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第20話 カイトのポケット②


 商隊がザルクの街に帰って来て1週間がたった。

 その間俺たちは、屋台を出したり、ポケット集落について話し合っていた。


「農村から海辺まで行き来が出来るように出来ないか?」

「距離はそれなりに有るけど出来ないことはないの!」

「後は何処で野菜や魚を売るかだけど……」



 行き詰まった俺は商業ギルドに来ている。


「レクス、何処まで話せる?」

「信用出来る人なら、私達の中身以外なら話しても大丈夫だと思うの!ポケット集落の人達もいる訳だし、今更なの!」

「それもそうだな」


 レクスとの話が終わって、どう切り出すか考えていた時、アマンダさんが部屋に入って来た。

 手には紅茶とクッキーを乗せたトレーを持っている。


「どうぞ、お召し上がり下さい。カイトさん」

「ありがとうございます。アマンダさん」


 アマンダさんは笑顔で此方を見ている。俺が話し出すのを待っているようだ。


「アマンダさん、此処で話すことは出来れば秘密にしてもらいたいのですが」

「それは、お話の内容にもよりますけど、出来るだけと言う事で有れば承諾致します」

「それで良いです。実はアマンダさんに相談したい事が有りまして……」


 俺は、ポケット収納の農村や漁村についてアマンダさんに話した。

 話の最初から終わりまでアマンダさんは口を挟まずポカーンと開けたままを維持していた。


「アマンダさん、アマンダさん、帰って来て下さい!」

「あっ、し、失礼しました」

「それで、俺は各地を周って旅をしたいですし……何か良い案は無いですか?」

「あの……その農村や漁村には私も行けるのですか?」

「行けますけど、行って見ますか?」

「行ってみたいです。野菜や魚の状態等も確認したいですから」


 と言う事で、アマンダさんを連れてポケット農村にやって来た。

 辺りを見回したアマンダさんは、広大で肥沃な大地、一面の緑溢れる田畑、そこで作業をしている農夫達を見て感嘆の声を上げた。


「わーっ!カイトさん、なんて素晴らしい所なんでしょう」

「アマンダさん、村長宅に行きましょう」

 

 アマンダさんはキョロキョロしながら俺の後ろをついて来る。

アマンダさんの後ろにはレクス、グラン、エル、ダイフクがついて来ていた。


 村長宅では、村長が平伏している。


「カイト様、良くぞいらして下さいました」

「村長さん、それはもう止めて下さい」

「いや、しかし、やってみると意外に楽しくてつい……」

「そんな理由なんかい!他の村人はやらないから、おかしいと思ってたんだよ!何がついだよ!何が!」


 はぁ……疲れた……一気に疲れた……


「カイトも大変だなワッハッハッハ」

「分かってくれるのはグランだけだよ」


 アマンダさんは後ろでクスクス笑っているし…… 


 村長宅で収穫された野菜を見せてもらったアマンダさんは歓喜の声を上げていた。


「なんて素晴らしい野菜なの?どれもこれも一級品ですよ」


 試食用に切った野菜を生のままで食べたアマンダさんは、小躍りを始めるんじゃないかと言うくらい、はしゃいでいた。


「こんなに美味しい野菜は初めて食べました。どうしてこんなに美味しい野菜が出来るのですか?」

「それは、カイト様の土地だからとしか私共にも言えません。他の土地ではこんなに良い野菜は出来ないでしょう」


 村長さんにお土産の野菜を頂いて、俺達はポケット海辺に来ている。


「カイトさん、あれが海ですか?話には聞いていましたが、物凄く大きいですね」

「海は初めてでしたか、アマンダさん?」

「はい、初めて見ました!この砂もサラサラで気持ち良いですね。海の幸と山の幸……とっても素晴らしい所です」


 アマンダさんは食いしん坊?


 アマンダさんが落ち着いてから、俺達は集落に入った。

 あちらこちらに、開いた魚を干している女性達がいた。


「こんにちは、沢山有りますね」

「あっ、カイト様。ようこそいらっしゃいました。この魚は干物にして、農村に持っていって野菜と交換するんですよ」

「そうでしたか、お互い持ちつ持たれつ、頑張って下さい」

「はい、こうした事が出来るのもカイト様のお陰です。有り難うございます」


 今度は漁村の村長宅に来ている。


「カイト様。良くおいで下さった。そちらの方はこれですかいの?」


 村長が小指を立ててとんでもない事を言ってくれやがった。


「違うわエロじじい!」

「ウオッホホホ、それは残念じゃの」


 まったく、農村といい漁村といい、村長がこんなので良いのか?

 アマンダさんの顔が赤くなってるじゃないか!


