第28話 カイト、鉱山の街オータンに行く①
今回は短めです。
早朝から荷車を押して商業ギルドに商品を卸した。
商業ギルドを出ると俺とアマンダさんは馬車に乗り、ポケット村の人達は空の荷車を押して正門に向かう。
正門でギルドカードを提示して正門から離れると、ポケット村の人達を回収し、街道を西に向けて進む。
「アマンダさん、次の街はどんな街なんだ?」
俺は朝食を作りながらアマンダさんに聞いてみた。
「次の街は、馬車で2日くらいの場所にある、鉱山の街オータンですよ」
「鉱山と言う事は山の中に街が有るのか?」
「昔は街どころか村にもならないくらい人も少なかったのですけど、鉱山で働く人やその家族が増えていくに従って、商店や宿屋や飲食店も増えていき、今では街の規模にまでなったと聞きました」
「なるほどな。概ねそうやって街が出来ていくんだろうな」
今日の朝食は炊きたてご飯と、炙った魚の干物と、玉子焼きと、大根の味噌汁に白菜の浅漬けだ。
アマンダさんには箸の練習をしてもらおう。
「うわ――――っ!カイトさん、朝から豪華過ぎませんか?」
「俺がいた所では、普通の朝食だぞ」
「朝からお魚なんて、贅沢過ぎて踊り出しそうです」
「うん?踊って良いぞ」
「それ位嬉しいって事ですよ。あれ?お箸しか置いてないですよ」
踊りが見れなくて残念だ。
「ああ、アマンダさんも箸が使えるようになって貰いたいからな」
「分かりました、カイトさん!一生懸命に練習します」
アマンダさんに箸の持ち方から教えて、四苦八苦しながら朝食を終える頃には、なんとかかんとか、覚束無いながらも、箸を使えるようになってきた。
「これで私もカイトさんと一緒にお箸でご飯を食べられますね」
アマンダさんは嬉しそうだ。
「カイト君、前方に馬車が列を作って止まっているニャン」
マックが御者席側の窓を開けて、報告してくれた。側面の窓から顔を出して見ると、5台の馬車が止まっているのが見えた。
「何か有ったのかな、マック見てきてくれないか?」
一番身軽なマックに見てきて貰う事にした。
御者席から前の馬車の屋根に飛んだマックは先頭の馬車の屋根まであっと言う間に駆け抜けた。
流石、猫なだけある。
マックは馬車の屋根に身を伏せて状況を観察している。
その間にも馬車は止まったまま動こうとしない。
先頭では何か口論しているみたいだ。
観察が終わったのだろう、マックが帰ってきた。
「カイト君、先頭では1人当たり銀貨1枚の通行料を払えだの払わないだので口論していたニャン」
「通行料?アマンダさん、街道では通行料を払って通る所があるのか?」
「私はそんな話なんて、聞いた事がありませんよ。カイトさん」
うーん、新手の盗賊か?
「それでマック、どのような連中で何故、通行料を払えと言っているんだ?」
「冒険者風の4人がこの街道をモンスターや盗賊から守っているのは自分たちだから、此処を通るには通行料を払って貰うと言っているニャン」
マックと話している内に、痺れを切らしたのだろう、他の馬車の連中が先頭に歩いて行っている。
「俺達も行って見るか。レクス、グラン、ダイフク行くぞ。マックは此処を頼む。アマンダさんはどうする?」
「私も行きます」
俺達は先頭で口論している所まで歩いて行った。
他の馬車から降りてきた人集りで、口論の現場が良く見えないが、マックが言っていた通り、通行料を請求している声が聞こえた。
払え、払わないの押し問答だ。
「すみません、通して下さい」
俺は人集りをかき分けて、やっとの事で前に出ることが出来た。
レクス達は馬車の上に居た。
「あっ!!彼奴等は……」
「えっ!?」
「あーっ、貴様!何故、こんな所に居る!さっさと行かぬか、この間抜けが!!」
何だこれ?また怒られてしまった。
「レクス、スタン」
「了解だよ、カイトくん!」
レクスの投げたスタンボールが4人の冒険者風の男女に当たり、彼等はまた痺れて動けなくなった。
「き、きさばばばばば」
「喋ると下を噛むぞ」
「カイトさん、この人達は、あの……」
「ああ、そうだ。彼奴等だ」
それにしても何故、此処に居るんだ?武器も取り上げた上に衛兵に預けたのに………
「あの、この人達はいったい、何なんです」
商人風の男が俺に話し掛けてきた。
「此奴等は人を騙して小金をせしめるポンコツカルテットですよ」
「ぷっ!?ポ、ポンコツ……カ、カルテット……アハ、アハハハハ」
アマンダさん!?
