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第18話 カイト、ルトベルクの領主の館に行く②

シリアス回です。

苦手な方はご注意下さい。


「あの子も元気なら……」


 あの子?悲しそうな顔をしているけど何かあったのかな……


「アリソン様、あの子とは?」


 …………間が長いし空気が重い。


「すみません。余計な事を聞いてしまいました」

「いいえ、良いのよ。あの子に会って貰えるかしら?きっと喜ぶと思うわ」

「はい。アリソン様がそう仰るのなら」

「…………カイト君が驚くといけないから、先に話しておくわ」


 俺は無言で頷いた。


「あの子は、私達の初めての子で名前はエミールよ。小さい頃はとても元気で、使用人達にも良く懐いていたわ。笑顔が素敵な子で、あの子が居るだけで家の中が、とても明るかったのよ」


 此処で言葉を切り、何かを思い出すように瞼を閉じて、口元に優しい笑みを浮かべた。

 俺は黙ったまま、次の言葉を待った。


「……あの子が14歳の時から痩せ始めて食も細くなり、今では歩けない程に衰弱してしまっているのよ」


 何だろう、この家の人達を見ていると毒の類いは考えにくいし、病気かな?


「原因はわかっているのですか?」

「それが、分からないのよ。呪いかもしれないと思って、ありとあらゆる解呪の方法を試してみたけど効果は無かったし、医者に見せても分からなかったのよ」

「そうですか……」


 俺のような素人が考えても仕方ないよな。


「今は回復魔法で何とか保っている状態なのよ」


 ふと、周りが静かなのに気がつくと、ここに居る皆がアリソン様の話しを黙って聞いていた。


「エミールは今、どうしている?」


 レオン様がメイドさんに聞くと、読書中だと言う事で皆でエミール様の所に行くことになった。


「こんなに大勢でお訪ねしても宜しいのですか?」

「カイト君、エミールは賑やかな方が好きなのよ。病人扱いしたら怒るから、気をつけて」



 メイドさんの後に続きエミール様の

部屋の前に来た。

 先にアリソン様が1人で入り、俺達の事をエミール様に話している。


「いいわ、入ってちょうだい」


 準備が出来たようだ。初めにレオン様、ミシェル様、ナディア様が入り、アランさんとアリエルちゃん、次にローランドさんが入った。

 俺とレクス達は最後に部屋に入り、その後にメイドさんが入って来た。



 エミール様はキレイに整えられたベッドに上体を起こし左手に本を持って座っている。

 アリソン様の言う通りかなり痩せている。


「エミールはカイト君以外は知っているわね?」

「はい、お母様。アランさん、アリエル、そしてローランドさん、良く来てくれました。このような身なりで申し訳ない」

「いえいえ、お気になさらないでください。久しぶりにお顔を拝見出来て、嬉しく思っております」


 エミール様が俺とレクス達を見た。


「君が噂のドールマスターだね。母と妹達を助けてくれて有り難う」

「頭をお上げになって下さいエミール様。御礼は充分に頂きましたので。お初にお目にかかります。Cランク冒険者のカイトと言います」

「カイト、言葉遣いは普段通りで構わない。それより、そこの人形達を紹介してくれないか?」

「はい、言葉遣いは助かります。皆、エミール様にご挨拶を」


 此処の人達は本当に分け隔ての無い人達だな。


「私はレクスだよ!」

「ワシはグランだ。ワッハッハッ」

「私はエル。そして、こいつがダイフクだぜ」

「シャー!」


 エミール様は笑みを浮かべてレクス達の名乗りを聞いていた。

 此処の人達は皆が良い人だ。俺に助ける事が出来るのなら……

 そんな事を考えながら、エミール様を囲んで談笑していると、エミール様の顔色が徐々に悪くなり、苦しみ始めた。


 メイドさんが俺達に退室を促したが、エミール様がそれを止めた。


「ぼ、僕なら大丈夫だ。ま、まだ此処に居てくれ」

「エミール様……でしたら回復魔法使いを呼んで参ります」

「待って下さい。俺も回復魔法が使えます。エミール様、どこが痛むのですか?」


 何故か強い既視感と衝動で、回復魔法を申し出た。


「こ、此処だ。此処が酷く痛い……」


 エミール様の額に汗が滲んでいて、痛みで顔を歪めながら胃の辺りを手で押さえている。


「エミール様、横になって下さい。今から回復魔法をかけます」


 何時もよりイメージを強く、昔見た写真や映像の正常な胃や肝臓等を思い浮かべて、時間も長めにヒールの魔法を使う。

 セルジュ、頼む…………


「アルティメット……ヒール」


 アルティメットヒールの言葉が、自然と口から出た。


 両手から溢れるように出た青味がかった銀色の強い光がエミール様を包み込むと、荒かった呼吸が落ち着き、顔色も戻ってきた。


「あぁ、凄い。こんなに早く……有り難うカイト、凄く楽になった」


 セルジュ、人体の異常を探し出すイメージをしたら出来るだろうか?