「すみません、アマンダさん。変なじじいばっかりで……」

「いいえ、私は大丈夫です。楽しい人達ではないですか」


「村長さん、此方は商業ギルドのアマンダさんです。野菜と魚をどうやって売るか、相談に乗って頂いているのですよ」

「そうでしたか、これは失礼しましたの」


 早速、今朝水揚げされたばかりの魚を見せて貰えることになった。


「まあ、こんなに沢山の種類の魚がいるんですね。実はこうして新鮮な魚を見るのは初めてなんですよ。どの魚も素晴らしいです」

「此処の海で捕れる魚は生きが良くて美味いですからの。他の海の魚とは比べようもないですの」


「カイト様、今朝捕れた魚を焼いて来ましたよ。召し上がってみて下さいな」


 村長の奥さんが魚を焼いて来てくれた。


「これは、有り難うございます。アマンダさん冷めない内に頂きましょう」


 アイテムボックスから醤油の入った小瓶を出してテーブルに置く。


「カイトさん、これは醤油ですか?」

「流石、良くご存知ですね。ルトベルクの朝市で手に入れたのですよ。先ずはそのままで食べてから、その後醤油をかけて食べてみるのも良いと思いまし……」

「美味しーい!!生の魚を焼くとこんなに美味しいのですね。川の魚とは全然違います」

「アハハハ、どうぞ醤油も少しだけかけてみて下さい。少しですよ」

「これ位かしら……はぁ、これもまた芳しくて、とても美味しいです」


 漁村でも生の魚をお土産に頂いてアイテムボックスに入れておく。


「アマンダさん、帰りますよ」

「あっ、はい、今行きます」


 呆けていたアマンダさんを呼んで、商業ギルドの部屋に戻ってきた。

 冷めた紅茶がまだ置かれていた。


「紅茶を入れ直して来ますね」


 普通なら、とても信じられない体験をしたんだ。

 きっと考える時間が欲しいんだろうな。


「レクス達は退屈してないか?」

「全然、退屈なんてしてないの!」

「おう、なんか色々と楽しくてなワッハッハ」

「神界と比べたら此処に居るだけで十分だぜ」

「シャー♪」


「お待たせ致しました」


 アマンダさんから新しい紅茶を受け取った。


「有り難うございます。それで何か良い案は有りましたか?」

「カイトさんは旅がしたいのですよね?それなら、旅先で露店を出すよりも、商業ギルドに卸すのは如何でしょうか。それならば秘密も守れると思いますよ」

「なるほど、それは考えてもみなかった事です。流石ですね、アマンダさんに相談して良かったです」

「それと、私もカイトさんの旅に同行させてもらいたいのです。各ギルド支部には、私が農村や漁村の方と一緒に商品を卸に行きたいと思います」


 なんか、とんでもない事を言って来たぞ。

 協力者がいた方が何かと都合が良いのは確かだけど、秘密が多いしな……

 うーん……なんとかなるか?


「ギルドの方はアマンダさんが旅に出ても問題無いのですか?」

「各ギルドの魔道具で連絡は取れますから大丈夫です。おそらく各ギルドの視察の任務を押し付けられると思いますが……」

「分かりました。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。3日有れば準備が出来ると思います」

「それなら出発は余裕を持って5日後にしましょう」



 商業ギルドを出てから、アイテムボックスの中のワイバーンとキラーアントを思い出した。

 冒険者ギルドに行かなきゃ。


「カイトさんお久しぶりです」

「ミウラさんこんにちは、モンスターの解体をお願いしたいのですが」

「はい、では此方で承ります」

「ワイバーンが12匹とキラーアントが27匹なんですけど」

「…………」

「ワイバーンが12匹とキラーアントが27匹なんですけど」

「忘れてました。カイトさんですもんねアハハハ、はぁ、解体場に行きましょう」

「なんか、何時もすみません」



「ラウルさーん」

「おう、ミウラちゃんどうした?」

「カイトさんを連れてきました。カイトさん、モンスターを出し終えたら受付に来て下さいね」


「カイトか、また大量に有るなら冷蔵室に出してくれ。今回は何を持ってきたんだ?」

「ワイバーンが12匹とキラーアントが27匹ですよラウルさん」

「こりゃまた吃驚だな。じゃ、出してくれ」


 アイテムボックスからワイバーンとキラーアントを出した。


「ほう、かなり状態が良いな、これなら高く買い取れるぞ」

「キラーアントなんか使い道が有るのですか?」

「おう、甲殻と牙と足は新人冒険者には丁度良い、武器や防具になるぞ」

「なるほど。そうだ、状態の悪いやつで良いからワイバーンの肉を3匹分だけ貰えますか?」

「それだけで良いのか?」

「はい、後はギルドに売却でお願いします」


 受付に戻った俺は列の最後尾に並んだ。俺の前には3人だからすぐに終わるだろう。


「次の方どうぞ」

「ミウラさん、出して来ましたよ」

「あっ、カイトさん、早かったですね。ワイバーンとキラーアントはギルドでの買い取りで良かったですか?」

「ラウルさんには伝えましたけど、状態の悪いワイバーンの肉を3匹分俺が貰って、後は全て買い取りでお願いします」

「分かりました。モンスターの状態を見て買取価格を決めますから明日の午後に来て頂けますか?」


「あっ、そうだ。代金は全額ギルドの口座に入れておいて下さい」

「口座をお作りになったのですね。有り難う御座います。カイトさんの場合口座の方が便利ですよね」

「はい。かなり助かってます。ミウラさん、このロールケーキを冷蔵庫に入れておいて、後で皆さんで食べて下さい」

「えっ、なんか甘い匂い……お菓子ですか?美味しそう……」


 紙皿にロールケーキをカットしてから、アイテムボックスに入れておいて良かった。

読んで頂きありがとうございました。

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