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第22話 カイトの料理 


「アマンダさん起きて下さい」


 余程疲れていたのか起きる気配が無い。

 仕方が無いから、先に昼食を作ってカウンターの上に並べておく事にした。


 熱々のオーク肉のカツ丼と、野菜たっぷりの味噌汁と、白菜と胡瓜の浅漬と緑茶がカウンターに並ぶ。

 食欲をそそる良い匂いだ。


 もう一度、アマンダさんを起こしに行く。


「アマンダさん、起きて下さい、ご飯ですよ」

「ご飯!!」


 物凄い勢いで起き上がり、辺りをキョロキョロ見回して、カウンターの上に視線をロックオンしたアマンダさんは、ソファーの上からスツールにまっしぐら。


 スツールに座り、両手を膝の上に置いて姿勢をただし、此方を振り返る。


 呆気に取られていた俺は、笑いを堪えながらアマンダさんの隣に座った。


「オーク肉のカツ丼と味噌汁です。どうぞ、召し上がって下さい」


 ランチョンマットの上にはスプーンと、フォークと、箸を用意しておいた。

 俺は箸を手に取り、アマンダさんを見る。


「カイトさん、この料理は、今カイトさんが持っているもので食べるのですか?」

「そうですよ。でも慣れていないと難しいと思いますからスプーンと、フォークも用意してありますよ」

「ありがとうございます、カイトさん。今回はスプーンで頂きます」


 アマンダさんはカツ丼を一口食べた。


「美味しいです、カイトさん甘い味付けがお米に染み込んで、トロトロの卵と混ざり合う……初めて食べる料理です。お肉も美味しい……はぁ、幸せだわ」


 本当に幸せそうな顔をして食べている。


「良かった。お口に合いましたか?」

「はい、カイトさん。とっても美味しくて、幸せです。この味噌汁もとても美味しいですね。この料理に良く合います。それにこの小皿のお野菜は深みのある味で、少し食べるとお口の中がさっぱりしてカツ丼が更に美味しく感じます」


 おかわりした緑茶を飲みながら、ソファーで食休みしている。


「カイトさんは優れた料理人でもあるんですね」

「俺なんか少しかじっただけで、たいした事無いですよ」

「でも、凄く美味しかったです。食べ過ぎて苦しいです」


 やっぱりアマンダさんは食いしん坊キャラ?


「アハハハ、それなら少し休んだら、暫く歩いて行きましょうか。適度な運動も必要ですよ」



 俺とアマンダさんは馬車を降りた。


 感覚的には部屋から外に出た様な感じだ。


「マックニャン、暫く歩いて行くからポケット草原で休憩でもしていてくれないか?」

「ずっと馬車の中だと身体が鈍るからね。良い心掛けニャン」


 馬の事が気になっているが、見た目が馬だから良いかと思い、気にしない事にした。

 馬車がポケット草原に入ったのを確認してから俺とアマンダさんは西に向けて歩き始めた。

 俺達の前にはエルとダイフクが歩いている。



「先程カイトさんがポケット草原って仰ってましたけど、ポケットには農村と漁村の他にも何か有るのですか?」


 この際だ、アマンダさんもポケット登録しておこう。


「農村と漁村以外には人は居ないのですが、草原と森林が有りますよ。因みに、農村の有る場所は田園で、漁村の有る場所が海辺と言う名称です」


「草原と森林ですか、行ってみたいですね」


 此処でポケット登録についてアマンダさんに説明をした。


「是非、登録して下さい。私が農村と漁村の管理を引き受けたいと思います」

「管理して頂けるのなら此方も助かります。ポケットに手を入れて魔力を少し流して下さい」


 アマンダさんがポケットに手を入れて魔力を流すとコンセの声が聞こえた。


(アマンダさんの新規登録が完了しました。削除したい時はマップ内のコマンドから削除が出来ます)


「今の声は何ですか!?」


 アマンダさんにも聞こえてたんだ。

 脳内アナウンスじゃ無かったんだな。


「詳しくは説明出来ませんけど、俺の魔法のマップの機能ですよ」

「そうなんですか、カイトさんは人間ですよね?」


 ストレートにとんでも無い質問だな、おいっ!


「俺は普通の人間ですよ。レクス達は違いますけどね」

「レクスちゃん達が人間では無いのはわかりますよ。カイトさんも普通かどうかは兎も角、どこから見ても人間ですよね。ふふふ、おかしな事を聞いてすみません」


 なんか微妙にディスられた?


