第139話 VSファングバード
先週は投稿出来ず申し訳ありませんでした。
「あなたは?」
俺は後ろから声を掛けてきて、図々しくも俺とサトミが座っていたシートに座っている若い男性に誰何する。
「私かい? 私はベルチの領主アルバートさ」
まさかの領主だった。着ている物は領民と大して変わらない普通の服だから領主だとは思わなかった。なんなら商人の方がもう少し高価な服装をしていると思う。
「君達はこの辺りでは見かけない顔だね」
「俺は旅の冒険者で、先日この街に来たばかりですから」
此処の領主は領民の顔を一人一人覚えているのか?
「そうか、ようこそベルチへ。だが、今はそんな事を言っている時では無いな。冒険者ならあのファングバードと戦えるかい? 三対一だとミノタウロスに分が悪いからね」
ミノタウロスを見ると、確かに苦戦しているようで、身体中を傷だらけにして血を流し、息使いも荒く肩を大きく上下させている。
「モモちゃーん、頑張って――――!」
「負けるなモモちゃーん!!」
後ろに下がっている子供達がミノタウロスに声援を飛ばす。
ミノタウロスはモモちゃんと呼ばれているらしい。
「ブモォォォォオオオオオ―――!!」
その声援に、ミノタウロスことモモちゃんが答えるも、更に二匹のファングバードが東の方角から飛来して来るのが見えた。
「カイト、早く助けないと」
「そうだな、5匹ならレクスだけで十分だろ……」
と、言いながら皆を見ると、全員が戦いたいのだろう、ワクワク顔で俺を見ていた。
はあ……、サトミまでか? 昔はこんなに好戦的では無かったのに。
「わかった、わかった。一人一匹な」
「うん、行くよ! レクスちゃん」
「はいなの!」
放牧場の中心に向かって駆け出したサトミ、レクス、エル、マックニャン、そしてベラ。
「背中を借りるニャン」
最初にマックニャンが牛の背を踏み台にして高く飛び上がり、自慢のレイピアで翼を切り刻み、更に大きく開けたファングバードの口の中に突き刺した。
空中で身体を捻り、華麗に着地したマックニャンは踏み台にした牛を労うように何やら語り掛けているようだ。
「サンダーバードなの!!」
レクスの定番魔法のサンダーバードが、逃げるファングバードを追いかける。
レクスがサンダーバードに手のひらを向けると、サンダーバードは巨大化してスピードも上がったようだ。
振り向いて、巨大化したサンダーバードを見たファングバードは、必死の形相で翼をバタバタと羽ばたかせるが、巨大化してスピードが上がったサンダーバードからは逃げられない。
大きく口を開けたサンダーバードに飲み込まれた。
サンダーバードは魔法で作られた現象なのだから、ファングバードを飲み込んだとしても、実際に食べた訳では無い。ファングバードを飲み込んだサンダーバードが消えると、身体中から燻った煙を上げたファングバードは、息絶えて地面に墜落した。
レクスの横では両腕を棘蔓に変えたサトミがファングバードを絡め取っていた。
棘蔓から逃れようともがいているファングバードだが、棘が身体中に食い込み、逃れる事が出来ないでいる。
「エナジードレイン……」
サトミのエナジードレインによって、全ての生命力を奪われたファングバードは、棘蔓に絡まれたままぐったりとして動かなくなり、そのまま絶命する。
「グゲッ、グゲッ、グゲッ、グギャ」
赤い闘気が乱れ飛び、ファングバードの頭、胴体、翼を容赦なく連打の嵐が襲う。
そして、連打が止まると落下していくファングバード。
落ちまいとして翼を羽ばたかせるが、闘気の連打の影響で翼をまともに動かせないようだ。徐々にその高度は落ちていった。
「手加減はここまでだぜ。行くぜ」
落ちてくるファングバードめがけて大地を蹴ってエルが飛び上がる。
それにしても、あれで手加減していたとは驚きだ。
「神武脚!!」
赤く闘気を纏った右脚をファングバードの腹部に叩き込んだ。
グギャアアアアアァァァ―――――――
断末魔の叫びを残して、ファングバードは空の彼方へ消えて行った。
襲って来たファングバードの最後の一匹を横目に見ながら、俺は傷を負って蹲っているミノタウロスへと歩を進めた。
俺の後ろからは、ベルチの領主アルバート様が付いて来ている。一人で居るよりは俺と一緒に居る方が安全だと考えたのだろう。っていうか、お付きの人は居ないのか? 領主なのだから、外に出る時は護衛くらい付けるだろう?
最後に残ったファングバードと対峙しているのは、セーラー服を着て、両手を上に上げているベラだ。
「フフフ……この運命のルーレットでお前の運命が決まる。せいぜい良い目が出るように神に祈るんだな」
ベラ……お前が神だろう……。それに口調が微妙に怖いぞ。
ファングバードの頭上で回転しているルーレット。
ファングバードは、徐々に回転が遅くなって来ているルーレットを緊張した面持ちで見ている。
そして、遂に回転が止まったルーレット。矢印が指しているのは……何と『金塊十トン』だ。これは大当たりじゃないのか?
金塊十トンの他には『熱湯風呂』『牛肉一頭分』そして定番の『たわし』がある。
大当たりだと言っても、ファングバードが金塊を貰ったとしても使い道が無いだろうから、牛肉一頭分の方が良かったのかもしれないな。等と考えていると、ファングバードの頭上に小山ほどの金塊が現れ、ファングバードめがけて落下して来た。
ファングバードは十トンもの重量を支えられるはずも無く、地面に押し潰されてしまった。
「何て言うか、エグいな……」
呆気に取られて見ていると、小山のような金塊が忽然と消える。
「受け取り側が不在の為、金塊は次の人に持ち越されます」
だそうだ。次の人がアイテムボックス持ちだったなら良いな……。
「避けるなよモモちゃん。ヒーリングボール」
傷付いたモモちゃんにヒーリングボールを飛ばすと、赤い斧を持っていない方の腕で払い除けようとしたが、幸い腕に当たったので、ヒーリングボールは腕から全身に作用して、モモちゃんの傷は全て癒やされた。
やはり、自分に向かって来る魔法は避けるかガードするみたいだ。戦士の性のようなものなのだろう。
「ブモッ!?」
傷が癒えたモモちゃんは、傷のあった場所を見て困惑しているようだ。
「良かったねモモちゃん。怪我が治ったよ」
「ありがとうございます。冒険者のお兄さん」
子供達は俺に礼を言いながらモモちゃんに抱きついている。
そんな子供達を、困惑から立ち直ったモモちゃんはまるで母牛のような優しい目で見ていた。そう言えばミノタウロスは牛だったな……。
「しかし、ミノタウロスが人間と牛を守って戦うとはな……誰かのテイムモンスターなのか……?」
「いや、このミノタウロスは誰のテイムモンスターでもないのさ」
俺のつぶやきに答えた声は、この街の領主であるアルバート様の物だった。
読んで頂きありがとうございました。