第130話 首チョンパ!?
行商人のリンゴーさんと、乗合馬車の護衛の冒険者が襲って来たフォレストウルフを全て倒し、ホッとしたのも束の間、今度は倒したばかりのフォレストウルフと俺達を狙ってワイバーンが上空から襲い掛かって来た。
馬車に向かって放たれた火の玉をシールドで防いだ俺は、アマンダさんをレクスとエルに託して、新月のブーツに魔力を送る。
「ななな、何だありゃあああああ」
「おい! 見ろ! 空を走っているぞ!!」
「お……おおおおおおおおおおお」
俺は、新月のブーツで階段を駆け上るようにワイバーンに向かって行く。
流石に、地上のように踏ん張りが利かないのもあって一瞬で近づく事は出来ないが、恐らくもう少し慣れて来ると少しはスピードもアップすると思う。
(マスタ、転移すれば一瞬)
「セルジュ、今俺も思ったけど、新月のブーツにも慣れておきたいからな」
(なるほど。さすがマスタ)
ワイバーンが空中を駆けて向かって行く俺に気付き、大きく息を吸い込み、火の玉を飛ばして来た。
「シールド!!」
火の玉をシールドで弾くと、今度は大きく口を開けて牙を剥き、俺に向かって来た。
俺は新月の刀を抜き、魔力を送ると、目の前に迫って来た牙を大きく真上に飛んで躱しながら身を翻し、ワイバーンの首の付け根を一刀両断にする。
魔力を帯びた新月の刀は、ワイバーンの硬い鱗や骨でも、まるでバターを斬るように、ほとんど力を入れる事なく切断する事が出来た。
「えっ!? 首チョンパ? うそ……」
落下途中に態勢を整えたところで、乗合馬車の女性冒険者の声が聞こえて来たけど、この世界でも首チョンパって言うんだな。
「す、すげえ……何者だあいつ……」
「信じられないわ……」
リンゴーさんの護衛の冒険者は口をだらしなく開けて上を見上げている。
「コンセ、地面に落ちる前に回収だ」
(はい、マスター)
コンセがワイバーンをアイテムボックスに回収したのを確認し、地上近くで新月のブーツに再び魔力を送り、階段を下りるように着地する。
「はっ!? ワイバーンが消えたぞ!! おい、お前」
「ねえ、どういう事? 何が起こったの?」
俺が着地すると、直ぐに乗合馬車の冒険者二人が駆け付けてきて、質問攻めにあったが、面倒なので収納魔法だと言って、背を向けてアマンダさんがいる方へ歩き出した。
すると、いきなり肩を掴まれたので立ち止まると、剣士の冒険者が俺の進路を妨害するように立ち塞がった。
「おい、お前は何者だ? どうしてそれだけの強さを持っているのに手伝わなかった」
「ちょっと、やめなよ。冒険者同士の詮索はマナー違反じゃん」
「うるさい!お前は黙っていろ!!」
どうやら俺が何者か気になったのだろう。それに、手伝わなかったって言うのはフォレストウルフの事か? しかし、それだけの事で凄い剣幕だな。
相棒の女性冒険者が止めようとしてくれたけど、可哀想に、怒鳴られて縮こまっているのは見ていられない。
「俺は最初に手伝いは必要かと聞いたはずだがな。そしたらお前は、足手まといは引っ込んでろと、言ったと思うが、どうだ?」
「うっ……」
俺は、アイテムボックスからギルドカードを出す。
「それに、俺はAランク冒険者のカイトだ」
「エ、Aランク……だと?」
「あっ! 本当だ!! Aランクのギルドカード! うわぁ、初めて見たよ」
おっ!? もうケロッとしている。立ち直りの早い娘だ。
「ねえ、ベーコン。謝ろう? 私も一緒に謝るから。ね?」
ベーコンだと!? いや、笑ったら失礼だ。
「「さーせんしたー!!」」
「――――――っうおっ!?」
びっくりした!! 後方ジャンピング土下座だと!? しかも、二人の息がピッタリだった。
「お、おう……俺は別に気にしていないから……それにしても、凄く切れの良い土下座だな」
「えへへ、それはもう慣れてるから。ね、ベーコン」
