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第148話 カイト、帝国に行く〜露天風呂のゴブリン〜

久しぶりのノープラン連休だったので、一気に書き上げました。



 地球のリゾートホテルとまではいかないが、この世界にしては中々高級感あふれる宿で寝室が二部屋とリビングがある大きめの部屋を二部屋借りて、男女に分かれて暫く寛ぐ。

 すると、ノックの後に扉が開き女性陣が部屋に入ってきた。


「カイトさん、見物に行きませんか?」

「山の方には露天風呂があるんだって」


 ミウラさんが部屋に入ってきて、開口一番に見物に行こうと誘ってきた。

 サトミは露天風呂が気になっているようで、何時になくはしゃいでいる。

 急かす女性陣に追い立てられるように、俺達は全員で温泉宿をぞろぞろと出ていった。まるで零細企業の慰安旅行のようである。


 通りや広場には、屋台で買い食いしている人や、ベンチに座って談笑している人、のんびりと歩きながら商店の前に陳列されている商品を見ていたりと、他の街では考えられないくらい、時間がゆっくりと流れているようだ。その中で、忙しく早足で歩いているのは、商店や温泉宿の制服を着た従業員だけである。


「たまには、このようにのんびりとした時間を過ごすのも良いものですね」

「そうだなアマンダさん。俺は今まで自由にのんびりと過ごして来たつもりだったが、まだまだのんびり度が足りなかった事がここに来て分かった気がするな」


 そう言えば、アマンダさんとミウラさんはポケット農村や漁村に行ったり、ギルドの視察に行ったりで、何時も忙しく働いている気がするな。


「ここには冒険者ギルドも商業ギルドも無いんだろ? たまにはアマンダさんもミウラさんも仕事から離れて、ゆっくりとすれば良いぞ」

「うふふ、はいカイトさん、そうさせてもらいます。ね? ミウラちゃん」

「はい。そのためにはカイトさんは此処では大人しくしていて下さいね」

「は? どういう意味だ、ミウラさん?」


 広場で御札を売っていたポンコツカルテットは居なくなっていた。御札が全部売れたのかもしれないな。

 銅貨二枚、日本円で二百円くらいならば、御守りとして買う人も多いのだろう。但し、銅貨二枚と言ってもその効果は本物で、この世界の人達を守りたいというビショップの想いが込められたマジックアイテムだ。

 今まで、あの御札で助かった人も多いのではないだろうか。


「ねえカイト? ポンコツカルテットが居なくなったけど、何処かでわるさとかしてないよね? ビショップさんの部下なんだろうけど、私はあの人達の事が良くわからないんだ」

「う~ん、今までの事はビショップ的に何か意味があることなのか、ポンコツカルテットが勝手にわるさをしていたのか分かりかねるな」


 ポンコツカルテットの出合いは最悪で、わざと車輪を外した馬車に隠れて、助けに行った俺を襲うというものだった。それからも、街道で通行料を取ろうとしたり、俺達を待ち伏せてオーガと戦わせたり、街道に落とし穴を掘ったり、現在新月の館でメイドをしているメロディーちゃんを脅したりで、俺の前では碌でも無い事ばかりやらかしていた。

 この話をサトミにした時は、何故かお腹を抱えて笑い転げていたっけ……。




 山の方にあるという露天風呂や、町中の至る所にある足湯の施設などは、宿場町の何れかの宿に部屋を取ると、無料で利用出来るとアマンダさんが聞いてきてくれた。

 それならばと、俺達は近くの足湯の施設に行き、係のお婆さんに温泉宿の部屋番号が書かれた木札を見せて足湯に浸かる。


「は~、疲れが取れるような気がしますね。マールさんも入ったらどうですか?」

「ありがとうございますミウラ殿、ですが私はミシェル神父とファビアン神父の護衛として来ていますので、何時でも動ける状態でいなくてはいけませんので……」

「大丈夫ですよマールさん。カイトさんやレクスちゃん達が居ますから何が来ても平気です」

「それもそうですね……。では、私もお言葉に甘えて入らせてもらいます」


 神父ズの後ろに立って、周囲の警戒をしていたマールさんは、ミウラさんの隣に腰掛けて足湯に浸かった。


 マールさんも、何時も気を張り巡らせているからかなり疲れている筈だ。折角の温泉地なのだから、此処ではまったりとしてもらいたいな。

 と、そう思いながら足湯を堪能していると、静寂であった宿場町に喧騒が訪れた。


「御札の魔法陣が赤くなったぞ!! 宿の中に避難するんだ!!」


 宿泊客であろう男性が叫びながら山の方角から走ってきた。


「モンスターが出たわ!! ゴブリンよっ!! 露天風呂にゴブリンが出たのよ!!」


 男性に続き、悲鳴混じりにゴブリンが出たと叫びながら走って来る女性、その少し後に、半裸や全裸で言葉にならない悲鳴を上げながら十数人の男女がそれぞれの宿泊している温泉宿に駆け込んで行く。

