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第145話 フリオさん達の事情

モチベーションが↓↓↓

少し書いては他の事に気を取られるこの頃です。




 ――――――――新月の館の門の前。


「えっ……!? ど、何処だ此処は?」

「新月の館。俺の家だ」

「は? おかしくない? だって君は旅の途中なんだろう?」

「まあ……それは後で説明する。取り敢えず中に入ろう」


 冒険者ギルドにソルトとシュガーの報告をした後に、フリオさんとラルフさんが泊まっている宿屋の食堂で奢ってもらえる事になった。

 しかしその宿屋は、ラルフさん達一行を付け狙っていた者により火を着けられ、俺達が着いた時には既に黒煙と炎に包まれていた。

 新月の仮面を着けた俺は、レクス、マックニャン、サトミと共に、燃えている宿屋に取り残された人達を助け出したのだが、最後に残ったラルフさん達一行の元にたどり着いた時には、古い宿屋ということもあり、完全に火が回って逃げ場を失っていた。

 そこで俺は、此処でラルフさん達一行が焼け死んだ事にすれば、追手はもう来ないだろうと提案し、ラルフさん、フリオさん、旅装の男性、母子二人の計五人を連れて、新月の館に転移したのである。

 今頃は火事現場に残ってもらったレクス、エル、マックニャン、ベラ、サトミ、ミシェル神父、ファビアン神父、マールさんが、怪我人の治療や後始末をしてくれていることだろう。


「おかえりなさいませ、カイト様」

「フェルナンさん、ただいま。すみませんが、彼等の部屋を用意してもらえますか?」

「畏まりました。では皆様、お部屋にご案内致しますので、こちらへ」


 玄関前でフェルナンさんが出迎えてくれた。何時も思うのだが、どうして帰ってきたのがわかるのだろうか……。門を入るとチャイムでも鳴るのだろうか……?


「フリオさん、大変な目にあって疲れてるだろうから、夕食まで部屋で休んでいてくれ」

「え? あ、ああ……気を使ってもらって悪いね。それじゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」


