第24話 カイト、ヴァサルの冒険者ギルドに行く①
丼と茶碗が手に入ったからには、ちゃんとした箸も欲しくなってきたな。
木工品の店が有ったら覗いてみよう。
大通りの木工品店を物色しながら歩いていると、冒険者ギルドが見えてきた。
アマンダさんとギルドに入り周りを見渡す。
ギルド内はザルクの街とそう変わらない作りになっていて、酒場やカウンターやクエストボードの前に居る冒険者もそう変わらない。そして……
「おうおう!お子ちゃまが彼女を連れて何の用でちゅかー?ガッハッハッハ来るところを間違っていまちゅよーハッハッハッハ」
お約束も………
「Cランク冒険者のカイトと言います。旅の途中で立ち寄りました。お約束、ご苦労様です」
「何だ、旅の冒険者か。カイトと言ったな、歓迎するぜ。ヴァサルにようこそ!俺はジュールだ。分からない事が有ったら誰にでも良い、何でも聞いてくれ」
「ありがとうございますジュールさん」
ジュールさんは手を上げて酒場に戻って行った。
ほんと、お約束が無かったら気の良い人達なんだけどな。
俺はクエストボードを見に行った。
「木の伐採?石の運搬?なるほど、地域色が出ているなレクス」
「そうだね。カイトくん向きの依頼なの!」
確かに……木を切るのは簡単だしアイテムボックスやポケット収納があるから岩でも運べるな。
「他には……ビッグボアの討伐にアイアンマンティスの素材に、Gの討伐?Gって、あのGか?」
Gなんて悍ましい依頼、誰がこんなの受けるんだよ……
「カイトよ面白そうな依頼が多いなワッハッハッ」
「カイトくん、全部受けるの!!」
「やろうぜ、カイト。全部だぜ!」
「全部!?Gも!?」
「Gもなの!」
「冒険者ギルド、ヴァサル支部へようこそ。受付のコレットがご用件をお覗い致します」
受付嬢のコレットさんは長く伸ばして後ろで束ねた赤い髪で目は茶色、スタイルは良いが身長が低い二十歳前位の可愛らしい感じの人だ。
「依頼を受けたいのですが…………マジでG受けるのかよ……」
「???依頼の受注で宜しいのですよね?」
「あっ、すみません。木の伐採と石の運搬とビッグボアの討伐とアイアンマンティスの素材。それと……G……の……討伐をう、受けます」
コレットさんの顔が、ぱあっと明るくなった。
誰もやりたく無いよな。だから残ってたんだよな。
「Gの討伐は誰も受けてくれなくて、ずっと残っていて困っていたんです。でも、木の伐採に石の運搬とビッグボアの討伐、更にアイアンマンティスの素材とGは多すぎませんか?」
「やってみて1日で無理なら2日掛けてやりますよ」
もう、さっさと終わらせたい……
「2日でも無理だと思いますが、木の伐採と石の運搬は常設依頼ですから何時でも構わないので、ビッグボアとアイアンマンティスを優先してください。それとGに関しても私の家ですので、最後で構いませんよ」
「あんたの家かいっ!!!」
まったく、掃除してるのか?
それ以前にギルドの依頼に出すか、普通?
コレットさんにビッグボアとアイアンマンティスの出没場所を聞き、早速討伐に出かけた。
アマンダさんも一緒だ。いざとなったらポケット集落に行けば安全だ。
『うわーっ!助けてくれー!お前らもっと速く走れ!走れ!』
『もう……駄目……走れない……』
「諦めるなぁー!走れ!」
「レクス、声が聞こえた」
「カイトくん新月の仮面なの!」
「要らないだろ、今リアルに聞こえてるし」
レクスはピンク、グランは青、エルは黃、ダイフクは黒、マックニャンは紫の仮面を既に付けている。
「アマンダさん!?」
アマンダさんは赤の仮面を付けた。
マジかよ……
俺は諦めて新月の仮面を付けながら、声のした方へ走り出した。
「おい!遅れるな!手を出せ。引っ張ってや………る……?」
「何か変なのが来たよ!?」
「怖いよ!!」
ワゴン車くらい大きいイノシシが7匹、猛突進で若い冒険者を追いかけている。
何か言ってるけど秘技、聞こえないふりだ!あれがビッグボアか?探す手間が省けたな。
「アマンダさん以外、1人1匹倒すぞ」
「「「「イエス、マスター!」」」」
えっ、何?ちょっとカッコイイかも。
先ずは俺からだ。
逃げて来る冒険者達とすれ違うと足を止め、居合いの構えを取り、新月の刀に魔力を流す。
先頭を走るビッグボアの首を斜め下からの一閃!ビッグボアは俺の脇を通り過ぎて立ち止まり、胴体から首が滑り落ちて倒れた。
2番手はレクスの魔法だ。
「アイスフェンリル!!」
「アォ―――――ン」
レクスの声と共に冷気を身に纏った青白い氷の狼が、2番めのビッグボアに向かって走り、ビッグボアの胴体に氷の牙を立てると、ピキッピキッピキッと音を立てて凍りつき、ビッグボアは、そのまま動かなくなった。
「アォ――――ン」
フェンリルは一声上げると消えていった。
「ハッ!!」