 話しながら歩いていると、後少しで野営地なので、そのまま歩いて行くことにした。

 エルとダイフクはさっきから前に出たり後ろに下がったり、飛んだり跳ねたり、楽しそうに走り回っていた。



 野営地に到着すると、アイテムボックスから新月のテントと新月の屋台を出した。


「チラホラと商人や旅人が居ますね」

「前に来た時にも、馬車が数台有りましたよ」


 アマンダさんは焚き火を熾し、俺は夕飯の準備を始めた。


 パスタと野菜のミネストローネと、レタスのサラダ、薄く切って鉄板で焼いた後にバターを塗って食べやすくしたパンと、メインのワイバーンステーキが今夜のメニューだ。


 レクス達の料理をこっそりと草原に送ってから、俺たちも屋台の椅子に座って食べ始めた。


「カイトさん!ワイバーンのお肉は高級品なんですよ!普通は街のレストランで裕福層の人しか食べられないのに……それを野営でなんて……」

「嫌なら食べなくても良いですよ」

「い、嫌じゃ無いです。食べます!食べますからー」


 アマンダさんが何かブツブツ言っていたので、ワイバーンステーキのお皿を取り上げたら、泣きそうになったので、お皿をアマンダさんの前に戻した。


「もう!意地悪しないで下さい、カイトさん」


 アマンダさんはプンプンしながら、ワイバーンステーキを見てニヤニヤと器用な事をしている。


「アマンダさん、食べましょう」

「「頂きます」」


 なるほど、高級品なだけあってなかなか美味いな。

 ミディアムに焼かれた肉は柔らかくジューシーで、噛むと脂の甘みが舌に絡み付く。

 数回噛むと溶ける様に消えて胃の中に入って行く。


「カイトさん!美味しいです。美味しいです!」


 アマンダさんは黙ってワイバーンステーキを咀嚼しながら涙を流していたけれど、溶けて胃に入ったのだろう、急に、美味しいの連発だ。


「アマンダさん、冷めない内に食べましょう」

「はい!カイトさん」


 凄く良い笑顔だ。


 夕飯が終って皿を棚に戻す。

 棚に戻した皿は勝手に綺麗になるから楽で良い。


 レクス達も戻って来て、暫く焚き火の前で談笑して新月のテントに入る。


「何ですか、これは!?」


 新月のテントに入ったアマンダさんの第一声だ。


「アマンダさん、先にお風呂に入りますか?」

「お風呂ですか?」


 アマンダさんを脱衣所に案内して、使い方を説明した。




**********




 私は今、信じられない事に大きなお風呂に一人で入っている。

 この広い湯船なら10人は余裕で入れそうだわ。


「はぁー、気持ち良いわ。なんて贅沢なのかしら」


 今日は一日中驚いてばかりだった。


 カイトさんの屋台から始まり、ポケットの農村と漁村。


 今日は、まるで貴族のお部屋の様な馬車にカイトさんの魔法とお料理。

 極めつけに、貴族のお屋敷にも無いような広いお風呂や高価なソファーセットが置かれたテントの中。


「カイトさんって何処かの国の王族なの?それにしてもお湯に浸かるのって凄く気持ちが安らぐのね」


 カイトさんが、長くお湯に浸かるとのぼせて倒れるって言ってたからそろそろ出ようかしら。


 大きなタオルで身体を拭いて籠に入れていた服を手に取ると、汗の匂いも汚れも綺麗に取れていて、ほんのりと花の香りがした。


 また驚いた。今日、何回目だろう。


 服を着終わるとレクスちゃんが来て濡れた髪を魔法で乾かしてくれた。


「レクスちゃん、ありがとうございます」

「どういたしましてなの!」



**********



「カイトさん、お風呂ありがとうございます」

「どうですか、疲れは取れましたか?」

「はい、今夜は何だかぐっすりと眠れそうです」

「お湯に使って身体が温まっていますからね。眠たくなったら、右側の部屋にベッドが有りますから先に休んでいて下さいね。あと、キッチンも自由に使って下さい」


 俺は大浴場に行った。



 お風呂から上がるとアマンダさんがソファーに座って紅茶を飲んでいた。


「今日一日で私は、カイトさんの認識を改めようと思いました。カイトさんは常識の範囲外の人なんですね」

「なんか、失礼な事を言ってませんか?」

「はぁ、しかもご自分が普通だと思っているんですから」


 アマンダさんはヤレヤレとでも言いたげに両手のひらを上に向けて、首を横に振っている。




 翌朝、起きたらアマンダさんはまだ寝ているみたいだった。



「おはよう、レクス、グラン、エル、マックニャン、ダイフク」


 マックニャンはすでに馬車を待機させていた。



 新月の屋台で朝食の準備をする。


パンを少し厚めに切って、牛乳と卵と砂糖を混ぜ合わせた液に浸しておく。


 千切ったレタスとカットしたフルーツを混ぜ合わせ、レモンを搾って塩と胡椒とオリーブオイルでドレッシングを作った。


 先にレクス達の朝食を作った。

 馬はポケット草原の草が気に入ったようで、既に腹いっぱい食べて来たそうだ。



 日課の剣術の型を練習していたら、やっとアマンダさんが起きてきた。


「おはようございます。早いんですねカイトさん」

「おはようございます、アマンダさん。朝食にしますか?」


 液に浸しておいたパンを鉄板でゆっくりと焼く。

 パンを焼いている間に、サラダを盛り付けてドレッシングを添える。


 ティーポットに紅茶を入れて、焼き上がったフレンチトーストを皿に盛り付けて完成だ。蜂蜜が入っている瓶も出しておく。


「カイトさん、あのパンがこんなに美味しくなるなんて驚きです!」

「とても簡単に出来ますよ。レシピを教えましょうか?」

「カイトさんが良いのなら商業ギルドにレシピを売る事も出来ますよ。このサラダも美味しいですし」


 商業ギルドはそんな事もやっているのか。

 これはいい事を聞いたな。素人の俺が作った料理がプロの料理人によって昇華されれば、俺も美味い料理が食べられる。


「考えておきますよ、アマンダさん」

「はぁ、美味しかったです。是非お願いしますね」



「ここを片付けたら出発しましょう」


読んで頂きありがとうございました。


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