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第149話 カイト、帝国に行く〜カピバラさん?〜



 俺とサトミはカピバラの横を突っ切り、俺は拳で、サトミは蔓で目の前のゴブリンを殴り飛ばした。

 殴られたゴブリンは露天風呂の中に落ちていく。


「な!? き、貴様はカイトか!?」


 いきなりカピバラに名前を呼ばれた俺は困惑する。


「カイト! カイト! カピバラさんが喋ったよ!! カイトの知り合い?」

「喋ったな……。だが、俺にはカピバラに知り合いなんかいないぞ」


 剣や槍を使っているが、何処からどう見てもカピバラだ。ジョニーや地竜も喋るのだから、カピバラが喋ってもおかしくはないのかもしれないが、俺の名前を知っているのが腑に落ちない。


「コラァァァアア!! 貴様ら、何を呆けておるか!! ゴブリン共はまだまだ居るのだぞ!! さっさと戦わんかああああ!!」


「サトミ……。カピバラに怒られたぞ」

「うん……。カピバラさん、ごめんなさい」


 カピバラに怒られた俺とサトミは、露天風呂の中に居るゴブリンと睨み合った。

 此処の露天風呂はとても広いらしく、立ち昇る湯気で向こうの端が全く見えない状態だ。

 俺は、この露天風呂にどれだけのゴブリンが居るのか気配を読もうとした。すると、露天風呂の奥の方、湯気の向こうから、ゴブリンとは違う人型の影が此方にゆっくりと近付いて来ている。

 ゴブリンよりも背の高い人型だというのは分かるのだが、湯気の所為でその輪郭しか分からない。


「サトミ、気を付けろ。何か来るぞ」

「うん、なんだか人間ぽいね」

「レクス達はゴブリンを頼む」


 何者かは分からないが、もしかしたらゴブリンにまで手が回らないかもしれないので、レクス達にはゴブリンの相手をしてもらった方が良いだろう。


「ハイなの! カイトくん!」

「ワッハッハッハッハー! 久しぶりに暴れるぞー!」

「修行の成果を見せてやるぜ!」

「一匹たりとも逃さないニャン!」

「み、皆さんこのようなノリなんですね……」


 レクスが返事と共にスチャッと手を挙げて、グランは口から出したハンマーを頭上でブンブンと振り回し、エルが軽快なステップでシャドウボクシングのような動きを見せ、マックニャンは静かにレイピアを構えて目を細めている。

 それらを見た新入りのベラは、何処か呆れた様子で若干ジト目気味である。恐らく、神である彼等がゴブリン如きに何を張り切っているのだろうと思っているのではなかろうか。


 レクス達の様子を見てほっこりとしていると、湯気の中の影が次第に近づいて来て、その姿を俺達の前に表した。


「ふん、やはり貴様であったか人形使い」

「せっかく私らが温泉で疲れを癒しているのに、こんなところまで来て邪魔をするなんて、とんだお邪魔虫だし!」

「フゴッ! フゴッ!」


 湯気の中から現れたのは、この世界を手に入れようといているはぐれ神であるクレマンの手下で、此方に鋭い眼光を飛ばして来ているソルトと、文句たらたらのシュガーである。そして、その横には怒りに両腕を上下に何度も振り降ろしているオークキングの姿もあった。


「ふん、クレマン様はその人形に大層な興味を持っておられたが、そのような事は我らには関係ない」


 ソルトが、目を細めてレクス達を品定めでもするように睨みつける。


「人形使い! 尽く我らの仕事の邪魔をする貴様だけは排除せねばならぬようだ」


 一方的に喋っていたソルトの額にある第三の目が妖しく光る。


「ちょっと待て! お前等は此処で何をするつもりだ?」


 大量のゴブリンと一緒に露天風呂に入っていた意味が分からないので聞いてみた。

 ただ単に、露天風呂に入って疲れを癒やしているだけで、人々に危害を加えないのであれば特に問題は無い。


「邪魔ばかりするあんたになんか教えてやらないしぃ」

「そういう事だ人形使い。貴様はこの露天風呂の湯気と共に消えてもらおう」


 どうやら教えてくれないらしい。更に、俺は此処で湯気と共に消えるそうだ。


 ソルトの第三の目の効果なのか、露天風呂に浸かっていたゴブリンが一斉に襲いかかって来た。

 レクス、グラン、エル、マックニャン、ベラが、それぞれ応戦し、俺とサトミの周りにはゴブリンは辿り着く事が出来ずにいる。

 すぐ後ろでは、四体のカピバラも奮闘している。そして、更に離れた場所では、アマンダさんとミウラさん、ミシェル神父、ファビアン神父を守るように、キョウヤと聖騎士のマールさんが四人の前に出ていた。