「ああ、本当に済まなかった。Aランクなら、あの強さも納得だ。偉そうな態度で申し訳ない!!」
額を地面に押し当てて、慣れてるからって、どれだけだよ……って、良いのかそれで……。
「ああ、もう分かったから、頭を上げて立ってくれ」
何時までも土下座されていると、此方がこっ恥ずかしいわ。
「俺はベーコンで、こいつが……」
「パインだよ、カイトさん。えへへ」
ベーコンの方は、茶髪の短髪で、髭は綺麗に剃っていて顎が二つに割れている。筋肉質の大きな身体と伴ってアメリカの某ヒーローのような印象だ。
パインは、金髪のロングでグラマーな美人さんだ。この容姿でジャンピング土下座を綺麗に決めるのには違和感しか無い。
「それはそうと、解体はしなくても良いのか?」
「あっ! 解体! ベーコン、早く。急ぐよ」
「あ、ああ……」
パインはフォレストウルフの素材の剥ぎ取りをする為に、急いで駆けて行った。
そのパインを追うように駆け出したベーコンの背中に向かって、俺は声を掛ける。
「俺達はもう行くからな」
リンゴーさんに挨拶をした俺とアマンダさんは、再び二人で街道を東に進む。
少し先では、レクスとエルがかけっこで競争している。
「ワイバーンって確か凄く凶暴で一つの冒険者パーティーでは討伐は難しいと聞いていたのですけど、カイトさんの戦いを見てると本当は弱いんじゃないのかと錯覚してしますね」
「う〜ん、ワイバーンは空を飛んでいるから難しいんじゃないか? 空を飛んでなかったら、多分大した事はないモンスターだと思うぞ。サトミやキョウヤでも一人で倒せるからな」
「ふ〜ん、そうなんですね。改めてカイトさん達がおかしい事を認識しました」
俺達がおかしい……? あっ!!
「レクスちゃん!? 大丈夫?」
エルと競争をしていたレクスがポテッとコケた。
そのすきにエルがダッシュして、俺には何処にあるのか分からないゴールにゴールインしたようで、両手を高く上げて跳び跳ねて悦んでいる。
「また私の勝ちだぜ!!」
「うぅぅぅ〜、悔しいの……」
一方、レクスはエルとは対象的にコケた場所に両手を付いて項垂れている。
「もう一回なの!!」
「何度やっても同じだぜ」
「今度はあの大きな岩がゴールなの!!」
いつの間にか、かけっこがブームになっていたらしく、エルは何処で覚えたのかクラウチングで、レクスはスタンディングでスタートを切った。
俺は、格闘家のエルの方が魔法使いのレクスよりも圧倒的に有利だと思ったのだが、レクスが思ったよりも速く走り、エルの後ろにピッタリと付いている。
「レクスも意外と速いな。もしかして、何時も走り回って遊んでいるからか?」
「私もびっくりです。エルちゃんは活発そうな女の子だから分かるのですが、レクスちゃは見た目がおっとりとした女の子ですからね」
「それでも追い越せ無いようだな。もうゴールに着くぞ」
此処から見ても分かる程の大きな岩がある所に、エルが最初にゴールして、続いてレクスがゴールする。
腰に手をあてて胸を張るエルと、地面に両手を付いて“orz”なレクス。
「アマンダさんも参加してみたらどうだ?」
「えっ!? 無理無理無理無理っ! 私はあんなに速く走れません!」
「別にゆっくりでも良いんだぞ」
「え〜、でも〜、エルちゃんとレクスちゃんがゆっくり走ってくれるなら……」
アマンダさんは案外負けず嫌いなのか? 人形にかけっこで負けるとショックが大きくて立ち直れなくなっても困るしな。
競争ではなくて、普通にジョギングにした方が良いのかもしれないな。
「あれ? レクスちゃんとエルちゃんは何をしているのでしょう」
レクスとエルは大きな岩の前で、上下左右を何かを探しているようにキョロキョロとしている。と思ったら、大きな岩の反対側の斜面を滑り下りて、森の中へと入って行った。
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