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第133話 アマンダさんのお姉さん


「そうか、ドールマスターだったのか……しかも剣の腕も良い。助かった。礼を言う」


 若い冒険者の格好をした、恐らくは騎士が俺に礼を言ってきた。

 若いと言っても俺よりは年上で、二十代前半と言ったところだろう。


「いや、たまたま居合わせただけだから気にしないでくれ。それよりも、どうやらそちらは訳ありのようだから俺達はこれで……」

「いや! ちょっと待ってくれ!」


 俺は巻き込まれると面倒だと思い、先に行く事を告げようとするが、若い冒険者風の一人に止められた。


 はあ……何か嫌な予感がするな。


「君は冒険者なんだろう? どうだろう、その腕を見込んで君に護衛を依頼をしたいのだが」


 ほら来た……事情を聞くと断り辛くなる可能性もありそうだから、そのまま何も聞かずに行こうと思っていたのだがな。

 恐らくは、貴族の跡目争いの類いなのだろうとは思うが、そんなものに付き合っていたら何時終わるのかも分からない。


「いや、もし無理ならば断ってくれて構わない」

「そうか? じゃあ断る」

「おいっ! 即答か!?」


 変装をして更に離れて歩いていた何やら訳ありの一行からの護衛依頼をあっさりと断わって、俺達は農産の街ベルチに向かう。


 それなりに大きな街のようで、門の前にはベルチに入る人の行列が出来ていて、俺達もその列の最後尾に立った。後ろを振り返ると、少しずつだが商人の馬車や徒歩の人達も列に加わっている。


 長い行列が更に長くなりそうだ。それにしても、何処からこれだけの人が湧いて来たんだ? そして……


「何で俺達の後を付いて来ているんだ?」

「いや、何でって、我々もこの街に入るつもりだったんだが」


 俺達の後ろには、訳あり親子連れの一行が、行列に加わっていた。

 若い冒険者装備の男性が俺の質問に答えたが、そう言えばこの男性としか話をしていない。もしかしたら役割分担でもしているのだろうか。


「アマンダさんとミウラさんはギルドに行くんだろう?」

「はいカイトさん。仕事は明日からですけどね」

「取り敢えず、到着した事は伝えなければいけませんから」


 どうやら到着初日からバリバリ働くような事はしないようだ。

 冒険者ギルドも商業ギルドもそこまでブラックでは無いらしい。


「って、無視!? その態度、つれなさ過ぎない!?」


 俺の後ろで冒険者装備の男性が何か言っているが、素性も分からない訳ありの一行とは出来るだけ関わりたくない。


「良いのですか、カイトさん?」

「良いんだ、アマンダさん。彼等と関わると面倒な事に巻き込まれそうだからな」

「そんな事を言ってますけど、カイトさんですからね。もう巻き込まれる事は目に見え……」

「ミウラさん!! 言っては駄目だ!! 現実になったらどうするんだ!?」


 こういうのをフラグって言うんじゃなかったか?


