表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/155

第2話 カイト、冒険者ギルドに行く

 本日二話目です。一話目が短かったかなと思い少し長めにしてます。





 剣戟の音が聞こえてきた。

 

 木の陰から観察してみると、豚の頭で人型の、錆びた剣や槍を振るうモンスターと、護衛だろうか、剣、槍、弓、魔法で応戦している男女五人が、危なげなく戦っていた。


 後の二人は馬車の中らしい。



「あのモンスターはオーク?」

 (はい、オークです。群れになると厄介なモンスターです)


 見た所、オークの半数は息絶えているにも関わらず、護衛の五人は上手く連携を取りながら戦い、怪我らしい怪我も無いようだ。

 

 ならば、此処で後学の為に見学をさせて貰おう。




「オイ!フリオ!油断するなよ」

「大丈夫さ、マシュー余裕、余裕」

「チッ、それが油断なんだよ」

「みんな、もう少しだから頑張ろう!****ストーンバレット」

「そうだね、レイヤも魔力切れには気を付けてね」

「うん、分かってるよ。だからトーヤは弓での援護をよろしく!」

「あぅ、皆さん私の事も忘れないで下さい」

「ガハハハッ俺達はお前の回復魔法を一番頼りにしてるんだぜ」 

「その通りさ、マリーの回復があるから、俺達は躊躇無く前衛で戦えるのさッハ!」



 バランスの良い、それぞれが腕の立つ仲の良いパーティだな。とても勉強になる。

 

 魔法の詠唱なんか、何て言ってるのか全く分からないけど、何語?宇宙人語?あんなの覚える自信が無いわ。

 

 本当、セルジュが居て良かったと思う。



「ヨッシャー、後一匹、おりゃ!」

「終わった終わった、お疲れ、マシュー」

「ああ、お疲れさん。マリー回復たのむ」

「はい、おまかせ下さい。****ヒール」

「おお、助かったぜ」

「フリオさんもどうぞ****ヒール」

「サンキュー、マリー」

「さあ、片付けるとするか」



 どうやら終わったらしいけど、でっかいオークが何体も入るあのカバンは何だ?


(マジックアイテムのひとつで、マジックバックです。容量は金額によって変わる、とても高価な品物です)


 なるほど、マジックアイテムか素晴らしい、これぞ異世界!


 感動はこの辺にして、さっきのオッサン達も出発したみたいだし、此処まで来たんだから街まで行ってみるか。


 街道に出て、とぼとぼ歩く、歩く、歩く、更に歩くが何時までたっても左に森、右は岩山、何処にも着かないし何も無い。

 

 そろそろ日も傾いてきたし、良さそうな寝場所を探しながら歩いていると、後ろから馬車が物凄い勢いで走って来て、俺を追い越して止まった。


「オイ、坊主!盗賊だ、後ろに乗れ、逃げるぞ!」


 御者席に座った二人の内、馬を御している男に声を掛けられた俺は、キョトンとして後ろを振り向くと、10人位の如何にもな男たちが馬で追いかけて来ていた。


「急げ!」「はいっ」


 俺は返事をして、荷馬車に飛び乗る

と、馬車はすぐさま走り出した。



「いやー、良かった良かった。捕まっていたら殺されるか、売られていた所でしたね。」


 御者席に座った、もうひとりの恰幅の良い人当たりの良さそうな茶髪の中年男性が話し掛けて来た。


「はい、カイトと申します。助けて頂き有り難うございました。でも、俺のせいで距離が縮まり申し訳有りません」


 中年男性は、吃驚したように目を丸くした。


「なんと、礼儀正しい子だ。私は商人のローランドです。カイト君の言う通り、どんどん差が縮まって来てますね。」


 後ろを確認したローランドさんの焦りが手に取る様に分かる。


「積荷を諦めるしかありませんか……運が良ければ見逃して貰えるかもしれません……ああ、もう追いつかれそうです」



 セルジュ、盗賊は殺しても問題無いか?


