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第21話 カイト、旅に出る


「グラン頼みたい事があるんだ」


 5日後に旅に出るから馬車は必要かと思いグランに声をかけた。


「おう、カイトよ、馬車ならもう出来て、草原に置いてあるぞ。ワッハッハ」

「早いなおい!っていうか何でわかったんだ?」

「神だからなワッハッハッハ」

「流石だな、グラン。頼りになるわ」

「あと、新月のテントも拡張して個室を作ったからなワッハッハ」


 後は明日、冒険者ギルドに行ってワイバーンの肉を貰ったついでに旅に出る報告だな。


「そうですか、寂しくなりますね。何方に行かれるのですか?」

「そうですね、特には決めてませんが、王都には行ってみたいし、東方の国にも行ってみたいですね」

「それでしたら、かなり長い旅になりそうですね」


 そんなに長くなるかな?何か用があったら転移でサクッと戻って来られるし、大げさだなミウラさんは。


「と言う事で4日後の早朝に出発しますから」



 そう言えば、まだ馬車を確認して無かったよ。


「グラン、ポケット草原に行って馬車を見てみたいんだが」

「おう、最高の出来だからな。驚くなよワッハッハッハ」


 ポケット草原に来て目の前に置いてある馬車を見る。

 見た感じごく普通の箱型の馬車で、車体の色は鈍色で銀色の縁取りがしてあり、足回りは黒く塗ってある。


 余計な装飾も無く地味といえば地味な部類に入るだろう。


「なかなか良いじゃないかグラン」

「ワッハッハッハ次は中だな」


 中を見て一言。


「うん、知ってた」


 扉を開くと1LDKで、床はフローリングになっていて、センターラグの上にはソファーとテーブルが鎮座している。

 ご丁寧にクッションまで置いてあった。

 レクスとエルとダイフクはソファーで寛いでいる。


 壁(もう壁で良いよね)にはニスを丁寧に塗ってある腰壁があり、腰壁の上は白いクロスが張ってある。


 窓は前後左右にあり、レースのカーテンが掛かっている。

 天井にも白いクロスが張ってあり、シーリングライトが取り付けられていた。


 御者席側には簡単なカウンターキッチンが設えられていて、後ろの凹型の棚には酒のボトルやティーセット等が置かれていた。

 凹のへこみの所に窓があり、カウンターの前にはスツールも有る。


 後ろには、左側に個室が作ってあり、中を見てみると、新月のテントに設置して有るのと同じ、お尻が洗える洋式トイレが有った。

 右側には窓が有る。きっと、この馬車にも、いつものが付与されているんだろうな。


「グラン、馬車の制作は楽しかったか?」

「おう、それはもう寝食を忘れるくらい楽しかったとも。ワッハッハッハ」

「そうか、それなら良かった」

「カイトもわかって来たなワッハッハ」

「いや、慣れただけだ。後は馬を用意しないといけないな」


 馬って何処で手に入るんだ?売っている所なんか見たことが無いぞ。

 ローランドさんに聞いてみるか?


 そんな事を考えていると馬の方からやって来た。白馬だ。


「やあカイト君、馬が必要なんだろう?」

「馬が喋った!?」

「違うよカイト君、私は此処に居るよ」


 良く見ると白馬の背に猫がまたがっている。


「猫が喋った!?」


 50cm位の灰色の虎猫の頭に人間の身体で尻尾が有る人形が、山高帽を頭に乗せて(縫い付けて)黒い上着に白いズボンと黒いブーツの御者服姿で馬の背に立った。


「私は獣神のマクシミリニャンだ。御者としてカイト君の旅に同行させてもらうニャン。人形の時の名前はマックニャン」


「そうか、御者の事まで考えて無かった。よろしく頼むマックニャン」

「違う、私の名前はマックニャン」

「マックニャンだろう」

「カイトくん、マックなの!」



 出発の前日、ポケット収納に出入りする度に、俺がいちいち指定するのが面倒くさいから、レクスに頼み登録制にしてもらった。


 登録はコンセルジュに丸投げしたい所だが、ポケット村の人以外の新規登録者は、ポケットに一度手を入れて、魔力を流す必要が有るらしい。


 ポケットに魔力を流して新規登録をした者は、自由に出入りが出来るようになった。

 登録していない者は、今まで通り俺が指定する事になる。




 出発当日、馬車に乗り正門に向かう途中に、大きな荷物を背負ったアマンダさんが歩いているのを見つけた。


「マックニャン、止めてくれ」

「はぁ、もうマックニャンで良いニャン」

「アマンダさん、おはようございます」


 アマンダさんは驚いた顔をして此方を見ている。


「カイトさん、この馬車は?」

「俺の馬車ですよ」

「あの……猫人型の人形が御者をしているんですけど……」


 猫人って居るのか?

 旅の目的が一つ増えたな。


「よろしくお嬢さん。私は御者のマックニャン」

「アマンダです。よろしくお願いします、マックさん」


 マックニャンは満足そうに目を細めて頷いている。

 声だけ聞いていれば低音で、柔らかく落ち着いた感じの、まさに"良い声"なんだけど……


「アマンダさん、どうぞ乗って下さい」


 俺は馬車の扉を開けて、アマンダさんを招き入れた。


「なななな何ですかぁー、これはぁー!!」

「アマンダさん、まだ早朝ですよ。お静かにお願いします」


 口を押えて顔を赤くしたアマンダさんだけど、目だけは馬車の中を見回している。

 ソファーで寛いでいるレクス達は手を上げて挨拶をしていた。

 