 フリオさんとラルフさん、それとまだ名前も聞いていない三人は、門の前から此処まで、終始困惑した顔をしていた。

 この新月の館を初めて訪れた人は、驚くか困惑するかのどちらかなので俺ももう慣れたものだ。

 部屋で暫く頭の中を整理してもらおう。特に怪我を負った旅装のおっさんと母子には休む時間が必要みたいだ。顔色と動作で疲れている事が手に取る様にわかる。



「カイトくん、ただいまなの!!」


 俺が地下の解体場にオークを出していると、レクス達とサトミ、そして大聖堂組のミシェル神父達が帰ってきた。


「地下にこのように立派な解体場があったのですね」

「お疲れ様でした。ミシェル神父、ファビアン神父、マールさん」

「カイト殿もお疲れ様です。ところで、今からこのオークを解体するのですか?」

「いいえ、俺はモンスターを此処に持って来るだけで、解体はララさんとメロディーちゃんとマークにやってもらっているのですよ」


 今ではマークも初級の魔法が使えるようになり、フェルナンさんの下で執事見習いをしながら、ララさんからモンスターの解体も習っている。

 フェルナンさんは、マークもあとニ、三年頑張れば何処に行っても立派な執事として通用するだろうと言っていた。


「あれからね、燃えている宿屋から新月仮面が出て来ないって、街の人達が大騒ぎしていたの!!」

「そうだよ、カイト。新月仮面を助けるぞって言って、中に入ろうとする人を止めるのも大変だったんだよ」


 レクスとサトミがジト目で俺に詰め寄って来た。

 俺は何とか二人を宥めて、フリオさん達五人を新月の館に連れて来て匿っている事を話した。そう、話題を逸したとも言う。





「美味し……」


 夕食の準備が整い、メロディーちゃんとマークにフリオさん達を呼んで来てもらった。

 そして、食卓に着く前に軽く挨拶を交わし、自己紹介が始まった。


 俺達の事を余程信用してくれているのだろう、簡単にではあるが彼等が何者であるかを話してくれた。

 それによると、彼等は西方に数ある小国の内の一つであるパライ王国の第四殿下とその従者達であり、王位の継承を巡る争いから逃げて来たのだと言う。

 フリオさんとラルフさんは、その第四殿下専属の騎士であり、もう一人、俺が旅装のおっさんと言っていた男性も専属騎士で、ダルタンと名乗っていた。

 ダルタンさんは灰色の短髪で、見かけは厳つく口数は少ないのだが、真面目な男で頼りになるそうだ。頼りになるのだが、おっちょこちょいがたまに傷だと、フリオさんが茶化すように言っていた。

 ダルタンさんはどうやらフリオさんの部下らしい。


 次に俺が母親だと思っていた女性は、第四殿下の教育係を務めているサラさんだ。

 確かにそう言われると、濃い茶色の髪を後ろで纏めて、白いシャツと足首まである黒っぽいロングスカート、鼻の上にちょこんと乗った小さな眼鏡が如何にもと言った感じで、学校の先生を思わせる。

 彼女は今、背筋を真っ直ぐに伸ばして座り、洗練された所作でナイフとフォークを扱っている。


 その教育係のサラさんの横に行儀よく座って、小さく切ったオークの生姜焼きを食べて、先程の、消え入りそうなか細い声で‘美味し……’と思わず声に出てしまった感の男の子が第四殿下のアニー様だ。

 今年八歳になったばかりだと言うアニー殿下は、栗色の細くてふわふわの髪に、大きな青い瞳をしたおとなしい性格の子供のようで、何時も大人達の後ろに隠れていた。

 食事中は隠れる訳にもいかず、普通に座っているので、初めてその可愛らしい顔をまともに見る事が出来た。


「お口にあったようで何よりです殿下」

「カイト君、我々の素性は話したけど、既に王宮とは縁を切ったのだから普段道理に話してくれて構わないよ。それに、殿下ではなくてアニーと呼び捨てにしてもらいたい。殿下もそれをお望みだし、我々も今では平民として生きているからね」

「そうなのか? ならそうさせてもらおう。みんなもそういう訳だから普通に接するようにな」

「うん、分かったよカイト君」

「キョウヤ居たのか? 何だか久しぶりだな」

「酷いなぁ……ずっと館には居たんだよ。あはははは」

 

 食堂には、新月の館の住人がほぼ集まっている。何故ほぼなのかと言うと、グランとミントの二人が、まだ妖精の森から帰っていないからだ。

 そして皆が囲む食卓には、オーク肉の生姜焼き、ポテトサラダ、きのこが入っている味噌汁、ライスと籠に入ったパン、キャベツの千切りが山盛りに盛られた大皿が並べられている。

 オーク肉の生姜焼きと千切りキャベツは人気メニューの一つなので、新月の館では割と頻繁に食卓に上る。

 きっと、誰かしらララさんにリクエストしているのだろう。


「それにしても、このような美味い料理は初めてだよ」

「ララさんの料理の腕は達人級だからな」

「カイト様!! 止めて下さい!! カイト様のレシピとご指導があってのものなのですから!!」

「それでも、ララさんの料理は美味しいよ」

「もう……サトミ様まで……キャベツのおかわりを持ってきます……」


 ララさんは顔を赤くして厨房に引っ込んでしまった。


 俺達は美味しい料理を食べながらフリオさんの話しを聞いた。


「アニーは四人兄妹の末っ子で、兄が二人と姉が一人居るのだが、それぞれの派閥で争いが激化し始め、とうとう事故を装った暗殺まで企てる者が現れたんだ。そして、まだ幼いアニーまで狙われているという情報を掴み、俺達はアニーの命を守る為に身分も何もかも捨てて、着のみ着のままで此処まで逃げて来たんだよ……そう、仲間を一人、また一人と失いながらね……」


 フリオさんは悲痛な面持ちで、俯き加減にそう語り始めた。何だか話しが長くなりそうだ。



読んで頂きありがとうございました。

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