3番手のエルは走って来るビッグボアを待ち構え、右拳に赤い闘気を纏わせると、素早くビッグボアの真下へと潜り込む。
気合の声と共に腹部への強烈な一撃を放つと、赤い衝撃波と共に巨大なビッグボアが空高く打ち上げられ、大きな音を立てて地面に落下。
落下の衝撃でだろう、首の骨が折れていた。
そして、エルの足下には大きなクレーターが出来ていた。
「シャー」
4番手は召喚状態のダイフクで、突進してきたビッグボアを力尽くで押し留め、すかさず同体を巻きつけると、ビッグボアの骨が軋み、一本また一本と、音を立てて折れていく。
最後は首に牙を食い込ませると、ビッグボアは力無く崩れ落ちた。
「ワッハッハッハッハ」
5番手のグランは、ビッグボアの進行方向で足を止め、ハンマーを口から出し、身体を軸にグルグルと回り始めると、ハンマーが銀色に光りながらビッグボアと同じ大きさになった。
それを突進してきたビッグボアに投げつける。
回転しながら飛んで行く巨大ハンマーが直撃した。
ビッグボアは弾き飛ばされ、四肢を痙攣させた後、動かなくなった。
砂埃が風で流されると笑い声と共にハンマーを持ったグランが親指を立てていた。
「ふんふふんにゃ♪ふんふふんにゃ♪」
6番手はマックで、鼻歌混じりに目で追えない程に素早く、上下左右、前に後ろにと、走っているビッグボアの周りを動き回り、確実にレイピアで肩と膝の関節を貫いて動きを止め、最後はビッグボアを踏み台にして高く飛び、ムーンサルトの後に落下の勢いを利用して、頭をレイピアで貫いた。
残る最後の1匹はレーザーサイトの赤い光が眉間をマーキングした瞬間にライトニングショットで呆気なく倒れた。
何か、俺が一番地味じゃない!?
「コンセ、ビッグボアの収納を頼む」
(イエス、マスター!)
「あの……助けてくれてありがとうございました。凄い戦いで感動しました」
「あなたはドールマスターですよね?助けてくれて感謝します。初めてドールマスターの戦いを見ました」
「あっと言う間に7匹のビッグボアを倒すなんて凄すぎます。最初何か色々言ってごめんなさい。ありがとうございました」
これが本当にドールマスターの戦い方かどうか疑問だが、そこは黙っておこう。
「全員無事なのか?」
「はい、お陰様でかすり傷程度で済みました」
見ると、腕や足から血を流している。
「かすり傷でも放っておくのは良くないな。……ヒール」
「傷が消えていく……」
「温かいわ……」
「ありがとうございました。あの、お名前を教えて頂けますか?」
まあ、名前くらい良いだろう。
どうせすぐにまた旅に出るんだし。
「ああ、俺は…………」
「新月仮面なの!!」
「ワッハッハッハ新月仮面は弱いものの味方だ」
「仮面は不気味だが正義の心は不死身だぜ!」
「君達もいつか新月仮面の様に、困っている人を助けられるよう頑張るニャン」
何かエルの言葉がおかしいけど、この子達は凄く感動しているよ………
「はい!俺達もいつか人助けが出来るよう、頑張ります!!」
「それじゃ行くぞ。君達も気を付けて帰れよ」
「はい、新月仮面さん!」
「「「ありがとうございました」」」
何だ、この茶番は?
若手の冒険者と別れて新月の仮面を外した。
アマンダさんは、外した赤い仮面をハンドバッグくらいの大きさの自分のバッグに入れていた。
もしかしてマジックバッグ?
「カイトさん、素晴らしいです。名を伏せて、顔も隠して人助けをするなんて……感動しました。カッコ良すぎます!!」
「はあ、そうですか?それに別に名……」
「新月仮面は人知れず、人助けをするの!!」
名前と顔を隠しても、レクス達が居る時点でバレバレじゃん?
まあ、レクス達が楽しそうにしてるから良いか。
「次はアイアンマンティスだな。此処からだと東に行けば良いのか?」
「そうですねカイトさん。ギルドで聞いた情報だと、そうなります」
「ありがとうございます、アマンダさん。それじゃあ行きましょうか」
程なくして2匹のアイアンマンティスを見つけた。
「アイアンって言うくらいだから、硬いんだろうな……しかも素材にするらしいから、傷つけずに倒さないとな」
どうやって倒すか考えていたら、此方に気付いたアイアンマンティスが向かって来た。
「カイトくん、どうするの!?」
「水に沈めようか」
「えっ、どうやって水に沈めるんですか?」
「見ていて下さい、アマンダさん」
セルジュこのイメージで立方体の結界は作れるか?後で水を入れたいんだが……
(マスター、最初から水が入っている立方体のイメージの方が、わかりやすいかと)
なるほど、それでやってみるか。
アイアンマンティスは、もう目の前まで来ていた。
「カ、カイトさん!?」
「多分、大丈夫ですよ、アマンダさん……ウォーターキューブ」
「――――――――多分!?」
今回も読んで頂きありがとうございます。
ジュール(ヴァサルの冒険者)
コレット(冒険者ギルドヴァサル支部の受付嬢)