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第132話 運命のルーレット



 俺は別に怒ってはいなかったのだが、何故か俺の許しが出たと喜ぶレクス、グラン、エル、マックニャン。

 どうやら、ベランジュール様を仲間に入れようとしていたようだ。


 そして、レクスが魔法で作った人形の中に入ったベランジュール様。


「なあ、レクス」

「はいなの!!」

「何でセーラー服なんだ?」


 青い髪をポニーテールにして、青いリボンのセーラー服を着た、レクスよりも少し背の低い人形が俺の目の前に立っている。


「かわいいからなの!!」

「はあ、まあ別に良いけど」

「気に入りました。それに、とても居心地が良いです。あっ、人形の時はベラと呼んで下さい。カイト様」

「分かった、ベラ。だが、カイト様は止めてくれないか? 神様に様付けで呼ばれるのは落ち着かないからな。なんなら呼び捨てで良いんだが」

「はい。それなら、カイトさんと呼ばせてもらいます」


 何だか話が明後日の方向に向かって行ったが、一応これからどうするのか聞いておいた方が良いのだろうな。


「それじゃあ話を元に戻すぞ」

「ん? 何の話なの?」

「クレマンっていう下級神がこの世界の管理者になろうとして暗躍しているって話だろ? 大丈夫なのか、レクス?」


 まったく、自分達が苦労して管理している世界だろうに。

 ベラが人形に入って、仲間が増えた事で嬉しくなって忘れていたのか?


「う〜ん……それ程気にする事は無いの! 逆に管理が出来るならしてもらいたいの!!」

「相手は下級神だしな。運良くこの世界を手に入れても一週間もしないうちに音を上げるぞ。ワッハッハッハ!」

「私達上級神が束になって管理していても厳しくて、カイト達にある程度協力してもらって、やっとってところなんだぜ」

「今はカイト君の他にもビショップ君達三人が居るから、その余剰分のリソースを貯める事が出来るから助かっているニャン」


 うん? それなら良いのか? まあ神々の問題だし、俺がとやかく言う必要は無いのかもしれない。


「ふ〜ん、この世界の管理ってかなり大変なんだね。あっ、いえ、大変なんですね」

「ベラちゃん? 言葉遣い無理しなくても良いの」

「いえいえ、私は中級で、まだまだ見習いの運命神ですから上級神の皆様にタメ口なんて畏れ多いです……それに、私の悪戯で皆様には多大なご迷惑をお掛けしたにも関わらず、こうして迎えてくださったのですから、この言葉遣いで勘弁して下さい」