 あの人達は、露天風呂に入っていた所にゴブリンが現れて、慌てて逃げて来たのだろう。


 俺はと言うと、全裸の女性達が見えると、隣に座っていたアマンダさんが、俺の頭を両手で掴み、そのまま自分の胸に俺の顔を押し付けてきた。

 いきなりな事もあって、必然的に態勢を崩した俺は、アマンダさんの腰に抱きつく形になってしまう。


「アマンダさん!? ちょっ、何を……むぐっ……い、息が……」

「見たら駄目ですカイトさん!!」


 アマンダさんの大きな胸は柔らかくて気持ち良いのだが、柔らかいが故に顔に密着して息が出来ない。

 目隠しなら手でしろよって言いたいのだが、如何せん口も塞がれて言葉を発する事も出来ない。

 次第に肺の中の酸素が無くなり、アマンダさんの背中をぺちぺちと叩いていた手と、足湯の中でばたつかせていた足が止まり、意識が遠のいていく。そして俺は、お花畑の上をゆっくりと飛んでいた。





「――――――カイト、カイト……。あっ、やっと起きたよ!! カイト、大丈夫?」


 サトミの声で目を覚ました俺の目の前には、俺の呼吸を阻害した大きな双丘が揺れていた。

 頭には柔らかい感触があり、双丘の向こうから心配そうに眉尻を下げたアマンダさんの顔が覗いていた。どうやら俺はアマンダさんの膝枕で気を失っていたようだ。

 俺は頭を動かしてサトミの声がした方を向くと、俺の身体にサトミの蔓が巻き付いているのが分かった。どうやら、エナジーを送ってくれていたようだ。


「サトミ……ありがとう」

「うん、災難だったねカイト。あはははは」

「カイトさん……ごめんなさい……」

「アマンダさん……。今度から目隠しは手でな。もう少しでその胸で窒息死するところだった。そんな恥ずかしい死に方は嫌だからな。って、おいっ!! キョウヤ、ファビアン神父!! そこ笑うところか!? 死にかけたんだぞ!!」

「やあ、ゴメン、ゴメン。羨ましい死に方だと思ったらつい……あはははは」

「キョウヤ殿も私と同じですか~。全く羨ましい限りですね」


 ファビアン神父!? あんた聖職者でしょ!? マールさんの目が座ってますよ? 知りませんよ?

 キョウヤはいつか仕返しを。そうだ、ムキムキマッチョマンの厚い胸板に押し付けてやろうか?


「カイトさん、露天風呂に行ってみたほうが良いと思いますけど、動けそうですか?」

「あ、ああ、そうだなミウラさん。ゴブリンがこっちに来ないとも限らないし、誰かが既に戦っているかもしれないからな」


 俺はアマンダさんの柔らかい感触を名残り惜しみながら起き上がるのだった。





 件の露天風呂に駆け付けると、そこには気持ち良さそうに露天風呂に浸かるゴブリン達と、こちらに背を向けて戦っている、四匹のカピバラが居た。


「カイト、カピバラさんだよね?」

「ああ、後ろ姿は間違いなくカピバラだな。ミウラさん、あのカピバラもモンスターなのか?」

「さあ……見た事が無いので私には何とも言えませんが、剣と槍を持っていますよね? 訳が分からないのですが……」

「あっ! 魔法を使ったよ!!」


 サトミの声でカピバラを見ると、その中の一匹がフャイアーボールを放ったところだった。これでミウラさんは余計に訳が分からなくなった事だろう。


「カイト、数に押されているカピバラさんを助けに行こう?」


 あのカピバラが敵か味方か分からないが、ゴブリンは間違いなく倒さなければいけない相手だ。


「カピバラを助けるっていうよりも、ゴブリンの数が多すぎる。サトミ、取り敢えずカピバラは後回しにして、ゴブリンを片付けるぞ」

「うん! わかった!」


 俺とサトミは、ゴブリンとカピバラが戦っている真っ只中に走って行った。





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