(はい、問題有りません寧ろ褒賞金が貰えます)

「ローランドさんは良い人ですね」


 それだけ言い残し俺は馬車から飛び降りた。






「セルジュ、先ずは奴らの足止だ……イメージしてっと、アイスフィールド!」


 目の前の街道が瞬く間にスケートリンクのように凍る。

 

 盗賊の乗る馬が、次から次に滑って転倒する。

 

 それだけで身体を固い氷に打ち付けて足を骨折した者、頭を強く打って気絶した者、馬の下敷きになり肋骨が折れた者もいる。

 

 その中で、先頭を走っていた三人が起き上がり、それぞれ剣と槍と斧を構えて向かって来た。



「小僧ぉぉぉ、ぶち殺す!」

「くそったれ小僧がぁ、お頭に続けぇ」

「おう!死ねや、クソガキ」



 真っ先に剣を振りかぶった頭らしき男の懐に一瞬で入り込み、鳩尾を抉る様に殴ると、空を飛んで後方の大木に激突。

 

 続けて、スキンヘッドが突き出した槍の穂先を右に回転して躱しながら槍の柄を取り、スキンヘッドの手から引き抜く。


 そのまま石突で胸を打ち、横薙に振るった槍の柄で、斧を振り下ろすヒゲモジャを強打する。

 

「さてと、トドメを刺すかな」

「カイト君!」


 頭っぽい男が持っていた剣を拾い、気絶した盗賊の首に剣を付き立てようとした瞬間、ローランドさんの声が聞こえた。


「ローランドさん、逃げなかったのですか?」

「この先の曲がり角を曲がったところで待っていたのですけど、心配になり見に来たのですよ」

「やっぱりローランドさんは良い人ですね。御心配をお掛けして申し訳有りませんでした」


 ローランドさんは周りを見渡し、目を丸くして派手な身振りで興奮していた。


「こ、これはカイト君が?」

「はい、今からトドメを刺す所です。ローランドさんは馬車で待っていて貰えますか?」

「いえいえカイト君、もうすぐ街ですから、縛って連れて行きましょう」


 怪我をして動けない馬をヒーリングで癒やし、縛った盗賊を背に乗せて暫く進むと外壁が見えてきた。更に進むと街に入る門が見えて来た。




「やあ、おかえりなさい、ローランドさん」

「ただいま帰りました。間に合って良かったです」

「ハハハ、尤もだ。ところで後ろの奴らは何だ?」


 衛兵が目つきを鋭くして此方を見ると、ローランドさんが経緯を説明してくれた。


「分かった、そいつらは此方で預かる……で、カイトと言ったな、身分証は有るか?」


 来たっ!身分証、さて、どうする?


「すみません、身分証は有りません」

「そうか、それなら街に入るのに銅貨5枚、1日毎に銅貨1枚を貰わなくちゃならん」

「分かりました」


 俺はアイテムボックスから銅貨5枚を出して渡す。


「ザルクの街にようこそ、盗賊を捕まえる腕があるなら冒険者になると良いぞ。ギルドに登録したらカードが発行されるから、それを持ってこい。ギルドカードも身分証になる。今日中に持ってきたら銅貨5枚は返してやるぞ」

「そうなんですか、分かりました」


 俺はそこで、ローランドさんと別れ、衛兵に聞いた冒険者ギルドにカードを作りに向かった。




 表通りを真っ直ぐ歩いて行くと剣が交差した形の、木製の看板が見えた。

 

 割りと大きな敷地に、しっかりとした大きな建物だ。


 入口のドアを開くと、右手に役所のようなカウンターが有り、左手にはクエストボードらしき物が壁に打ち付けられている。

 

 そして、正面の奥は、食堂兼酒場みたいだ。


 俺は、入って直ぐの窓口に向かった。


「冒険者ギルドにようこそ、受付嬢のミウラです。本日はどういったご用件でしょう」


 受付嬢のミウラさんは、20歳前後、茶色の髪を肩で揃えていて、目の色は濃い茶色。美人でスタイルも良くて人気が有りそうな人だ。


「ギルドに登録をお願いします」

「かしこまりました。では、この用紙に必要事項の記入をお願いします。代筆は必要ですか?」


 俺は、サッと用紙に目を通し、代筆は必要無い事を告げて記入して行く。




「それでは、確認をさせて頂きます」

「はい、お願いします」

 