「う〜ん、ベラちゃんがそれで良いのなら良いの!!」


 また話しがずれて来たぞ。って事はレクス達にとっては、その程度の事なのかもしれないな。


「まあ、気にしなくても良いのなら今日はもう寝るぞ」

「それが良いニャン。でも、もしクレマンと戦う事になったらカイト君に任せるニャン」

「ワッハッハッハ! 神同士が戦うと、大災害を巻き起こすからな」

「おやすみなの!! カイトくん」


 はっ!? 最後にとんでも発言? いやいやいやいや、俺は聞かなかった。うん、聞かなかった事にしよう。




 翌朝、新月の館に居る面々に、ベラを紹介した。


「うわ〜、かわいいですねカイトさん」

「それにしても、何時作ったのですか? しかも、直ぐに自立しているなんて……」


 アマンダさんは、ベラを見て素直にかわいいと感想を言うのだが、流石に冒険者ギルドの職員であるミウラさんは不思議に思っているようだ。


「あー、あれだ、魔法でチョチョイとな」


 これは別に嘘では無い。レクスが魔法でチョチョイと作ったのだから本当の事だ。


「チョチョイって何ですか!? チョチョイって!? はあ……もう良いです。何だか納得がいきませんけど、カイトさんのやる事ですからね。無理やりにでも納得します」

「うふふ、ミウラちゃんが一番分かっている筈なのに、まだ何処かで常識を引きずっているのね」






 ベラの紹介が終わって、昨日に引き続きアマンダさんのダイエットの為に歩いて次の街に向かっている。

 今日はミウラさんも付いて来ているし、レクスとエルに挟まれてベラも一緒に歩いている。


 俺達の先には、十歳くらいの男の子を連れた母親と、その少し後ろに旅装の中年男性が一人歩いている。

 そして俺達の後ろには、若い冒険者の男性が二人で談笑しながら歩いていた。

 街の方からは荷車を引いた農夫や、商人の馬車、俺達と同じように徒歩の人達が何人かすれ違って行った。


「街が近くなると人の通りも多くなりますね」

「次の街はどんな街なんだ? アマンダさん?」

「農産の街ベルチと言って、農業や牧畜が盛んな街で、此処の野菜や肉は王国中に出回っているのですよ。カイトさんも食べた事があるかもしれませんね」

「へ〜、牧畜か。それは楽しみだな」



 俺達がこうしてレクス達の歩く速さに合わせて話しながら進んで行くと、いきなり前方が慌ただしくなった。


「盗賊だ!! 逃げろぉぉぉ!!」

「キャアァァァァァ」


 ベルチから歩いて来ていた男性が叫び、女性達は悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げて行き、行商人の馬車はスピードを上げて走り去って行った。

 後にのこされたのは俺達の他に、前を歩いていた親子と旅装の男性、そして俺達の後ろの若い冒険者の二人だけだ。


「悪いが、お前等は此処で死んでもらうぞ」

「くそっ!!此処まで来て……」


 剣や槍を持った十二人の盗賊から親子を庇うように、旅装の男性が剣を構えて間に入る。


「さあ、こちらへ。後ろに下がっていて下さい」


 そして若い冒険者二人は親子を誘導して後ろに下がらせて、腰の剣を抜いて、親子を守るように剣を構えた。


 俺は一連の流れを見て違和感を覚えた。


 盗賊が着ているものは如何にも盗賊風の汚い装備だが、その盗賊達にはむさ苦しい髭など生えておらず、顔も垢や汚れで黒ずんでなく、剣を持つ手も綺麗なものだ。


 一方、旅装の男性や若い二人の冒険者達の動きにはそつが無く、親子を守る護衛のように盗賊達と対峙していて、母親の方は男の子を守るように自らの背中に隠すように動いていた。


「君達は逃げなかったのか?」

「早く逃げたほうが良い」


 俺達に近い位置にいる若い冒険者の二人は、俺達に逃げるよう促している。


 見た目が十五歳で、とても鍛えているとは思えない華奢な身体つきの俺が、若い女性二人と歩いていたのだ。

 知らない者からしたら、戦えるとは思えないのだろう。

 この見た目で俺は、かなり損をしていると思う。


 それはそうと、その動きから見てどう見ても盗賊や平民とは思えない者達が、盗賊や平民の格好をしているという事は、双方訳ありという事なのだろう。

 面倒事に巻き込まれるのは勘弁して欲しいが、放って置けば死人が出るだろう。レクスもそれは望まないはずだ。

 既に盗賊もどきと旅装の男性は剣を打ち合っている。


「何をしている! 早く逃げるんだ」


 再度俺達に逃げるように言う冒険者の格好をした騎士らしき若い男性。悪い奴らでは無さそうだ。

 俺はアイテムボックスから新月の刀を取り出し、抜刀しながらお決まりの言葉を言う。


「助けは必要か?」




 戦いは、あっと言う間に終わってしまった。


 俺は、盗賊に扮した敵の騎士の剣を躱しながら峰打ちで気絶させる。

 騎士として、この練度の低さはどうなのかと思ったが、所詮は他人事だ。俺が考える事では無いな。


 エルはかなり手加減をした徒手空拳で気絶させていた。

 “ぽすん”っと軽く殴った相手がどうして白目を剥いて気絶するのか不明だが、闘神だからと言うことで納得するしかない。

 

 レクスは、後ろに下がった親子と、アマンダさん、ミウラさんにシールドを張って、近付いて来た盗賊にスタンボールを飛ばしていた。


 そして、新しく仲間に加わったベラは、両手を天に向けて伸ばす。


「魔法陣か? いや、あれは……」


 ベラが伸ばした両手の先の空中に、丸い円盤が現れて回転している。

 そして、次第に回転速度が遅くなり、中央の矢印が金盥(かなだらい)を指して止まると、盗賊の頭の上に何処からともなく現れた金盥が落ちて来て、派手な音を立てて気を失った。


「ルーレットか? しかも金盥って、何処のバラエティーだよ!?」


 思わず突っ込んでしまったが、ベラが出したルーレットが消える前にざっと見ると、金盥の他には『落し穴』『タワシ』『金貨十枚』があった。


「タワシって……なる程、運命神の運命のルーレットか……」


読んで頂きありがとうございました。

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