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第141話 フリオとラルフ

今年最後の投稿です。



「やあ、また会ったねカイト君」


 声を掛けられて振り向くと、ベルチの街に来る途中に出会った訳あり親子の一行の若い冒険者風の二人が此方に歩いて来ていた。

 俺は、すっかりと彼等のことは忘れていたのだが、彼等は俺の事を忘れてくれてはいなかったようだ。


「まだこの街に居たのか?」

「つれない事を言うね~。俺達はこんなにも友好的に話し掛けているのだから、少しくらい心を開いてくれないかな?」

「友好的に話しているのはお前だけだろう? それに、お前達に関わると面倒事に巻き込まれそうだからな」

「ああ〜、こいつは極度の人見知りだからね。それと、無理矢理に巻き込むつもりは無いから安心してくれ」


 もう一人の冒険者風の男に目を向けると、サッと目を逸らされて、俯き加減でもじもじしながら小さな声で何やら囁いている。


「……」

「ん……?」

「あ……あの……」

「あ? 何だ?」

「すすす……済みません、済みません……」


 何を謝っているのだろう? 最初に街道で見た時には、この二人で普通に談笑していたように見えたのだが? それが今では、耳まで赤くして、一人でテンパっている。

 見た感じ十七歳か十八歳だと思うが大丈夫なのだろうか? 人見知りが激し過ぎないか……?


「と、まあ、こんな感じだからね。あははは」

「なるほど……」

「そうだ! そう言えばまだ名を名乗っていなかったね。俺がフリオで、こいつがラルフ。袖擦り合うは多少の縁っていうからね、よろしく頼むよカイト君」

「頼むよと言われてもな……」


 フリオさんは背が高く、長く伸ばした金髪を後ろで纏めている。身体も良く鍛えているようで、余計な贅肉など無い細マッチョだ。

 ラルフさんの方は、フリオさんより少し背が低く、少しぽっちゃり気味の若者で、髪の色はフリオさんと同じ金髪だが、こちらは前髪パッツンのオカッパ頭だ。


「何故か俺の名は知っているようだから良いとして、こっちがサトミだ」

「カイト君の名は、お仲間の女性達がそう呼んでいたからね。そう言えばサトミさんは、この前は居なかったと思うけど?」


 フリオさんはからかう様な、にやけた笑みで俺を見ている。


「私はカイトのテイムモンスターだよ」


 サトミが肩に貼ったテイムモンスターの証を見せながら、フリオさんの変な誤解を解いてくれた。


「えっ!? 全くモンスターに見えないんだが? こんな美しい人がモンスターだって?」

「えへへ〜、ほりほり」


 驚いているフリオさんに、サトミは指先を蔓に変えてツンツンしている。

 フリオさんもラルフさんも口をぽかんと開けて呆然としている。


「……これ程の高位モンスターをテイムしているだと?」




 歩きながらであるが、お互いの紹介が終わり、フリオさんが一方的に話し始めた。

 それによると、フリオさん達一行は、何やら事情があって西の小国から帝国に向かっているらしい。その事情というのを、フリオさんは詳しく口にしていないから、俺も敢えて聞かないでいる。


「国を出た時には十二人の仲間が居たんだけどね、追手の足を止めるために、一人、また一人と減っていき、今ではたったの五人の旅になってしまった。ここまで来ると、流石に追手の数も減ってきたのだけどね、この前の様に盗賊や兵士に扮して、手を変え品を変え襲って来ることもあって、中々気が抜けないんだよ」

「だから俺に護衛の依頼を?」

「まあ、ダメ元で言ってみただけだから、気にしないでくれ」




 話しながら、商店や屋台が並ぶ大通りを歩いていると、兵士や騎士が街門のある方ヘと走って行くのが見えた。そして、少し遅れて数名の冒険者が、俺達を追い越して走って行く。