 ミウラさんが此方を見てニッコリと微笑んだ。良い笑顔だ。


「カイトさん15歳、魔法の使用は可能、得意な武器は刀とナイフ、出身地は秘匿、ギルド規約は承認で宜しかったですか?」


 ギルド規約は、ほとんど一般常識だから問題無い。


「はい、それでお願いします」

「では、この水晶に少しで良いので魔力を流して下さい」

「分かりました」

「有り難うございます。暫くお待ち下さい」




「イヒヒ、オイ!此処はなぁー、お前の様なヒョロヒョロのガキが来る所じゃねぇんだよ!帰ってママのオッパイでも、しゃぶってろやーガッハハハ」


 ミウラさんが奥の扉に消えると同時に、後ろから肩を掴まれた。


 後ろに居ることはわかっていたけど、まさか絡まれるとは。

 面倒だが……本当に面倒だが、今後の為にガツンと行っとくか。


「あぁ、何だお前?」

「おぅ、やるのかクソガキ、表に出やがれ!」


 大男の後から、ギルドの建物の横に来ると、そこには塀で囲まれた訓練場の様な広場が有った。

 ギャラリーも続々と来て、囃したてる。


「おぅ、良い度胸してやがるなっ!」


 おっと、こいつ、いきなり殴って来やがった。

 

 それにしても遅いパンチだ。


 頭をヒョイっと横にずらして避けると、今度は右の膝蹴りを左手でガードしながら、左のアッパーを上体を反らして回避して距離を取る。

 

 このオッサン良い動きだな。結構強いんじゃない?


「ガハハハ、避けてばっかりの意気地なしが!次は避けられると思うなよっ!」


 鋭い踏み込みで一気に間合いを詰めてきたが、それでも俺には多少速くはなったけど、まだ普通に見える。


「フンッ!」


 さっきよりもスピードと気合の乗ったパンチが顔面を狙って来る。


「遠慮が無いな」


 間近に迫った拳を左手でいなして、一本背負いで投げ落とす。

 そのまま右肘の関節を極め、手加減をして喉に膝を落とす。


「ッ!……驚いたな、参った。ここまでだ」


 大男の口調と表情がガラリと変わったのに困惑しながら距離を取ると、ギャラリーのざわめきが聞こえてきた。


「マジか彼奴」

「ギルド長を倒しやがった」


 ん……ギルド長?


「カイトだったな、合格だ。俺は冒険者ギルド、ザルク支部のギルマス、マックスだ。」

「此処のギルマスはチンピラだったのか?」

「ガハハハ、ありゃ演技だ。付いて来いカードを発行するぞ」


 ギルドの建物に戻るとヒソヒソと話す声が聞こる。

 

 そちらに目を向けると、一斉に目を逸らされた。


「何だ?」

「ガハハハ、気にするな。こっちだ」


 階段を登り、廊下の奥の部屋に入ると、そこはギルドマスターの執務室のようだ。


「まあ、座れ」


 俺がソファーに座ると、ミウラさんが紅茶を出してくれた。


「どうぞ、カイトさん」

「有り難うございます。頂きます」

「おいおい、態度が違うじゃあねぇか」

「俺は人を見ますから」

「ガハハハ、面白いガキだ、気に入った」

 

 ガハハハおじさんに気に入られても

嬉しくないわ。

 

「さて、本題だが、冒険者にはランクが有って、上からS、A、B、C、D、E、Fとなっている、本来ならば、登録するとFから始めて、徐々にランクを上げて行くんだが、稀に元から力の有る奴が登録に来る事が有る」


 ギルドマスターが此処で言葉を切り、此方を伺うように見る。

 

