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第142話 ソルトとシュガーとオークキング

本年も宜しくお願いします



「カイト君、向こうの木の枝に怪しい奴らが居るニャン」


 マックニャンの示す方向を見ると、確かに二つの人影が木の枝に見えた。

 どうやら、一人は立っていて、もう一人は座っているようだ。そして、その下には一際大きなオークが太い幹にもたれ掛かって腕組みをしている。


「あれは、オークキングか?」

「そうみたいニャン」

「確かに怪しいな……。そうだな……マックニャンとエルで、奴らの後ろに回り込んで、逃げ道を塞いでくれ」


 ダイフク達が来たことで、オークの数も随分と減ってきた。それも踏まえて俺はフリオさんとラルフさんを見る。そして、この場は二人に任せても大丈夫だと判断した。


「セルジュ、奴等の前に転移するぞ」


(もぐもぐ……もぐもぐ……ん、オケ、マスタ、転移する)


 セルジュはまた何かを食べていたようで、声が少しくぐもっていた。


「えっ!? カイト君が消え……」


 フリオさんが驚いた声を上げたが、説明をしている時間が惜しいので、俺は二人に構わず怪しい奴等の前に転移した。尤も、フリオさんやラルフさんに、いちいち説明をする義理など、俺には無い。


「――――ッ!? ななな、何!? い、いきなり出てきたし!!」

「なっ!? だ、誰だ貴様は!?」

「ぶっ!! ぶごぉぉぉぉぉおおお!? お、驚いたブ」


 木の枝の上には浅黒い肌の二人組が居て、太い幹に手を添えて立っている男の方は、鍛えられた筋肉質の身体で無駄な贅肉が一切無く、鋭い目付きとオールバックに整えられたグレーの頭髪、ピンッと跳ね上がった細い口髭が特徴的だ。そして、その隣に腰掛けている女は、腰まで届く長く伸ばした赤い髪で、少し厚化粧だが美しい顔立ちをしている。男ならば二度見、三度見してもおかしくないレベルの美女だ。 更に豊かな胸は兎も角、細い腰と長く伸びた脚は良く鍛えられており、黒豹のようなしなやかさと強さを感じさせる。

 この二人には、浅黒い肌の他に共通して、額に第三の目があった。

 そして、木の根本には驚きすぎて尻もちをついているオークキングが驚愕に歪んだ顔を俺に向けていた。


 木の枝に立っている男から誰何されたので、取り敢えず俺は答える事にした。


「俺はオークを討伐に来た冒険者だが、こんな所に居るお前達の方こそ何者だ?」

「ふん……何者だと聞かれたら、答えるのが我が種族の礼儀! 我等は神より使命を与えられし、誇り高き三つ目の種族! 幻龍剣術にこの人ありと謳われた、ソルトルタンディカラメルクチンとは私の事だ」

「そして! 美脚の蹴闘士の二つ名を持つ、シュガマイヌレクティディサルティンクサーラは私の事だしぃ」


 な、なんか、凄い名乗りを上げられたけど……?


「あー、ソルトタンタンチン……? と、シュガマイサル……サル……??」


 うん、長すぎてわからないな。


「違うよカイト。ソルトルタンディカラメルクチンと、シュガマイヌレクティディサルティンクサーラだよ」


 声のする方を見ると、俺の近くの大木の幹からサトミが出て来たところだった。


「凄いなサトミ、良く覚えられるな。っていうか、何処から出てくるんだ!?」

「えへへ、私は木がある所なら何処にでも行けるんだよ」


 だそうだ……。まったく、ドリアードってどれだけチートなんだ?


「ふんっ! これだから知能の低い人間を相手にするのは疲れるしぃ」

「まあ、そう言うで無い。そこのモンスター娘よりも頭の悪い人間に、我等の名を覚えろと言う方が酷であろう。ワッハッハッハッハ」


 くそっ、言いたい事を言ってくれるな。確かに覚えられないから反論が出来ないのだが。


「名前なんてどうでもいい。それよりも、あのオークの大軍はお前達の仕業なのか?」


 オークキングを連れているので間違い無いだろうが、確認の為に一応聞いてみた。


「どうでもいいとは失礼な奴だ。だがまあ、知能の低い人間には仕方の無い事。我等の偉大なる神であるクレマン様から賜った名で呼ぶ事を許してやろうではないか。良いか? 私がソルトで」

「私がシュガーだし」

「あゝ、虫けらの如き人間に対しても、広い心を持つ我等は……」

「待て! クレマンだと?」


 男の言葉を、俺は遮った。

 クレマンといえば、この世界を手に入れようと企んでいるはぐれ神だ。

 この二人、ソルトとシュガーはクレマンの手先として動いているようだ。

 ならば、オークの大軍もやはりこの二人の仕業で間違い無いだろう。


「フフフ、クレマン様は、この世界を欲しておられる。故に我等はモンスターを使い、人間共の心を疲弊させ、クレマン様がこの世界に君臨する下準備をしているのだ。貴様等冒険者という者の力量は既に把握している。フフフ……貴様等では、どう足掻いても我等には手も足も出まいな」

「そうか、バフォメットとベルゼブブの次はお前達か」


 レクス達は、クレマンの事を重要視していないようなので、俺も今の所は関わらなくても良いと思うのだが、モンスターを使って人々を襲うのはどうかと思う。


「ほう……尽くクレマン様の邪魔をしていたのは貴様だったのか」

「別に俺は、モンスターが襲って来たから倒しただけだ。布教活動なら人々に危害を加えずにすれば、俺だって邪魔はしないぞ」


 エルも、この世界の管理が出来るならやってもらいたいって言っていたしな。


「ん〜……それにしても、あんた何処かで見たことがあるような気がするし」

「ん? そう言えば……」

「ねえカイト、王都でアマンダさんにぶつかった人だよ」

「「あっ!! あの時の」」


 シュガーと声が重なってしまった。


 ソルトとシュガーの二人と出会ったのは、王都の冒険者ギルドにチューロ村のダンジョンの報告をした帰り道だった。

 俺達がアイスキャンディーを食べながら歩いていると、路地から大通りに出て来たシュガーがアマンダさんとぶつかり、アマンダさんが尻もちをついたのだった。

 その時は大きなゴタゴタも無く、和解して、俺達は、この二人と直ぐに別れたのであった。


「王都に居た貴様等が此処に居るとはな。これも何かの縁であろう。貴様もクレマン様の信徒になるが良い」


 そう言って、ソルトは額の目を見開いて俺を睨みつける。

 ソルトの額の目を見ると、一瞬引き込まれそうになったが、パチンッと何かを弾くような感覚が目の奥で起こった。


(マスタ、あの額の目は洗脳の魔眼。でも、マスタには効かない。私がレジストするから安心して)


 初めての感覚だったから何が起こったのか分からず、少し戸惑ったのだが、そうか……ソルトは俺を洗脳しようとしていたか。


「な!? 弾かれた?」

「俺は、クレマンの信徒なんかになるつもりは無いからな」

「ならば、王都の人間に不安と恐怖を与えて心を疲弊させて洗脳したように、貴様の心にも恐怖を植え付けてやれば良い。フフフ……それからゆっくりと貴様を洗脳してやろう。行くぞシュガー!!」


 ソルトは剣を抜き、木の枝から飛び降りた。



読んで頂きありがとうございました。


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