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第136話 喫茶店 ハニー・ビー③



 ミキサーを始めて使うという事で、ルークさんの目は輝き、ワクワクしているのが手に取るように分かる。


 砂糖と蜂蜜で作ったシロップに漬け込んだフルーツを、シロップごとミキサーに入れた。そして牛乳と、製氷機で出来た氷も入れる。

 スイッチを入れると、ガガガガガと、氷の砕ける音がして、ルークさんを始めとした店内に居る人達が目を見開いて驚いている。


 出来上がったジュースをミキサーから人数分のグラスに注ぎストローをさす。ストローは商業ギルドで売っている物だ。

 何で出来ているのかは分からないが、恐らくはモンスターの素材なのだろう。

 以前にも思った事だが、転生者や転移者の影響なのか、この世界はやはり、ちぐはぐな進化をしているみたいだ。


「ルークさん、ミックスジュースです。味見をしてもらえますか?」

「ミックスジュース……ですか? 果実と牛乳を混ぜた物……ですよね? 何だか、それを飲むのは少し勇気が要りますね……」


 えっ? 何故勇気が要る? そう思って周りを見ると、クラリスさんや店内に居る客もだが、アマンダさんとミウラさんまでもが嫌そうな顔をしてミックスジュースを見ている。


 何だろう……フルーツと牛乳って普通だよな。放牧があって、農業が盛んな街なのに何故フルーツと牛乳を合わせると怪訝な顔をされるんだ? とは言っても、このままでは埒が明かないので俺が最初に飲んで味見をする事にした。