「何かあったのか?」


 俺は一人の冒険者を捕まえて、この慌ただしさの原因を聞いてみた。


「オークだ! 街道にオークの群れが現れて、商隊の馬車が襲われているらしいぞ。お前等も手が空いているなら手伝ってくれ」





 街門を出て、街道を西に向かって走っていると、横倒しになった馬車や壊れた馬車が目に入ってきた。

 先に到着していた兵士や騎士、そして商隊の護衛をしていたらしい冒険者達が、次から次に迫りくるオークと戦っている。

 オークの数は、十匹や二十匹どころでは無く、見えるだけでも三十匹以上は居て、更に森の中から押し出されるように出て来て、その数を増やしている。


「な、何だこれは……まるでスタンピードじゃないか……」


 フリオさんが呆然として、そう言うのは分かるが、数の差で人間側が圧倒的に不利な状態だ。怪我人も何人か出ている状況で、此処で立ち止まっている訳にはいかない。


「行くぞサトミ」

「うん、わかった!」

「レクスは怪我人を頼む。ベラは馬車と商人達を守ってくれ。エルとマックニャンはオークを」

「はいなの!!」

「分かりました。ベラ頑張ります」

「行くぜ!! 神武拳!」

「カイト君、任せるニャン」


 俺は、新月の刀を抜き、腕を棘蔓に変えてオークを倒しながら走るサトミの後に続く。


「うぉっしゃー!! 俺達も行くぞ! フリオ!! 遅れるなよ! ワッハッハッハッハ」


 俺はその声に思わず振り返ってしまった。そこには両手に剣を持ち、不敵に笑いながらオークを切り捨てているラルフさんが居た。


「えっ!? ラルフさん? ラルフさんに何が……?」

「驚いたかい? ラルフは剣を抜くと、途端に人格が変わるんだよ。全く……」


 俺がラルフさんの変わりように驚いていると、オークを大剣で倒しながら俺の横に並んだフリオさんが、肩を竦め、首を横に振りながら教えてくれた。


「はあ……なんか、凄い変わりようだな……」


 そうやって話している間も、オークを倒しているのだが、一向に数が減った気がしない。


「オークを一刀両断とはな……その見た目で君も大概だと思うよ」

「見た目は言わないでくれ。それにしても多過ぎるな……」

「そうだね。おっと……騎士団が押され始めているようだ」


 フリオさんの言葉に、少し離れた所で戦っている兵士や騎士を見ると、確かにじわじわと押されて、後退しているのが分かる。

 そのまま下がって行くと、背後は切り立った岩山だ。


「このままでは不味いな……」

「そうだね。でも、かと言って此方も手が離せないしね」


 俺は新月の首飾りに魔力を送った。


「ダイフク、キナコ、ワラビ。遊んでいるところ悪いが、手を貸してくれ」


 俺が呼びかけると、すぐにダイフク、キナコ、ワラビがポケット草原から出てきてくれた。


「シャー!」

「ポポー! ポポー!」

「ヒヒヒィィィィン」


「うわっ!? な、何だ!? ホワイトパイソン? それに、ラージピジョンと白馬……?」

「白馬以外は、俺のテイムモンスターだ」

「うわ〜、オークがホワイトパイソンの下敷きになって潰れているよ……しかし、ラージピジョンもそうだけど、流石に馬は戦え無いだろ?」

「いや、キナコもワラビも強いぞ。ダイフクは騎士団の援護に行ってくれ。ワラビとキナコは遊撃を頼むぞ」


(シャー、任せて、カイト。久しぶりに暴れるよ)


「ポポー」

「ヒィィィン」


 ダイフクは、オークを薙ぎ倒しながら、兵士や騎士達の援護に向かった。


「な、ホ、ホワイトパイソン!?」

「何だと!? いや、見ろ! テイムモンスターの証だ。助かったぞ!! もう一踏ん張りだ! オーク共を押し返せ!!」

「「「おお――――――っ」」」


 キナコは上空から、風の刃と雷でオークを一網打尽に、ワラビも空を駆けて、ブレスでオークを一気に薙ぎ払う。

 最早、地上と空からの攻撃で、辺りは大混戦を呈している。


「カ、カイト君? 馬が空を走っているんだが……? しかも、あれはブレスかい……? 馬型のモンスターだったのか? それに、ラージピジョンってあんなに強かったっけ? 今、雷を落としたよね? 俺は夢でも見ているのか?」

「フーリオー!! 呆けてんじゃねぇぞぉぉぉぉおおお!!」

「あ……? ああ、すまんラルフ」


 キナコとワラビを見ていたフリオさんの後ろから襲いかかって来ていたオークを、ラルフさんが切り飛ばす。

 ラルフさん、顔が怖いんだけど……。


「カイト君、向こうの木の枝に怪しい奴らが居るニャン」


 オークの数が目に見えて減ってきた頃、マックニャンが俺の肩に乗って、小声でそう言った。



今年も一年間お付き合い頂きありがとうございました。


年始は投稿が遅れるかもしれませんが、来年もどうか宜しくお願い致します。


来年が、皆様にとって良い年になりますよう、心からお祈り申し上げます。





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