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第137話 領主の依頼



 早朝からアマンダさんは、新鮮な野菜と魚を満載した荷車を引くポケット農村と漁村の村人達を引き連れて、商業ギルドに出掛けて行った。

 アマンダさんは、そのまま商業ギルドの視察の仕事に入るそうだ。


「それじゃあ俺達もそろそろ行くか。サトミはどうする?」

「今日は私も一緒に行くよ!」

「ミントはどうした?」


 昨日の夕方に帰ってからもミントの姿が見えなかったし、今朝も居ないようだからサトミに聞いてみた。


「ミントちゃんは妖精郷だよ。グランさんと一緒に妖精の街造りをしているよ」

「そうか。どおりで静かだと思った」


 だから最近グランが居ない事が多かったのか。っていうか妖精の街? 妖精に街とか必要なのか? 俺には、妖精は花畑に住んでいるイメージしか浮かばないのだが?

 まあ、あの森を妖精郷にするように言ったのは俺なのだから、何をしようがミントの自由だし、俺がとやかく言う事でも無いか。



 冒険者ギルドに来ると、クエストボードの前に冒険者達が行列を作っていた。少しでも良い依頼を受けられるように朝早くから並んでいるのだろう。




「ハニー・ビーはまだ開いていませんでしたね」

「時間的にはまだ早いからな。朝食を出しているのなら別だけど、そうではないのだから朝はゆっくりなんだろう」

「ねえカイト、後で連れて行ってくれるんだよね?」

「ああ、俺も気になるからな。後で一緒に行こうな、サトミ」

「残念ですけど、私は今から仕事です……でも休憩時間には絶対に行きますよ」


 受付カウンターに並んでいる冒険者達を横目に、俺はサトミとミウラさんを相手に話をしながら、受付嬢の案内で二階のギルドマスターの部屋に向かった。

 その俺達の後ろには、レクス、エル、マックニャン、ベラが付いて来ている。

 昨日受付嬢から、俺に依頼したいクエストがあると聞いたので、マックニャンも連れてきた。



「お前さんがカイトじゃな。ドールマスターというのは本当のようじゃの」


 ギルドマスターの部屋に入ると、ふくよかで小さいシワだらけのお婆さんが、執務机の上にちょこんと座っている。何処で買ったのか座布団に座り、手には湯呑茶碗を持っていた。

 両脇には、書類がお婆さんの頭の高さよりも高く積まれており、鋭い目付きで俺の頭の先から爪先まで観察している。


 ギルドマスターの部屋に居ると言う事は、このお婆さんがギルドマスターなのだろう。

 その鋭い眼光に、俺は落ち着かない気持ちになってきた。


「昔に一度だけ、ドールマスターを見た事があったのじゃが、其奴は糸で人形を自在に操っておったの」


 そう言ってお婆さんは目を細めて、俺とレクス達を見ている。


「ほう……細い魔力の糸で繋がっているようじゃの。大したもんじゃい」


 えっ? そうなのか? 細い魔力の糸で繋がっている?

 レクスを見ると肯いたので、そうなのだろう。俺は初めて知ったぞ……。


「ああ、ジェシー、此処の書類は全部終わったから持って行っておくれ。それと、この子等に茶と菓子を頼むよ」

「はい。ギルドマスター、直ぐに用意いたします」


 山積みになっていた書類は全部終わっていて、お婆さんは休憩をしていたようだ。

 俺達を案内して来た受付嬢のジェシーさんは、書類を抱えて部屋を出ていった。


「それで、あんたがミウラじゃな」

「はい!ミウラです。宜しくお願いします」

「話は聞いておるよ。ギルドを周って視察とは、ご苦労なことじゃて」


 ミウラさんは、ギルドマスターにお辞儀をして挨拶をした。手には、いくつかのチェック項目を書いた紙を挟んだクリップボードを持っている。


「あたしはこのベルチの街のギルドマスターのババじゃ。どうじゃ? 埃一つ、塵一つ落ちて無いじゃろ? ヒッヒッヒ。勿論職員の教育もしっかりとしておるぞ」


 ドヤ顔のギルドマスターは、自分の事をババと言った。まあ、“ギルドマスター”と呼べば良いのだから、別に名前を知らなくても問題は無いだろう。

 いや、もしかしたらババが名前なのか? いや……まさかな……それは無いだろう。と思っていたら、机の上に名札が置かれていて、そこには“ババ・スレイン”と書かれていた。