「うん、少しさっぱりとしているけど、まあまあ美味いな」


 やっぱりシロップが砂糖と蜂蜜だけだと昔に飲んだミックスジュースのように濃厚な味わいは出ないようだ。

 中に入れるフルーツを変えれば、味もまた変わるのだろうけど、それはルークさんに色々と工夫してもらおう。


「リンゴの量が一番多かったから、リンゴベースのミックスジュースになったが、普通に美味いから飲んでみてくれ。こういう時はアマンダさんだよな」

「えっ!? 私ですか? ふぃ〜……これを飲むのですよね……分かりました。――――――はむっ……ちゅうー……ちゅうー……」


 アマンダさんは最後まで嫌そうな顔をしていたが、俺が指名した事もあってか、意を決してストローを勢い良く咥えて、目をぎゅっと閉じてミックスジュースを飲み始めた。

 それを、固唾を飲んで見守る面々の表情は複雑だ。

 それにしても、そんなに嫌なのか? 俺もまだまだこの世界の事は理解出来ていないようだな。


 一口目を口に含んだアマンダさんは、ぎゅっと閉じていた目を大きく見開いて、吃驚した表情で俺の顔を見て、後は最後まで一気にミックスジュースを飲み干した。


 ズッ、ズズズズ―――――


「ぷはぁー! カイトさん! 何ですかこれは!?」


 出た! アマンダさんの“何ですかこれは”だ。その顔を見ると思ったより美味かったのだろう。


「何ですかって、皆が嫌そうにしていたミックスジュースだが?」

「うっ……」

「ねえアマンダ、どうだったの? 大丈夫?」

「お姉さん! 飲んでみて下さい! 凄く、凄く、凄く美味しいです!! ミウラちゃんも早く飲んで。カイトさん、あの……お代わり……ありますか?」


 アマンダさんの言葉で、クラリスさん、ミウラさん、ルークさん、そして店の客達は、恐る恐るといった感じで、ストローに口を付けた。

 怪訝そうな皆の顔が、パッと明るくなる。アマンダさんも、お代わりのミックスジュースをうっとりとした表情で少しずつ飲んでいた。


 ズッ、ズズズズ―――――――


「はぁ……こんなに美味しい飲み物がこの世にあるなんて……」

「本当にそうよね、ミウラちゃん。果実と牛乳がこんなにも合うなんて思ってもみなかったわ」


 ミウラさんとクラリスさんだ。恐らく今の二人の気持ちは目からウロコ状態なのだろう。


「カイト君、どうやら私は果実に牛乳は合わないといった先入観があったようです」

「私達もです。こんなに美味しいなんて……。ルーク様、私達毎日このミックスジュース? を飲みに来ますね。あと、ポテトもです」


 俺からしたら、まあまあ及第点かな? と言ったミックスジュースだけに、これだけ喜んでもらえると逆に申し訳無い気持ちになってしまった。

 だからと言って、これで終りにはしない。折角、生クリームのレシピを提供したのだから、あと一品だけ作ろうと思う。


「ルークさん、もう一品作りますね」


 俺は、店内に居る客と話をしているルークさんに声を掛けた。


「あ、はい分かりました。あっ、ちょっと待って下さい。メモ帳、メモ帳っと……はい、良いですよ」


 ルークさんがメモの準備を終えたのを確認して、材料を準備する。


 先ずはボウルに小麦粉と砂糖を入れて、塩をひとつまみ入れる。

 そして、溶かしたバターと卵を入れてかき混ぜた後、牛乳を少しずつ入れながら更にかき混ぜる。


「ルークさん、此処までは良いですね?」

「はい、材料を順番に入れて混ぜるだけのようだから問題は無いと思いますよ」


 そして、生地をしばらく休ませている間に、オーブンからプリンを出して冷ます。


「わぁ~、揺らすとぷるるんっとしてかわいいですね」


 ルークさんと、アマンダさんと、ミウラさんに天板からプリンをバットに移してもらう。

 熱いうちは固まりきっていないから、少し揺らすだけで表面が揺れるのが面白いのだろう。


「熱いから気を付けてくれよ」

「はいカイトさん。落としたりしたら勿体ないですからね」



 

 フライパンを熱して油を塗り広げたら、休ませていた生地を流し入れて、薄く焼き、片面が焼けたらひっくり返して更に焼き、火が通ったら網の上で冷ます。


「このように、全ての生地を薄く焼いていきます。ルークさんもやってみますか?」

「はい、勿論。私が出来ないと意味がありませんからね」

「焦がさないように気を付けて下さい」


 俺とルークさんの二人で焼いて、二十五枚のクレープが出来上がった。

 俺は、アイテムボックスから生クリームを出して、泡立てる準備をする。


「なる程、これが生クリームという物なのですね。牛乳よりもとろ〜りとしていますね」

「この生クリームを、ほんの少しだけ紅茶に入れて、ミルクティーにして飲むのも美味しいですよ」

「ミルクティーですか。興味がありますね」

「ミルクティーも後でやってみましょう。それでは今からこの生クリームを泡立てます」


 氷と水を入れたボウルの上に生クリームを入れたボウルを重ねて泡立て器で空気を入れるように手際よく泡立てる。途中、数回に分けて砂糖を加え、角が立つまで泡立てると出来上がりだ。

 泡立てる途中にルークさんと交代して練習をしてもらう。


「ルークさん、直線的な動きでは無くて、円を描くように泡立て器を動かすと良いですよ」

「こんな感じですか?」

「ええ、良いですね。その調子です」


 ルークさんは教えた事を直ぐに吸収して、自分のものにしている。優秀な生徒だ。


 次に、泡立てた生クリームをクレープの上に薄く塗り、その上にニ枚目のクレープを重ねて、同じように生クリームを薄く塗り広げる。


「このように、一枚ずつクレープに生クリームを塗って重ねていきます。クレープが二十五枚ありますから十二枚ずつですね。こっちの十二枚はルークさんがやってみて下さい」


 ルークさんはメモ帳を置いて、見様見真似で生クリームを塗っていく。

 元々が几帳面な人なのだろう、一枚一枚丁寧に生クリームを塗って、クレープを狂いなく重ねている。


「ふぅ~、出来ました。綺麗に出来たと思いますけど、どうですか?」

「上出来です。ルークさん。十分お店に出せるレベルですよ。後は、これをしばらく冷蔵庫に入れて冷やすと、ミルクレープの出来上がりです」



 使った道具を奇麗に洗って所定の位置に片付けると、冷蔵庫からミルクレープを取り出して人数分に切り分けて皿に乗せ、せっかくだから蜂蜜を少しだけ掛けてみた。

 ルークさんには、少し濃い目の紅茶を入れてもらい、少量の生クリームを紅茶に垂らした。


「はむっ…………うぅぅぅぅぅぅぅん! 幸せぇぇ」

「ミルクレープ……天国のお菓子ですか? 美味し過ぎます……はぁ……」

「柔らかくて、甘くて……ああん……だめ……おかしくなりそう……」


 ミウラさん、アマンダさん、クラリスさんは、ミルクレープを一口食べて気に入ったようだ。って言うか、クラリスさんが変だぞ? 大丈夫なのか?


「カイト君! このミルクレープは絶対に人気商品になる事間違いなしです! そして、このミルクティーも優しくなめらかで、甘い香りが何とも言えません。ああ、こんなに素晴らしいメニューを教えて頂きありがとうございます」

「いいえ、俺も何だかんだ言って、楽しかったので気にしないでください」


 ルークさんにも気に入ってもらえたようで良かった。


「ルーク様! 明日も必ず来ます! お友達も連れて来ますね」

「ミルクレープ、明日もありますよね?」

「あははは、ありがとうございます。明日も作ってお待ちしていますね」


 ルークさんは明日もミルクレープを作るそうなので、俺は今日使ったバターと生クリームの残りを冷蔵庫に入れて、喫茶店“ハニー・ビー”を後にした。

 店を出る前に、ルークさんがお礼だと言って包みをくれたのだが、新月の館に帰ってから開けてみると、金貨が十枚入っていた。



読んで頂きありがとうございます。

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