 俺は黙ったまま、頷いた。


「お前さんもその一人だ」


 俺は、紅茶を飲んでまた頷いた。


「戦える力の有る奴、ましてや、この俺を負かす程の実力者を、低ランクで燻らせていてはギルド全体の損失だ」


 俺は、目線で話の先を促せる。


「そこでだ、お前さんにはCランクから始めて貰いたいと思うが、どうだ?」

「身分証として使えるなら、ランクはどうでもいい」

「おいおい、ギルドの仕事は受けてくれるんだろうな?」

「ああ、身分証が失効しない程度にはな」

「はあ、全く、仕方ない、今はそれで良い。ほら、これがCランクのギルドカードだ。無くすなよ」

「ああ、分かった」


 ギルドカードをアイテムボックスに仕舞う。


「おいおい、収納持ちかよ!」


 収納?後で調べてみよう。


「もう良いか?正門の衛兵に銅貨5枚を返して貰わないと行けないからな」

「ああ、もう良いぞ」


 紅茶を飲み干し、手をひらひらさせているギルドマスターを残し、建物から出ると、正門の詰所に向う。



 正門に向う途中、串焼きの美味そうな匂いにつられ屋台の前で立ち止まる。


「いらっしゃい、美味いよ、1本どうだい」

「1本いくらですか?」

「銅貨3枚だ」


 串焼きを1本買って、その場で食べる。


「美味いな、後5本貰えますか?」

「はいよ、今日は、オーク肉の良いのが入ったからな。ほらよ、1本おまけだ。」


 紙袋に入れた串焼きを受け取り、お金を払う。


「有り難うございます。また来ます」


 礼を言って今度こそ詰所に向う


「カイトです!身分証を持って来ました」

「おう、来たか、見せてくれ」


 来たときと同じ衛兵で、話が早くて助かった。


「これはCランクじゃないか!まあ、あれだけの盗賊を一人で討伐出来る力が有るなら当然か」

「俺としては身分証になればランクなんかどうでも良いんですけどね」

「ハハハ、変な奴だ。そうそう、盗賊の討伐褒賞金を持ってくるから、ちょっと待ってろ」


 

 セルジュ、待ってる間に教えてくれ。俺のアイテムボックスと、さっき聞いた収納ってのは、同じ物なのか?


(違います。収納魔法は魔力量によって容量が変わりますし、収納している間も時間が経過します。マスターのアイテムボックスは、容量無限で時間経過が有りません)


 分かった。これからは収納魔法と言って誤魔化した方が良さそうだ。


「待たせたな。一人当たり金貨10枚で10人分、金貨100枚。それと、犯罪奴隷としての売却金だ。10人分で1人当たり金貨10枚が、カイトの取り分で金貨100枚、合わせて金貨200枚だ。奴隷の売却金は税と手数料を差し引いた額になる。確認してくれ」


 俺は金貨を数えながら紙幣が有れば良いのにと、ひそかに思った。


「200枚確かに受け取りました」


 金貨の入った袋をアイテムボックスに仕舞うと、受け取りのサインをした後、衛兵におすすめの宿の場所を聞いてから詰所を後にした。




 暗くなってきたな。

 

 えーっと、確かこっちの道で間違い無かったと思うけど……有った、有った。

 

 “川のせせらぎ亭”ここだな。



「いらっしゃい!泊まり?それとも食事かい?」


 カウンターの向こうに10歳位の、色白で、そばかすが似合う、青い髪をお下げにしたエプロンドレスの女の子が俺の返事を待っていた。


「ああ、泊まりたいんだが、部屋は空いてるか?」

「空いてるよ!今晩だけかい?」

「元気が良いな。そうだな、取り敢えず1週間頼む」

「アイヨ!1日銀貨2枚で、朝食と夕飯付きだと銀貨3枚だよ!」

「じゃあ、それで頼む、名はカイトだ」


 アイテムボックスから金貨2枚と銀貨1枚を出してカウンターに置く。


「私はメアリー、部屋は2階の一番奥だよ!夕飯は何時でも食べられるからね!」


 

 鍵を受け取り、部屋に向う。


 四畳半くらいの掃除が行き届いた、こぢんまりとした部屋で、机と椅子とタンスとベッドが置いてある。


「あー、この狭さがなんか、落ち着くな。いい部屋だ」


 


 暫く、まったりしたあと食堂に降りて行くと、客達の賑やかな声と料理の良い匂いが漂って来た。

 

 空いてる席に座るとメアリーが夕飯を運んで来た。


「カイトさん夕飯だよ」

「ありがとう、美味そうだ。」

「飲み物はどうする?」

「じゃあエールを貰おうか。お手伝いして偉いな」

「エヘヘ、すぐに持ってくるから!

1杯目はサービスだよ!」


 夕飯のメニューは、固いパンと野菜がゴロゴロと入ったハーブの香りのするスープ、塩とハーブで焼いた、多分オークのステーキ。

 

 付け合せに、千切ったレタスっぽい野菜とラディッシュっぽい物が添えられている。


 スープを飲んでみるとハーブの香りが鼻から抜ける、素材の味を活かした優しい味付けで美味かった。


 オークのステーキは脂がのっていて、エールに良く合う。これも美味かった。


 

 満足して部屋に戻りベッドに横になった。

読んで頂き有り難うございました。



マシュー(冒険者) 

フリオ(冒険者)

レイア(冒険者)

トーヤ(冒険者)

マリー(冒険者)


ローランド(商人)

マックス❲冒険者ギルドザルク支部のギルドマスター)

ミウラ(冒険者ギルドザルク支部の受付嬢)


メアリー(宿屋、川のせせらぎ亭の娘)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