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第30話 カイト、オータンの冒険者ギルドに行く①

 鉱山の街オータンには、日が暮れて暗くなってから到着した。

 商業ギルドに商品を卸に行くポケット村の村人は4人居て、今は俺の馬車に乗っている。


「身分証を見せてくれ」


 全員で馬車を降りて、俺は冒険者ギルドのギルドカードを、アマンダさんは商業ギルドのギルドカードを、村人4人はそれぞれの身分証を見せた。


「遠くから来たんだな」

「旅の途中なんですよ」

「冒険者に、商業ギルドの職員に、農村と漁村の村人とは、珍しい組み合わせだな」

「まあ、色々と有りまして。」

「そうだろうな。悪いが馬車の中を検めさせてもらうぞ」

「良いですよ、どうぞ」


 まあ何時もの事だ。


「何だこりゃー!?」


 豪華なソファーセットでレクス達が片手を上げて挨拶をしている。


 これも、まあ何時もの事だ。


「カイトさん、あのポンコツカルテットの事を忘れていませんか?」

「何だ?ポンコツカルテット?」

「やっぱり、忘れていますね」

「あっ!」


 俺は、新月の首飾りに魔力を流して、ジョニーに念話を送った。


「ジョニー、今良いか?」

『ん?カイトはんかいな、どないしたん?』

「あのポンコツカルテットを衛兵に預けるから、此方に引き取ろうと思ってな」

『ああ、あの4人組かいな。ええ顔つきになっとるで。おもてなしをした甲斐があったわ』


 俺はポンコツカルテットをGの館から出すと、4人共が体育座りで俯いていて、何やらブツブツ呟いて、笑いながら泣いて震えていた。


 衛兵に事情を話してポンコツカルテットを預けた。


「此奴等に何が有ったんだ?虚ろな目をして生気が全く無いぞ」

「さあ、おそらく反省しているのでしょう。それでは、俺達は行きますね」



 馬車の中で村人達は、明日の準備の為に村に帰る事になり、俺達は人の居ない通りから、馬車で新月の館に帰って来た。


「アマンダさん、夕食は簡単な物で済まそうと思うから、先にお風呂に入って来ても良いぞ」

「分かりました。それではお先に失礼します」


 アマンダさんがお風呂に入っている間に、鍋でスライスしたタマネギをバターで焦げ茶色になるまで炒め、水とキューブブイヨンで作ったオニオンスープと、ちぎったレタスと角切りトマトに塩とオリーブオイルと刻んだバシルを掛けて、混ぜ合わせたサラダ。

 それとアイテムボックスに残っていたご飯でチキンライスを作り、卵で包んだオムライスをテーブルに運んだ。


「レクス、グラン、エル、マックニャン、アマンダさんがお風呂から上がるまで、少し余裕があるから今の内にお裾分けだ」




「カイトさん、お風呂が広すぎて一人で入るのが勿体ない気がしますね」

「一人だったら泳いでも良いぞ。水泳は良い運動になるからな」

「泳げません…………」


 此処は内陸みたいだし、泳げない人も珍しくないかもな。


「なら練習すれば良い。アマンダさん、夕食にしよう」

「練習って、どうすれば…………」

「そんな事より早く食べるぞ」


 アマンダさんがテーブルの上の料理を見て、嬉しそうにしている。


「カイトさん、今夜は簡単に済ませるのでは無かったのですか?」

「ああ、ちゃちゃっと簡単に作った物で悪いが、結構美味いぞ」

「サラダの緑と赤と、スープの表面が光でキラキラ揺れていて、玉子ですか、これは?初めて見るお料理ですけど、大きな黄色い玉子に赤いソースが掛かっていて、全体的に彩りが綺麗ですね」


 アマンダさんが食レポを始めたぞ。


 オムライスにスプーンを入れて、目を見開いたアマンダさんは、口を大きく開けてパクリと頬張った。

 アマンダさんは静かに食べているが、どうせ口にいっぱい頬張っているから喋れないだけだろう。


 俺もゆっくりと食べ始めた。


「美味いな、オムライスなんて何年ぶりだろう……」


 里美が得意で良く作ってくれていたな。


「美味しいです、カイトさん!!このお料理はオムライスって言うんですか?まさか玉子の中に味のついたお米が入っているなんて、思いもしなかったです。この赤いソースがとても………ああー、夢の様なお料理ですね」