「人形使い。今度は私が相手だしぃ」

「私の相手はドリアードか。ふん、相手にとって不足無し!」


 いつの間にか足甲を装着したシュガーは、片足を挙げて俺を牽制する。それと同時に、ソルトは剣を上段に構え、サトミと対峙した。

 

「っていうか、ちょっと待て!!」

「何なの? まだ何かあるし?」

「何なの? じゃ無いわ! 待っててやるから先に服を着ろ!!」


 そう、ソルトとシュガーは一糸まとわぬ姿なのだ。


 さっきからソルトの股間ではぶらぶらと、シュガーのたわわに実った胸がぷるんぷるんと気になってしょうが無い。更にシュガーは俺を牽制するために片足を上げて俺に向かって突き出している。


 見えてはいけないものがチラチラと……。マジで目のやり場に困って戦闘どころでは無い。


「ふん、何かと思えばそんな事か。此処は露天風呂なのだから服を着ている方がおかしいというもの」

「それに混浴だしぃ。あんた達こそ脱げば良いしぃ」


 えっ!? ソルトとシュガーの言っている事が正当なのか? しかし、これから戦うんだよな? でも、此処は露天風呂だし……。


 訳が分からなくなって動揺していると、サトミが服を脱ごうとしているのが目の端に入った。


「おいっ、サトミ! 脱ぐんじゃない!」

「えっ? でもカイト、此処は露天風呂だよ? 混浴だって。えへへ」

「サトミ……? 大丈夫か? 今から戦闘だからな? 分かっているよな? 脱ぐのは戦闘が終わってからだ。良いな?」

「うん、わかったよ。終わったら一緒に入ろうね?」

「あ、ああ……そ・う・だ・な」


 まあ、これだけ広くて湯気も立ち込めているから大丈夫だろう。って、何が大丈夫? いや、良いのか? 混浴露天風呂だし……。


「もう、どうでも良いから行くし!」


 俺が混乱していると、痺れを切らしたシュガーが飛び掛かって来ていて、気づけば目の前に足甲を纏った踵が迫っていた。

 ブリッジで回避した俺の上をシュガーが通り過ぎる。またしても見えてはいけないものが……。


「早めに終わらせないとおかしくなりそうだな……」


 サトミはというと、全く気にもしていないようで、ソルトの剣を蔓で往なし、隙をついて棘蔓を叩き込んでいるようだ。


 俺が気にしすぎなのか……?


 何にしても、俺の精神衛生上よろしく無いので、さっさと終わらせるに越したことはない。


「セルジュ。スタンボールだ」


(マスタ、初めての魔法……。優しくして……)


「はあ? 何を言っているんだ?」


 俺の目の前に、金色に輝くピンポン玉くらいの三つの光球が円を描きながら回っている。

 その金色の光球一つをソルトに、一つをシュガーに、そして最後の一つをオークキングに向かって発射した。


「――――――アガガガガガガガ」

「――――――アババババババババ」

「――――――ブボボボボボボボ」


 ソルトは剣を落とし、片膝をついて苦悶の表情を浮かべ、シュガーは立っていられなくなったのだろう、仰向けに倒れてビクビクと痙攣しているようだ。そして、マールさんに迫っていたオークキングは、勢い余ってスライディングしながら身体を震わせている。



 この場を埋め尽くす程居たゴブリン達は、レクス達やカピバラに大多数倒されて、後に残ったゴブリン達は劣勢を悟り、散り散りに山の中に逃げて行き、とりあえず戦いは終止符を打った。




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