「どなたか、被害に遭われた方はいらっしゃいますか?」
「いや、開門と同時に私が1番に出たから被害に遭った者は居ないと思うが……」
「それなら良かったです。此奴等は俺が次の街で衛兵に引き渡しますよ」
アマンダさんは声を殺して笑っている。
そんなアマンダさんは、皆の注目の的だ。
「そうですか、それでは私はこれで失礼しますよ。カイトさん……でしたか、この場を収めて頂き、ありがとうございました」
「いえ、困った時はお互い様ですよ」
止まっていた5台の馬車は動き出し、俺達だけがこの場に残った。
マックは俺達の横に馬車を止めた。
「さてと、此奴等はどうしようか……」
「カイトくん、Gの館の地下には、地下牢が有るの!」
「それだ!!」
「カイトさんがまた、悪い顔になってます」
笑いから立ち直ったアマンダさんが何か言っているが、これは実行するしか無い
『ジョニー、今からGの館の地下牢に、小悪党のポンコツカルテットを送るぞ。暫くそこで面倒を見てやってくれないか?』
俺は新月の首飾りに魔力を流して、ジョニーに念話を送った。
『カイトはん?これは念話かいな。便利なもんやな。確かに、地下牢が有ったな。なんや、お客さんやて?それやったら、おもてなしせなアカンな』
「頼むぞジョニー。それはそうと食料は足りてるか?」
『まだ、ごっつ残っとんで。おおきにな。ほな、お客さんの事は任せとき』
こんなに早くGの手を借りる事になるとはな。
「今からお前達には、素晴らしい、おもてなしが待っているぞ。そこで暫く反省するんだな。ククククッ」
「カイトさん、顔が怖いです…………」
俺は、ポンコツカルテットをGの館の地下牢に送った。
「さあ、出発するか。アマンダさん、お茶を入れてくれないか?」
「はい、カイトさん」
街道はいつの間にか南に進路が変わっていた。
空は晴れ渡り、日差しが燦々と降り注ぐ。そう、こんな日は空からワイバーンが襲い来る。
「来ないな、ワイバーン…………」
「えっ、ワイバーンなんか来たら大変じゃあないですか!!」
俺は空を見ながらアマンダさんと話している。
「ワイバーン位のモンスターなら何匹居ても平気っ!?何か来るぞ!」
太陽を背にして黒い大きな影が近づいてくる。
「太陽の光で良く見えませんが、大きな鳥のようです」
「見えて来たな。此方には来ないみたいだが、何だあれは?」
「あっ、あれはラージピジョンですよカイトさん。ラージピジョンは殆どが手紙の配達用にテイムされているモンスターですよ」
「確かにあれは鳩だな。伝書鳩か。それにしてもデカイな」
あっ!落ちた。
「アマンダさん、ラージピジョンって良く落ちるのか?」
「落ちませんよっ!!何処か怪我をしているのかも知れません」
「マック、ラージピジョンが落ちた所に行ってくれ」
「カイト君、了解ニャン」
どうやら、ラージピジョンはこの先の街道脇に落ちたみたいだ。
レクス達が一足先にラージピジョンの所へ行っている。
「レクス、ラージピジョンは?」
「羽を怪我して上手く飛べないみたいなの!」
ラージピジョンはその名の通り、見た目はお馴染みの鳩だが、軽自動車並の大きさだ。
羽根を広げるともっと大きく見える。
「このラージピジョンには何処にもテイムモンスターの証が付いていないぞ。野生のラージピジョンなのか?」
レクスの言う通り左側の羽根の付け根に大きな傷が有り、血が流れ落ちている。
まるで鉤爪で抉った様な傷だ。
「助けるぞ……ヒール」
手から出た銀色の光がラージピジョンの傷を癒やしていく。
光が収まると、傷はすっかり消えていて、ラージピジョンは元気になった。
「ピ―――――――ルルル」
何だ、この鳴き声は?
「カイトさん、ファイヤーイーグルです!!」
「上か!」
見上げるとファイヤーイーグルの爪が目前に迫っていた。
読んで頂き、ありがとうございました。
カイト危機一髪!?