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第140話 温室



「いや、このミノタウロスは誰のテイムモンスターでもないのさ」


 俺が人間と牛を守って戦うミノタウロスに疑問を持っていると、ベルチの領主のアルバート様が、俺に話し掛けて来た。


「ミノタウロスの耳を見てみると良い。タグが付いてるだろう?」


 言われて俺はモモちゃんの耳を見てみた。確かにそこには牧草を食んでいる周りの牛と同じタグが付いていた。


「私がまだ子供だった頃一頭の雌牛が森の中で行方不明になってね、当時の大人達が捜し回ったのだが結局は見つからなくて、モンスターに食べられたのだろうと考えていたのさ。それから数年後に蟻のモンスターが牧草地を襲ってね、その時は一頭の牛が犠牲になったのだが、その後殺されたその牛を抱いて、傷付いたミノタウロスが現れたのさ。ミノタウロスはその殺された牛を取り戻してくれたのだろうね。そして、そのミノタウロスの耳には数年前に行方不明になった雌牛のタグが付いていたのだよ」

「では、何らかの理由で、行方不明の雌牛がミノタウロスになったという事ですか?」

「タグという証拠があるからね。私達はそのように思っているのさ」




 ミノタウロスのモモちゃんが森に帰って、牛達も普段通りに落ち着いて草を食んでいる。

 その様子を暫く眺めていた俺とサトミは街に戻る事にした。


「で、領主様は何で俺達に付いて来ているのですか?」

「いやね、暇だし、人形を操るドールマスターの君に興味が湧いてね。ハハハハハ」

「暇だしって……仕事は良いのですか?」

「ああー、書類仕事は得意な者に任せているからね。どうも私は机に向かうと目眩がしてね、熱も出てくるのさ。これはきっと何かの呪いが、私達一族にかかっているのだと思うよ。私の父もそうだったからね」


 それは無いだろう……。


 それから俺達は色々な種類の野菜を育てている畑を見ながら、少し遠回りをしていた。


「この先には、この街自慢の温室があるのさ」


 領主様が言うように、温室があるのは遠目に見ても分かった。


「とても高価なガラスを魔法で強化して作った温室なのさ」


 そして、目の前にはとても大きくて割としっかりした造りをした、全面ガラス張りの温室がある。


「さあ、中に入ろう」


 俺達は領主様の後から温室に入った。


「はあ……何だか心地良いねカイト」

「そうか? まあサトミはドリアードだからな」


 植物由来……植物由来で良いのか? まあ、ともあれドリアードのサトミは温室の中が気に入ったようだ。そして、その温室の中はとても広くて暖かく、南国にでも居るみたいで、その隅の一画で育てている果実も、なんとなく南国の果実っぽい。断言できないのは、例えばパパイヤやマンゴーだが、俺の知っているパパイヤやマンゴーに似てはいるが、色や形が微妙に地球の物と違っているからだ。


「君はバローのダンジョンの果実を知っているかい? あそこの果実は高ランク冒険者でも手に入れるのが難しいらしくてね、市場に出る時は一つで金貨五枚以上になるのさ。だから私は、この温室でダンジョンの果実の種を育てて、安い値段で皆が気軽に食べられるようにしたいのさ。ダンジョンの果実は他に類を見ない程、実に美味いからね」


 なるほど、だからギルドにダンジョン産の果実を依頼していたのか。

 ダンジョンの果実は、キョウヤが品種改良を繰り返した地球の果実をイメージして作り出した物だから、美味いのは当たり前だ。

 しかし、種から育てるとなると、かなりの時間が掛かるだろうな。桃栗三年柿八年って言うくらいだからな。


「それでも、ダンジョンの果実は滅多に手に入らないし、手に入ったとしても、種を蒔いて果実が実るまで相応の年数が掛かるだろうからね……私が生きている内に実現出来るかも怪しいが、この広い温室の半分はその為に空けているのさ」


 ギルドマスターの婆さんは、アルバート様の事をアホな領主と言っていたが、領地の産業や領民の事もしっかりと考えているようだ。

 ただ、書類仕事等の、普通はその街の領主がやらなければいけない仕事を部下に任せてほっつき歩いているのはどうかと思うけどな。

 まあ、それはそうとして、ダンジョン産のフルーツが温室で育つのかどうか俺も少し興味が湧いてきたので、アイテムボックスからダンジョン産の桃を取り出した。


「それは? もしかしてダンジョンの果実なのかい?」

「はい。バローのダンジョンから持ち帰った桃です。サトミ……」


 俺の手の中にある桃を見て、アルバート様は目を輝かせている。

 冒険者ギルドにもバナナやリンゴ等のダンジョン産フルーツを数種類納品してきたから、そのうちギルドからの通知が領主の館に届くはずだ。


 俺から桃を受け取ったサトミは、そのまま地面に埋めて両手を地面に添える。


「カイト、一気に成長させてみるね」

「そんな事が出来るのか?」

「うん、任せて」


 サトミが魔力を送ると小さな芽が出て、それが見る見るうちに成長して、木になり、葉が付き、実がなり、そして、その実が熟していった。


「サトミ、もう良いぞ。丁度食べ頃だ」

「ふぅ~、ちょっと疲れちゃった」

「ご苦労様、サトミ」

「わ、私は夢でも見ているのか? 種からこのように早く木になるとは……」


 サトミの魔力によって、僅か五分程度の時間で種から実が成るまで成長した桃の木を見て、アルバート様は目を見張り、感動のあまり身体を震わせている。

 実際に俺も、サトミのこの能力はいつ見ても凄いとしか言いようが無い。ある種の感動すら心の底から湧き上がって来る程だ。


 サトミが短時間で育てた桃の木は、見た目はバローのダンジョンで見た桃の木と同じで、それは即ち、キョウヤが、品種改良を繰り返した日本の桃の木をイメージして再現した物だから、味の方も期待できそうだ。

 実際、キョウヤが再現した桃は、俺やサトミが日本で食べていた桃とほぼ変わらない美味しさだった。


「こ、これは美味い! この味は……これは間違いなくあの時王都で食べたダンジョンの果実だ」


 やはり、アルバート様はダンジョンのフルーツを食べた事があったようだ。両手を果汁でベトベトにしながら、貪るように独り言を呟きながら桃を食べている。


 アルバート様が呟いていたが、王都にもダンジョン産のフルーツが出回っているとなると、ダンジョン攻略が一番進んでいる、バーグマンが率いるクラン“暁”あたりがギルドに売ったのかもしれない。

 世紀末モヒカンだったけど、気の良い奴らだったな。


「美味しいねカイト。ダンジョンじゃないと駄目かもしれないと思ってたけど、他の土地でも出来るんだね」

「そうだな、これはキョウヤのイメージが確かなものだったからかもしれないな」


 もしかしたらサトミの能力も影響しているのかもしれないが、その辺の事は俺には分からない。


「ありがとう君達。おかげでこの土地でもダンジョンの果実を栽培出来る事が分かったよ。半信半疑の者たちも、この桃を見せれば協力してくれるだろう」


 両手に桃を抱えられるだけ抱えたアルバート様は、そう言って俺達の前から走り去って行ってしまった。



読んで頂きありがとうございました。

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