「とりあえず座って落ち着いて下さい。今お茶を入れますね」

「あっ、お茶なら私が入れます」


 アマンダさんが、すごい勢いでキッチンに入った。

 俺は肩を竦めてソファーに座り、アイテムボックスからロールケーキを出して切り分け、カットしたフルーツと一緒に皿に盛り付ける。

 正門が開くまで、ティータイムだ。


「何ですか、このクルクルした物は?」


 紅茶を入れて来たアマンダさんは、座りながらも目線はロールケーキに釘付けだ。


「ロールケーキって言うお菓子ですよ。門が開くまでもう少し時間があるから、お茶を飲みながら待ちましょう」

「美味し―――いっ!!!カイトさん、何ですか、この甘くてふわふわで、しっとりしたお菓子は?美味しいです。美味しいです――――あっ、無くなってしまいました……」


 悲しい顔をしても駄目だ。

 何でも食べ過ぎは良くない。


「アマンダさん、門が開きましたから行きますよ」


 俺達は衛兵にカードを見せて正門を出ると、西に向かって進む事にした。

 アマンダさんが言うには、東の街道は次第に細くなり、険しい山道になるそうだ。

 俺としては、東の街道でも問題は無かったのだが、今回はアマンダさんが一緒なので、無難に西の街道を選んだ訳だ。


「アマンダさん、今日は元採石場だった野営地まで行きましょう」


「この馬車だと旅をしている気分になれないんですけど、それで良いと思います」


 確かに、揺れや振動が少ないよな。

 乗り心地が良いのに越したことは無いから文句は無い。


 出発してからレクス達は馬車の屋根に移動した。

 本当に屋根が好きなのか?そう言えば、馬車の屋根を確認して無かったぞ。

 いやいや、余り疑ってかかるのは良くないな。

 レクス達は、屋根が好きなんだろう。景色も良いしな。


 そんな事を考えていると、外がやけに騒がしい。


「カイトさん、ゴブリンの群れですよ!!」


 アマンダさんが窓から顔を出して教えてくれた。


「もう、終わりそうですね……」


 俺も窓から顔を出して見てみると、レクスが魔法で、グランがハンマーで、エルが格闘で、そして馬がブレスでゴブリンと戦っていた。


「カイトさん、後ろからホワイトパイソンが!!!」


 後ろでは召喚状態のダイフクが、ゴブリンを丸呑みしながら付いてきている。


「ああ、アマンダさんは知らなかったんですね。あのホワイトパイソンはダイフクの本当の姿なんですよ。何時もは人形に送還しているんです」

「はぁ、安心しました。それにしても、初めてレクスちゃん達の戦いを見ました。凄く強いんですね」

「俺は今日、初めて馬が戦う姿を見ましたよ。馬ってブレスを吐くんですね」

「馬はブレスなんか吐きません!」


 えっ、この世界の馬はブレスを吐くのかと思ったんだけど……


「「あの馬は何!?」」


「カイトさん、こちら側からゴブリンが来ます!!」


「3匹ですね、すぐに片付けます」


 俺は指先に雷をイメージしてレーザーサイトで眉間に狙いを付けた。


 電気を帯びた魔力弾が黄色い光跡を残して、一瞬でゴブリンの眉間を貫通していった。


「早っ、そうか電気だからレールガンっぽくなるのか……」


 残り2匹も同様に眉間を撃ち抜いた。


「カ…カイトさん、今のは……」

「普通に魔法ですよ」

「普通じゃありませんよ!無詠唱で一瞬ですよ!?あんな魔法は見たことも聞いたこともありません!!」

「今、見たからもう大丈夫ですね」


 なんだか、アマンダさんが慌てているけど、どうしたんだろう?


「何が大丈夫なんだか意味がわかりません。それに、あれはゴブリンジェネラルとゴブリンキングじゃないですか!それを一撃で……」


 ああ、そうか。ジェネラルとキングだから慌てていたのか。


「ちょ、カイトさん!キングとジェネラルを置いて行くんですか?素材が高く売れますよ」


 ゴブリンの襲撃中でも、馬車はゆっくりと進んでいる。


「そうなんですか?じゃあ、あの3匹だけ持って行きましょうか。コンセ、マップを展開、ゴブリンキングとゴブリンジェネラルをアイテムボックスに」


 マップ上のゴブリンキングとゴブリンジェネラルの黒点が消えた。

 外を見るとゴブリンキングとゴブリンジェネラルの死体も消えていた。


「カイトさん、目の前に地図が出てきましたよ!今のも、魔法ですか?」

「はい、今のも魔法ですよ」


 俺はニッコリと笑って答えた。

 魔法が存在する、この便利な世界なら、何をやっても「魔法です」で誤魔化せるから良いよな。


 アマンダさんはソファーに座ったまま呆けているから、俺は昼食の下ごしらえを始めた。


 昆布と鰹節でだしを取り、味醂が無いから醤油と酒と砂糖で味付けして味見をする。


「砂糖がちょっと多かったみたいだけど、これ位なら大丈夫だろう。普通に美味いし」


 別の鍋にはポケット農村で貰った玉葱と大根と人参とキャベツを入れた野菜たっぷりの味噌汁を作った。


 屋台を始める前に、大量の固いパンをすりおろして作っておいたパン粉と小麦粉と卵で、アイテムボックスに大量に有るオーク肉に衣を付けて冷蔵庫に入れておく。


 時間を見計らい、洗った米が入った土鍋を火に掛ける。


 アマンダさんを見るとソファーで眠っていた。

 朝が早かったし、疲れたんだろうな。


 アマンダさんに毛布を掛けて、俺はキッチンに戻り、アイテムボックスから、暇なときに漬けた浅漬の白菜と胡瓜を小皿に取っておく。


「アイテムボックスが大活躍だな」


 俺は独り言を言いながら棚から緑茶のティーバッグを取り出した。



読んで頂きありがとうございました。



マック(獣神、マクシミリニャン)

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