う事を聞かない若いドラゴンが街を襲う事も有るようですが、ドラゴンは数が少ないのでなるべく殺さないで貰いたいとの事です」
「若い奴が言う事を聞かないのは我々人間と同じだなガッハッハッハ」
「この話はギルド本部に通して各ギルドに通達して貰う必要が有るね」
これで無駄にドラゴンが討伐される事が無くなれば良いんだが。
「カイト君、ワイバーンはどうなんだい?」
『レクス?』
『ワイバーンはドラゴンとは全く関係ないモンスターだし、放っておいたら増える一方だから討伐対象で良いの!』
「ワイバーンは討伐対象で問題無い様です」
「分かった。その辺もギルド本部に報告しておこう」
お腹が空いてきたな、それに後でポケット草原に行って地竜の様子を見てみないといけないしな。
「ところでカイトよ、ミウラの事なんだが」
「ミウラさんがどうかしたのか?」
「ミウラがな、各ギルドを視察する任務に付くことになってな、それでお前の旅に同行させて貰えないかと思ってな」
「ミウラさんがそう言っているのか?」
「いや、今日のお前を見てな、今俺が思い付いたんだ。勿論同行させて貰えるならギルドの依頼として扱うつもりだ」
「ミウラさんにも話して了解が取れたら、俺は別に構わないが、アマンダさんはどうだ?」
「ミウラちゃんは友達だし、カイトさんが良いなら私は一緒に旅がしたいですね」
俺達は冒険者ギルドを出て、ポケット草原に来ている。
最初はこんな機能なんて要るかって思っていたけど、かなり役に立っているな。
昼食は、レクスに蕎麦を出して貰い、薬味のネギと山葵もレクスに出して貰った。
麺つゆだけは自分で、作ろうと思う。
昆布と鰹節で出しを取り、味醂が無いので、出し6醤油1酒1の割合で味を見ながら砂糖を入れていく。
少し薄めだが、俺はこの割合が好きだ。
一度煮立たせ氷で冷ましたら冷蔵庫に入れておく。
後は、蕎麦を湯掻くだけだ。
「ズッズズズズ――――」
箸で蕎麦を掴み、つゆに付けて、勢いよく啜る。
アマンダさんに蕎麦の食べ方を教える為に、最初に俺が食べて見せた。
「どうだ?蕎麦はこんな感じに啜って食べるんだ」
「うー、美味しそうです」
「美味いぞ、今やった様に食べてみろ」
「はい、え~と、お箸で掴んで……出来ました!お箸も上手く使える様になりましたよ」
「ああ、箸の使い方は合格だ」
「次は、つゆに付けて〜はむっ………くぱぁ、すすれません!!カイトさん、すすれません!!」
読んで頂きありがとうございました。