 ――――――――名前だったようだ。


 そして今度は、サトミへと視線を移し、数秒の間無言で観察を始めた。


「美しい娘じゃ。あたしの若い頃にそっくりじゃ。ヒッヒッヒ……でも、人間では無いね……ドリアードかい?」

「え〜? 私歳をとったらこんなになるの?」

「おい、サトミ! 失礼だろ」

「だって……うん、そうだねごめんなさい。えへへ……ドリアードのサトミだよ。カイトのテイムモンスターをやってます!キラッ」


 目の横でVサインを横にしてウインクをするサトミ……。

 そう言えば、昔はふざけてこんな事もやっていたな。


「ババ・スレインじゃ! ギルドマスターをやっておる! キラッ! どうじゃ?」

「ブッ!? ババァがするなっ!」


 ったく……紅茶を吹き出したじゃないか。


「いや、なんか可愛かったからの」

「ギルドマスター……」


 つい、ツッコんでしまったが、ギルドマスターは気にしていないようで助かった。

 それにしても、可愛かったからって……これにはミウラさんも呆れ顔だ。


「それで、俺は受けて欲しい依頼があるからと此処に来たのだが?」

「そうじゃった。お前さんがどれだけの冒険者なのかは話に聞いているのじゃが、依頼が依頼じゃからな……出来る限りで良いので力を貸してもらいたいのじゃ」

「で、依頼の内容は?」

「滞っている依頼の全部がアホな領主の道楽じゃ」


 そう言ってギルドマスターは、俺に依頼が書かれた紙を渡してきた。

 そこには複数の依頼があったが、そのどれもが領主の依頼だということだ。


「アホな領主と言っていたが、その領主とはどういう人物なんだ?」

「別に実害がある訳では無いのじゃが……」


 ギルドマスターが言うには、領主としての仕事は全て部下に任せて、自分はというと、日がな一日放牧場の牛を眺めていたり、街の中をただぶらぶらと歩き回ってみたり、貧しい人達が住んでいる地域で子供相手に遊んでいたり、それならばまだ良いのだが、一人で森の中に入って行き、お付きの者が慌てて連れ戻すといった事も、これまでに度々あったそうだ。


「全く、何を考えているのやら、何処で聞いて来たのやらわからないのじゃが、偶にギルドに来ては突拍子も無い依頼を出して来るのじゃ。例えアホでも領主からの依頼という事で、此方も無下には出来ないしの。しかし、中々に難しい依頼じゃからそれを受ける冒険者も居なくて、ずっと滞っていたのじゃ」


 俺は、その依頼の一覧表とも言うべき紙に目を落とし、一つ一つの依頼を確認する。


「別に無理なら無理で構わない。今までそれらの依頼のことで催促された事も無かったしの。或いは依頼を出した事すら忘れているのかもじゃが」


 その中々に難しい依頼とは、“剥製にするから無傷のワイバーンの死体が一体欲しい”。

 うん? これならアイテムボックスにあるぞ。普通に貴族らしい依頼だな。

 二つ目の依頼は、“バローのダンジョン産フルーツを採ってきて”。

 これもアイテムボックスに大量に入っているな。確かに、ダンジョンのフルーツは美味いからな。

 三つ目の依頼は、“ドラゴンの鱗を触ってみたい”。

 地竜なら、話せば触らせてくれるかもしれないが、こればっかりはわからないな。

 四つ目の依頼は、“噂の新月仮面に会わせて欲しい”。

 は? そう言えば貴族の間で噂になっているとか聞いた事があるけど、そんな恥ずかしい事が出来るかっ! 


「ワイバーンとダンジョン産フルーツならあるからギルドに納品で良いか?」


 ドラゴンの鱗と新月仮面は無視だ。ギルドマスターは無理なら無理で良いと言っていたから別に構わないだろう。


読んで頂きありがとうございました。

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