 地球産のケチャップだからな、そりゃあ美味いよな。


「気に入って貰えて良かった」

「気に入ったなんてものじゃ無いです。オムライスは私の大好物に認定されました」

「言ってくれれば、また何時でも作ってやるぞ」

「嬉しいです。忘れないで下さいね」







 商業ギルドに商品を卸し終えて、俺と、アマンダさんは冒険者ギルドに来ている。

 村人達はといえば、今回は特に買い出しは必要無いと言う事で農村と漁村に帰って行った。





「おいおい、お人形を連れてお子様が…………」


 俺は手を翳して冒険者の言葉を遮り、名乗りを上げた。


「Cランク冒険者のカイトです。旅の途中で立ち寄リました」

「そうか、よく来たな。何も無い所だが、適当に見ていってくれや」


 この人も普通の気の良い冒険者なんだな。


「ところで、何故こんなお約束が有るんでしょうね」

「俺らも良くは知らねぇが、自分の力を過信した若い奴に釘を刺して無茶をさせないようにするって、誰かが言っていたのを聞いた事があるぞ」

「なるほど、そう言う理由が有ったんですね。初めて行くギルドで毎回お約束が有るから、正直うんざりしているんですよね」

「アッハッハッハ、そこは我慢してくれ。若い奴等が無茶をして命を落とすよりかはマシだ」


 仕方ない、我慢するか。


「だが、中には性格の悪い奴も居てな、本当に絡んで来るから気をつけろよ」

「そんな奴は返り討ちですよ」

「若いのに頼もしいな。じゃあな、碌な依頼は無いが見ていってくれ」


 気の良い冒険者は、これから依頼を受けるのだろう、装備を身に着けてギルドを出て行った。

 


「オータンにはどんな依頼があるんだろう?」

「カイトくん、討伐依頼があるよ!」

「こっちは鉱石の運搬だなワッハッハ」

「今回は、いや金輪際Gの討伐は受けないからな」

「それは此処には無いみたいだぜ」


 坑道周辺のモンスターの討伐、鉱石の運搬、薬草採取、犬の散歩?庭の草むしり?子守り?買い物代行?


「全部は、やらないからな、レクス!」


 だいたい、冒険者になったのも身分証の為だし、積極的に依頼を受けるつもりなんて無かったんだ。



 レクスがクエストボードから依頼を2つ選んだので、受付カウンターにいった。


 2つと言う事は坑道周辺のモンスターの討伐と鉱石の運搬か薬草採取だろうな。




 俺達は冒険者ギルドで聞いた場所にやって来た。

 レクス達は草原の中をいや、伸び切った雑草の中を走り回っている。


「はぁ……何が面白いんだ?」

「カイトさん、朝の涼しい内に終わらせましょう」


 しかし何だ、この無駄に広い庭は?

雑草が無いのは家の周りだけだな。


「外が騒がしいと思ったら、あなた達は誰ですか?」

「冒険者ギルドの依頼で草むしりに来たカイトです」

「私はアマンダです」


 家の中からフライパンを持った家主が出てきて誰何されたので答えると、嬉しそうに微笑んで家に招き入れてくれた。


 何と言っていいか、全体的に白いもこもこがワンピースを着ている。

 顔と手と、おそらく足だけは人間と同じで、歳は30歳前後だろう。

 メリーと名乗った彼女の後ろには、二つの白い毛玉が走り回っている。


「羊人の方だったんですね。依頼対象の草が牧草だったので、不思議に思っていたのですが、納得しました」

「あなたも冒険者なのかしら、アマンダさん?」

「私は商業ギルドの職員をしていて、カイトさんと旅をしているのですよ、メリーさん」


 流石、商業ギルドの職員だ羊人も牧草も知っていたんだな。




「それで、余りにも美味しくて、考え無しに種を蒔いた結果が、この有り様なんです…………」

「なるほど、だから冒険者ギルドに依頼を出したんですね」

「はい、主人は坑道で働いていますから、私と子供達だけでは食べ切れなくて……」

「え!?抜くのでは無くて食べるのですか?」

「はい、せっかくの美味しい草なので、捨てるのは勿体ないから、抜いた後は食べて頂きたいのです」

「カイトさん、どうします?」


 アマンダさんが不安そうな顔をしているが、種を蒔いてまで育てた美味しい草だ……



「食えるかよ!!」


読んで頂きありがとうございます。


メリー(羊人、草むしりの依頼者)

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