(難しいと思います。それには、確りとした医学の知識が必要になります)


 そうか、一般人程度の知識では無理だよな…………


 俺達はその後暫く雑談して、領主の館を出た。



 宿でローランドさんと別れた俺は、部屋のベッドに横になった。








「丸瀬さん、丸瀬快斗さん」


 名前を呼ばれた俺は診察室に入っていった。そこは町の小さな開業医で、目の前に座っているのは白髪がふさふさのじいさんだ。


「今日はどうされましたか?」

「はい、どうやら風邪にかかったみたいで……」

「ふむ、では診てみましょう。山崎さん体温計を」

「丸瀬さん、これで体温を計って下さいね」


 体温計を渡してくれたのは、俺と同年代の女性看護師でショートの髪に色白で少しぽっちゃりな可愛らしい人だ。名札には山崎里美と書いてあった。

 体温を計っている間、ずっと見とれていたらしい。顔を赤くして体温計を受け取り、じいさん先生に渡した。


 一目惚れだった。あれから日本に居る間、毎日小さな町医者の橘医院に通った。

 外国のお菓子や花束などを差し入れと称して、また、包丁で指を少し切っただけで、傷が塞がるまで毎日絆創膏を貼って貰いに行った。


「山崎さん、夕食にお誘いしたいのだけど、もし迷惑で無ければ……」

「迷惑だなんて……嬉しいです」


 彼女は満面の笑みで答えてくれた。



「明日から暫く仕事で海外に行くんだ。2、3週間で帰れると思う。お土産を楽しみにしていてくれ里美」

「うん、待っているね快斗。気をつけて行って来るんだよ」


 名前を呼び捨てにしあう仲になり何度かデートもした。

 俺に一つ年上の彼女が出来た。


 ある国の要人救出が、俺達傭兵団の今回の仕事だ。

 作戦から救出までに10日間の予定だ。


「この作戦が終了して日本に帰ったら、里美に俺の仕事を打ち明けるつもりなんだ。ビショップ」

「ああ、カイト。隠し事は良くない。話に聞く限り、お前には勿体ない良い子じゃないか。分かってくれるさ」

「俺は里美を愛している。もし里美が傭兵を辞めろと言えば、俺は辞めるつもりだ」

「それでも応援するよカイト。彼女を大切にしない男なんて最低だぞ」

「シェリー、有り難う。二人で幸せになるんだ。大切にするよ」


 ヨシュアは口数が少ない男だ。涙を流しながら「うん、うん」と頷いている。



「なんとなくだけど、そんな気がしてた。診察の時に見た傷跡が気になって調べたんだよ。銃創だよね。だから私、快斗がやくざ屋さんかと思っていたけど、まさかの傭兵でびっくりだよ」

「………すまない里美、今まで黙っていて」

「快斗が辞めたくないのなら私は何も言わない。今の快斗が大好きだから」

「里美、有り難う。愛しているよ」



―――快斗、結婚したらこんな家に住みたいね


―――快斗愛してるよ。気をつけて行ってらっしゃい


―――ビショップさんとシェリーさんとヨシュアさんはいい人達だね。私、少し安心したな。また遊びに来てくれると嬉しいな


―――快斗と私の子供?最低2人は欲しいな。エヘヘ


―――ゴメンね快斗、最近あまり体調が良くないの


―――快斗、私ね癌になっていたみたいなの…………怖いよ


―――毎日、お見舞いに来てくれてありがとう快斗。うん、治ったら結婚式だね


―――生まれ変わったら、また快斗に逢えるかな?


―――お願い、快斗、泣かないで



―――私ね、幸せだったよ



―――快斗……ありがとう





「――――――――里美」




 気がつくと枕が涙で濡れていた。

読んで頂きありがとうございます。

また、ブックマーク、評価、ありがとうございました。



エミール・アングラード(アングラード家、長男)


山崎里美(地球でのカイトの婚約者、癌で他界)

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