 そして俺達の順番になり、ギルドカードを衛兵に提示して、無事に農産の街ベルチに入る事が出来た。


 冒険者ギルドの扉を開くと、そこに居る皆が俺達を見る。

 そして、大半が直ぐに興味をなくし、仲間との話を再開したり、掲示板に目を戻して依頼を探し始める。

 中には、アマンダさんとミウラさんを嫌らしい目付きで見る者も居る。


「おいおい、此処はひ弱な坊やが女連れで来る所じゃ無いぜ。喫茶店なら向かいにあるぞ。ワッハッハッハ!」


 そして、律儀に冒険者ギルドが創設された頃のお約束を守っている責任感の強い者も居た。


「俺はAランク冒険者のカイトだ。今さっきこの街に着いたので報告に来たんだが、この街には喫茶店があるのか?」


 ギルド内が一瞬騒然として、直ぐに静まり返る。


「お、お前があのAランクの魔王……いや、カイトなのか?」

「うん? 魔王って何だ?」

「あっ……いや、魔……そう、魔法の腕が滅法良いと言おうとしたんだ……」

「ああ、そうか。それ程大した物でもないんだが」


 俺の魔法はセルジュのサポートがあるからで、俺自身の腕前は大した事は無いと思っている。


「で、喫茶店の話なんだが?」

「ああ、それなら此処からでも見えるぞ。ほら、向かいに見える店がそうだ」


 お約束担当の屈強そうな冒険者が、顎で喫茶店の場所を指し示した。中々お洒落な外観の店だ。


「俺は入った事は無いが、何やら甘い飲み物や菓子が、女や子供に人気があるらしい」

「そうか、興味があるな。アマンダさん、ミウラさん、後で寄ってみよう」

「ええ、楽しみです」

「アマンダさん、甘い物は駄目ですよ」

「ミウラちゃん、そんな……此処まで一生懸命に歩いて来たのだから、少しくらいは……」

「そうだな、少しくらいなら良いだろう」


 少し甘いようだが、此処まで文句も言わずに歩いて来たご褒美だ。

 一人だけ除け者にするのは可哀想だからな。


 俺達は空いている受付カウンターに行く。そこには藍色の髪をアップに纏めた美人の受付嬢が居て、俺達が行くのを待っていた。


「ギルド本部の指示で視察の任務に就いているミウラです。そして、こちらがAランク冒険者のカイトさんです」

「視察の件は伺っています、ご苦労さまですミウラさん。そしてカイトさん、ようこそ農産の街ベルチへ。早速ですけれど、受けて頂きたい依頼がありますので明日の午前中にまた来て頂けますか?」

「ああ、分かった」


 次に向かったのは商業ギルドで、此処でも扉を開けると一斉に俺達に視線を向けて来た。

 冒険者ギルドと違うところは、視線を向けて来た者達が、恰幅の良いおじさんやおばさん、逆にほっそりとして顔色の優れない者、妖艷な美女にイケメンの優男等々だが、どれも一癖も二癖もありそうな面々だ。

 そして商業ギルドにはお約束は無いようで、一瞬後には誰もが興味を無くし、奥のテーブルで商談を再開したり、読んでいた冊子に目を戻したり、腕を組み、瞑想を始めた者も居た。


「やっと来たわねアマンダ。こっちよ」


 商業ギルドの受付の奥から美しい女性が声を掛けて来た。

 すると、俺達に興味を無くしていた面々が再び俺達に興味を示し、何か儲けに繋がるのではないかと、俺達を目で追い、聞き耳を立てている。


「お姉さん、お久しぶりです」

「お姉さん?」

「はい、カイトさん。私の一番上の姉のクラリスで、この農産の街ベルチのギルドマスターです」

「ええ!? 初耳ですよアマンダさん」

「言ってませんでしたからね、ミウラちゃん。うふふ」


 アマンダさんの一番上の姉で、農産の街ベルチの商業ギルドでギルドマスターをしているクラリスさんは、アマンダさんと同じ髪の色の金髪をショートボブにした、青い目の如何にも出来る女といった感じだ。

 姉妹だけあって、アマンダさんと良く似ている。


「あら? 少し太ったんじゃない、アマンダ?」

「あうっ……あ、こ、これは……そう、カイトさんのご飯の所為です」

「おい、アマンダさん、俺の所為にするんじゃない」


 俺は食べ過ぎないように何時も注意しているんだがな。


「うふふ、あなたがカイトさんですね。何時も妹がお世話になっています」

「はい、俺が冒険者のカイトです。アマンダさんには色々と助けてもらっていて感謝しています」


 ギルド内に居る商人の興味が段々と薄れて来たようで、商談に戻ったり、冊子に目を落としたりする者も居た。


「そうそう、聞いているわよ。此処の野菜よりも美味しいという噂の野菜と新鮮な生の海の魚。勿論ベルチの商業ギルドにも卸してもらえるのよね?」


 このギルドマスターの一言で、また俺達は一斉に注目を浴びた。

 そして、隣に座っている者や商談相手と此方をチラチラと見ながらひそひそ話をしている。


「はい、お姉さん。カイトさんがこの街に留まっている間は毎日卸させてもらいます」


 アマンダさんの返事を聞いて、数名が席を立って急いでギルドから出ていった。

 恐らく自分の所属する商会に今の話を持って帰るのだろう。


「それとカイトさん。ベルチのギルドにバターと生クリームのレシピを売ってもらっても良いですか?」

「ああ……そうか。すっかり忘れていたな。確かに放牧が盛んなベルチなら良いかもしれない」


 この世界ではバターや生クリームを売っている所は見た事が無い。俺達が食べているのは自家製だから、この世界で買うことが出来ればララさん達の手間も省ける筈だ。


「ばたーと、なまくりーむ?」

「そうですよ、お姉さん。とっても美味しいんです」

「もしかして、それがあなたのお腹の脂肪になっているのかしら?」

「はうっ……」


 中々鋭いな、クラリスさん。

読んで頂きありがとうございました。

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