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第146話 みんなで入浴(混浴ではありませんよ~)



 美味しい夕食を堪能した面々は、満足げな表情を浮かべながらお腹をさすっている。

 しかし、その美味しい夕食を食べ終えたにも関わらず、フリオさんの話しはまだ続いていた。


「あの時バルトとキールが追っ手を引き付けて我々を逃がしてくれなかったら、間違いなく全滅していただろう……。未だに追い付いて来ないと言うことは、恐らく二人はもう……」


 フリオさん、ラルフさん、ダルタンさん、サラさん、そしてアニーは、それぞれ食卓の一点を見つめて今にも泣きだしそうに顔を歪めている。

 俺にも、仲間が目の前で散って行った経験が何度もあったから、その気持ちは痛い程分かるのだが、そろそろ風呂に入って寝る準備をする時間だ。特にアニーはまだ子供なのだから尚更だ。


「それに、あの峠の一本道でフランクも……」

「こんな僕の為にみんなは……」

「殿下……いえ、アニーは何も気にする事はありませんよ。みんな貴方の事が好きだから……貴方を心から護りたいと思っているから戦っているのです」

「サラ先生……」

「その通りですぞ。わしらは祖国よりもアニーの方が大事なのですからな」

「ダルタン……」


 このままだといつ終わるか分かったもんじゃないな。何時も賑やかな食卓が、まるでお通夜のようだ。


「話しの途中だが、そろそろ風呂に入らないか? 続きはまた今度ゆっくりと聞かせてくれ」


 俺は、みんなに風呂に入るよう促した。


「風呂があるのかいカイト君? あ、いや、こんなに立派な屋敷なのだから風呂があってもおかしくはないな。あはははは」

「お風呂……」

「ああ、アニー、風呂だ。男女別々になっているから、みんな一度に入れるからな。行くぞアニー」


 今では新月の館の大浴場も男湯と女湯に分かれている。何故かと言えば、暇さえあればグランが色々といじっているからだ。

 そのうちエントランスに売店が出来るんじゃないかと密かに期待している。


 サトミ、アマンダさん、ミウラさん、マールさんは、サラさんを連れて何やら賑やかに喋りながら女湯に向かい、キョウヤ、ミシェル神父、ファビアン神父は、フリオさん、ラルフさん、ダルタンさんを男湯に案内する。

 俺はアニーの手を引いて、彼等の後ろを付いて行った。


「ちょっと待って……」


 男湯の脱衣場に入る手前でアニーが立ち止まった。


「うん? どうしたんだアニー?」

「カイトさん……僕、こっちじゃない……」




 頭と身体をきれいに洗い、俺達は肩まで湯に浸かっている。


「はぁァァァ……何だか疲れが一気に取れるようだね。しかし、何だいこの風呂は?」

「全くだわい。この様に広い風呂は城にだって無いぞ。お主はどこぞやの大貴族であったのか?」

「いや、俺はAランク冒険者だ」


 大貴族って言われたのは初めてだ。

 Aランク冒険者なのだから、家くらい持っていてもおかしく無いだろう。


「普通のって言わなかったよ」

「カイト殿は普通ではないですからね」

「どうせ、Aランク冒険者だから家くらいあってもおかしく無いと思っているんだと思いますよ」


 少し離れた所で脚をのばしてゆったりと湯に浸かっているキョウヤとミシェル神父とファビアン神父がコソコソと何か話しているが―――――――


 聞 こ え て い る ぞ


 と、俺は目で訴える。

 まったく……。俺がお前達に何かしたか?


 俺が、コソコソと話している三人を睨みつけていると、聞こえていた事に気が付いたのだろう、慌ててキョウヤが話題を変えて来た。


「それにしても、アニーちゃんが女の子だったとはね」

「ええ、ええ、私達もすっかり男の子だとばかり思っていましたよ」

「あの時のカイト殿の顔……ぷぷっ」

「ファ、ファビアン神父!?」

「はっ!! し、失礼」

「はぁ……もう良いですよ……」


 あの時、脱衣場に入ろうとした時に、アニーちゃんが “ぼ、僕は女の子……”って言った時には、正直驚いた。確かに、言われてみれば可愛らしい顔をしていたのだが、髪を短く切っていたし、自分の事を僕と言っていたから、俺も男の子だと思っていた。


「あはははは、申し訳ない。城から逃げ出した時に、少しでも追っ手の目を誤魔化す為に、腰まであった長い髪をバッサリと切ってしまったからね」

「なるほど、そうだったんだね。なら、僕って言うのも追っ手を誤魔化す為に?」

「いや、それは物心がついてきた時からだね。うん」

「って事は? カイト君! アニーちゃんはボクっ娘属性だよ!! いやぁ、居るんだね実際に」


 キョウヤは何を興奮しているんだ? ミシェル神父とファビアン神父、それにフリオさん達三人もただ呆然と、はしゃいでいるキョウヤを見ている。

 まあ、キョウヤが何に興奮しているのかは、なんとなく分かるが、そういった分野に俺は全く興味が無い。


「カイト〜!! 私達はそろそろ上がるよ〜」


 男湯と女湯を分けている仕切りの向こうから、サトミが声をかけてきた。先程からシャンプーやリンスがどうのこうの、髪がサラサラで肌がスベスベになったとか、女性達の姦しい声が浴場に響いていたのだが、サトミが源泉かけ流しの講義をしてから、しばらく静かになっていたな。

 思えばそれなりの時間湯に浸かっていたような気がする。


「俺達ものぼせないうちに上がるぞ」

「そうですね。何時もの事ながらついつい長湯になってしまいました」


 どうやら、ミシェル神父も日本人並みに温泉好きになったようだ。





 俺達が風呂に入っていた間に食事を終えたララさん達の給仕で、冷たい飲み物を手に、温泉でほてった身体を冷ます。


「ぷはーっ! お風呂上がりの冷たい飲み物は最高ですね」

「ミウラちゃん、だからといって飲み過ぎないようにしないと、また二日酔いになりますよ」

「は~い。そう言えばアマンダさんが二日酔いになったところを見た事が無いわ」

「私は何事にも節度を持っていますからね」

「ふ〜ん……」


 アマンダさんのお腹にジト目を向けるミウラさんに苦笑しながら、俺はよく冷えたソーダ水を飲む。

 俺とアニーちゃんはソーダ水で、その他の面々はエールを片手に持っている。


「東の国に行くのはしばらくお預けにして、先に帝国に行く事になった。アマンダさんとミウラさんは、明日のうちに帝国について調べておいてくれ」


 明日は、商業ギルドのギルドマスターであるアマンダさんのお姉さんと、一応冒険者ギルドにも挨拶に行くのは確定として、喫茶店“ハニー・ビー”にも行きたいから、出発は明後日だな。



読んで頂きありがとうございました。

前回、いいねが一件ついていました。とても嬉しかったです。

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